フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

カズト先生

2006年01月21日 00時13分30秒 | 第11章 飛翔編
タクシーから降りる時にお金を払おうとしたら、リョーコさんは指を立てて、「いらないよ」と私の支払いを固辞した。
「かずぼんの出世払いに付けとくから気にしないで」とウィンクすると、彼女は「時間が無い!」と研究所へと走って行った。

「関係者と子供達の両親以外は立ち入り禁止だから、密かに入ってね」
と言う彼女のアドバイスのもと、私はこそこそと小児病棟に忍び込んだ。

病棟の突き当たりから、オルガンの音が聞こえたので、私がその音のする方へ忍び足で近寄って行くと、子供達の元気な声が聞こえてきた。

「あ~~~!!だめジャン!カズト先生、また音外れたよぉ~!」
(カズト先生??)
私は窓からそろ~りと顔を出し、中を覗いた。
教室というよりは小さな小部屋でかずにぃは7人くらいの子どもたちに囲まれてオルガンを弾いていた。
・・・・・・かずにぃ、ピアノとかオルガンとか弾けないはずだけど・・・。


「うっせぇ!これぐらい、お前達の歌唱力でカバーしろよ!」
「サイアク!逆切れかよ」
子供達のブーイングに更に焦ったかずにぃはまた音を外した。

「やっぱさ。新曲は難しいよな・・・・・・」
と、かずにぃは照れながら必死で鍵盤を叩いていた。
「『どんぐりころころ』のどこが新曲だよ!」
子供達の絶妙な突っ込みに私は吹き出してしまった。


「下手っぴカズト先生をやっちまえ~!」
かずにぃの下手なオルガンはたちまち子供達にその蓋を閉じられてしまい、急遽、体育の時間に変更になっていた。
子供達がかずにぃの腕にぶら下ったり、背中によじ登ったりして、たちまちだんご状態になって、かずにぃは埋もれてしまった。

ところが、そのだんごの中から小さな男の子がトコトコ出てきて、オルガンにちょこんと座って、蓋を開けようとした。
でも、力が足りないのか、鍵盤と蓋の隙間に片方の手を滑り込ませてしまったまま、もう片方の震える手で蓋を持ち上げようとしていた。


あっ!!危ない!このままじゃ・・・・・・指挟んじゃう!!

叫びそうになるのと同時に私は駆け出し、部屋の中に飛び込むと、オルガンの蓋を支えていた。
「ふー。危なかった」

子供達のだんごはほつれて、その視線は一気に私に注がれた。

「ハルナ!どうして、お前、ここに・・・・・・」
だんごの下からクシャクシャ髪のかずにぃがどんぐりのような目をして這い出してきた。




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リョーコさんの告白

2006年01月20日 22時18分37秒 | 第11章 飛翔編
リョーコさんは通りに出ると手を大きく振ってタクシーを捕まえてくれた。

「体、大丈夫?今日とか、結構寒いし・・・・・・」
リョーコさんは既に私の体のことを知っていたようだったので私はちょっと恥ずかしくなって、顔が真っ赤になっていくのが自分でも分かった。

「こないだ、かずぼんがメチャクチャ酔っ払って帰って来た時があってさ、その時聞いちゃったんだ。
そのぉ~、ハルナちゃんが妊娠しちゃったってこと・・・・・・」
彼女はすまなさそうに私の方をちらりと見ながら、知った理由を話してくれた。


「ヤツさ、『あいつから返り討ちにあった』ってグデングデンに酔っ払って帰ってきてさ。凄かったよぉ」
私はあの日のことだと確信した。
やっぱり、あの日、かずにぃは病院に来たんだ。
そして、私は、かずにぃをトオル君と間違えて傷つけてしまったんだ。

