本木雅弘(秋山淳五郎真之)はNHK土曜ドラマ『涙たたえて微笑せよ 明治の息子・島田清次郎』(1995年4月15日)の鬼気迫る演技がずっと頭を離れなかったけど、どうやら上書きされそうです。NHKは本気(マジ)だ。
(語り)「この物語は、その小さな国(日本)がヨーロッパにおけるもっとも古い大国のひとつ、ロシアと対決し、どのように振舞ったかという物語である」
振舞い。良い言葉ですね。人がなにを考えているのか、現れた形。
(信三郎)「あしは、まず食うことを考えとりますけん。士官学校はタダの上に小遣いまでくれますけん。人は生計の道を講ずることに、まず思案すべきである。一家を養い得て、初めて一郷と国家のために尽くす。・・・父上の教えです」
(好古) 「淳。勝てる喧嘩をしろ」
(好古) 「男子は生涯、たった一事を成せば足る。そのために、あえて身辺を単純明快にしておるんじゃ」
自立し、衣食足りて礼節を知る。
衣食足りて心に余裕が生まれるから、さまざまに思案できるわけです。逆に云うと、衣食足りているのに礼節を知らないやつはダメダメです。
秋山信三郎好古(阿部寛)は“足りるレベル”が物質的にえらく低いのに、精神的にはごっつぅ高い。それが明治維新、西南戦争を経て滅びた「侍」から受け継いだ「なにか」であることを、家族、松山の人々、語り(渡辺謙)が本物の写真や記録フィルムとともにさりげなく織り込んでいきます。
(真之)「English gentlemen are philanthropist, assisting the weak and striking down the strong. They detest all unfairness and fight for justice while suing great respect for the law.
イギリス紳士は博愛精神に富み、弱きを助け強きを挫く。常に法を拠りどころにして、犯罪や不正を憎み、正義を貫く」
幼なじみの正岡子規(香川照之)と横浜へ出かけた真之は、西欧と日本の決定的な差別―――治外法権を知り、巡洋艦「筑紫」を目の当たりにして、神田の共立(きょうりゅう)学校で出会った英語教師、高橋是清(西田敏行)に促されます。「イギリス紳士」を「日本紳士」に置き換えてみよ、と。
(是清)「この国の法律、憲法を作り、国会を開く。国としての正義を世界に示すんです。日本が(猿ではなく)紳士の国だと、世界に認めさせることができたならば・・・治外法権はなくなるでしょう」
貧しい信三郎少年が懐に抱いていた福沢諭吉の『学問ノスゝメ』からここまで、見事につながりました。
そのために、海へ出る。
旧横須賀鎮守府の近くで育った身としては、やはり高揚します。呉、佐世保、舞鶴の人はどう感じるのかな。このドラマは弟の距離だ。やつは「明治生まれ」を自称するだけあってこのあたりの事情に精通してるから、帰省したら訊いてみよう。この兄弟、ちょっとおもしろすぎる。
(好古)「己の意見も無いもんが、他人の意見を読むと、害になるばかりじゃ。こんなもん(新聞)は長じてから読め!」
へへー。
英語教師は高橋是清だったのか。というよりも原作よみたい。
概して司馬史観というのは胡散臭いものを感じますが、この物語はその辺を吹き飛ばす勢いがあって気になりません。
再放送は観ていないのですが、「吹き飛ばす勢い」についてはまったく同感です。ひと言程度のレビューを書くつもりが、そういう蛇足は『坂の上の雲』には必要ない、と感じてしまい、ただひたすら観るのみ。第3部が待ち遠しいです。