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長谷川ういこが語る、れいわ新選組の「グリーン・ニューディール」

2024年08月10日 | 集会報告

8月4日(日)午後、晴海のはるみらい集会室で長谷川ういこさんのグリーン・ニューディールの講演を聞いた
長谷川さんは、れいわ新選組の参議院政策委員で、党の政策立案や法案審査を担当している。わたしは、この日のテーマ「環境と経済の両立――積極財政とグリーン・ニューディールの可能性」のグリーン・ニューディールに注目し、具体的にいったいどんなことなのか、関心があった。
また長谷川さんのスピーチは、2022年の参院選の街宣でごく一部聞いただけで、どこかでまとまったお話をお聞きしたいと思っていた、という動機もあった。
1時間弱だが内容の濃い講演だった。れいわの政策である積極財政論や金融緩和論ともセットの新産業論なので、半分近くはそういう話だったが、その部分は概要の説明にとどめ、グリーン・ニューディールの可能性や政府の現在の政策の問題点に絞って紹介する。また政党の政策のお話なので、しばしば他党への言及もあったが、そこもカットさせていただいた。
なお、この講演は、川畑よしとも中央区区議の区政報告会のなかのゲスト講演というかたちで開催された。講演の前に、会場近くの晴海フラッグ見学ツアーがあったが、わたしは参加してない。

長谷川さんは、環境と経済の研究者だったが、2011年3月の福島原発事故に遭遇し「研究だけではダメだ、立ち上がって声を上げないといけない」と決心し、京都で熊取六人衆の一人、小出裕章さんらとデモや反原発の講演会を主催した。講演会の聴衆のひとりに山本太郎氏がいた。2012年の大飯原発再稼働反対では現地座り込みにも参加したが、「これだけ多くの人が声を上げても、政治を変えないと原発再稼働すら止められない」ことを痛感した。また大飯をはじめ原発は貧しい集落に押し付けられており、「格差の問題」が底流にあることに気づき、「反・緊縮の経済学」を松尾匡・立命館大学教授に学ぼうとしていたところ、同じ思いを抱いた山本太郎氏と再会、4回シリーズの積極財政の勉強会を開いた。それがいまのれいわの政策の基盤となった。

環境と経済の両立――積極財政とグリーン・ニューディールの可能性
      長谷川ういこさん(れいわ新選組・参議院政策委員)
まず日本の経済状況をみると、デフレ不況が長く続いた。いまは賃金停滞下のコストプッシュインフレにあり、目指すのは賃上げ主導のマイルドなデマンドプルインフレ。賃上げでみんながモノを買い、需要が引っ張るようなゆるやかなインフレを目指すことが必要だ、というのがわれわれの考えだ。
ブレーク・イーブン・インフレ率、これは市場が予想するインフレ率のことだが、1.555で政府の目標は2%の安定目標なので(れいわも同じ2%目標だが)、まだインフレ状態になっていないということだ。ここで緊縮政策や増税をするとどうなるかというと、デフレに逆戻りする。日本はいままさに岐路に立っていて、どんな経済政策をとるかで、日本の未来は決まっていく。
●れいわの経済政策の三本柱
1 積極財政で生活をささえ賃金を上げる
生活を豊かにしいろんなところにおカネを回すようにする。現金給付で子育て、教育、介護などへの支援を行う。子ども手当を月3万円、所得制限なしですべての子どもたちに出す。子育ては完全に無償化し、大学院まで教育無償化する。保育園の配置基準などを見直し保育所をもっと増やし、教員も増やし、学童保育指導員の給与もしっかり高くする。こういう政策をつねづね訴えている。
2 賃上げ実現まで金融緩和を続ける
重要なのは上げる順。まず賃金を上げるのが先で、金利引上げはそのあと、当面は金融緩和を継続する必要があると考えている。まだ賃金が上がっていない。企業の倒産も深刻で2024年上半期の倒産は、ここ10年で最多の4800件を超え、うち8割は不況型倒産だ。不況型倒産がこんなに増えている状態で金利を上げるともっと不況になってしまう。経済学では当たり前、常識だ。
苦境にある中小零細企業のローン返済は増えてしまう。20代から40代くらいのローンを借りて家を買った人たちの返済額も増えてしまう。そうなると生活が苦しくなる。だからやったらダメなんだということをずっと言ってきた。
最低賃金1500円くらいは当たり前だ。これができない中小企業のために補助金や社会保険料の事業主負担分減免を行うなどの制度を設けることを提案している。
介護士や保育士の賃金10万円アップ、年収200万円以下が多い非正規公務員の賃金をしっかり引き上げて民間の賃上げ圧力にしていくことをわたしたちは強く訴えている。
3 賃上げや成長につながる分野への投資!
これがじつは日本の未来を大きく決める柱になると思っている。公共の福祉を高めるデジタル化はどんどん進めればいいのに、やっていない。農林水産業への補助金もどんどん減らし、大学の研究開発費用も減らしている。一方、防衛関係費は8兆円くらいあり10年連続で過去最大、さらに軍事ローン13.7兆円まで組み、アメリカから武器の爆買いをやっている。
もっとも問題なのは再エネなどのグリーン産業になかなかおカネを投資しないことだ。
●省エネ産業、再エネ産業への国の投資の必要性
省エネ産業、再エネ(再生可能エネルギー Renewable Energy)産業が、本当はもっとも重要な分野だということを、わたしは自分の研究でもあるので思っている。なぜ重要かというと、気候変動、これはたんなる環境問題ではないかとか、意識高い系の人がやっているのではないかとよくいわれるが、それは違う。

