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* チーコちゃんの魂、帰る
ヤッタールの分析によれば、Mキラリーの生き霊は、
最近では、ほとんど外出もせず、ひきこもりがちだという。
そのMキラリーから、チーコちゃんの魂を解放してやる
というメールが、「縄通」ネットに入ってきた。
もう、芋蒸かしと聞いただけで、ぞっとなるらしい。
私たちの通信を、盗み見したのだろう。
迎えには、ゴキオーラを、一人で寄越せという。
そう言えば、ゴキオーラは、奴をゴキブリに変える
ヒントを与えてくれた重要な存在だ。
それなのに、Mグループのゲリラ攻撃には遭っていない、
たった一人の、不思議な存在だ。
これには、何か深い訳があるに違いない。
私は、奴のことを書いた週刊誌・新聞記事を探し出して、
読み返してみた。
センティとのゲームでも、ちらっと、漏らしていた。
彼には、心の拠り所になるジィさんが、一人居た。
ああっ、そうか!
ゴキオーラは、奴のジィさんの雰囲気に、
似ているに違いない。
そうでもなければ、あんなに、ゴキブリに拘る訳はない。
迎えには、タイタイとゴキオーラが行った。
Mキラリーは、すんなりと、彼女の魂を解放したという。
生き霊術も、そろそろ切れると、打ち明けたようだ。
8月15日が、その期限だったのだろう。
奴の態度が軟化したのは、術の力の衰えを感じ、
普通の身体に戻った時の、
私たちの報復を、恐れたためらしい。
ゴキオーラを見つめる目つきが、なつかしそうな、
訴えかけるような、感じだったという。
ゴキオーラも、少し可哀相な気がしたが、
罪は罪、単純に許しては、皆に申し訳ないので、
心を鬼にして、冷たく突き放して、
帰って来たとも、言っていた。
おっとりした、ゴキオーラでも、
考える事は考えているのだなあと、変な感心をした。
Mキラリーの奴は、昔、塀の外で犯罪に勤しんでいた頃、
幼女誘拐に失敗したことも多いという。
特に、おならは、彼の大敵だったそうだ。
車に連込まれようとした途端、
ある女の子は、スカンク顔負けの芋屁をして、
助かったそうだ。
1週間ほど便秘していたので、
母親が、さつま芋を蒸かして食べさせていた。
恐怖に怯えた、その子のお尻が、弛んでしまった。
ブブブッ、ブー。
臭いの何の!
そのおならを嗅いだ瞬間、
彼の誘拐意欲は、萎えてしまったようだ。
それ以来、さつま芋を蒸かした匂いは、
奴の弱点になってしまったのだ。
ひとまず、事件は解決した。
しかしながら、何時なんどきMグループが、
再び力をつけて、私たちの前に現われてくるのでは
ないかという、一抹の不安が、心の隅で拡がっていた。
本質は少しも解決されていないのだから、
当たり前と言えば、当たり前のことだからである。
ある土曜の早朝、赤とんぼが舞う万博公園への
高速道路を、可愛いチーコちゃんの笑顔に会いに、
お土産をいっぱい積んだオッさんの黒いバイクが、
白い排気ガスを振り撒きながら、
80kmの制限速度ぎりぎりで、
走っている姿が、
生駒山の展望台から、眺められた。
つづく