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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

東アジア歴史・人権・平和宣言発表大会

2011年10月10日 | 集会報告
いっきょに10月下旬並みに涼しくなった10月2日(日)午後、駿河台の明治大学リバティータワーで「東アジア歴史・人権・平和宣言」発表大会が開催された(参加300人)。
東アジア歴史・人権平和宣言は、植民地時代の奴隷制は人道上の罪とした2001年9月のダーバン宣言を足がかりに、09年秋から準備が始まった。昨年は韓国併合100年の年で、日韓市民共同宣言を採択したが最終条項に「植民地主義の清算と東アジアの平和のために活動する」ことを謳っている。

この日のプログラムは盛りだくさんだった。まず生方卓さん(明治大学教員・現代史研究会)、崔善愛さん(ピアニスト)、中原道子さん(「強制併合100年」共同行動日本委員会共同代表)から連帯のアピールがあった。
そのなかで、わたくしは崔さんのアピールの印象が強かったので紹介する。

1981年、いまから30年前、21歳のとき指紋押捺を拒否して裁判が始まり、法務大臣と20年間闘った。最初のころ国家がなにをしようとしているかわたしには見えていなかった。国家に対しいったん物申すと、有罪判決を受け、再入国が不許可となりこの国を追放される。その結果永住権をなくす。在日という存在に権利はいっさいない。発言するとすべてを奪われる存在だ。「すべて」には、日本に住む権利、資格も含む。日本に住めなくなると、家や家族を失う。
そういうことを平気でできる日本国家とはいったい何か。日本国家は過去の戦争責任をいまだに取らない。昭和天皇の戦争責任さえ問えない現実が日本で常識化している。その重さを問い続けたい。それは、君が代斉唱に反対することでもある。
植民地思想がいまだにわたしたちを支配していることに気づき、植民地支配が罪であることに気づく一歩を今日踏み出すことができればと思う。

このあと「植民地主義を超えて――平和・連帯の東アジアをつくるために」というタイトルでシンポジウムが行われた。この日のメインプログラムで、4人のパネリストから約20分ずつスピーチがあった。徐勝(ソスン)さん(立命館大学教員) は、加害者である日本は東アジアに対し「歴史的人権侵害」の清算に対しきわめて後ろ向きであり、一方、韓国・台湾で植民地近代化論が台頭していることを指摘し、「東アジア真実和解委員会」の設立の必要性を訴えた。
阿部浩己さん(神奈川大学教員)は、国際法が一貫して西洋の植民地支配を合理化する暴力性をもっていたこと、しかし90年代以降、民衆の視点で植民地を問題にする言説が広まり2001年のダーバン宣言は奴隷制と植民地支配に対する責任を明確しようとしたこと、「不当だが合法だった」という日本政府の主張に対し、今日の正義の射程をもって過去を再評価することが重要だと述べた。金東椿さん(韓国・聖公会大学教員)は、韓国の過去史清算は日本やアメリカの支配と深い関わりがある、また独裁政権下の民間人虐殺や人権侵害は東アジア各国とも共通するので、過去史清算が東アジア全体で共有されることを願うと述べた。
岡真理さん(京都大学教員)は、占領とは「辱めであり、魂の破壊であり、人間性の破壊」であり、イスラエルがパレスチナに対しやっていることは70年前に日本が東アジアの国々に行ったのとまさに同じである、自由と尊厳を求める人間の闘いに終わりはない、西アジアや世界で闘う人と国境を越えてつながろうとアピールした。
なお4人のパネリストの詳細な原稿が会場で配布されたので、近々発表されるのではないかと思う。重い問題提起が散りばめられているので、ぜひ参照していただきたい。

金華暎さんと高英載さん
休憩をはさみ、被害当事者らの証言として5人の方からスピーチがあった。
李玉善さん(元日本軍「慰安婦」被害者)は、釜山生まれで、15歳のときウルサンでメイドとして働いていたが外出したとき2人の日本人男性に拉致され中国の延吉に強制連行されて慰安婦になったこと、軍人に殴られ刀で傷つけられたことなどつらい体験を声を荒げて語り、一日も早い解決を訴えた。
韓国のユ・ヨンジェさん(平和と統一を開く人びと)は済州海軍基地建設反対運動についてアピールした。済州海軍基地は中国に一番近く、アメリカの空母が寄港できる規模にし、空軍とミサイル基地も併設される予定だ。しかも済州は07年に世界自然遺産に登録された。いま市民や野党議員が激しい反対運動を行っている。
在日の高英載さんと金華暎さんは今年3月6日に東京朝鮮中高級学校を卒業した。この1年何度も教科書無償化の大きな集会があり、この2人も何度も集会でアピールをした。
高さんは「今年の卒業式は在校生にも卒業生にも特別なものになった。卒業式の終盤、学生代表が文科省への手紙を朗読した。日本政府に一日も早く無償化を適用することを願う内容だった。いったい日本のどこに自分たちの権利を守ってほしいという文章が読まれる卒業式があるだろうか。菅前首相が凍結解除を指示したが、いま一度わたしたちに力を貸していただきたい」と語った。
金さんは「未来に、境界線は引かないで」(呉順姫)など2つの詩を朗読した。ほんの一部を紹介する。
 チョゴリが切り裂かれた時
 言葉を失くした生徒を抱き
 怒りに体を震わせた女性
 弱者の痛みは弱者が分かると
 駆けつけてくれた車椅子の青年
 大人と同じ通勤定期で通う
 子供たちに心を痛め
 署名を呼びかけてくれた男性

