鎌倉。足利屋敷。
無実放免となってから3日後、高氏(真田広之)のドレスアップを、清子(藤村志保)があれやこれやと気にして貞氏(緒形拳)から巻きが入っています。
これから赤橋家に挨拶するので、それなら登子(沢口靖子)にも会うだろう、どうせなら勝負服を着せたかったのに・・・とそわそわするママンによると、高氏は藍摺(あいずり)や紺色が似合うとか。今着ている萌黄色だっていいじゃん、菊綴(きくとじ)が紫だって・・・と控えている一色右馬介(大地康雄)も思ったことでしょう。
高氏と登子の縁談は、後顧の憂いを残さないための高度な政(まつりごと)として進められています。これに不満なのが直義(高嶋政伸)。
(直義)「赤橋殿が兄上を救うてくれたかどうかは知らん。が、たとえそうだとしても、犬が尾を振るように親子揃うて、ありがたき幸せ、とわざわざ頭を下げに行くことか!」
大殿、若殿を見送るために家臣がぞろぞろと部屋を出る中、行くな!と1人座り込む背中には、大好きなお兄ちゃんを大嫌いな「北条」にとられる、というジェラシーも滲んでいるような。渋々と見送りに出た弟の表情はかなりおっかない。
赤橋守時(勝野洋)亭。
道すがら馬に揺られる足利父子は、赤橋家は足利の恩人、しかし誤認逮捕は北条の横暴、先方が非を詫びた後にこちらが礼を申すのが筋、と決めていました。はたして、守時はその筋を通してきました。
(守時)「高氏殿のことにつきましては、もとより北条に非のあること。本来こちらより罷りこし、いかようにも詫びねばならぬところ、恐縮の至りでござりまする。この守時も北条家の1人でござりますれば、罪なき足利殿を牢に留め置く失態、なんと申し開きをいたせばよいやら、云うべき言葉もござりません。こは、北条家の不徳、伏してお詫びいたしまする!」
びたーっと平伏した守時にぎょっとした貞氏と高氏、それじゃあこっちも、と尋常に礼を述べ、
(貞氏)「足利貞氏、このご恩は弓矢に懸けて忘れるものではござらん。この意、なにとぞお酌みとりいただけますよう」
揉めごとを水に流したところで和解の象徴、登子が入室しました。
8月の『古今六帖』デート以来で、いろいろ忙しくて来られませんでした、と高氏が詫びると貞氏と右馬介も、(こいつの)おかげで随分忙しかったです、はははは、と3日前まで合戦5秒前だったのに自虐ネタでストレスを解消するほど和やかですね、両家とも。
父母が早世し、若くして赤橋家の当主となった守時はガーデニングが趣味で、
(守時)「父の遺した鉢もあり、枯らしてはならじ、とその想いのみにて育ててまいりました」
庭で丹精された鉢を褒める貞氏に、妹を高氏殿の嫁に、とはっきり申し入れました。
(守時)「赤橋の身内に足利殿をいただき、2つの力で幕府を正してゆけばまだ間に合いまする! この鎌倉を平らかな、あるべき姿に戻せまする」
枯らすのは易いが、育てるのは難しい。幕府が倒れれば世は乱れ、多くの血が流れる。
北条一門としてノーブレスオブリージュを貫き、あえて難局に当たろうとする守時の志が貞氏の心に響かないはずはありません。その頃、高氏も、牢の中で登子の気持ちが嬉しかった、と彼女に伝えて、
- “忘らるる時しなければ春の田を、返す返すぞ人は恋しき”(貫之)
「田を」でも「田の」でもいいよね、大事なのはそこじゃないから、と2人で同意したのに、なぜか流れに100%身を任せられない彼の逡巡が形となって鎌倉に現れるのです。
夜。佐々木道誉(陣内孝則)の鎌倉屋敷。
白拍子舞を眺めながら花夜叉(樋口可南子)の酌で酒を呷(あお)る道誉が、おもしろい、と評したのは藤夜叉(宮沢りえ)の腹の子の件。たとえ、いくさの嫌いな執権殿が大乗り気だろうと、
