キノコの家

子供の頃、何時も遊びに来ていた公園。
久しぶりに来た。

このキノコの屋根があるベンチは、秘密基地みたいで大好きだった。
木々に囲まれたこの場所は今も昔も変わらない。
あの頃一人で座り、何時間も空想にふけっていた。
頭の中で描く自分は、世界一幸せな女の子だった。

数十年時を経て、何とも重苦しい気持ちを抱えた自分が、再びここを訪れるとは、想像できなかった。

人生なんてこんなもんさ。

今はもう、見知らぬ他人が住んでいる実家の前を緊張しながら通り過ぎた。

13年前母が倒れ、介護が必要になった時、私の手を握り「助けて、、」とすがって来た。
私はその手を振りほどき、母を睨みつけた。
弱った母を前に途方に暮れる父。
その父をけしかけ、実家を処分し、2人を有料老人ホームに入れた。
老いた両親の介護から逃れたい、その一心だった。

何をあれほど焦っていたのだろう。

荷物を整理し最後、実家を去る時、強烈な喪失感に襲われた。
「この家に良い思い出など何も無い」
そう思っていたのに、、、。

もう直ぐ母が死んで一年になる。
きっとそんな思いが、私を感傷的にしているんだ。
体の痛みがいつまでも続くから、弱気になっているんだ。

いくつもの言い訳だけが、冷たく乾いた空気の中、こだまの様に響いている。