Doll of Deserting

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人形即興曲:Ⅶ(藍染+イヅル+ギン)

2005-08-20 21:09:08 | 過去作品連載(パラレル)
Ⅶ:消去するもの
「駄目じゃないか、勝手に彼女をあそこに入れちゃ。」
 イヅルの肩が、ひどく震えた。しかし、男はそれを楽しむように眺めるだけだ。男がかちゃりと眼鏡を押し上げると、イヅルの身体が更に揺れた。男の様子は、常軌を逸していた。笑みを浮かべつつ、それが本心でないことは嫌でも分かる。瞳は虚ろで、笑ってはいない。
「ここに彼女が来ることが決まった時、厳重に言い渡したはずだね。あの部屋には、決して入れてはならないと。彼女には、雛森君に会わせることは出来ないと。」
 桃がどれだけこの男にとって価値のある少女であるのか、知ってはいたし、知らされてもいた。しかし自分はためらいもなく乱菊をあの部屋に入れた。そのことは許されることではない。それでもイヅルは、乱菊に桃のことを知ってほしかった。桃の過去すらも。彼女ならば、何かが変えられる気がしていた。
「…彼女、乱菊さんは、雛森君に会うべき方だと判断したからこそ案内致したのです。」
「それは、君の一存で、ということかな。」
「ええ、私のみの判断です。」
 突如として肩を掴まれ、壁に押し付けられた。その行動に身体が付いていかず、イヅルは吐血しそうな勢いで咳き込んだ。男は、何の反応も示さない。
「…それは、解体を覚悟してのことかな。」
「…そう取って頂いても、構いません…。」
 今更、この命に未練など少しもなかった。恍惚とした意識の中、頭に浮かんだのは桃ではなく、「彼」だったということに僅かな悔しさを覚えながらも、男に身を預ける。部屋の外ではさわさわと風が鳴いている。ささやかに蛍まで飛んでいた。しかし自分は、そんな世界に生きる資格を持たない。人間でもなく、他の生物でもない、ただの人形なのだから。
 ゆるゆると首を絞める手がきつくなる。こんなことでは死なないが、気を失わせるには最善の手だった。身体に最低限の傷しか付けさせず、美しいまま攫って行けるからだ。
「藍、染、さん…!」
「何だい?」
「彼女を、大事にして下さいね。」
 それだけさらりと言い残すと、がくりと膝をついた。そのまま倒れ込む身体を、そっと支える。そしてそれを腕に抱えると、制作室へ運ぶべく足を進めた。しかしその足は、部屋を出たところで遮られてしまった。
「どこ行くん?」
 独特の口調が耳をつく。そこに立っている男を、藍染はよく知っていた。自分が初めて制作した人形だ。あまり健康的な容姿をしていないため傑作とは言えないが、おそらく自分のことを一番よく理解しているであろうその男を、しかと見つめる。
「どこって、制作室だよ。この子が解体を願うものでね。」
「そんならご一緒させてもらうわ。」
「必要ない。」
「…ええの?」
 何か含むような言い回しに、藍染は訝しげな表情を向ける。ギンは確かにイヅルを気に入っていたが、そのことに関して何の非もない。イヅルに手を付けたこともない。まあ、今まさしく手をかけようとしているところなのだが、ギンに恐れを感じなければならないことは一つもなかった。
「何のことだ。」
「ボク、あんたの一番守りたい秘密知っとるんやけど。」
 その言葉に、藍染の顔が驚愕に支配された。どこでこの男は、そのことを知ったのだろう。自分に何か秘密があるとすれば、一つしかない。
「イヅルをここで壊すようなら…バラすで。…勿論、雛森ちゃんにもや。」
 突如、藍染の腕の力が緩んだ。危うくイヅルを落としそうになり、ギンがそれを支える。そのままギンにイヅルを奪われ、ギンは闇へと姿を消した。藍染には奪われた悔しさなどなく、ただ何か思案するような表情でそこに立ちすくんでいた。


 いやあのですね、本当は一回出たきりの日番谷君を市丸さんの代わりに出そうと思ってたんですけど、これギンイヅで日乱で藍桃なのに流石にここで市丸さんが何もしないのってどうなのと思い、市丸さんに我が道を突き進んで頂きました。(笑)
 イヅルと桃の番外編を入れようと思ったのですが、時期的に次のと一緒がいいような気がしたので来期にします。気にして下さった方がもしいらっしゃいましたらすみません。(汗)
 藍染隊長の秘密というのは連載する前から考えていたことなのですが、藍ギン関連ではございません。(笑)

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