limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 1

2019年03月22日 12時50分14秒 | 日記
第1章 中学生日記-1

“名簿”と言うのは因果なもので、50音順に作成されるものだ。昭和40年代の終わり頃までは、誕生日順なども存在したが、僕は“や行”であったが故に“わ”で始まる苗字が居ない限り、必然的に「男子のどん尻」に名を連ねる宿命にあった。僕の後ろは「女子の“あ行”」がやって来る。入学式の直後の席順は、大抵“名簿順”に着席させられるが、2~3ヶ月も経つと個々の事情に応じて配席が変わり始める。僕は、小学校3年生から今日まで眼鏡を愛用している。視力は0.01前後なので、外せば黒板の文字を読めなくなる。最初の席替えの際、僕は担任の席の左前へ移動させられ、卒業するまでそこに固定化され続けた。隣に来る女子はコロコロと換わったが、僕は3年間“指定席”をキープし続けた。「目が悪いなら真正面に固定されるのが普通じゃない?」と言う声が聞こえて来そうだが、それには担任の原博教諭の“ある思惑”があったからだ。

北と南の両小学校から通う中学校は、町に1つしかなかった。僕の世代は比較的生徒数が多く、1学年10クラスとなった。上2学年が8クラスだったから全26クラス、総生徒数約1300名のマンモス校であった。講堂に全校が集結するには、幾つもの出入口を経由して集まらないと時間オーバーになってしまう。故に迷路のような順で移動しなくはならないのだが、その道順を真っ先に記憶できたのがたまたま僕だった。同じく校舎内の各教室の配置を覚えたのも僕が最も早かった。原先生はそんな僕を「案内人」に指名して、小学生気分の抜け切らない同級生達の誘導と点呼を取らせた。「適材適所」と良く言うが3ヶ月が経つとこの役目は一応の決着を見たが、僕には次の役目が待ち構えていた。原先生の“秘書役”である。「Y、3年4組の□先生の所からプリントを貰って来い」と命ぜられると北校舎3階の教室へ行き、用件を告げてプリントの束を持ち帰る。こんな事は序の口だ。二日酔いで朝食を抜いて出勤して来ると、午前10時過ぎには空腹感に襲われる。「Y、財布を持ってコンビニへ行け!弁当とお茶を適当に見繕って、タバコ1カートンも買って来い!正し、絶対に見つかるなよ!」授業中に学校から脱走してコンビニへ買い出しに出かけるのだ。勿論、制服は着たままである。当時はタバコの販売もまだまだおおらかで、子供が買って行っても不審には思われない時代だったが、昼日中に制服を着たままの中学生が「弁当とお茶とタバコ1カートン」を買い出しに来るのは、流石に不審に思われても仕方がない。「先生からのお使い?授業はどうしてるの?」店員さんから職質を喰らったが「今は体育の授業中です。急いで帰って合流します」と言って咄嗟に誤魔化しにかけて切り抜ける。その内に顔なじみになると「今日発売の新作のお弁当があるから見ていくといいわ」とお勧めを受ける様になり、すっかりお馴染みの光景になると「いらっしゃい!」と笑顔でお出迎えを受ける様になる。こうなれば“こっちのモノ”である。

コンビニはこれでいいが、一番の問題は“帰り道”である。学校を抜け出すのは比較的簡単だが、帰るのは“証拠物件”を抱えているだけに細心の注意が必要だ。ルートは複数あったが、不意に校内を移動する先生や生徒に見つかるのは絶対に避けなければならない!物陰をすり抜け、廊下や移動教室を伺い、自分の教室へ戻るのは至難の技であった。毎回、予期せぬ事の連続である。その場を切り抜けて帰れるのは僕しか居なかった。後に「不測の事態に瞬時に対応が出来たのはお前だけだった」と原先生は言ったが、一度も逮捕されなかったのは僕だけだったのは事実だ。ある日、罰ゲームで他の同級生が行った時には、校門で見つかり大騒ぎになった事がある。運良く成功しても、先生の“嗜好”を把握していないと怒られたものだ。原先生の好き嫌いを把握している僕だからこそ“腹を満たす弁当”を買って来れたのだ。

