Doll of Deserting

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花標~はなしるべ~:第二話(ギンイヅ14800HITキリリク連載)

2005-10-22 19:01:47 | 過去作品連載(キリリク作品)
*このお話は、必ずカテゴリーから「キリリク連載」を選択し、最下部にある記事の注意書きをお読みになってからご覧下さい。
*吉良夫妻健在ですが、「氷上の蒼」とは人物設定が多少異なりますのでご了承下さい。


第二話

 贅沢な造りではないが、見る目には整った奥ゆかしさを感じさせる民家の客間で、目立つ色をした髪を持つ男女と、家の主であると思われる黒髪の男が談笑をしている。黒髪の男と金糸の女はおそらく夫婦なのではないかと思わせた。その夫婦の前に静かに座した銀糸の男が笑う。
「ほんに逢瀬にはええ日和でございますなあ。」
「ええ、特に伴侶との逢瀬には宜しいお日和でございましょう。」
「あなた様に我が娘を娶って頂けるとは、夫婦共々幸甚致しておりまして…。」
 黒髪の男が言葉を続けようとして、ふと声を抑えたかと思うと、そのまま吹き出した。それに続いて金糸の女も銀糸の男も、朗らかに声を上げる。
「ははははっ!」
「やはりわたくし達にはこういった堅苦しいご挨拶は似合いませんわね。」
「ほんまに、景清はんが急に真面目な顔しはるもんやからボクまで焦ってもうたわ。」
 銀糸の男―ギンと、その夫婦は元から面識があった。しかし今日は大事に温めてきた話が実行に移される日であったので、形式ばった挨拶から始めるべきかと景清が言い出したのが事の発端である。なるほど、とギンやシヅカが同意し、改めて丁重な挨拶を交わしてみれば、やはりこの有様であった。
「うん、まあそんなことはいい。兎にも角にも今日はイヅルにお前を紹介する大事な日だからな、何というか花嫁の父らしきことをしてみたかったんだ。」
「イヅルとはもう会うたことあるて言いませんでしたっけ?」
「そうでなく、お前を伴侶として紹介したことはないだろう?大体あの子は、私達と市丸が友人であるということすら知らないんだ。あの子にはあの子なりの誇りがある。理由もなしにいきなり嫁に行けと言われても戸惑うばかりだろう?そういう意味では、丁度お前がイヅルの命を救ってくれて有難かったよ。」
「イヅルが襲われて良かったというのですか、あなたは。」
「いやシヅカそうじゃない。断じてそんなことはないぞ。前々から市丸のところへ嫁に出すと決めてはいたがいざそうなるとイヅルは初対面の相手といきなり結婚させられるということになるだろう?だからせめて市丸が命の恩人だということにしておいた方があの子も納得しやすいだろうと…。」
 しどろもどろに景清が説明すると、シヅカはふふ、と微笑んで黙った。母親というものはこと子のことになると性情すら覆す。シヅカは景清と婚姻を結んだ当時、慎ましやかで気立てもよく、常に夫を立てる妻として評判であった。しかしここまで長く連れ添うと、自然と女は強くなってゆくものである。
 そう考えると、何から何までシヅカと瓜二つであると名高いイヅルも時を経ると自分を組み敷くまでになるのだろうか、とギンは顔を引きつらせずにはいられなかった。
 それにしても、とギンは思う。イヅルは今霊術院にて勉学に励んでおり、寮住まいであると聞いている。しかし今日は景清が無理を言ったために帰宅するのであると。ギンは強引な父親を持ったイヅルをいささか不憫に思った。
「で、イヅルはどこにおりますの?」
「ああ、今着替えに出ているから、そろそろ…。」
 言うなり、襖が開いた。白地に淡い清涼色の花をあしらった着物に身を包んだイヅルが顔を現す。髪を短く散髪してはいるが、女独特の色めいた雰囲気は抜けてはいない。しずしずと足を動かし、音も立てずに腰を下ろすと、ギンの方を軽く見てから、頭を下げた。
「市丸副隊長、この度は我が家においで頂き有難く存じます。また、先日は我が身を救って頂き、真にありがとうございました。」
「あァ、そないなことはええねん。顔上げ。」
 ギンに言われ、イヅルがそっと顔を向ける。着物と合わさった碧眼が水のように揺れ、目に鮮やかである。これが少しすると自分のものになるのだ、とギンは笑みを深めた。
「それで、今日はどのようなご用事で…。」