私が、その時のことを思い出していると、リョーコさんがいきなり「ごめんなさい!」と私に手を合わせた。
 
「え?!」
私は何のことだか分からず、「そんな・・・・・・どうしたんですか?」と彼女の手を取った。


「私ね。実はかずぼんのこと好きだったんだぁ・・・・・・」
リョーコさんの突然の告白に、私は驚きのあまりシートから体が浮き上がった。

「で、コクったんだけど・・・、ってゆーか、ユーワクとかもしたんだけど」
リョーコさんは気まずそうに下を俯きながら告白を続けた。

「だけど、全く、全然、ヤツはなびかなくってサ。
結局、これーーーっぽっちも私が入る隙間、無かったんだよね~」
彼女は親指と人差し指で弧を作り、1mmくらいの隙間を開けて淋しそうに笑った。

「本当にハルナちゃんのこと、大切にしてるみたいで、私のキモチなんか、完全にシャットアウトされちゃった」

そんなことがあったんだ・・・・・・。
「かずにぃは何も言わないから、知らなくて・・・・・・」

リョーコさんは、更に落ち込み気味に、「それってさ、言う程の価値もなかったってことなんだよね」と弱々しく笑った。

「いえ!違うと思います。きっと、そうじゃないって思うんです。
それに、私、当初、かずにぃとリョーコさんは付き合っていると言うか、同棲しているって思ってました」

この告白に今度はリョーコさんの方がぽか~んと口を大きく開いて驚いていた。
「あはは。そりゃ、ないよ。
だって、一緒に住んだのは本当に純粋に部屋代のシェアだし、一緒に住み始めた頃から既にヤツの頭の中はハルナちゃん一色だったもん」

私達はお互いの告白に「ふふふ」と笑った。

「実は今でも結構好きだったりするんだけどさ」
彼女の告白に私は少しどきっとした。
「だけどさ。もう絶対振り向いて貰えない訳で、そんなヒトと一緒に住んでるのって、かなりシンドイくなってきたんだよね」

私はリョーコさんの目に薄っすらと浮かぶ涙を見て、胸が痛くなっていた。



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ボランティア

2006年01月18日 21時36分40秒 | 第11章 飛翔編
あの日以来、かずにぃは病室に来なかった。
「今日はレポート提出の最終日だから」と言うことで、退院の迎えにも現われなかった。

私は、看護士さんや先生にお礼を言うと、「家に帰ろう」と言うママに我儘を言って、1人、かずにぃの住むマンションにタクシーを出してもらった。


マンションに着くと、リョーコさんがカチューシャで前髪を上げ、歯を磨きながら迎えてくれた。

「いらっしゃい!ハルナちゃん」
「お久し振りです」
私がぺこりと挨拶をすると、「そんな堅苦しいことはいいから座って」と、笑い、ずずずっと椅子を引いてくれた。

「せっかく来てくれたとこ悪いんだけど、私これから明日の朝まで研究所の実験のお手伝いで出掛けるんだぁ~。
だから後1時間もしたら出なくちゃいけないのよ。ごめんね」
リョーコさんは顔をざぶんざぶんとダイナミックに洗いながら言った。

私は、かずにぃの部屋の方を見ながら、おずおずと尋ねた。
「あの、かずにぃは?」
「あー、かずぼんはね、病院に行ったよぉ~」
「え?!病院って、どうしたんですか?」
リョーコさんは一瞬、キョトンとしたけど、直ぐに手を振りながら、
「あー!あいつはそんなヤワじゃないって。今日は、病院のボランティアの日」
そう言うとケタケタと笑った。
「・・・ボランティア?」
私の訝しげな答えに、リョーコさんは「え?何も聞いてないの?」と驚いていたようだった。

「やばっ!そーいや、私もあいつを尾行して知ったんだった・・・・・・」
「ボランティアって、かずにぃ、何をしてるんですか?」

リョーコさんは気まずそうな顔をすると、腕を組んで「ん~」と考え込んでしまった。
「ま、いっか。どーせ、いつかはバレる!」
リョーコさんは、てきぱきと着替えを済ませると重そうなバッグを持ち上げながら私の方にくるりと振り向いた。