また、先生は癇癪持ちで、気に入らない事があるとホームルーム中でも授業中でも席を立って教室から出て行ってしまう。困るのは学級正副委員長だ。何とか揉め事を取り繕い、職員室へ行っても中々先生は帰って来ない。「これではダメだ!もう1度考え直せ!」と突き返されて来る。確か校内委員会の人事案についてだったと思うが、先生の意図する人選とみんなの意見に隔たりがあり、事態は膠着状態に陥った。学級正副委員長が「Y、先生を引っ張り出す手は無いか?」と小声で聞いて来る。「要は清掃委員会と保健委員会の人選と次期学級正副委員長の人事案でしょ?M君を説得して椅子に座ってもらうしか無いでしょ!それから、女子を説得してTさんを副に座らせる。その上で2つの委員会の人選をやり直すしかないよね」僕も小声で言う。「やっぱりその線か!男女に別れて再検討だな」「でも、先生に何て言うの?私達が行っても空手で帰って来るのが関の山よ!」正副委員長の表情は冴えない。「そろそろ籠城して1時間か。さっき言った線でまとめるって話して来れば反応はあるかも」僕は時計を見て言う。副委員長が職員室へ走って帰って来ると「Y君、先生が呼んでるよ!」と告げた。原先生お得意の意固地に見せて考えさせる策略だ!僕は職員室へ走った。「Y、どうだ?」「学級正副委員長はM君とTさんで調整が進んでます。2つの委員会は改めて人選をやり直す方向です」「よし、委員長に言って置け!15分後に戻る。それまでに2人を説得して落とせとな!」「はい」教室へ戻ると正副委員長に事の次第を告げて説得工作を急がせる。

実は前日の給食後に、僕は先生から“腹案”を示されていた。「次期学級委員長はMだ。他は認めない」「でも、クラブ活動を盾に取られたらどうします?」「是が非でもやらせるんだ!余人を置いて他に適材は居ない。どうせ紛糾するだろうが、落としどころで揉めたら俺は一端引くぞ!後は分かってるな?1時間位したら誰かを寄越せ。お前に確認を取ってから戻る。荒療治だがやむを得ない」「長田さんはどうします?」「嫌がるだろうが清掃委員会へ押し込め!ヤツの器でなくては務まらん」「副委員長はTさんでまとまりますかね?」「それも何とかまとめるんだ!塾がどうこうあるだろうが、総力を挙げて落とせ!2人セットでなくては3年生は乗り切れない!何とかこの絵の通りに進行させるんだ」勿論、おおびらにやり取りをした訳ではない。先生の机の周囲を片付けるついでに話をしたに過ぎない。だが、紛糾すると予測した時点で対策を立てて置くのは王道だ。僕は“脚本”を見せられて自分が演ずる役を知りその通りに動いた。さり気なくモノを言い議論が逸れるのを防ぎ、悟られない範囲で先生の絵を描いて行く。しかし、予想通り議論は紛糾して膠着状態に陥った。役者は“脚本”からあまり逸れてはいけない。成り行きに任せて思惑通りに進行させるのも筋だ。僕は動きを見守り繋ぎ役に移った。この辺の呼吸は、先生に徹底して叩き込まれたモノだった。僕は運動は苦手だが、細かい“工作活動”は得意だった。原先生が僕を使いに出したのは、対外情報を集めるためでもあった。わざと使いに出して相手の出方を伺わせる。こうした諜報活動はクラスマッチや運動会などの競技会の際の作戦立案に大きく寄与したのである。

そんな中、中学生生活で¨最大の危機¨が訪れた。3泊4日の修学旅行中の2日目の夜、京都市内のホテルでの事だ。原先生は、夕食が済むとM君とTさんを呼び出し「呑みに出て来るから後は任せるぞ!」と言ってホテルを抜け出した。「何かあったらどうします?」と2人が危惧すると「何も心配は無い。それより抜け出した事を気付かれるなよ!」と逆に念を押されてしまい、2人は黙して頷くしか無かった。

