ニュージーランド移住記録「西蘭花通信」

人生の折り返しで選んだ地はニュージーランドでした

空中生活

2002-03-18 | 香港生活
「ママ、ツチってお砂のこと?」
長男の温がまだ3歳ぐらいだった時、絵本の中に土が出てきて、それが何かを説明するのに四苦八苦したことがあります。香港は海に囲まれているので砂はすぐにわかるのですが、問題は「土」です。
「え~っと。土って、地面のことで、そこからお花が生えてきたり、お家がその上に建っていたり・・・」
と言ってみても、息子の疑問は膨らむばかり。

彼は香港生まれの香港育ちで、生まれつきコンクリートジャングルの中で暮らしています。なので花は切花か造花(おまけにうちは猫が倒してしまうので、そのどちらもありません)、家と言えば下から見上げたら何階あるのか想像もつかないような超高層マンションの一戸のことになります。庭がある土の上に建つ一軒家は、絵本の中に出てくるか、日本のおじいちゃんとおばあちゃんが住んでいる、「階段のついているお家(二階家のこと)」ぐらいしか知らないのです。

香港にも戸建の家があるにはありますが、この狭い土地ではそれは大金持ちだけに許された特権で、最低でも数億単位のお金を用意しなければ買えません(本当にその高さといったら日本の一等地どころではありません)。そのため戸建の家は必然的にお屋敷のような作りになり、警備が厳重で中が見えない高い塀と防犯カメラに囲まれたような家ばかりです。生垣の間から庭がのぞけるような状態にでもしておこうものなら、あっという間に泥棒に入られてしまいます。

マンションも1階は玄関と駐車場の入り口という殺風景さで、プールやテニスコートがあっても庭に相当するものはほとんどなく、実用一点張りかつメンテナンスがラクな造りになっています。公園ですら同じで、初めはびっくりしましたがバスケットコートもサッカーコートもコンクリ張りなのです!これだったら雨が降ってもぐちゃぐちゃにはなりませんが、転んだ時の痛さや走り回る時の不快感は想像を絶するものがあります。

万事がこの調子なので小学校の校庭がコンクリでも驚くには当たりません。花壇があったりウサギ小屋があったりという、日本の小学校ならどこでも見られそうな光景にお目にかかることはほとんどなく、通学時間ともなれば校庭にスクールバスが何十台も並び、一見観光地の駐車場のような眺めになります。効率性と安全面から香港には子どもを歩いて通学させる習慣がなく、家族が送り迎えをしない限りスクールバスのお世話になるので、毎日こうした光景が繰り広げられます。

そのため地面に花が植わっているのを見るのは、公園の植え込みや高速道路の中央分離帯といった非日常的な場所になってしまい、親子でしゃがみこんで「ほら、これが土よ」などと、呑気に会話が交わせるような場所ではありません。街路樹ですら歩道の面積を目一杯広げるために、根元のぎりぎりまでコンクリが流しこまれ、幹の周りからかろうじて丸く土がのぞいている程度で、雨が降っても水がしみこむ余地すら残っていないのです。それでも南国の木は強いのか、太陽を燦々と浴びるせいなのか首を絞められているような状態でも、大きな枝を一生懸命広げわずかながらでも歩道に木陰を作ってくれます。

最近のマンションは50~60階建てなどというものが出てきて、「地に足が着いた生活」とは真反対の「空中生活」が珍しくなくなってきました。
「自宅が46階、オフィスが34階、1日のほとんどを高度100メートル以上のところで過ごす」
ということが現実の話なのです。しかもオフィスもマンションも高度に合わせて値段も上がっていきます。同じ間取りでも少しでも眺めがいい方に人はお金を払うのです。つまり香港では風景も有料なのです。

NZ旅行中にキウイの人たちがあまりにも気持ちよさそうに裸足で歩いているのを見て、私たちも公園やスーパーマーケットで何度か裸足になりました。でも手に靴を持ったままのかなり情けない格好で、これには自分でも笑ってしまいました。彼らのように最初から靴を持たないで家や車を出るようにならないと、裸足が板につかないでしょう。温泉地ロトルアの土の温かさ、オークランドのワンツリーヒルの帰り道でかいだ雨上がりの土の匂い。子どもの頃の記憶が呼び覚まされるようでした。

空の上での暮らしから土の上での暮らしへ・・・
それはもう憧れとか夢とかいうものではなく、乾いた魂が一杯の水を欲しがっているようなものなのです。


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「マヨネーズ」
「よ~し、土がわかんないんだったら見せてやろう!」
と、去年はユンロンという中国との境の山が間近に迫るような郊外に、一坪の畑を借りてトマトやほうれん草を作りました。鍬で土を耕したり収穫したり、余ったクズ野菜をヤギにあげたりで、子どもたちは大喜び。

「こんなお金を払うくらいなら、野菜を買ったほうが安いのでは・・・」
と言いながらも、夫はせっせとドライバーをかって出てくれました。畑から収穫したばかりの、一度も冷蔵庫に入っていない野菜のサラダは、生きているのを感じるほのかなぬくもりが残るものでした。もちろん、その美味しさは言うまでもありません。お陰で子どもの青菜嫌いが一気に解消したほどです。

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