気候変動は大規模な山火事や豪雨など、数百年に一度しか起こらないような災害を頻発させる。こういう災害が頻発すると食糧生産ができなくなる。農林水産業が大打撃を受け、それにより世界が不安定化する、安全保障上も脅威になる、
もうひとつの意味での安全保障上の問題がある。日本はエネルギーの9割を輸入に頼っており、11.3%しか国内でつくっていない。いざというとき補給を止められたら、アメリカから武器を爆買いしても使えない。
実際、9割を輸入に頼っているので、22年度は35兆円世界に流出している。35兆円はすごい金額だ。所得税の税収の2倍くらいに当たる。これを国内で回せば、大いに経済が活性化すると思わないのだろうか。海外の石油会社やアラブの石油王、大富豪に流れていっている。こういうものを国内で回す政策こそが必要だとわたしたちは訴えている。
そのために必要なのが再エネだ。再エネが高いというのはまったくの誤解だ。いま世界では、原子力がもっとも高く、太陽光や風力はすごく安いエネルギーとなっている。
もうひとつ重要なのは省エネだ。省エネで、洋品店のような店舗でも全部LEDに変えるだけで62%の電力量を減らし、もちろん電気代も減らすことができる。一石二鳥だ。
これからポイントになるのは断熱だ。じつは貧しい家庭ほど壁が薄く、暖房器具も古く燃料費がかかる。これを「燃料貧困」という。ヨーロッパでは一般的な用語だが、これをなくすにも断熱は非常に有効だ。2025年から日本でも省エネが義務化されるが、断熱施工は地域の工務店が請け負うようにする。そうすれば地域でも仕事が生まれ経済が活性化する。この断熱を、地域の経済活性化のひとつのやり方にして取り入れることが必要なのではないかと思う。
●見当はずれの水素社会推進政策
エネルギー市場は全世界で2030年に650兆円の規模になるといわれている、ものすごく大きな市場だ。こういうところで日本企業が活躍できるよう政府は後押しする必要があるのだが、またトンチンカンなことをしようとしている。
今年の通常国会で、政府は環境関連の投資促進政策法案を2つ出してきた。産業競争力強化法改正法案水素社会推進法CCS事業法案だ。