「私の行く研究所もやつの病棟の側にあるから一緒に行ったげる。行こう!!」



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幸せの所在

2006年01月17日 23時02分39秒 | 第11章 飛翔編
ドクンドクンと鳴る心臓の音を抑え込もうと無理に息を吸い込んだ。
呼吸が苦しくなる・・・・・・。

「ハルナちゃん、悪いけど、食事は管理しているからこのケーキは・・・・・・。
ハルナちゃん?!ハルナちゃん、どうしたの?」

ヒューヒューと喉が鳴り、またあの時の苦しみが蘇って来た。
医師と看護士が慌てて部屋に入ってくると、注射の準備を始めた。


「息を長く吐いて」
不意にトオル君の声が聞こえてきた。

「精神安定剤で止めることも出来るけど、君だったら自力で頑張れるよ。
ゆっくり、ゆっくり呼吸するんだ」
「出来ない!無理だよ」
「ちょっとずつ頑張っていこうよ」
「苦しい、やっぱり無理!
トオル君はなったことが無いからそんな気楽なこと、言えるんだよ!!」

布団を握り締める手に涙がこぼれ落ちた。

私は医師の注射を拒否すると、背筋を伸ばし、すぅっと息をゆっくり吐いた。

頑張ってみよう・・・・・・。
今まで、トオル君に頼りっぱなしだったけど、もう彼はいないんだもの・・・・・・。
私は私を頑張らなきゃいけないんだ・・・・・・。


何時間も吸ったり吐いたりばかりに集中して繰り返しているような気がした。
「もう、いいだろう。注射を打つよ」
側に控えていた医師が看護士に目配せをした。

「ま・・・・・・って、く・・・ださ・・・い」
私は喉を抑えながら、首を必死になって振った。

目の前が真っ暗だったのが、微かに、医師達の顔が見えるようになってきた。
そして、咳き込みながらも、徐々に荒々しかった呼吸も穏やかになってきた。

まだ、肩で息をしているけど、出来たよ!トオル君。
私、頑張って自分で抑えたよ・・・・・・。

私は込み上げてくる涙を拭き、顔を上げた。


やっぱり、さっきはトオル君が来たのかもしれない。
ふと、そんな不思議な感覚に囚われていた。


私はさっきかずにぃをトオル君だと思って抱きしめ、受け入れた。
きっと、傷付けた。

いつもそう・・・・・・。
私の弱さはトオル君も、かずにぃも傷付けてきた。

私は自分が幸せになりたくて、二人に幸せにして欲しくて・・・・・・、そればかり追い駆けて、結局、誰も幸せにならなかった。


今はどうやって生きていったら良いのか、それすらも見えないけど私はトオル君にもう一度会った時、胸を張って「私、頑張ったよ」って言えるような生き方をしよう・・・・・・そう思った。




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白昼夢

2006年01月17日 01時37分12秒 | 第11章 飛翔編
翌朝、医師の回診の時間が終ると看護士さんに頼んで部屋の窓をちょっと開けて貰った。
1月にしてはポカポカ暖かい陽差しが部屋の中をぱぁっと明るくし、ベッドの白いシーツをほんわりと温めてくれる。

「具合はいかがですか?」
看護士さんがカーテンをシャーシャーっと勢い良く開けながら私に笑い掛けた。
「昨日より、いいみたいです」
私は目だけを動かしながら、看護士さんの動きを追った。

「しばらくはおトイレに行く以外はじっと横になって、安静にして下さいね」
「・・・・・・はい」
「それにしても、ハルナちゃん・・・・・・旦那様、ステキで羨ましいわぁ~」
「え?」

何のこと言っているのか分かりかねて私は心の中で
(旦那様って、かっこいいって、かずにぃのこと??)
と首を傾げていた。

「すっごいハンサムな上に、ハルナちゃんのこと、とても大切にしているじゃない?
うちの旦那なんて、もう禿げちゃって、太っちゃって・・・・・・。
それに比べて、ハルナちゃんの旦那様は『かっこいいし、ステキ!』ってナースステーションでは、みんなで盛り上がってるんだから」

