ニュージーランド移住記録「西蘭花通信」

人生の折り返しで選んだ地はニュージーランドでした

癒しのビクトリアピーク

2002-08-10 | 香港生活
「香港でどこが一番好き?」
と聞かれたら答えは迷わず、
「ピーク」

地元でピークと呼ばれているのはビクトリアピークのことで、有名なピークトラムに乗って百万ドルの夜景を見に行く山頂です。我が家では土曜日の朝、ピークのトラム駅の真上にあるカフェに出かけることがあります。大人はソファで寛ぎながらコーヒー片手に新聞を読み、子どもたちはおもちゃのある一角や無料のパソコンで遊びながら午前中の一時を過ごすのです。香港に10年近くもいると休日のブランチは、飲茶よりもこんな所でのんびりする方が性に合ってくるようです。


窓の外は大概、水蒸気とスモッグが混じってぼんやりしていますが、それでも中国と陸続きの九龍半島の端の方まで見渡せ、夜景だけでなく朝の景色もなかなかいいものです。埋め立てで年々狭くなっている香港島と九龍の間のビクトリアハーバーはまるで河のようですが、行き交う船の大きさで海だということがわかります。狭くなった分、潮の流れが速くなり、水をお金に例える風水では運気が弱くなりつつあることになるそうですが、この一片の海の価値はまだまだ測り知れません。世界随一のコンテナヤードのあるクァイチョン港もこの一角に位置し、中国本土や世界中から運ばれてくる大量の物資が荷揚げされます。それが陸路や海路でそれぞれの仕向け先に運ばれており、現在のシルクロードの玄関口の一つはいまだに健在です。

香港人以外には、にわかには信じられないことでしょうが、香港では家から海を眺めることにお金を払っています。「そんなバカな…」と思われるかもしれませんが本当です。賃貸でも売買でも、広東語で「海景」と呼ばれる海が見える物件は、見えない同じ条件の物件より値段が高いのです。海が見えるくらいだから見晴らしが良い訳で、この狭苦しい香港でそれに価値があっても不思議ではないでしょう。しかし、海といっても香港島南側のリゾート風超高級住宅地か、立地条件の悪いかなり端の方に行かない限り水平線が見えるような物件ではなく、マリン気分など微塵もありません。

それでもみんなが「海景」にこだわるのはその開放感だけでなく、風水対策も大いにあるからです。生活の中で金儲けの意義がことのほか高い香港人にとって、マンションでもオフィスでも少しでもお金を意味する水、つまり海の見える物件に高い値をつけます。角度によって見える海の面積が小さくなるに従い、価値が下がっていきます。中には「これでも海景?」と首を傾げたくなるような、ビルとビルの隙間から縦にしか海が見えないような物件もあります。

あまりにも香港人が「海景」をありがたがり、不動産業者も当然のように、
「これは海景ですからもう2,000ドル(約3万円)は出さないと」
と、その価値観を基準にしているため、始めは戸惑う外国人もだんだんこれに傾き、
「コレしか海が見えないのにこの値段は高いっ!」
と、文句が出るようになるまで、さほど時間はかかりません。

山の頂上で全方位に海が見渡せるピークの開放感は格別です。入植したイギリス人が風水のご利益を知っていたのかどうかは知りませんが、彼らは100年以上も前にピークトラムを走らせて山の上で暮らし始めたのです。クルマがあっても、狭くて急勾配の山道は輿に乗って移動していたような時代ですから、トラムの開通はさぞや画期的なことだったことでしょう。

辛かった時、悲しかった時、嬉しかった時、何でもない時、私は幾度となくピークに上り、足元から広がる亜熱帯の濃緑の森、それに続くぎっしりと林立するビル群、その向こうの霞が立ち込めた海面、そして対岸の九龍という眺めに、どれだけ慰められたことか。視界の中の濃縮された香港は、
「必ずどこかに身の置き場があるよ!」
と無言で語りかけてくれているようで、何度も力づけられました。大切な友人を白血病で亡くした時も、子どもを生む直前も、友人の結婚披露宴クルーズに乗り遅れてしまった夜も、私はそこに立って海を眺めていました。そこでの癒しは何にも代えがたく、限りある香港滞在中、これからも何度となく足を運ぶことでしょう。


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編集後記「マヨネーズ」  
緑色の封筒を受け取りました。香港では緑封筒は税務署からのものと決まっていて、できることなら受け取りたくはないけれど、受け取ってしまったからにはきちんと対処しないと、後で大変なことになる痛し痒しの代物です。開けてみると今年度の納税通知でした。ここでの財政年度は日本と同じ4月から3月なので実際の納税は年明けです。

日本と違って源泉徴収ではないため、勤め人といえども各自の年間所得を1人1人申告し、通知を受け取ったら指定された納税日までに支払います。面倒でも非常に明瞭なシステムで、自分の納税額や支払った税金の行く末が否が応でも気になってきます。そうこうするうちに外国人であっても市民意識が芽生えてくるから面白いものです。

納税額が通知されても支払いは半年先。今から税金分をコツコツ貯金するアリ派、年明けのボーナスを当てにして夏場は楽しくやるキリギリス派、直前に納税ローンを組んで切り抜けるたくましいゴキブリ派(?)まで、これからの半年は人それぞれ。
「きっとこの通知が最後になる!」
と念じながら、勝手に香港回顧モードに入っている昨今です。



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