三人は、古い街道の並木道を歩き始めた。
すぐに、向こうから知り合いが近づいてきた。タカシ兄さんだ。鼻歌まじりで自転車をゆっくりこいでいる。
「おう、幸ちゃんと久ちゃん。どこへ行くんだい?」
「隣村のお祭り」
「へえ、あんな所まで歩くつもり? 大丈夫か?」
「ええ」
「お祭りには、ヘンな大人も来ているから気をつけなよ」
母と同じことを言い残して、タカシ兄さんは去っていった。
久子は、バスで隣村を通ったことは何度かあるが、歩いていくのは始めてである。大冒険だ。ついつい周囲に見とれて歩みがのろくなってしまい、そのたびに、幸子から注意される。幸子とミキは、そんなにのろのろするなら置いてきぼりにすると久子を脅かした。
その神社までの行き方を知っているのはミキだけである。ミキは、着くまで一時間以上はかかると言っていた。
しばらくすると、並木が途絶え、強い日光の下に出る。道は広くなったが、その分歩道が狭まり歩きにくくなる。さらに行くと、歩道さえも消え、雑草の生えた路肩を歩いていかなければならない。通り過ぎる車も少なくなる。周囲の家もまばらになると、目の前の空間が広がり、畑の向こうの集落や雑木林が見通せるようになる。
「暑い暑い」
だらだらした長い上り坂となる。もう日を遮るものは何もない。三人とも押し黙り、手のひらで首の下の汗をぬぐいながら坂道を登っていく。道の横に並ぶビニールハウスも栄養ドリンクの立て看板も、熱を発しているように思えた。
ようやくたどり着いた峠で、道は二つに分かれていた。
「あ、ここよ、二股地蔵」とミキが言った。「ここから道に行けば、あとは下り坂で楽なんだ」
峠の分かれ道のちょうど分岐点のところに、地蔵の祠がある。
まるで、通行人に、右に行くべきか左がよいか、教えているような位置取りだ。
小堂は相当に古いものらしく、板が黒く変色し、一部は腐っているように見える。供えられた花も水分を失って萎れている。祠の背後は土手になっており、雑草が伸び放題だ。
すぐに、向こうから知り合いが近づいてきた。タカシ兄さんだ。鼻歌まじりで自転車をゆっくりこいでいる。
「おう、幸ちゃんと久ちゃん。どこへ行くんだい?」
「隣村のお祭り」
「へえ、あんな所まで歩くつもり? 大丈夫か?」
「ええ」
「お祭りには、ヘンな大人も来ているから気をつけなよ」
母と同じことを言い残して、タカシ兄さんは去っていった。
久子は、バスで隣村を通ったことは何度かあるが、歩いていくのは始めてである。大冒険だ。ついつい周囲に見とれて歩みがのろくなってしまい、そのたびに、幸子から注意される。幸子とミキは、そんなにのろのろするなら置いてきぼりにすると久子を脅かした。
その神社までの行き方を知っているのはミキだけである。ミキは、着くまで一時間以上はかかると言っていた。
しばらくすると、並木が途絶え、強い日光の下に出る。道は広くなったが、その分歩道が狭まり歩きにくくなる。さらに行くと、歩道さえも消え、雑草の生えた路肩を歩いていかなければならない。通り過ぎる車も少なくなる。周囲の家もまばらになると、目の前の空間が広がり、畑の向こうの集落や雑木林が見通せるようになる。
「暑い暑い」
だらだらした長い上り坂となる。もう日を遮るものは何もない。三人とも押し黙り、手のひらで首の下の汗をぬぐいながら坂道を登っていく。道の横に並ぶビニールハウスも栄養ドリンクの立て看板も、熱を発しているように思えた。
ようやくたどり着いた峠で、道は二つに分かれていた。
「あ、ここよ、二股地蔵」とミキが言った。「ここから道に行けば、あとは下り坂で楽なんだ」
峠の分かれ道のちょうど分岐点のところに、地蔵の祠がある。
まるで、通行人に、右に行くべきか左がよいか、教えているような位置取りだ。
小堂は相当に古いものらしく、板が黒く変色し、一部は腐っているように見える。供えられた花も水分を失って萎れている。祠の背後は土手になっており、雑草が伸び放題だ。
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