・・・・・・かっこいいのかぁ。
身近に居過ぎて分からないのかもしれない・・・・・・。



お昼を過ぎた頃になると、昨日の疲れからか、暖かな陽射しの中でウトウトし始めていた。

気付くと辺りは眩いばかりの光に包まれていて、ベッドの側にはトオル君が立っていた。
私は驚きのあまり声が出なくて、ただ泣きながら彼にしがみ付いた。

彼の熱いキスを受け入れ、夢中になって彼を抱きしめた。


トオル君も私を包むように抱きしめてくれた。
それから、ゆっくりと首筋に愛撫しながら、やがて、私の胸を弄り、唇で吸い始めた。

「あ・・・・・・」
堪えきれず、吐息が洩れる・・・・・・。
私は、彼の髪をくしゃくしゃにしながら抱きしめた。
「トオル君・・・・・・トオル君・・・・・・愛してる。私、・・・待ってたんだよ」

私が、そう言うと、トオル君は一瞬その手を止め、光の中に走り去っていった。

「トオル君!待って!!嫌だ!!行っちゃ嫌!!!」

泣きながら目が覚めると、どんより曇った空が見えた。
今にも雨が降りそうな冷たい風が部屋の中にさぁっと吹き込んできた。

「・・・・・・夢・・・だったの」
ほぉぅっとため息を吐いていた。

それでもいい、夢の中でも会えたんだったら、それだけでも嬉しかった・・・・・・。
私は、彼から貰ったペンダントを握り締めてキスをした。



「あらあら、風が強くなってきたわね」
午後の検温に来た看護士さんが窓を締めようとした時、「あら?」っとテーブルの上を見た。

そして、「ハルナちゃん、これは?食べ物の持込はダメよ!」と白い箱を持ち上げた。

私は、胸がドクンと鳴るのを感じた。

「す、すみません。その箱、開けてもらっていいですか?」
「いいけど??」

看護士さんは、箱を開けると、「まぁ、おいしそう!」と笑いながら、チョコレートケーキを見せてくれた。



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忘れられないヒト

2006年01月16日 22時51分30秒 | 第11章 飛翔編
ママは興奮しているおばさんを宥めると、私に「また明日来るから」とだけ言って、おばさんの背中に手を添え、支えるように病室を後にした。


「今日は色々あったな」
かずにぃは赤く腫れた両頬を擦りながら、私を見つめると、お腹に手を這わせ、唇を当てた。
私がびくっと反応すると、「・・・何にもしねーよ」と愚痴った。

「おーい、ちびすけ。明日も来るからな。元気に育てよぉ」
「・・・・・・まだ、聞こえないよ」

私が呆れ顔で笑っていると、かずにぃは私の頬に両手をあてがいちょこんとキスをした。

「明日も来るから、安静にしてるよーに。暫くは寝たっきりだからな」と、釘を差して部屋を後にした。



かずにぃも言った通り、本当に今日は色々なことがあった。

私は、15歳と言う年齢を理由にかずにぃのプロポーズをウヤムヤにしてしまったけど、それだけが理由じゃないこと、かずにぃのことだからきっと気付いてる・・・・・・。

かずにぃの赤ちゃんがお腹の中にいるんだから、産むんだったら、かずにぃと結婚して一緒に育てるのが一番良いんだって、正しいんだって分かってる。


だけど・・・・・・
胸が張り裂けそうな位、私が愛している人は、
側にいて欲しいと喉が枯れるくらい叫び、欲している人は、
遠くアメリカで、私が彼を待っていることを信じてる・・・・・・。


私はトオル君を追ってあの歩道橋を走った。
全てを忘れて、彼を追って必死で走った。
だけど、この想いは彼に届かなかったんだ。


「もう、トオル君の側に行けない・・・・・・。行けなくなっちゃったよぉ・・・・・・」
お布団を被って泣いている私の胸元にトオル君から貰った星のペンダントヘッドが滑り落ちてきた。

ペンダントを見ながら、あの時のトオル君の言葉を思い出していた。



「それは天使の涙なんだって。
もし、君につらいことがあったら、その天使が君の代わりに涙を流して、そのつらい気持ちを浄化してくれるそうだよ」


彼から貰ったペンダントを握り締めながら私は泣きじゃくっていた。
もし、このペンダントにそんな不思議な力があるなら、トオル君を忘れさせて下さい。
トオル君と過ごした幸せで残酷な想い出達は、今の私にはつら過ぎる。