だが、突如として想定外の事態が襲いかかった。章子さんが¨喘息の発作¨を起こしたのである。彼女も無為無策であった訳では無い。頓服を持参していてその時もクスリは服用していた。けれど症状は改善しない。むしろ、徐々に悪くなっていたのだ。医療機関を受診するには、保険証と教師の付き添いが欠かせない!同部屋の女子達は、原先生を探した見付からない。Tさんに一報が入ったのはそんな時だった。「Y、ちょっと顔貸してくれ!」M君に呼ばれ、廊下の隅に4人が集まった。「章子が発作を起こした!先生は抜け出してる!さて、どうする?」僕は「¨壁に耳あり、障子に目あり¨だ!何処か隠れられる場所は?」「そうだな、先生の部屋の鍵は預かってるから、そこへ行こう」M君を先頭に4人は個室へ入り込んだ。正副学級委員と長田さんと僕が座り込み、前後策を話始めた。

「章子は苦しそう!早く病院へ連れて行かないと!沼田先生に相談しようか?」長田さんが言った。「あの副担は¨スピーカー¨だ。騒ぎが拡大するだけだよ。先生だけでなく、僕等も罰を食らうのがオチだろう。みんなは何処まで知ってる?」僕が返すと「部屋の女子とここに居る4人だけよ」とTさんが言った。「Y、ここから抜け出す手はあるか?」とM君が言った。「正面切っては出られない。¨張り込み¨をかわすとしても、戻る手が無い。あるとしたら非常階段からだよ。僕が出て見よう!その間に集めて欲しい物がある。ホテル周辺の観光案内図と、口の固いヤツ等2~3人だ。急いでかかろう!」「人手はもっと必要じゃないかな?」と長田さんは危惧するが「クラス全員を巻き込んだら、収拾が付かないだけじゃなく情報漏れも防げない。最小限で何とかするしか無い」と言って封じ込める。僕は非常階段から外部へ抜け出すルートを探った。闇に紛れて表通りに出られる道を見定めると、素早く先生の部屋へと戻る。

「どうだ?」「紛れて出られるルートは見つかったよ。正面玄関からは見えないだろうな」「問題は先生が何処に居るか?だが、どうやって絞り込む?」M君が核心を指摘した。相談の輪には男子2名と女子1名が加わり、7名での相談になっている。いずれも学級委員経験者だ。「祇園か?新京極か?はたまた別か?」ホテル周辺の地図を睨んで、みんなは必死に思案を巡らす。「土地勘が無い以上、遠くへは行かないだろう。歩いて20~30分の範囲内のはず。そうすれば、新京極が最も可能性は高い。だけど事は簡単じゃない!酒場は星の数程あるんだ!チームを組んでローラー作戦をするしか無いだろうな」僕が切り出すと「お前は、ここに残って貰う必要があるし、抜け出す人数が増えると返って身動きが取れなくなる恐れもある。俺がしらみ潰しに1軒1軒を当たるしかあるまい!」M君が決然と言う。「Yが一番の脱走上手なのにか?」「それは認めよう。だが、Yには是が非でもやって貰わなくちゃならない事がある。他の先生達を誤魔化して時間を稼ぐ事だ。この中で先生達に一番顔が利くのはYだけだ。この際、あらゆる手を使っての誤魔化しを任せられるのはコイツしか居ない。多人数で出るにしても連絡手段が無い。どっちにしても、警察に補導されたらアウトだ!だから、俺がやる!」M君の意見に異論は出なかった。「あたし達は?」女子が聞いて来る。「章子の様子を逐一ここに知らせる事と他の悟られない様に根回しをしてくれ。男子も同じくだ。知ってるのは、ここに居る7人だけにしたい。Tと長田は部屋から内線で連絡を待て。野郎どもは¨打ち合わせ¨って言ってここに待機。湯船に湯を張って待ってると同時に各部屋と先生達を見張れ!Y、直ぐに出よう。案内してくれ!」

全員が頷く中、僕とM君はホテル外へ向かった。「100m先で表通りにぶつかる。後は通りを跨いでから右に200m程進めば自ずと分かるよ。裏路地をしらみ潰しに当たって行けば多分ヒットするはず。戻る時に迷わない様に目印にこれを貼り付けながら行けばいい」と言ってガムテープを手渡す。「お前、何でこれを?」「こう言う場合、役に立つから持って来た。まさか先生を探す羽目になるとは思わなかったけど」「サンキュー!俺も帰りが不安だったが目印があるなら安心だ。何とか章子を持たせてくれ!じゃあ行って来る!」M君は走り出した。僕も先生の部屋へ密かに舞い戻る。

