ニュージーランド移住記録「西蘭花通信」

人生の折り返しで選んだ地はニュージーランドでした

ティワイポイント

2021-01-19 | 経済・家計・投資
夏休みにNZ最南端のサウスランドに行ってきました。2019年に就航したオークランド=サウスランドの玄関口インバーカーギル間の直行便は、コロナの影響にもかかわらず定期便として定着しています。国内線では最も長い路線で、飛行時間は2時間。

インバーカーギルには2018年に1度行きました。市の南端、その先は南極というブラフは、有名なブラフオイスターの産地で毎年5月にはブラフオイスター・フェスティバルが開催されています。NZ航空がチャーター便を飛ばしてツアーを催行しているので、フェスティバル参加に日帰りで訪れました。それ以外は移住前に観光客として、クルマで2回訪れたことがあります。

最果ての地で風光明媚な分、観光業、特に外国人観光客への依存度が高い地域だけに、コロナの影響など再訪で思うことはいろいろありましたが、その中で非常に印象に残ったのが意外にも、ティワイポイントでした。ティワイポイントとは英豪資本の鉱業資源メジャー、リオティント(出資比率79.36%)と、住友化学(20.64%)の共同出資で1971年に開業したNZ唯一のアルミニウム精錬所のある場所です。

オーストラリアで産出した原料をわざわざここに運び込みんで精錬しているのには、訳があります。アルミの製造には大量の電力を必要とするため、水力発電で安く十分な電力が賄える、NZ最南端の地に半世紀前に白羽の矢が立ったのです。

精錬所建設はNZにとってまさに国家プロジェクトでした。政府は1971年にフィヨルドランド国立公園内のマナポウリ湖に地下水力発電所を建設し、精錬所への電力供給を保証し、同年にティワイポイントが開業しました。以来50年が経過し、生産の90%が輸出されているため、アルミはNZの主要輸出品目の一つでもあります。大半の仕向け先は日本です。現在、ティワイポイントだけで全国の電力消費の実に13%に達し、サウスランド経済の10%に相当しています。

しかし、精錬所は新型コロナのロックダウンが開けて間もない2020年7月、電力費用の値上がりとアルミ業界の見通し悪化を受け、2021年8月をもって操業を停止すると発表しました。2008年のリーマンショック後にも同じような計画が持ち上がりましたが実現には至りませんでした。しかし、今回はコロナもあり状況がさらに深刻です。

発表が政府への圧力であることは明白でした。電力供給を行うメリディアンは国有電力会社で、大量の電力を必要とする以上、電力価格が採算性を大きく左右するため、大手といえども一外資民間企業が政府に大幅な値下げか、撤退かの選択を迫ったのです。操業停止となれば、直接雇用や関連業種で2,600人が職を失い、サウスランド経済が大打撃を受けることは必至で、政府は操業延期への交渉に乗り出しました。

奇しくも今回の滞在中に、精錬所と政府は電力料金の見直し等で合意し、2024年12月までこれまで通りの操業を続けることが決定しました。50年前の国家プロジェクトは首の皮一枚でつながりました。関係する自治体も国に対し交渉を強く要求していたため、従業員や関連業者、自治体にとっても操業延期は遅れてきたクリスマスプレゼントになりました。

ブラフヒルという見晴台からティワイポイントがよく見え、「行ってみよう!」と急に思い立ちました。岬の先端全体が敷地となっており、一般道から入っていくや道の両脇に鉄塔がズラリと並ぶ異様な光景は圧巻で、まるで鉄の鳥居を時速100キロでかいくぐっていくようでした。全国の電力の13%がたった1ヵ所に向けて、2日前に見たばかりの地下水力発電所から日夜送られているのがにわかに実感できました。


すでにサウスランドをあちこち回ってきた後だったので、何本もの太い電線と並行して走りながら、これだけの経済がこの地で失われることの意味が急にリアルに感じられました。サウスランドの人口は2020年で10万人超。労働力人口比率が60%だとすれば労働力人口は6万人。2,600人はその4.3%。従業員の家族も含めればどれだけ多くの人たちの生活に影響が生じることか。

政府が一民間企業に屈することには賛否両論があるにせよ、今ここで4年の時間を“買った”ことは、従業員にも、自治体にも、政府にも大きな意義があるように感じました。しかし、交渉はこれを最後とすべきでしょう。業況の悪化と雇用の確保は別物で、ティワイポイントが栄光の歴史に幕を下ろすときは確実に迫っている、とも感じました。



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編集後記「マヨネーズ」
国有企業ですがメリディアン・エナジーは上場企業なので、株価は1月7日の史上最高値9.40ドルから急落して、19日は7.44ドル。20%超安。2020年前半はコロナ禍の中で4ドル台のもみ合いが続いていたと思うとまだまだ高いですが、
「電力株が高くて手が出ない💦」
と嘆いていた投資家たちが動き出すのか否か。電力料金だけでなく送電費用など、いくらで手を打ったかによって収益性に大きく反映されそうです。

NZの最南端でいろいろな事が起きており、今回行ってみて改めて興味が湧いてきました。


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