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南北朝(日本)時代と漫画家・車田正美先生の作品を瞑想する部屋。

【戦闘妖精雪風(OVA)】戦士のパーソナルネーム(OP3)

2011年03月10日 01時00分07秒 | 戦闘妖精・雪風

(R.F)「戻るぞ」
(T.J)「中尉・・・どうして」
(R.F)「連れて帰るのが任務だから―――それだけだ」
(T.J)「あなたは・・・」

さらっと物騒なことを云った深井零中尉。トム・ジョン技術大尉は驚いた。わたしも驚いた。
ジャムによって複製された人間もどきの疑いをかけられていることは、ジェイムズ・ブッカー少佐のなりふりかまわない警告で零に通じています。なにより、あのホラーなコピー現場を見た直後。
FAFで唯一機、メイヴ(FFR-41MR)を操るパイロットのしたたかな戦術があったにせよ、トムを連れて帰ったらなにがどうなるのか、零はわかっていたはず。
喧嘩を売ってるのか、FAFに。
さすが、抗命3回、不服従7回の華々しい“戦歴”を持つ男。
SRBM目標(バンシーⅣ)到達まで、8分32秒。

きっかけは、愛機の開発に係わった技術屋にちょっと関心を惹かれただけだったのかもしれません。しかし零は知る。トムがFRX-99の有人化に肯定的 ―――好意的だったことを。

(T.J)「どんな機械にも、それを造った人の理想が込められている・・・そんな気がするんです」

メイヴはSTCと特殊戦の経験が生んだスペシャルモデルで、トムの理想が組み込まれた彼の一部、それを飛ばしている零は人間だ、と思っていることを。
メイヴが雪風で嬉しい、あなたがパイロットでよかった、と云われたようなものです。戦っているのは人間だ、てことですね。
その言葉は「盗聴」しているブッカー少佐までうっかり気持ちよくさせてしまい、無人に見える空中空母・バンシーⅣの中で2人の調査は順調に進む―――かに見えたのですが。
特殊戦のハンガーで零とトムが出会った時から、

WARNING
CHECK ON DANGER.Lt

なんか変だよ、中尉、その辺になにがいるのかチェックしてよ、と訴える雪風のメッセージは止まず、ジャム・センスジャマーの警戒パターンが作動、おわー、モックタートルスープが襲ってきた!
・・・いや。襲ってきたとはかぎらない。
あの“中”がどうなっているのか想像もつきませんが、艦内の「乗員」を感知して、あ、仕事しなきゃ、あれ、体が変、どうしたんだ俺、待ってくれ、いや、助けてくれ、ずるずるずる・・・だったらものすごく怖い。388人の混濁した意識。絶対、話が通じない。

テストフライト中に撃墜され、消息不明となっていたトムにはコピーの自覚がありません。つまり、人工心臓を含めた心身に違和感がない。脳、その記憶も、アビオニクス(航空電子工学)の経験も失われていない。
オリジナルとコピーが並存するのであれば、コピーを絞め上げればいいわけですが、トムの時間はオリジナルからコピーの体へ受け継がれ、「トム・ジョン」と呼ばれています。
それは零も似ていて、雪風(FFR-31MR/D)に射出され、意識不明の重体から回復するまで彼は消息不明になっていたようなものですが、それでも零は零であり、「深井零」という時間です。ましてや彼は、愛機・雪風が「体を乗り換えた」瞬間を目撃しており、パーソナルネーム「雪風」の時間は連続する、と認めている。あれがコピーでないとすると、トムはなんなのだ。地球製の「機体」ならよかった、とでも?

僕(I)は・・・人間ですよね?

という問いかけを、零は、

僕(I)は・・・僕(I)ですよね?

と受け止めたんじゃないかな。そして軌道を変えたバンシーⅣが揺れるごとく、アイデンティティの揺らぎに翻弄されるトムを支えて、雪風の待つデッキまで戻ってきた。
なぜなら、それがジャムとの戦いだから。
僕は人間じゃない。
そう思ったら負けです。ジャムに創られた運命を甘んじて受け入れることになる。たとえ世界中の人間がジャムに負けて「おまえはコピーだ」と断言しても、零がいるかぎりトムは人間で、だからこそできる―――ジャム的存在にはできない―――ことを実行しました。

BREAK AWAY Lt.

(R.F)「トム、どうした、早く乗れ」
(T.J)「あなたは、いい人ですね」
(R.F)「なにを云ってる!」

CREW PROTECTION SYSTEM
ON

(R.F)「リフトを止めろ、乗るんだ!」
(T.J)「さよなら、中尉」
(R.F)「トマホーク・・・!」

人間をコピー。やれるものなら、やってみろ。
トム・ジョン大尉、かく戦えり。体の方に限界がきました。飛べ、雪風。僕のハート(心臓)とともに。零は最後に彼の「パーソナルネーム」を呼びます。トマホーク(戦士)。

(T.J)「特殊戦の人って・・・もっと冷たくて、機械みたいな人達なんだと思ってました・・・でも、やっぱりあなたは人間だ」

AUTO
I HAVE CONTROL

(T.J)「いつまでも、氷のハートじゃ、いられない」

AfterBurner
MAX

僕は、

僕は、

MISSION CMPL_

僕は・・・人間ですよね。

零はおそらく、生まれて初めてフェアリイで戦友を喪った。作戦行動中のあれこれについて、帰投後は(主に情報軍団の)ジャムよりしつこい尋問―――FAF内部で破壊工作を行うかもしれない者を離脱させようとしたのはなぜか―――があったと思われますが、だからなんだというのだ。
人間が人間であることを明かす行為。それ以外のなにものでもありません。
あとは、2人と1機を心理分析していたエディス・フォス大尉が良い仕事をしたのでしょう。

「あなたが本気じゃなかったのは知ってるのよ」
「本気さ、本気だった」わたしは抗議した。「嘘じゃない――本気だった」
「もういいのよ」彼女はいった。「ハートを持たずに生まれてきたのは、あなたのせいじゃないわ。すくなくともあなたは、ハートを持った人たちが信じていたことを、信じようとした――だから、あなたもやっぱりいい人なのよ」

『ジェイルバード』(Kurt Vonnegut/ハヤカワ文庫SF)

*

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