古い写真がある。
どてらを着た若い男が2人、雑木林の中、立っている。
頬がこけ、目が落ち窪んでいる。それでも2人はかすかな笑みを浮かべている。
60年近く前、父が東京清瀬市にあった「結核療養所」に入所していた頃の写真だ。
写真の裏には父の字で「療養所にて」と書かれている。
万年筆で書かれたであろうその字も、消えかけている。
父から直接話を聞いた事は無い。父は自分を語らなかった。
父が亡くなり3年。
先日、その場所を訪ねた。
都心に近い住宅地として開発・発展し、駅周辺に面影は無い。
バスに乗り10分もすると、近代的病院、リハビリ施設、看護学校、老人ホームなどが点在し、その施設内に雑木林が広がっていた。
いくつか教会があった。
60年前、、、ここは完全に社会から隔離された場所だっただろう。
風に揺れる木々のざわめき。からすの鳴き声が怖いほど近くに聞こえる。
雑木林の中を歩き、木に触れてみた。
私には越えられない時空の壁を、木は年輪の記憶の中に留めている。
何も感じない。私には何も感じる事が出来ない。
私が、あの時の父の思いを知る事はもう出来ない。
それでもここに来てみたかった。この場所に立ってみたかった。
少し感傷的になり過ぎたかな、、、笑ってしまった。
写真の中で微笑んでいる父も、今の私と同じような気持ちだったのかもしれない。
「どてら」(東部方言)綿を厚く入れた衣服。そでが広くて、着物より大きめ。丹前。→新明解国語辞典より。
どてらを着た若い男が2人、雑木林の中、立っている。
頬がこけ、目が落ち窪んでいる。それでも2人はかすかな笑みを浮かべている。
60年近く前、父が東京清瀬市にあった「結核療養所」に入所していた頃の写真だ。
写真の裏には父の字で「療養所にて」と書かれている。
万年筆で書かれたであろうその字も、消えかけている。
父から直接話を聞いた事は無い。父は自分を語らなかった。
父が亡くなり3年。
先日、その場所を訪ねた。
都心に近い住宅地として開発・発展し、駅周辺に面影は無い。
バスに乗り10分もすると、近代的病院、リハビリ施設、看護学校、老人ホームなどが点在し、その施設内に雑木林が広がっていた。
いくつか教会があった。
60年前、、、ここは完全に社会から隔離された場所だっただろう。
風に揺れる木々のざわめき。からすの鳴き声が怖いほど近くに聞こえる。
雑木林の中を歩き、木に触れてみた。
私には越えられない時空の壁を、木は年輪の記憶の中に留めている。
何も感じない。私には何も感じる事が出来ない。
私が、あの時の父の思いを知る事はもう出来ない。
それでもここに来てみたかった。この場所に立ってみたかった。
少し感傷的になり過ぎたかな、、、笑ってしまった。
写真の中で微笑んでいる父も、今の私と同じような気持ちだったのかもしれない。
「どてら」(東部方言)綿を厚く入れた衣服。そでが広くて、着物より大きめ。丹前。→新明解国語辞典より。