井伏鱒二が永井龍男と対談したCDのことをちょっと書いてみます。
これは昭和三十三年五月二十八日にNHKで放送されたもので、収録時間は十三分です。
CDでタイトルは対談となっていますが、井伏に永井がインタビューというスタイルになっています。
井伏が文壇将棋大会で優勝したお話から話が始まりました。
「勝負事や笑わすことが嫌いでしょ。勝負事が嫌いなのにどうして将棋だけはするの」と永井が聞きます。
「他のものは弱いから。将棋しか知らないから」と井伏。
「画家を目指していたんでしょ?今も絵を描いているみたいだね。モデルを使ったりして描いてるの」と永井。
「うん、モデルを使ったり写生に行ったりしている。職業を持って絵を描いている仲間もいる。中学卒業後に画家を目指して、人を介して日本画家、橋本関雪に弟子入りを頼んだが、見込みがないと断られて挫折してしまった。
けれども、今また絵を描いている」
大晦日に盲腸で入院したがあれは痛すぎる。
お酒を飲むので全身麻酔で手術をしたが、
盲腸なんて手術じゃないというけれど、あれは痛すぎる。
痛くなければどんなに不幸せでもいいと思った(笑)
「『集金旅行』『本日休診』『駅前旅館』の映画化があるが、『駅前旅館』は何をヒントにしたの?」
上野駅前で旅館の呼び込みをしている人がいた。
呼び込みの仕事もなくなってきているのをみて取材し、滅びる人を書いた。
「小説を書いて笑ったりすることはない?」
それはない。笑ったり涙が出たりすることはない。
泣いたり笑ったり胸がゴットンゴットンしたりすることはない。
ゴットンゴットン胸がときめいたりしたらいいんだろうけど、ちっともそんなことがない。
これがヤマメなんか五、六匹釣ったらゴットンゴットンするんだけれど(笑)
この二人の作家は将棋仲間、釣り仲間でもあるようです。
釣りのお話がでますが、
井伏は神経痛があるから行かなくなったと言っています。
五十を過ぎると腰まで水に浸かるのは体が堪えられない。
飛行機も嫌いで、旅行は国内だけだそうです。
もう少し細かいお話があったのですが、省略しています。
対談はもう少しあったようですが収録されていたのはここまででした。
添付されていた解説文
独自の文学世界を築いた二人の軽妙洒脱な語らいは、限られた録音時間の中でさえ、一つ一つの話題が短編小説のような趣で聞こえてくる。