奥左の白いスタンドが水素ステーション。周囲のタワーマンションは晴海フラッグ(東京オリンピック選手村を改装した)
午前中に晴海フラッグの視察に行ったとき水素ステーションがあり、日本政府は水素の利用をすごく推進してきた。しかし非常に問題のある推進策になっている。というのも水素は、脱炭素に対し、非常に非効率かつ高コスト、そして管理が難しいという3点で実現可能性が困難になってきている。とくに、脱炭素のためといいながら水素・アンモニア混焼の火力発電所を増やそうとしているが、いってみれば化石燃料の延命策になっている。
これは再エネより圧倒的に高い。特定企業への補助金になっている。これをやりたいから促進すると、はっきり言っている。グリーンを装ったグリーンでないものをグリーンウォッシュというが、じつは環境によさそうにみえて違う、原発と同じだ。本当に必要な脱炭素技術やインフラに投資が回ることを阻害してしまうという点で、非常に悪質だ。
わたしは経産省のこの法案審査を担当していて、舩後靖彦議員に2年ほど前に国会で質問してもらった。下記は、2022年11月10日参議院国土交通委員会の船後議員の質疑の抜粋だ。
「水素戦略について、抜本的な見直しが必要と考えます。(略)日本は2017年、世界に先駆けて水素基本戦略を策定(略)毎年四百億円から七百億円近い予算を投じてきました。しかし、その七割をつぎ込んだ家庭用燃料電池、エネファームと燃料電池乗用車の普及は低迷しています。(略)燃料電池乗用車は更に悲惨です。(略)
経済産業省が2017年に発表した水素基本戦略概要によると、2030年の普及目標は八十万台、2020年の目標は四万台となっていますが、2020年の実際の販売台数は七百六十一台と、目標の1%台です。このままでいくと目標には到底及ぶことができないのが明白です。全国各地に造られた水素ステーションもほとんど利用されていません」
これに対し政府参考人(資源エネルギー庁の担当者)も「ご指摘の通り、政府目標に比して足下の導入が進んでいない状況であります」、これからかんばる、と答弁せざるをえなかった。しかしふたたび今回7億円出して水素を増やすようなことをやりだした。
この水素社会推進法の問題点だが、水素・アンモニアは毒性が非常に強く管理がすごく難しい。天然ガスも同じだが、輸送するときタンクローリーのようなもので運搬するが、電気ならいま普通に使っており、運ぶ安全性がまったく違う。一般道路を走行するということで、もし事故が起これば大事故になりえる。これは専門家もすでに出しているのに、なぜか燃料電池車にこだわり、また補助金を積もうとしている。これが日本政府の現状だ。原発にいくらでもおカネを注ぎ込むように、利権構造で水素にもしっかり注ぎ込み、特定企業への補助金にしてしまおうとしている。
●れいわのグリーン・ニューディール政策
これに対するわたしたちのグリーン・ニューディール政策だ。
官民合わせて年間20兆円、10年で200兆円を投資して2050年までに省エネと再エネで国産エネルギー100%をめざす。全国各地で250万人の雇用を創出するのが、わたしたちの計画だ。これはたんにデタラメで出しているのではない。ちゃんとした研究所の研究会の試算を使わせてもらっている。さらに今日は晴海フラッグを見せていただいたので重要なのは、高級な住宅はもちろんつくればよいのだが、いま日本に圧倒的に足りていないのは高齢の方や貧しい方が住む公的住宅だ。貧乏人は古いところでいいだろうというのは間違っている。わたしたちは、快適な住まいは権利なんだという考え方をもっている。
しっかり断熱性能の高い空き家や集合住宅を優先的に借り上げて公共住宅として提供する。あるいはエネルギーゼロ(ZEH)の公共住宅の建設を進める、これは二重の意味で貧困対策になる。さっき出ていた燃料貧困というのは結構深刻で、夏などクーラーをかけないとやっていけない。この燃料費・光熱費が貧しい世帯にとってはすごく負担が重い。エネルギーゼロビルだったら、この燃料費がすごく安くすむ、ほとんどいらない。二重の意味で貧しい人たちへの支援になるというわけだ。
