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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

かすかな希望の灯がみえた都教委包囲ネット決起集会

2022年02月14日 | 集会報告

2月6日(日)午後、卒入学式を前に、今年も都教委包囲・首都圏ネットの総決起集会が飯田橋の東京しごとセンターで開催された(参加77人)。

今年のメイン講演は高嶋伸欣さんの「戦争へ向かう時代と教育現場での闘い」だった。高嶋さんは、筑波大学附属高校で地理の教員を長く務め、退職後1996年から2008年まで琉球大学教育学部教授に就いた。講演のサブタイトルは「われわれは未来を託せる世代を見守りはぐくむ教育現場の仲間に寄り添いつづける」で、衆議院で自公+維新の改憲勢力が2/3を占め、わたしたちに逆風が吹く情況のなか、ちょっと元気の出るお話を聞くことができた。司会は「闘う学者」と紹介した。そこで、高嶋さんの講演と昨年12月9日、君が代不起立訴訟控訴審で逆転勝訴した大阪府立高校元教諭・梅原聡さんのスピーチを紹介する。
戦争へ向かう時代と教育現場での闘い

       高嶋伸欣さん(のぶよし 琉球大学名誉教授)
教育現場に日の丸君が代が押し付けられたり憲法学習が骨抜きにされたり、気になることは多いが、わたしはけしてたじろいでいない。退職後も現場のみなさんに「ガンバレ」、そして権力者の不当な動きに対し「おかしいぞ」という目線を送り圧力をかけ、こういう活動や集会を続けられている皆さまも、自信をもってよい
1 われわれは教育への不当な政治的介入を押し返している!
            事例「『訂正申請』による政府見解押し付け事件」
最近の事例では、萩生田光一文科大臣(当時)が昨年、高校「歴史総合」教科書などの「いわゆる従軍慰安婦」と「強制連行」等の記述を、出版社に訂正申請というかたちで自主的に書き直させた横暴な行為だ。多くのマスコミは出版社が政府の圧力に屈した、と報じた。検定合格後、印刷間近の段階での指示だった。そのなかで「政府の言いなりになるものか」との気概を発揮した出版社が2つある。当該ページの空きスペースを利用し、清水書院は「いわゆる従軍慰安婦」記述はそのまま継続し、両論併記の注記を追加した。第一学習社も「強制連行」に注記を付け「『強制連行』とするのは不適切とする閣議決定をしたが」と明記し、政治的介入の事実を示唆する注記を加筆した。しかしこうした対処をマスコミは報じない。
この件には、背景がある。90年代後半、中学の歴史教科書から「慰安婦」記述を消させた藤岡信勝ら「新しい歴史教科書をつくる会」が「俺たちの手柄だ」と宣伝した。そのバックに、「新しい歴史教科書」を全国の公立中学校で使わせようと、安倍晋三・自民党副幹事長(当時)は全国の地方議会自民党に、教育委員会に採択の圧力をかけさせるようにした。安倍の側近だったのが萩生田(以下、政治家の敬称略)下村博文の2人だった。
第二次安倍政権が成立し、安倍は(終戦)70年談話を出して95年(敗戦50年)の村山談話を否定すると早くから公言していたので、下村は「安倍談話が出たら歴史教科書に書かせよう」と考え、2014年、教科書検定基準に「閣議決定などで示された政府見解または最高裁判例が存在する場合、それらに基づく記述にされていること」と1項目追加させた。
しかし村山談話も閣議決定されていた。下村は「閣議決定されていない」と国会答弁し、外務省からも誤りが指摘された。その結果、安倍の70年談話は「侵略、植民地、痛切な反省 お詫び」の4つのキーワードを含み村山談話を踏襲するものとなった。政府見解条項は自民党のなかでは死文のようなものだった。また文科省は、何度も「両論併記して構わない」と答えてきた。
ところが今回、萩生田が、維新の会・馬場伸幸藤田文武議員らの質問に答えるかたちで悪用したのがこの話の始まりだ。萩生田は、政府見解のみ掲載すると思い込んでいた。5月にウェブで臨時会議を開き、書き変えなければ(事実上)会社の不利益になる、と脅しをかけた。
出版社、著者たちは押されっぱなしではない。また、つくる会は「慰安婦」という記述の全面削除を目的としたが、今回「慰安婦」という記述は官庁で使っていることが確認されたので教科書にも使えることになり、さらに両論併記も認められ「やぶを突いて蛇を出す」結果となった。
相手側の「齟齬」を丹念に掘り起こし、しかも素早く見つける準備をしておく必要がある。
1972年飛鳥田市政の村雨橋事件(横浜市職員が、米軍相模原基地から横浜に入る橋の重量制限に気づきそれを理由に戦車積載のトレーラー5台を通過させなかった事件)は横浜市の職員が戦車の重量オーバーをみつけたものだったし、辺野古新基地の軟弱地盤問題は、元京都市役所土木技術者の北上田毅さんが情報公開請求により発掘したものだ。敏感な個人の洞察力による点もあるが、幅広くやればまだまだ見つけられることは多い。
全部やられっぱなしというわけではない。頑張っているわずかな例が、ものすごい励ましになっている。広く共有情報として持ちたい。
 
