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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

日本学術会議会員任命拒否問題・緊急院内集会

2020年12月10日 | 集会報告
11月30日午後、衆議院第一議員会館地下大会議室で「許すな憲法破壊!緊急院内集会――日本学術会議会員任命拒否は憲法違反」が開催された(主催:菅政権による検察・行政の強権支配を糺す会 参加300人)。菅政権が誕生したのは9月16日、内閣府から学術会議事務局へ送付した名簿で候補者のうち6人を除外し任命拒否が発覚したのが9月28日、つまり菅内閣の初仕事だったわけだ。第二次安倍政権が発足した2012年12月、下村文科大臣を通し文科省令を変更して朝鮮学校のみ教育無償化から除外したのが初仕事だったことを思い出させる事件だ。
集会の冒頭、主催者を代表し藤田高景さん(菅政権による検察・行政の強権支配を糺す会代表)から「軍事転用可能な科学技術開発に反対もしくは消極的な学術会議に不満をもつ政府・自民党が学術会議を御用学者の集団にするため、令和のレッド・パージを行おうとしたことがこの任命拒否事件の本質だ。次は間違いなく国立大学法人の学長人事に介入するだろう。菅政権の横暴にストップをかける闘いを全国で展開しよう」と集会の趣旨を説明した。政党からは、小池晃・共産党書記局長、杉尾秀哉・立憲民主党参議院議員、福島みずほ・社民党党首からスピーチがあった。また立憲民主党と共産党の国会議員が大勢参加した。
そのほか平和フォーラムと総がかり市民連合の福山真劫さんのスピーチと宗教法人・生長の家の谷口雅宣総裁のメッセージ読み上げがあった。メッセージは「政権運営の誤りを指摘し、堂々と反対の意思を表明」する集会への賛同と「主体的に学芸や真理探究に取り組み、疑問があれば声を上げることのできる社会」を共につくろうというものだった。

今回の学術会議の問題は、憲法23条学問の自由との関係や、日本学術会議法違法問題として批判されることが多い。わたくしの関心は、こうした本質を衝く論点から少し離れるが、一般国民にどのようにこの問題をアピールするかという点にある。というのも一般の人々は「しょせん学者の世界の話で自分たちにあまり関係ない」と思っているのか、世論があまり盛り上がらないからだ。そこで、少し「エゲつない」(本人の表現)トピックに言及された佐高信さん、メディアとの問題を取り上げた望月衣塑子さん、かつての保守本流の自民党政治家のデモクラシー観を語った平野貞夫さんのスピーチを中心に報告する。わたくしの関心にぴったりマッチしたわけではないが、参考になった。
なお佐高さんのスピーチのみ意図的に口語調で記載した。そのほうが臨場感があふれているからだ。

佐高信さん(評論家)
エゲつない菅に対し、エゲつない話をします。
安倍政権は経産官僚をブレーンにしたが、菅は杉田和博官房副長官、北村滋国家安全保障局長など警察官僚を手足にしている。
安倍から菅への転換は、わたしはヤクザから半グレへの転換だと思っている。その違いは、ヤクザは一応組織で仁義を大切にするのに対し、半グレ(半分愚連隊の意味)は仁義がなく組織が嫌いなことだ。安倍、麻生らは二世、三世で細田派、麻生派、竹下派らに属すが、菅は仁義がなく無派閥で、ヤクザ以上に凶悪、凶暴だ。花でいえば(しきみ)の花で、葬式に使う花だ。その名は「悪しき実」、実に猛毒があることから来ている。二階派は半グレ連合だ。こういう菅に対し正攻法でいっても難しい。蹴たぐりでもなんでも掛けていかないとダメなんじゃないか。
菅のブレーンは竹中平蔵、その子分が元財務官僚の高橋洋一で、菅は内閣官房参与にした。この高橋は窃盗罪で東洋大学教授をクビになった男だ。新聞なりなんなり、これを書かないとダメですよ。
泥棒はいいけれども思想的に変なのはダメ、とこの対比で攻めていかないとダメですよ、向こうがエゲつないんだから。こちらが「人の過去を」などと上品に構えていると絶対負ける、向こうが全然上品じゃないんだから。向こうは半グレなんですよ。
一般の人はなかなか「学問の自由」といっても、学問してない人にはなかなか通じないですよ。まして菅には通じない。そういうときに「菅は露骨に税金を使って内閣官房参与にした」と攻めていかないとならないと思う。
そして竹中平蔵の問題、竹中は新自由主義などといって企業の行動に邪魔になる法律を規制緩和といって外していく。たとえば派遣社員の激増。会社の法人税を10%下げ、企業の内部留保はいま475兆円ある。抵抗しなかった労働組合はなにをしているのかと思う。 
軍事研究の問題については、かつてソニーの井深大(まさる)さんが「アメリカは軍事研究によりスポイルされた、ソニーは軍事研究しなかったから伸びた」とはっきり言った。「軍事研究しないと企業が遅れる」と、生半可なことをいうのは逆に遅れている。