 彼らは
 子供たちの笑いを守る、
 ウリハッキョのもう一人の主人公。
 この国の良心と善意で
 子供たちの未来を共に見つめる
 日本の普通の人たち
  (略)
 だから
 子供たちが学ぶこの場所に
 境界線は引かないで


 あなたたちは
 今を生きる大人なのだから、
 未来を育てる
 大人なのだから。」

最後に我如古(がねこ)朋美さん(恵泉女学園大学大学院 琉球弧の先住民族会)は、先住民族の自己決定権回復のため国連への働きかけを行っていると会の活動を述べた。また9月6日の沖縄靖国神社合祀取消訴訟の二審敗訴について、日本軍に殺された住民や幼児まで「英霊」として合祀されている点で他の裁判とは違うことを強調した。

沖縄の歌手カクマクシャカとフォークシンガー井上ともやすさんのミニコンサートのあと、いよいよ「東アジア歴史・人権・平和宣言」が前田朗さん(東京造形大学)から発表された。
この宣言は、前文が59パラグラフ、本文が200項目、全部でA4判51pの長大なもので、この日はその一部が読み上げられた。
前文は「A ダーバンからの道」「B 東アジアにおける植民地主義克服の不十分さ」「C 植民地主義の克服のために」の3項から成り「普遍的平等、正義、尊厳への新しい政治意思と公約にともに参加して、世界中すべての人種主義などのすべての被害者の記憶に敬意を表し、われわれは厳粛に、この『東アジア歴史・人権・平和宣言』を採択する」と結ばれる。
本文200項目のうち11項目が読み上げられた(以下カッコ内は項目名を説明するため、適宜本文から文言を補充したものである)。「1東アジアの定義」(大日本帝国の植民地、占領地さらに交戦地を含む)、「6『歴史的人権』の回復」(歴史的人権とは、歴史的過程において人権侵害の不正義が行われたが、正義が回復されていないために、回復されるべき権利のこと)、「15植民地主義・人道に対する罪・人種差別」、「16植民地犯罪」(ダーバン宣言をはじめ、植民地支配は人道に対する罪であるとの認識が高まった。日本帝国主義の植民地支配の実態は植民地犯罪である)、「19奴隷制と人道に対する罪」(日本軍性奴隷に代表される東アジアの奴隷制と奴隷取引は人類史のすさまじい悲劇であった)、「49継続する植民地主義」(日本における植民地支配の清算の不十分さから「継続する植民地主義」と呼ばれる残滓が随所に見られる)、「161東アジアにおける平和」(国家暴力あるいは国家テロリズムは東アジアにおける最大の災害であった。平和の実現が、東アジアにおける最優先の共同の課題である)、「173東アジア安全保障共同体への途」、「177過去清算のための東アジア真実・共同委員会」(80年代以降、台湾と韓国で進められた過去清算法と過去事清算委員会の実践成果を継承する)、「188軍縮」(当面の課題として、韓国済州島江汀海軍基地建設を中止する)、「199東アジア民衆の連帯」、「200東アジア民衆の闘い」(この宣言は2010年8月の日韓(韓日)市民共同宣言を継承し、民衆の共同と創意工夫、絶えざる検証と改良を通じて発展していくべき宣言である)だが、格調が高く理性的な文言が並んでいる。

☆宣言には、注目すべきコメントがいくつも記されている。たとえば「28奴隷制の現在」にはアジア女性に対する強制労働や中国人研修生問題を例に奴隷制や奴隷類似慣行を指摘する。「65移住者への差別の克服」では移住者に対する人種主義や外国人排斥現象の廃止と、家族がともに暮らすことを促進することを訴える。「76日本の脱植民地過程の不十分性」では、大日本帝国の侵略戦争と植民地主義の最大の責任者である天皇の責任が問われなかったことを明記している。「95高校無償化除外問題」
「104ヘイト・クライム(1)」では在特会が京都朝鮮第一初級学校に押し掛けたが取締がなかったこと、「117包括的人種差別禁止法の制定」では、
ヘイト・クライム処罰法を含む包括的な人種差別禁止法の制定を勧奨する。また「118政治指導者による差別発言」では東京都知事など高位の公務員による人種差別発言を擁護する姿勢を改めて犯罪として取り扱うべきである、日本政府は東京都知事らの人種差別発言を抑止するよう努力する必要がある、と記している。ぜひ実現したいものだ。また「122人種差別煽動組織の規制」では、人種差別撤廃条約4条で人種差別の煽動を宣伝する組織を、裁判にかけることを各国の義務としていることに留意させている。さらにメディアによる差別助長(124)やインターネットによる差別(129)にも留意する。
歴史教科書問題では、日中韓の共同編集「未来をひらく歴史」の制作共同作業を評価する。原子力発電所については即時廃止(192)や原発輸出の停止(194)という項目も入っている。
宣言全文がウェブ上で早く見られるようになることを願う。
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