2 「黄金の3年間」の改憲機運を夢想に終わらせるために
昨年の衆議院選で自公と維新が2/3の議席を取り、今年夏の参議院選でも勝利すれば、2025年まで3年間大きな選挙がなく、自民党にとって改憲発議から国民投票へと準備を進める「黄金の3年間」が到来する。
●それに対する護憲側の政党・労組ズタズタの状態にある。連合は労使協調路線を露骨に示している。
マスコミはずっと前から骨抜きにされている。国民投票法が成立したとき全文載せた全国紙はないが、沖縄タイムスは5pぶち抜きで全文掲載した。沖縄の人にとって、沖縄復帰は人権を認めないアメリカ軍政から、日本の憲法の下に入り保障してもらうために血と汗で勝ち取ったものなのに、それを骨抜きにするのかという危機意識が沖縄の人と本土の人では格段の差がある。本土と沖縄のマスコミでは憲法認識がまったく違う。それを本土のマスコミはわかっていない。
マスコミは記者クラブ制の下で、お仕着せ仕事をするのが大半という状況になっている。戦時中の新聞も同じだった。朝日は満州事変のころ方針を転換したが、背景に在郷軍人会の不買運動があった。
現在も、オリンピックは新聞・テレビのカネもうけの素(もと)なので批判的記事は書かない。北京冬季五輪には91の参加団体が出場している。オリンピック憲章でカントリーは「国・地域」を表す。しかし朝日は「国」としか書かない。
地方自治体はどうかというと、たとえば美濃部都政は、市民運動に公費で助成金を出す最初の実例をつくった。
早乙女勝元氏が「東京空襲を記録する運動」で、手記をまとめた本を出版しようとしたが資金面で行き詰っていることが報道され、記事をみたブレーンが「公共性のある事業なら自治体が資金を出してもよいのではないか」と思いつき、調査したところ違法ではないことがわかり、講談社が出版した。その後、各地の市民運動で講師謝礼、会場費、資料作成費、パンフレット作成費に区などの公金を充てることができるようになった。
突然できたわけでなく、最初の実績があり、それが広がってできたのだ。
●沖縄の故・翁長雄志知事が最初に立候補したとき「集団自決事件の教科書記述を変えさせた11万人の9.29県民大会をみて、沖縄が結束すれば政府を変えさせることができるはずだ、と自信を得、あの基地問題に対処し選挙の公約に掲げる判断の基になった」と語った。教科書記述を変えさせた市民運動が、地方政治を大きく変える力になった

3 未来を託す次の主権者の底力を豊かにし、自信を強めるために
昨年8月防衛省・自衛隊が小学生向けに「はじめての防衛白書――まるわかり!日本の防衛」を発行した。これをみたとき、沖縄ではもうそんなレベルではないと思った。琉球新報は、アメリカのミサイル原子力潜水艦はヒロシマ原爆180発分の核ミサイルをもち、14隻のうち中国、北朝鮮を意識し太平洋地域に多くを配備していると、共同電で報じた。軍事兵器に詳しい記者やデスクがいるからだ。

週刊「World Weapon」のミサイル原潜の図解を示し説明する高嶋さん
では本土ではどうか。市民のなかにも軍事知識に詳しい人もいるのだから、そういう人の話を聞く集会も設けてはどうか。学校でも児童・生徒に¨軍事オタク¨もいるので、兵器・装備の短所や限界を指摘してくれるかもしれない。いなければ教師が勉強会をつくり短所や限界をいえるような状況を準備したほうがよい。そうすることで子どもたちは官製情報に踊らされてはいけないことに気づいてくれる。
また「軍隊は逃げる」ことに、中高生になればすぐ気づく。
子どもたちも声を上げてよい、もっと政治に関心をもち、おとな社会に声を上げていい、声を上げればおとな社会が答えてくれる、そういうことになれば投票率ももっと上がる、とわたしは思う。
デンマークの投票率は80%超と非常に高い。船橋市教委の教員向け研修会に招かれたデンマークの教師は「安心できる環境の中で子どもたちが自分の意見を言い、おとなに届くという体験を繰り返す社会の一員として生きる練習を学校が提供している」と学校の役割を語った(読売 2016.8.20)
沖縄で、学生に、年1回の米軍基地開放や自衛隊基地公開にはできるだけ行って実態をみておいたほうがよい、と勧めた。おそろしさは間近に行ってみないとわからない。わたしたちは軍事面はノータッチ、平和が大事だからという方向にややもすると傾斜しがちだったが、それが逆にスキをつくってしまったのではないか。後の世代の方はそういうことを上手にやっていただければと思う。

