身も心も

病気の事。ヨガやアロマの事。日々の事。好きなもの。

雑木林

2012-06-03 19:44:45 | 日記
古い写真がある。

どてらを着た若い男が2人、雑木林の中、立っている。
頬がこけ、目が落ち窪んでいる。それでも2人はかすかな笑みを浮かべている。

60年近く前、父が東京清瀬市にあった「結核療養所」に入所していた頃の写真だ。
写真の裏には父の字で「療養所にて」と書かれている。
万年筆で書かれたであろうその字も、消えかけている。

父から直接話を聞いた事は無い。父は自分を語らなかった。

父が亡くなり3年。

先日、その場所を訪ねた。

都心に近い住宅地として開発・発展し、駅周辺に面影は無い。
バスに乗り10分もすると、近代的病院、リハビリ施設、看護学校、老人ホームなどが点在し、その施設内に雑木林が広がっていた。
いくつか教会があった。

60年前、、、ここは完全に社会から隔離された場所だっただろう。
風に揺れる木々のざわめき。からすの鳴き声が怖いほど近くに聞こえる。

雑木林の中を歩き、木に触れてみた。
私には越えられない時空の壁を、木は年輪の記憶の中に留めている。

何も感じない。私には何も感じる事が出来ない。

私が、あの時の父の思いを知る事はもう出来ない。

それでもここに来てみたかった。この場所に立ってみたかった。

少し感傷的になり過ぎたかな、、、笑ってしまった。
写真の中で微笑んでいる父も、今の私と同じような気持ちだったのかもしれない。


「どてら」(東部方言)綿を厚く入れた衣服。そでが広くて、着物より大きめ。丹前。→新明解国語辞典より。

















コメント
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