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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

杉並で6年ぶりに脱・つくる会教科書へ

2011年08月15日 | 日記
35度近い酷暑の8月10日(水)13時から杉並区教育委員会の教科書採択の定例会が開催された。南阿佐ヶ谷の区役所前では、日の丸を振るつくる会系教科書採択推進グループとメガフォンをもつ杉並親の会など反対グループが並んでアピールし、それを取材する報道グループ、さらに大量の警備員でごった返していた。

東館5階第3・4委員会室には、市民263人が詰めかけ、広い部屋がほぼいっぱいになった。12時半に抽選が行われ当選者20人が会議の傍聴をした。杉並では補欠10人を含め、希望者全員がこの大部屋で音声中継を聞くことができた。
教科書の調査研究は4月から5回行い、7月21日以降教育委員への報告と質疑応答を3回行った。また教科書展示会には371人の区民が訪れ262通のアンケートが寄せられた。
教育委員は下記の5人で、議長は大蔵委員長である。
 委員長      大藏 雄之助
 委員長職務代理者 宮坂 公夫
 委員        田中 奈那子
 委員        對馬 初音
 教育長      井出 隆安

この日の採択は国語・書写、社会(地理、歴史、公民)、数学・・・という順序で進んだ。歴史の前哨戦・地理で、まず大蔵委員長から領土問題、とくに帝国書院に竹島(独島)問題が出ていないと先制攻撃があった。帝国は現在杉並区が採択している教科書である。これに対し井出教育長から「社会科の特性として、社会を総合的に認識し、公民的資質を育成するということがある。したがって地理も歴史や公民を踏まえて学習することが望ましい。この点帝国は世界地図と相関させて地理学習を進めることを編集方針とし、コラムで歴史的背景を書き、三分野を相関して学ぶことができる」との総論が語られた。じつはこの発言が、歴史・公民の教科書採択に大きな影響を与えることになった。
地理は「つくる会」系の教科書がないこともあり、現在使用している帝国に決まった。
さて問題の歴史である。大蔵委員長は、憲法制定の書き方、アイヌ・琉球など少数民族の扱い、江戸時代の一揆、国際連盟規約委員会で日本が人種的差別撤廃の提案をしたがウィルソンの反対で却下されたことなど、いかにも「つくる会」系の考えを長々と吹聴した。
続く宮坂委員も、神話の重要性、批判する前に父祖の考えを知ることの重要性、当時のままの言葉で学ぶことの重要性(例 大東亜戦争)などに触れたあと「少なくとも、おまえたちは犯罪者の子孫だよ。人のことなど考えず自分の思うとおりに生きなさいという極端な自己中心主義はいかがなものか。この国の文化や伝統を学び、この国に誇りをもってもらいたい。一方、地歴の教科書と同じ出版社という考えをあまり進めると、2年前のわたしたちの判断が間違っていたということになる」と締めくくった。
これに対し、田中委員は子どもや教員にとってよい教科書という観点、對馬委員は生徒に考えさせる部分や課題が多いという点から帝国を推した。また井出教育長は「宮坂委員は犯罪者の思想、犯罪国家というが、そういう記述のある教科書は1社もない。また一揆はたしかに12行使って説明があるが、江戸時代ではそれ以上に、新田開発、海運、化政文化の記述が詳しく、けして『暗い江戸時代』ということはない」とたしなめた。相手側に批判されると、わたしたちは言葉どおりに受け取ることが多いが、事実に即してその場できちんと反論することは重要だと改めて感じた。
このあと大蔵委員長からバランスの問題や帝国は細かいところに間違いが多いなど、小声で反論があった。そこへ田中委員から「5月に都の学力調査報告を聞いた。社会科以外は杉並は都の平均より7-8ポイント高いのに、社会科の「読み解く力」「(背景や意図を)読み取る力」のみ+3ポイントにとどまった」という批判、對馬委員から「保護者から、現行の扶桑社は問題集や参考書も市販されておらず模擬試験に対応していいない、といわれた」との指摘があった。
これに対し大蔵委員長から「たしかに自虐的な記述はなくなった。扶桑社は、はりきりすぎて誇張した書き方の部分があった。育鵬社になりかなりよくなり、『普通の教科書』になった。自由社は扶桑社時代よりはりきりすぎ、教科書としては行き過ぎの点もある。他は長年教科書をつくっている会社で、東書は細かい間違いは少なく、整っているが、ヒマなときに一度読んでみようかという感じでつまらない。両方兼ね備えた教科書が望ましい」と、反論なのかなんなのかよくわからない意見表明があった。
對馬委員から「たしかに育鵬社には面白い部分もある。ただわたしたち教育委員へいろんな意見が寄せられるが育鵬社は賛否両論だ。教科書として採用するのにあえて賛否がはっきり分かれたものを使わなくてもよいのではないか」、井出教育長から「いまの教科書にはいろいろ面白い資料がでている。たとえば奈良時代の農民が重税がつらいと詠んだ歌だ。この歌を素材に生徒は当時の生活を考えることができる。自分の主張を資料に基づき、論理的に述べることができる。教科書は物語性より、資料性にウェイトを置くことが必要だ」との意見が出た。さていよいよ採択かと思ったら委員長は「歴史は公民とも関係があるので」と公民の採択に話が移った。こんなフェイントもありなのかと思った。
大蔵委員は、「帝国は現代生活、憲法や国政、経済という叙述になっているが、とっかかりの部分の構成がよくない」と指摘し、對馬委員は教員アンケートから帝国、田中委員は「みんなのなかではっきり意見をいえる」ということから帝国か東書、宮坂委員は自由社か育鵬社との意見だった。井出教育長は「地理との相関で、自動的に帝国といっているわけではない。指導要領は、社会参画や、持続可能な社会を維持し、どう次の世代へつなぐかという社会的責任を強調している。この点、帝国は『持続可能な社会』を一貫して貫く編集方針にしている」と述べた。
これに対し大蔵委員長から、帝国は間違いは少ないが、朝鮮韓国人学校差別や死刑廃止の記述で問題があるとの指摘があった。これに対し井出教育長から帝国は「対立と合意」「効率と公正」を積極的に取り上げている。死刑廃止についても授業の中で、この観点から疑問が出るだろうし、学習のなかで考えを深めていける、との反論があった。
大蔵委員長は万事休したと判断したようで、「帝国が多数なので、歴史も合わせて両方とも帝国書院に決定します」と宣言した。
思わず傍聴席から大きな拍手が起こった。そして歓声が沸いたところで、委員長から「傍聴の方に申し上げる。賛否の意思表示はご遠慮いただく方針であり、慎んでいただきたい」との言葉があった。
苦節6年、杉並にやっと「普通の教科書」が戻ることになった。2年前は滋賀県の河瀬中学、今回は杉並で挽回することができた。しかし今回は都教委ほかに加え、横浜市、大田区、武蔵村山市、東大阪市などで、新たに「つくる会」系の教科書が採択された。わたしは育鵬社・自由社の公民の教科書を使わせられる中学3年生の将来が心配だ。いまでも若い人のあいだでは、社会のための自分、権利主張より自己責任という考え方が強いのに、橋下知事や石原知事の思うとおりに動くような「国民」がますます増える社会にはなってほしくないものである。

☆あまりにも暑かったので、阿佐ヶ谷駅北口の立呑風太くんで生ビールを一杯飲んだ。じつにうまいビールだった。風太くんという名は、10年近く前に有名になった直立するレッサーパンダの名前である。阿佐ヶ谷駅のホームから店の看板がよくみえる。
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