「行ったかい?」「無事に出たよ。さて、コーヒーは無いかな?」僕は室内を物色すると同時にお湯を沸かす。「コーヒーを何に使う?」「喘息の発作を和らげるのさ。彼女から聞いた事があるから時間稼ぎには役に立つ」程なくしてコーヒーのスティックが3つ見つかった。大きめのカップを選んでお湯を注ぐ。内線が鳴った。「コーヒーか?今、Yが用意してる!取りに来てくれ!」「以心伝心ってヤツか?」「前に連絡帳を届けた時に、服に染みが付いてるまま出て来たから¨何だ?¨って聞いたら¨コーヒーを飲むと落ち着く¨って答えたのを思い出したまで。先生に¨些細な事も疎かにするな!¨って言われてるんでね」「お前の観察力には脱帽するしかないな」間もなくTさんがコーヒーを取りに来た。「熱いからゆっくり飲ませてやって。多少は楽になるはず。後は、お湯でタオルを湿らせて乾燥しないようにしよう。首に巻いてやるといい」と言うと「章子もそう言ってる。他に出来る事は?」「バスタオルを湿らせて、部屋の湿度を上げる事くらいだな。病院へ担ぎ込むのが最善だけど、今、僕等に出来るのはここまでだ」「分かった。やれる事は全部やるよ。でも、このまま先生が見つからなかったらどうするの?」彼女の懸念は最もだった。「最悪の場合は、僕が学年主任の大島先生に掛け合いに行くしか無いけど、ギリギリまでは待ちたい。後、2時間は様子見で居たいね。とにかく騒がず落ち着いて待つしか無い」待つのは辛いし長い。だが、それ以外に手は無かった。

Tさんは黙してコーヒーを運んで行った。「さて、こちらも工作を始めよう。いつ、他の先生達が来るか分からない」「何をしてる振りをする?」「明日の班行動の内容を各班毎に追っている振りをしますか?幸い僕以外は全員班長だし」「安全確認か。やらないよりは怪しまれないな」早速、僕等はプロットを始めた。案の定、2人の先生が訪ねて来たが¨明日の班行動の再確認をしているし、先生は風呂からまだ戻って居ない¨と僕が説明して事なきを得た。章子は少し落ち着いた様だが、もしも均衡が崩れたら僕等に手の打ち様は無い。時間は容赦無く過ぎて行った。「そろそろ1時間だ。Y、最悪を想定して置く頃合いじゃないか?」とうとうそんな意見も出始めた。僕もそう考え始めた。「正直に話すしか無いけど、連帯責任は僕等も負わなくてはならない。後、30分だけ待とう!ダメなら僕が大島先生に話に行く。Tさんにも言って置いた方がいいだろう」内線を取り上げると、Tさんに¨後、30分だけ待って戻らなかったら最終手段を取る¨と告げた。「OK、章子は¨まだ頑張れる¨って言ってるけど、ギリギリなのは確かだよ。Y、決断は任せるよ!」同室の女子達も意見は同じの様だ。「女子達も同意見の様だ。30分したら公にしよう!」「その時はお前だけに背負わない。6人揃って自首するぞ!」みんなが腹を括った。

それから10分後、M君が荒い息で転がり込んで来た。原先生も肩で息をしている。「間に合ったか?」2人は声を絞り出す。「後、20分遅かったら公にする覚悟をしてた。まだ、オープンにはしてないし、章子も頑張って待ってる!」僕が言うと「酒を抜かなきゃならん!Y、バスタブに湯を!」と先生が言う。「半分だけ湯は溜まってます!先生!急いで!」他の男子が急かす。内線ではTさんへ“先生確保”の一報が入れられている。「Y、茶色のトランクを開けろ!鍵はこれだ!章子の保険証を引っ張り出せ!」服を脱ぎながら先生が鍵を放り投げて寄越す。M君は水を飲みながら「15軒目でヒットした!時間が心配だったが、ギリギリセーフだったな」と息を整えながら言う。それから間もなく章子は病院へ担ぎ込まれて、事なきを得た。修学旅行から帰った翌週、先生は「慌てず騒がず落ち着いて対処してくれたのが良かった。お互いに油を搾られずに済んだのは大きかったな!」と言って僕らに労いを言った。クラスの大半は何も知らなかった大事件だったが、無事に切り抜けたのは、総合力の高さと先生の確かな鑑識眼があったからだろう。