 イヅルが問うと、景清とシヅカが顔を見合わせ、ギンの方を同時に向いたかと思うと、うん、と僅かに頷く。つまり洗いざらい説明してしまえと言っているのだと理解は出来たが、その役目を全てギンに任せようとしているのかと思うと、恨み言の一つも言いたくなった。
「ええと、な。実はボク吉良君のご両親とお知り合いやったんよ。」
「え、それは何故…。」
「あんな、景清はんは元々霊術院で教員やってはったやろ。そん時ボクの担任やったんよ。シヅカはんと結婚しはる前やからもう大分昔になるんやけど…。」
 父が特進クラスで指導を行っていたことがあるというところまでは知っていたが、まさかギンの担任だとは思わず、イヅルは瞠目した。しかも父が母と婚姻を結ぶ前のこととなると、ギンは本来一体幾つなのであろうか、と少々懸念した。
「はあ…。つまり、父と母にお会いになるべく訪ねて下さったのですね?」
「いや、そうなんやけどそうやのうて…。」
 ここはご両親が説明せなあかんやろ、と視線を向けると、景清が一度唸ってから口火を切ろうとする。しかし上手く行かず、そうこうしているうちに痺れを切らしたシヅカが口を開いた。
「イヅル、あなたは将来この方の元にお嫁に行くのですよ。御身を救って下さったから、と言えば聞こえは良いでしょうが、全てはこの方々の企ての下、あなたはこの世に生を受けたその日から市丸の姓を名乗ることを定められていたのです。」
「はあ…は!?」
 ギンと景清の方をぴんと伸ばした指で示しながら、シヅカが厳格に言い放つ。それほどまでに市丸が来る日まで婚約のことを知らされていなかったことが気に入らなかったのか、と景清が顔を背けた。
元はイヅルが生まれる前に景清が冗談交じりに言い出したことなのだが、とうとうここまで発展してしまった、というだけの話なのである。なのでわざわざシヅカに告げることもなかろうとずるずる事を引き伸ばしていたところ、最終的に今日ギンが訪れることを知らせるのと同時になってしまった。突如としてイヅルを婚約させる、と言われたシヅカの心持はといえば、確かに良いものではない。
「あの、それでぼ…私はどうすれば良いのですか?」
 まだ話がよく理解出来ていないイヅルに向かって、ギンがふと微笑む。思わず頬を赤らめたイヅルを見て気分を良くしつつも、やや簡略化された説明を続けた。
「つまり、ボクんとこにお嫁においで、いうことやね。」
「い、市丸副隊長のところへ、ですか…!?」
 そのままやや紅かった頬を更に紅潮させ、イヅルが驚愕した。しかしその声には決して不快に思っているという様子は見られない。むしろ歓喜を露にしており、ギンは悪い返事はなさそうだ、と内心でほっと胸を撫で下ろしていた。
 イヅルがまだ幼かった頃には可愛らしいと思うばかりで、特に何も感じなかったギンであったが、成長するにつれて母とはまた違った美しさを放つようになったイヅルから目が離せなくなった。丁度この世界には年齢差などあってないようなものであったので、是非イヅルを妻に、と望んだのである。数十年を経ても変化することのない自分の容姿に、これほど感謝したこともない。
「嫌か?ボクは吉良君が好きやから嬉しいんやけど、そらいきなり好きでもない男と結婚せえ言われたら嫌やろなあ。」
 ふと陰りを見せるギンの表情に、イヅルの顔色が少しずつ戻っていく。一度落ち着いてから、イヅルは至極嬉しそうな表情をして、ギンの方に向き直った。
「いいえ、私も副隊長のことをお慕いしておりました。」
「…そら、おおきに。」
「不束者ですが、宜しくお願い致します。」
 再度頭を下げるイヅルに見えないようにして、不覚にも泣きそうになった顔を隠した。そしてイヅルの顔を上げさせると、幸せそうな顔をしてギンが笑った。いつもの飄々とした笑顔とは全く異なる笑顔を間近で拝み、イヅルはまた顔を赤らめた。
 私達は邪魔だろうか、と景清が呟く。ギンは色町通いが激しいだの冷酷だのと噂を立てられている男であったが、大事に思うものは何に変えても護ることの出来る男であると景清は知っていた。だからこそギンにイヅルを明け渡そうと思ったのである。しかし何分そのような噂の絶えない男であるので、イヅルの反応は懸念していたのだが、杞憂に終わったらしい。
 久々にイヅルの幸福に満ちた表情を拝んだかもしれない、と思いシヅカの方を見ると、彼女も同じことを思ったらしく顔を綻ばせていた。妻の美しい笑顔を拝むのも久々だ、と景清も笑った。