「お願い・・・・・・。私の全ての記憶から彼を消し去って・・・・・・」




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病室の訪問者

2006年01月16日 21時24分15秒 | 第11章 飛翔編
「え?!お前、誕生日ってオレと同じ9月じゃなかったっけ?」

私は首を横に振ると、人差し指、中指、薬指をそろ~りと3本立てた。

「3月だぁ~???なんだよ。それ?オレ、てっきり今までお前は9月だって思ってたぞ!!」
「えっとね。私がママに『かずにぃと一緒のお誕生日にしなきゃ嫌だ!!』って駄々こねたから、毎年、一緒の日に祝ってくれてたの」

かずにぃは後頭部に手を当てると、「・・・なんじゃそりゃ」と呆れた。

「しょーがないでしょ。まだ、3歳かそれ位の話だもん!
それから、毎年律儀にその時にお祝いしてくれるママもどうかと思うけど・・・・・・」

かずにぃは「オレ、15歳のガキに手出したのかよぉ~」とトホホな声を出していた。
「・・・16歳でもあんまり変わんないと思うんだけど・・・・・・」
私の意見にかずにぃは更に打ちのめされた様で「・・・だな」と力無く言った。



「あ。でもね、後日談があってね」
「・・・・・・まだ、なんかあんのかよ」
かずにぃは目を皿のようにしながら、「早く言えよ」と促した。

「私の5歳の誕生日をかずにぃと一緒にした時ね、私が先にロウソクの火を吹き消したのが気に食わないって、かずにぃってば、また火を点けて、唾を『ぶぶぶっ』って吹き飛ばしながら消したんだよ・・・・・・」

かずにぃは思い出したみたいで、「あ~、あれ。げっ。もしかして、根に持ってんのか」と小さな声で聞き返してきた。

「・・・・・・持ってる。周りのチョコレートの部分は、ぜーーーーーんぶかずにぃが食べて、私はスポンジしか食べられなかったんだもん」
私は恨めしそうにかずにぃを睨んだ。

すると、かずにぃはポン!と、かしわ手を打つと、

「おー!そういや、あん時以来、一緒に祝ってないなぁ!」

と、大声で笑った後、私の膨れっ面に恐縮したのか「ごめんなさい」と頭を垂れた。






その時、カツカツカツと廊下を足早に歩く複数の足音が聞こえ、私の病室の前で止ったかと思うと、ガラッと戸が開いた。

「ママ!!」
「オフクロ!?」

おばさんは脱兎の如く、部屋に入ると、「こぉんのぉ~!!バカ息子!!」と、
病院中に響き渡るような大声と共にかずにぃに掴み掛かった(母子だなぁ・・・・・・)。
そして、次の瞬間、かずにぃの胸倉を掴み、往復ビンタを連打した。


「よっちゃん、止めて!ハルナにも非があるんだから・・・・・・」
ママが、慌てておばさんの手にしがみ付き、動きを制した。

おばさんは肩でゼーハー、ゼーハー、息をしながら、私の手を取ると号泣した。

「ごめんなさいね!ハルナちゃん!うちのバカタレ息子がぁ!!」

そう言うと、唇を噛み締めながら私を強く抱きしめた。




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突然のプロポーズ

2006年01月15日 21時51分35秒 | 第11章 飛翔編
目覚めるとかずにぃが私の手を握っていた。
「かずにぃ・・・、どしてここに・・・・・・?」

かずにぃは肩を怒らせながら、深く息を吸い込むと、病院全体に響きそうな大声で私を叱り飛ばした。

「ばっかやろぉー!!一緒に行くっつっただろーが!!何、勝手に1人で行ってんだよ!!」
「だって・・・・・・」
「だって、じゃねー!!」
「悪いと思ったんだもん」
「お前1人の問題じゃない!アカンボはオレの子でもあるんだぞ!!!」

かずにぃは、「はぁーーーっ!!」と息を吐き出すと、「以上、言いたいこと終了」とパイプ椅子にどっかりと腰を下ろした。

「まぁ、オレが怒れた義理じゃないけどさ。99.9%オレが悪いんだし・・・・・・」

99.9%・・・・・・???