- 足利高氏・赤橋登子の婚儀
- 日野資朝・日野俊基のうち、どちらかの首を刎ねて「帝のご謀反」は沙汰止み
が成って四方を円く収められたら道誉困っちゃう、ってんで藤夜叉を呼び、高氏に会いたいか、会わせてやろう・・・と約束するや太刀をドスッと床に衝き立てた。
なんと、真下に忍者装束の右馬介が。黒ひげ危機一髪。どさくさにまぎれて花夜叉は一座の木斎(丹治靖之)の袖を引き、
(花夜叉)「河内の、楠木正成さまへ伝えてくりゃれ」
(木斎) 「河内の、楠木正成さまへ」
(花夜叉)「日野俊基さまと日野資朝さまの、いずれか近々斬首、打ち首と」
これで正成⇔俊基、俊基⇔花夜叉、花夜叉⇔正成のラインが浮かび上がってきました。
かわいそうなのは藤夜叉。彼女にはなんの下心もありません。恋しい高氏に会いたいだけです。物騒な鎌倉で不安に怯え、天下の動乱に巻き込まれてゆく野の花が可憐です。
河内。水分(※01)。
高い山をトレッキング(※02)してきたましらの石(柳葉敏郎)が空腹に耐えかねて大根泥棒と化したところへ、鍬を下げてやって来た質素な水干のおっさん。
それが、楠木兵衛尉正成(武田鉄矢)。
どこがすごいんだか、さっぱりわかりません。でも、その鍬でぶん殴られたら死ぬだろうな。
※01:大阪府千早赤阪村水分(みくまり)。
※02:R24を南下して水越峠を越えたのでしょうか。
(石)「人の畑のもんとるぐらいなら舌噛んで死んでしまえ。わしのととがよう云うとったです」
いたたまれない石は、とともかかも畑も家も武士に焼かれたこと、世の中を正すということは田畑を作る者が家を焼かれないようにすること、京で偉い公家に「楠木正成」に会うよう頼まれたこと、道に迷って2日も水しか飲んでいないこと、それで(大根を)食べてしまいました・・・訥々と話して時系列はめちゃくちゃでしたが、正成は理解します。この秋は2ヶ月も雨が降らず、畑が干上がって大根が育たない。で、明日は村を挙げての雨乞いです。
(久子)「芋はよう育ちましたがなぁ」
土手から声をかけたのは正成夫人、久子(藤真利子)。
よく実った栗の樹に挨拶をするために集った村の子供が7人いて、挨拶とは、
「お見事!お見事!」
と褒めると樹が喜んで来年もたわわに実る、という「咒」。
そこへ侍女が、正成の弟の正季(赤井英和)と恩智左近(瀬川哲也)がいくさに出る出ないでトークバトル、と走ってきました。正季は分家して「龍泉殿」と呼ばれています。
楠木屋形へ案内してもらえるのなら、と久子に芋を持たされてついてきた石は、まさに出撃せんとする正季が彼女の命で下馬したのでびっくり。ま、楠木党の「おかかさま」ですから。
(正季)「雨乞いなぞ夏にやるものじゃ。今、雨を降らせたところで大根が太るか、蓼藍(たであい)がとれるか、という話でござろう」
西国では貨幣の流通が進んでいて、荘園、所領を基盤とする公家や東国の武士とは異なるシステムでビジネスをする楠木党の新進気鋭がうかがえます。しかし。
(正季)「蓼藍が欲しくば、蓼藍の余っとる国から舟で市まで運んでくればよい。カネさえあればいくらでも手に入りまする」
(久子)「なんでもおカネで買えると思えば、誰も雨の心配などしなくなりましょう? 誰もまじめに畑を作らぬようになりましょう。お屋形さまはそれが心配じゃ、と申しておられます」
そう。カネは交換する物が存在して初めて役に立つもの。物が無ければカネなどクズ。生産量が消費量を下回る時、その時は他所から物を強奪するしかありません。生きるために。これがいくさです。自給率の話をしていたのか、ここで。
もっとも、正季のいくさにも理はあって、あの金貸しの柏木や長崎高資のように育てる苦労をショートカットしておいしい「実」だけをつまみ食いする「大根泥棒」からシステムを守る気概がそこにあるわけです。