「…まあ、そんな感じだったんだ。」
「そうか、で、何で俺は昼飯を食いながらそんなことを聞かなきゃならねえんだ?」
「阿散井君が僕と市丸さんの馴れ初めを聞きたいって言ったからじゃないか!」
「そうじゃなくて俺は何でお前が市丸のことを好きになったんだって聞いただけで、惚気を聞いてやるとは一言も言ってねえじゃねえか!!」
「だからさっきの話に全て集約されてるじゃないか。つまりは市丸さんがどれだけ見た目に反して繊細な人かということだよ。」
 得意気に言うイヅルをよそに、恋次は米を頬張る。つまりはギンのことをそう思えるようになるまでの過程を聞きたかったのだが、幸せの絶頂にある友人には何を尋ねても惚気に持っていかれてしまう。幸せそうな友人の顔を見るのは嫌いではないが、ここまで来るといっそ今すぐにでも嫁に行けばいいと思ってしまう。学院にはこのまま通えばいい。とにかく嫁にでも行ってしまえば少しは落ち着くのではないだろうか。ああ、でも更に新婚生活についての惚気が増えそうだ、と恋次は遠くを見つめた。
「いや、まあいいんじゃねえか。お前が幸せなら。」
「何その投げやりな言い方。」
「どうでもいいけど暫く檜佐木先輩には会いに行ってやるなよ。」
「何でさ。」
「いいから。」
 可愛い後輩をまるで娘のように猫っ可愛がりしていた修兵である。むしろそれにはもしかすると恋愛感情も含まれていたのかもしれなかったが、今となっては迷宮入りである。とにかくそんな彼の気も知らずある日突然に「先輩、僕お嫁に行くんです。市丸副隊長のところにv」などとイヅルから言い放たれた修兵は、近頃顔を見せない。おそらく彼なりに精神統一が必要なのだと思われたが、イヅルはそれに気付かず気軽に声をかけようとするので、恋次は寸でのところで止めてやっている。
「お前なんかさっさと嫁に行っちまえばいいんだ。」
「そんなこと言って、僕がお嫁に行ったら泣いちゃうでしょ?」
「泣くか!」
 大声で否定してやると、イヅルが含んだような顔で笑った。




 すこぶる明るい吉良ご夫妻にございます。そしてやはりカカア殿下です。(汗)ギンイヅはバカップルで将来的にはバカ夫婦ですごめんなさい。(土下座)
 恋イヅではない…と思って書いておりますがどうなんでしょう。そう見えてもいいかな、とは思いますが。(コラ)あくまでも友情ではありますが、過保護な恋次がお気に入りなのです。(汗)

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