望月衣塑子ん(新聞記者)
2年前の12月菅官房長官(当時)に「辺野古の海に投入している土砂は赤土の混じっている土ではないか」と質問したところ2日後「東京新聞・望月の質問には事実誤認がある」と衝撃の抗議文が内閣記者クラブに掲示され、東京新聞編集局長宛にも手紙が届いた。このとき「民主主義の破壊だ」と大きく声を上げていただいたのが、憲法学者や弁護士たちだった。市民の怒りがうねりとなり、最終的に抗議文は撤回されなかったが、それまで続いていた質問妨害がなりやんだ。こういう政府の弾圧が起きたとき、他人事でなく自分の事としてNOの声をあげ、連帯していくことが必要だと思う。
数週間前、任命拒否された研究者の会見を外国特派員協会で聞いた。松宮孝明・立命館大学教授は「ナチス・ヒトラーですら、全権掌握するために特別の法律を必要とした。しかし菅首相は現行憲法を読み替えてこういう違法行為を行った。彼は独裁者にでもなるつもりか」と話した。
甘利明・自民党税調会長は、7月か8月のブログに「学術会議は日本の軍事研究にはNOというのに、一方で中国の千人計画には協力の意思を示している」という趣旨の発言を掲載した。その後ブログは修正されたが、自民党の大物幹部といわれる人物が意図的にフェイクニュースを垂れ流している。橋下徹・元大阪府知事も「欧米の科学アカデミーは、独立して自分のおカネでやっている。日本の学術会議も自分のおカネでやればよい」と事実誤認の情報を語る。フジテレビの平井解説委員のようにジャーナリストという立場がある人ですらフェイクニュースを発信する。単なる思い過ごしで発言するのでなく、意図的に官邸を擁護する有識者やジャーナリストがあふれている。
7年8カ月にわたるメディア・コントロール菅官房長官は安倍首相以上に徹底していたのでその結果がいま生きている。毎日新聞の世論調査で「任命拒否は妥当」という意見が若干上回るという衝撃の結果が出ていた。これを変えるには、市民が声を上げ、メディアはフェイクニュースを見かけたときはすかさず事実チェックし、それを伝えることが必要だ。(略)
戦前の明治憲法には憲法23条(学問の自由)はなかった。そして滝川事件天皇機関説事件矢内原事件が起きた。当時、「しょせん特権階級の教授の話ではないか」とあまり大きな批判の世論はおこらなかった。メディアに関しては在郷軍人会の主張に迎合するものもあった。その結果、メディアの表現の自由も同じように抑圧され第二次大戦へ突き進んでいった。その反省に立ち、戦後「学問の自由」が憲法に規定された。それを支えるものとして大学の自治が認められた経緯がある。この問題は単純に研究者だけの弾圧にとどまらず、その先にはメディアへのさらなる弾圧市民の言論・表現の自由への弾圧、芸術関係者への弾圧へとつながっていく。理不尽な政府の横暴に対し団結して闘っていく必要がある。