「残りの0.1%って?私??」
「そ!思わず抱きたくなっちまうくらい可愛いのがいけない!」

かずにぃは真っ赤になって横を向いた。

「どーゆー理屈なの?それって・・・」私はぷっと吹き出した後に、はっとなりお腹を押さえた。
「あ!赤ちゃん!!赤ちゃんは?」
「・・・・・・大丈夫だよ。ちゃんとまだお前のお腹ン中でぐっすり眠ってるよ」

私は溢れる涙を押さえきれず、「良かった。赤ちゃん、生きてるんだね」とお腹を擦りながら安堵した。
「お前、救急車の中でも、赤ちゃんを助けてくれって言ったんだってな」
「・・・・・・うん」
「産むのか?」
「・・・・・・ごめんね」
「謝んなよ。オレはぶちゃけ、うれしーし。産んでよ」

私はこくんと頷いた。
「やた!ホント!?うっわー」
かずにぃは私が今まで見てきた中で、最高に幸せそうな笑顔で飛び上がった。

「オレ、アカンボのオムツとか交換するし!」
「え?無理だよ。かずにぃ短気だもん」
「何言ってんだよ!オレは(オフクロの命令で)お前のオムツだって替えたことがあるんだぜ!」
私は真っ赤になりながら、
「いや!かずにぃ、それ時効だから・・・」
と、顔を手で覆った。



「あ、いけね!その前に・・・・・・」
かずにぃは私の手を取ると、急に真顔になって、コホンとひとつ咳をした。

「ハルナ、オレはまだ学生の身でさ、半人前だけど、オレの全てを賭けてお前達を守るから、だから、その、・・・・・・結婚して下さい!」

私は突然のプロポーズに、心臓が止りそうなくらい驚いた。

「返事は?ハルナ??」
「結婚・・・?」
「うん」
「今?すぐ?」
「そう、だよ?いやか??」
私はちょっと首を横に振った。
「じゃぁ、OK?」
私は強く首を横に振った。
「どっちなんだよ・・・・・・」
かずにぃはちょっとむくれ気味だった。

「今すぐ、結婚なんて、無理」
かずにぃは落胆の色を浮かべ、肩をがっくりと落とした。
「どうしても・・・・・・、ダメなのか?」

私は、項垂れたかずにぃの手をそっと握り締めると、しょうがないなぁと溜息を吐いて、
「・・・・・・だって、私、まだ15歳だもん・・・・・・」
と、返事をした。




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薄れゆく意識の中で・・・

2006年01月15日 15時57分25秒 | 第11章 飛翔編
翌朝、私はある決意をして家を出た。

「かずにぃ、ごめんなさい。病院へは1人で行ってきます」
それだけ打つとメールを送信した。

産んで欲しいというかずにぃにこんなつらい手術に立ち会わせるわけには行かないと思った。

昨日の夜、少し前に中絶の手術をしたトモに電話をした。

「トモ、私もね、妊娠してたんだ」
トモは絶句した。
「ハルナ、大丈夫?このこと、トオル君は知ってるの?」
「ううん。知らない」
「何で!父親として当然知っておくべきじゃ・・・」
「違うの。トオル君じゃないの」
「え!?」

トモに今までの経緯を初めて話した。
彼女は泣きながら、電話口で「そんな・・・・・・」と言うと言葉を詰まらせた。

「明日、1人で行って手術してくる」
「は?!カズトさんは?」
「・・・教えないで行く」
「それって、カズトさん傷付くんじゃない?」
「かもしれない。けど・・・・・・かずにぃのつらい顔、見るの私もつらいし」
「・・・そっか。・・・一緒に行こうか?」
「ううん。1人で行くから・・・・・・。だから、いいよ」