2017年再任用拒否国賠訴訟で控訴審勝訴
  

            梅原聡さん(元府立高校教員)
大阪では、維新の橋下徹が知事になり、2011年に君が代斉唱時の起立斉唱を義務付ける国旗・国歌条例、2012年に同じ職務命令違反を3回やると原則クビの職員基本条例を制定した。
処分発令後、研修が行われるが、東京に比べると形式的で30分ほどで終わる。ただ研修の最後に「今後の卒入学式では上司の職務命令に従う」という用紙に任意で署名捺印することが求めらる。提出しない人や文言を一部書き変えて提出した人も多い。
しかし再任用申請時に校長に呼び出され、再度確認が行われ、イエスと答えれば合格、ノーなら不合格という運用がされてきた。これを「意向確認」と呼んでいる。あまりにひどいので、裁判ではこの意向確認を第一の柱に据えた。もうひとつは東京でも争われ、2018年に最高裁で逆転敗訴した裁量権の問題だ。当時と今では、年金と雇用の接続という社会情勢が大きく変わり、裁量権が厳しく制限されるようになったことを強調した。
1審判決は、最高裁判決をコピペしたようなひどい判決だったので、控訴審では「自分の頭で考えた」判決を求めた。また「意向確認」についてはキリシタンの「踏み絵」と同じという訴え方をした。
判決は、315万円の損害賠償支払いを命じる逆転勝訴だった。裁量権については、ほぼこちらの主張が認められた。再任用への期待権がほぼ認められた。東京での闘いの成果が反映されていると思う。また、体罰を繰り返し減給処分を受けたが再任用された教員との比較で、裁判所は合理的な説明を求めたところ、府は「総合的な判断」としか答えられなかった。いままでの判決は府の判断を支持していたが、今回は「合理的でない」と認めた。また再任用不合格に懲罰的な意味があることを少し匂わせる判決文になっていた。もうひとつの柱「意向確認」については、残念ながら違憲違法に当たらないとしてしまった。2012・13年処分の最高裁判決で確定しているので、判例に反する判決は書けなかったのだろう。
わたしに対する再任用拒否は間違いと認め、ほかの人と違う差別的対応をしてきたことが明らかになった。
就職指導で、思想信条に関する質問をされたときは「答えないように」と指導しており、大阪府商工労働部「意向確認」は違反だと府教委に改善要請してくれた。その翌年から「国歌斉唱時の起立斉唱の職務命令を含む」が「上司の職務命令」という文言に変更された。これは運動の成果であり、わたしの次の年から再任用されるようになった。「強制はおかしい」と声を上げ続ければ、裁判所も違う判断を出せるようになると思う。運動をうまくつくっていければ、と思う。

第2部はそれぞれの現場からの報告だった。昨年2月、09年停職6(カ)月処分取消しが昨年2月最高裁で確定した根津公子さん、昨年3月に東京「君が代」裁判第5次訴訟を提訴した原告、GIGAスクール構想がもたらす教育現場の混乱、など教育の世界での問題についてスピーチがあった。。
コロナ禍でオンライン教育が注目された。東京都では2020年度に1人1台Chromebook(GoogleのOSを搭載したタブレット端末)の配布を完了した。しかし、タブレット(通信機器)は箱に過ぎず、盛り込む内容が重要なのに、それは教員に委ねるだけなので、過剰な無賃残業をせざるをえない。機器の活用が大前提で、機器に振り回される本末転倒な授業がしばしばみられる。また生徒の個人情報を含む校内のあらゆるデータがクラウドで管理され、国(とGoogle)がビッグデータを手にしているのも大きな問題だ。
さらに反オリ・パラ運動の報告、NHK「河瀨直美が見つめた東京五輪」への包囲ネットの抗議行動、改憲反対闘争などのアピールが続いた。
昨年12月26日に放送されたドキュメンタリー番組の「オリンピック反対デモにカネをもらって参加した」とのテロップがウソだったことが話題になっている。この番組で放映された市民団体の反対行動はじつは昨年5月18日に包囲ネットがJOC前で行った場面だったそうだ。それを河瀬監督が物蔭から盗み見て「一所懸命にオリンピックに関わる人に寄り添うのは、人間として当たり前」という趣旨の発言をした。これに対し包囲ネットは真相究明謝罪」を求める書面を送ったが、NHKからは実質的にはなにも答えない不誠実な回答が返ってきたとのことだった。

この旗をもち抗議している映像が「河瀨直美が見つめた東京五輪」に使われた
最後に行動提起や集会決議を採択し、「改憲攻撃と闘おう!」「ICT教育、GIGAスクールよりも30人学級の実現!」「敵基地攻撃能力保有・軍拡・9条改憲反対!」など、8項目の闘いのスローガンを拍手で確認し「ガンバロー!」のシュプレヒコールを挙げ、閉会となった。

高嶋伸欣さんの講演のサブタイトルにある「未来を託せる世代を見守り教育現場の仲間に寄り添いつづける」、逆転勝訴した大阪の梅原聡さん、停職6月処分取消しが最高裁で確定した東京の根津公子さんの報告もあり、かすかな希望の灯がみえた集会だった。
なお、UPLAN のサイトに2時間40分あまりのこの集会がすべて収録されているので、関心のある方はご覧いただきたい(こちらのサイト)。また集会で配布された資料も包囲ネットのHP(こちらのサイト)で読むことができる。

●アンダーラインの語句にはリンクを貼ってあります。


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