そうこうするうちに大根のおっさんが帰ってきて、やっと彼の正体を知った石は俊基の懐刀を置くと、ずりずりずりと下がりすぎるくらい下がって、それですべてわかる、と「遺言」を伝えました。
(正季)「われらが淀ノ津や古市に出入りし、物資を自由に売り買いできるのも、ひとえに朝廷のおかげぞ。そこへ関東者が泥足で上がり込もうとしておるのじゃ。なぜ兄上は日野殿と立たなんだ!」
新しいシステムに生きる楠木党を、古いシステムに生きる朝廷が保護する矛盾。力はあっても、おそらく楠木党は御家人ではないので、これは宿命です。
(正成)「んー・・・泥足で床に上がり込まれたら、後でな、こう、きれいに拭けばよい。うん。古市の出入りを邪魔されたらば、ほかの市場で商いをすればよい」
(正季)「兄上!」
(正成)「刀を抜けば、相手も抜く。斬り合えば、双方傷がつく。それで米の一石も余分にとれるか? 瓜が山ほどとれるか? 田畑が荒れて、人が死ぬだけだ。無益なことだ」
弟を諭す正成の、帝の綸旨に応じなかった理由がこれ。遠雷を聞いて、お、雲が来た、降るかのう、と空を仰ぐ彼の横で、ぼぇーっ、ぬへーっという書き文字が似合いそうな左近がいい味出してます。
白湯をぶっかけた飯をぐわあああっとかき込む石に、今度は正成が鎌倉に囚われている俊基へのメッセージを託しました。
(正成)「とにかく、死んではならん、とな。なんとしてでも生きて帰られよ、と。世の中はゆっくり変わるでのう。悪い種が自然に滅び、良い種が良い米を作る。うん。ゆっくりゆっくり。うん。自然に世の中は変わる。良い世の中が見たければ、長う生きねば駄目じゃ。そう伝えてくださらんかのう」
いよいよ雷鳴が近づいて、わっしょいわっしょい狂喜する村人達と雨乞いをしに出ていった正成は、日野×2のうちのどちらかが斬首されることをまだ知りません。
ゆっくりできない正季は、日野殿を助ける手立てがあるのじゃ、話に乗らんか、と石に持ちかけますが、「名うての暴れ者」が懐刀を抜き身でかざすので誘いというよりほとんど脅し。ビビらせてどうする。
正中2(1325)年。正月。鎌倉。
流鏑馬(やぶさめ)で次々に的を射抜く高氏は、狩装束姿で颯爽とカッコいい。彼は武士の本分においてオールマイティです。が、北条高時(片岡鶴太郎)はこれを評価しません。
(高時)「犬と踊りが好きな者は、いくさなど好まぬ。わしに刃向こうたりはせぬ。この佐々木判官のようにのう」
犬合わせに興じ、キンキラ衣装をまとい、花を生け、田楽を愛でる。これが、鎌倉幕府の最高権力者が認める「良い大名」。
弓矢をとらない武士は、武士と云えるのか。武士がいるからいくさが起こるのか、いくさが起こるから武士がいるのか。武士ってなんだ。源氏の嫡流、足利家の嫡男である高氏のアイデンティティを直撃しそうな命題です。武士など死に絶えればよい、と願っている石の感想も聞きたい。
そして道誉から藤夜叉が身籠っていることを聞かされ、それを知っていた右馬介には会うなと諌められ、全身で悩む高氏。世の中は動く、と確信した京でのできごと、俊基の命、それらが登子を娶ることで「一夜の夢」となってしまったら・・・ここで流されたら人生のスタンスが決まりそう。これでいいのか。
(高氏)「右馬介! わしはあの白拍子に会うてみたい。無性に会うてみたいのじゃ。京のみやこでめぐり会うたあのおなごに・・・今、無性に会いたいのじゃ!」
藤夜叉と登子、京と鎌倉、さまざまな対極の狭間にどっぷりハマった高氏もゆっくりできない男、彼の中で「みやこ」の象徴にまで昇華された藤夜叉と会ってどうなるのか・・・は次回のお楽しみ。