グリーンニューディールというのは、先ほど述べたように、単なる環境問題ではなく防災対策、安全保障対策、そして持続可能な経済への転換、そして生活の質を高めていくことだ。最も重要だと思っているのが、地方自治を強化するものでもあるということだ。火力や原発は一極集中型のエネルギーなので、そこにしか仕事が生まれず、補助金も出ない。ところが再エネは全国津々浦々に生み出すことができるので、そうすればすべてのところに雇用と産業を生み出せる。中央集権から地域分散型にする大きな転換の要となるものだ。
●東京の暑さ対策のカギは樹冠被覆率
今年の夏は暑い。連日35度越え当たり前、国連グテーレス事務総長が地球沸騰化だといったが、まさに沸騰している。
こういうとき街づくりとして何が重要かというと、緑化が何より課題になっている。渋谷区では堀切稔仁さんといっしょにずっと開発のために樹木を伐採しようとしている問題に取り組んできた。渋谷区では189本の樹木を伐採して再開発しようとしていたが、住民の大反対で伐採の量が減った
なぜ樹木の伐採をしてはいけないのかというと樹冠被覆率というものがあり樹木が覆っていたら暑さがかなりましになる、炭素も吸収してくれる、枝葉が広がっているほど効果も高い、ということが指摘されている。
樹木研究の第一人者の藤井英二郎・千葉大名誉教授が、樹木があるところとないところでは温度が3度くらい違う、さらに直射日光を受けるどころでは20度くらい違う、だからこそ都市の緑化が必要なのだと言っているが、日本全国、東京も含めどんどん木を伐り倒している。さらに葉が落ちて掃除するのに経費がかかるから全部枝を伐り丸坊主にしている。あれはまったく意味がない。街路樹は枝葉を広げてこそ意味がある。
アメリカでは都市の緑化に1456億円を投じることをバイデン大統領がすでに去年宣言していた。日本はまさに世界に逆行している。なぜか? 利権があるからだ。
●再公営化のため、政財界の利権を壊す
さっきも触れたが利権でつながり民間に売り払って、そこで民営化して開発するというのが東京中で、あるいは日本中で行われている。本当に問題のあるやり方だ。
こういうのを新自由主義というが、民営化は世界ではかなり周回遅れだ。世界では民営化しすぎて失敗した事例がたくさんある。気候変動でも同じで、アマゾンでは民営会社がかなり伐採してしまって、これが気候変動を進めているとか、イギリスやアメリカでも民営化しすぎて失敗した例がいっぱい出てきていて、いまは再公営化の時代だといわれている。先頭に立つのが、「企業家としての国家」の著者マリアナ・マッツカートさんという経済学者だ。かつてイノベーションを生み出したのは国家だった。国家が投資した研究のなかからシリコンバレーのような研究が生まれたということを著書で明らかにした。
ヨーロッパで民営化が進みすぎて、本当に深刻な事態が起こったことに直面し、かえってこういう方が注目を浴びて、いまヨーロッパでは再公営化の時代に移ろうとしている。日本は周回遅れのことをやっている。いまこそ公的なサービス、役割を見直してわたしたちの生活を取り戻していくことが必要だ。積極財政など方法はある。
シリコンバレーは国家のハイリスク投資の産物なのだ、外注と民営化がすべてをダメにした、本当に必要なことはグリーン・ニューディールをやらなければいけないと、マッツカートさんもいっている。
でも立ちふさがっているのは財界、政界の大きな利権、これをわたしたちは崩していく必要がある。そのためにも必要なのは、みなさんの力だと思っている。

☆わたくしは経済学の基礎知識がないせいもあり、ところどころわからないところがあった。しかし、気候危機問題の解決に、省エネ・再エネへのグリーン投資が雇用や産業を生むというグリーン・ニューディールのメインの道筋はおおむね理解できた。また環境面の課題解決にとどまらず、防災・安全保障、生活の質の向上、格差貧困社会の是正、さらに地域分散型地方自治など多方面で効果を発揮するとは、じつに魅力的なプランである。

●アンダーラインの語句にはリンクを貼ってあります。


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