平野貞夫さん(元参議院議員)
わたしは1935年天皇機関説事件の年に生まれ、60年安保の前年から33年衆議院事務局で働き、その後12年間参議院議員を務めた。本日は事務局時代に自民党保守本流にいた人たちに教わり、もし生きていればどんなことを言ったかということを話したい。
国会・代表質問での日本学術会議任命拒否問題の論戦を聞き、久しぶりにいい議論を聞いたが、少し不満も覚えた。
第一に、立憲野党党首たちは「暴政が続いている。まもなくわが国はファシズム国家になる分水嶺に達するだろう」という歴史認識のようだった。そこが間違っている。すでにファシズム国家は始まっているのだ。この認識が政治家に足りない。というのは特定秘密保護法、9条の解釈改憲、安保法制、共謀罪がファシズムの準備だった。任命拒否問題は天皇機関説事件と同じだ。菅はもうファシズム国家をつくった。一般市民には「もうファシズム国家になった」という認識で、訴えてほしい。
もうひとつ不満なのは、民主主義や学問の自由と保障という言葉が、そこで止まっていることだ。だから「答弁は差し控えます」という言葉で止まってしまう。学生時代に23条の「学問とは何か」詳しく説明した資料がなかなかなかった。衆議院事務局で聞いたのは、学問の自由とは「真理を探究する自由と権利である」そして「真理は少数意見である」というものだ。ガリレオ・ガリレイがひとつの例だ。これは憲法以前の問題だ。つまり少数意見が人類社会の進歩を推進した。だから憲法より高い次元の話だ。
いまの菅内閣は、憲法違反だけでなく、人類の条理に反する。そういう首相や政治家を生み出す仕組みに問題がある、そういうことをさせた有権者に問題がある。人類に進歩をさせなくする、すなわち独裁国家、ファシズム国家をつくるものだ。
大事なことは、デモクラシーを共有する考え方を40年前は議長がつくっていたことだ。いま危険なのはデモクラシーの根本認識について分断が行われていることだ。自民・公明・維新のデモクラシーは多数を取ればなんでもできるというものだ。わたしが前尾繁三郎議長に教わったのは、「少数者の意見開示権、少数者の権利があってはじめて多数決を正当化できる」ということだ。彼らの分断が野党共闘を非常にできにくくしている。野党共闘を組織的に分断しようとしている。1969年ごろ佐藤栄作総理が、共産党の不破哲三さんが予算委員会で言論の自由や防衛問題ですごい質問をしたのを聞き、質疑が終わり「ああいう理論家を自民党の議員にほしいなあ」と言っていた。また40議席とった共産党は議会主義政党かどうかという議論があったとき、前尾繁三郎さんは、74年元旦の河野謙三さんとの対談で「有権者の1割の票をとった政党が、議会主義政党でないというほうがおかしい」と発言している。自民党の良識ある人は当時そういう考えをもっていたいまの人たちは自民党の人ではない
皆さん、憲法違反だけでは足りない。人類の進歩を妨げる、これが学術会議委員任命拒否事件の本質であることを結論として申し上げる。

その他、大沢真理さん(東京大学名誉教授)と羽場久美子(青山学院大学教授)さんは元会員(現・連携会員)の立場で、旅費・手当は返上、日当1300円で雑巾がけ仕事をした体験や、日本学術会議法前文の意義、菅政権が自然科学研究者には予算の面で脅しをかけ人文社会科学研究者は補充人事を行わず学部の統廃合を仕掛け、学術会議を無害化・無力化させる危険性を訴えた。植野妙実子さん(まみこ 中央大学名誉教授)は憲法学者の立場で、立憲政治や法治国家の流れを無視し専制政治にしようとする菅政権を批判した。
纐纈厚さん(明治大学特任教授)は歴史学者として、1925年の治安維持法制定から35年の天皇機関説事件の昭和初期と令和初期の歴史がきわめて似ていてまるで「復元」のようであると主張し、内田雅敏さん(弁護士)は「歴史上どういう位置にあるか認識しひたすら仲間を信じ闘っていこう」とアピールし、古賀茂明さん(古賀茂明政策ラボ代表)は「日本はどんどん貧しくなっている。実質賃金は4%も下がっている。こういうことを若い人に伝え、若い人といっしょに闘おう」と呼びかけた。
また2人の大学生(慶応・法学部4年、上智・新聞学科3年)から「学者が自由に発言できないなら、学生も自由に表現できるわけがないので、この動きは学生にも脅威だ。だからこの集会と同時刻の18-19時に高校生・大学生が官邸前でデモを打っている」との力強い報告があった。ただし「学生・若者は批判することに慣れていない。批判することを嫌悪している現状がある。自分たちが政権批判すると「がんばっている人に何をいう。ならオマエ代われよ」といわれることがある」との気になる言葉もあった。
最後に高梨晃嘉さん(「共同行動のためのかながわアクション」共同代表)の「任命拒否撤回、菅NOの運動をそれぞれの地域からつくり上げていこう」とのあいさつで会を閉じた。
このサイトにすべて公開されているので、興味のある方はご覧いただきたい。

☆佐高さんの発言の高橋洋一氏の窃盗事件は、本当にあったことなのかどうか、もしなければ名誉棄損になるので、ネット検索してみた。すると2012年1月にIWJの岩上安身氏が高橋氏本人にインタビューしたこの記事があった。それによれば「2009年3月24日に練馬区の「としまえん」内の温泉施設」で「現金約5万円入りの財布や、数十万円相当の「ブルガリ」の高級腕時計を盗んだ疑いで、3月30日、警視庁に書類送検された」とあり、インタビューでは「わからない」を繰り返している。どうやら本人も認める本当のことのようだ。

●アンダーラインの語句にはリンクを貼ってあります。

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