私は、初めてお腹の赤ちゃんに話し掛けた。
「ごめんね。産んであげられなくて、ホントにごめんね」
ポロポロ溢れる涙を押さえながら、マフラーを首に巻いた。


駅の近くの歩道橋を上ろうとした時、反対側の道路に金髪の男の人が歩いているのが見えた。
その背格好にハッとなり、私は無我夢中で、歩道橋を駆け上がっていた。


「トオル君!!待って!トオル君!!!」

強い向かい風に煽られて、マフラーがするりと首から落ちて歩道橋の下を走る車の上に落ちていく。

「トオル君!!行かないで!!待って!!!トオル君!!!」

私の声にその男の人は振り向いた。
・・・違う。
トオル君じゃない・・・・・・
トオル君じゃない・・・・・・

私は掴んでいた歩道橋の手すりから手を離しバランスを失うと、そのまま歩道橋の下へと転がるように滑り落ちていた。

歩道を歩く人が、「大丈夫か?」「まぁ、あなた大丈夫?」
と、口々に言いながら辺りに人垣の層を作っていった。

立ち上がろうとして、下腹部に激痛が走った。
足を伝って温かな鮮血がポタポタと落ちてきた。

「キャーーーー!!!」

私は、その場に崩れ落ちると、夢中で叫んでいた。
「誰か!誰か!!お願い!救急車を呼んで下さい!!」

心配そうに近寄ってきたおばさんの腕を掴むと、私は薄れゆく意識の中で泣き叫んでいた。
「赤ちゃんがいるんです!お腹に赤ちゃんが!!
私の赤ちゃん、死んじゃう!誰か・・・誰か助けて下さい!!」




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二人の決断

2006年01月15日 11時48分42秒 | 第11章 飛翔編
病院に着くと私は診察台に上がり、内診を受けていた。

あれほど嫌がっていた診察台にもすんなりと乗ることが出来たのは、かずにぃのお蔭かもしれない。
診察が終ってから私が行くまでの間、先生と向かい合って真剣に話していてくれた・・・・・・。

「お父さんですか?」
「はい」
「お子さんですが、今、11週と2日目。つまり妊娠3ヶ月に入っていますね」

服を着てカーテンを開けると私はかずにぃと並んで医師の前に座った。
「・・・・・・そして、残念ながら、もし、中絶を望まれるのでした母体への影響を考えて、12週前までをお奨めします。
中絶は22週までは出来ますが、母体への負担も徐々に大きくなりますし、中絶の方法も変わります。
13週目以降は人工的に流産と言う手段を・・・・・・」

私は呆然と医師の言葉をまるで他人事のように聞いていた。
かずにぃは「はい・・・」「そうですか・・・」と真剣な目で医師の話を聞いていた。

「妻と良く話し合ってみます」
「そうして下さい」

かずにぃに肩を抱かれて診察室を後にした。
かずにぃは何も言わない。
ただ黙って、受付前に整列する椅子のひとつに私を座らせた。

休日診療だったから、全ての電気は消され、唯一非常灯と自動販売機の灯りがぼんやりと辺りを照らしていた。
「何か飲むか?」
私は頷き、「コーヒー・・・」と言い掛けて、赤ちゃんに悪いかもと思い直し、「ミネラルウォーター」をお願いした。

かずにぃは私の隣りに腰を下ろすと、暫く黙って前を見つめてから聞きにくそうに尋ねた。

「ハルナはどうしたい」
「・・・産みたくない」
「そうか」
「・・・・・・かずにぃは?」
「産んで欲しいよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・手術ン時は、オレも立ち会うよ。いいか?」
私は黙って頷いた。

医師は11週と2日目だと言っていた。
負担の少ない中絶を望むなら、後5日も猶予が無いことになる・・・・・・。

かずにぃはおもむろに立ち上がると、「行こうか」と微笑みながら、私の手を取り抱き上げた。

「え?!いいよ。ちゃんともう歩けるし」
「例え、後4、5日だとしてもさ、父親らしいことさせてくれよ。
ほんじゃ、奥さんアーンドベビー、行っても宜しいでしょうか?」

私は泣き笑いしながら、「・・・・・・うん」と答えた。



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