limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 3

2019年03月28日 09時49分55秒 | 日記
運動会は僕らの黄グループが優勝を飾ったし、続く音楽会でも僕らのクラスは5組を抑えて優秀賞をさらった。内田先生が歯ぎしりをして悔しがったのは言うまでもない。原VS内田の勝負は5組の惨敗に終始した。沼田先生とのバトルも決着し、敏子にも明るい表情が戻った。そして、10月の半ばになると“ストーブ”の据え付けが始まった。進路指導も佳境を迎え、各人が“受験先”を意識し始めた。最後の大勝負である“高校受験”の熾烈な競争の幕が切って落とされたのだ。1時間目が終わった後「Y、何処を受けるのよ?」隣の席には絵里が巡って来て居た。「山の上だよ。絵里は?」「あたしは、S実業。お正月を過ぎたら、みんなと居られる時間も残り少なくなるね」「ああ、それよりも“1発勝負”に全てを賭けるしか無い現実が怖いよ!」「それは大半がそうじゃん!Yの成績はともかく、内申点は高いんじゃない?」「それだけでは“合格”は無理だよ。あー、これまでの“策謀”から抜け出して真面目に授業を受けなくちゃ!」「それは両立させろ!Y、3組の田口先生を捕まえてくれ!あそこの授業が相当遅れてる。このプリントの山を届けるんだ!」原先生が抱えていたプリントの山を僕の机に置く。「田口先生の“ねぐら”は何処だ?彼は中々捕まらん!」先生がぼやくが「旧校舎の奥の奥に隠れてますからね。容易には捕まりませんよ!」と僕が言うと「そこを何とか突き止めろ!このままでは、3組の授業に支障が出る。他の先生達も手を焼いてるんだ!Y、何とか追跡しろ!」僕は絵里の顔を見た。彼女はクスクスと笑っている。「こう言う芸当はお前にしか出来ない!授業に影響が出ない範囲で捜索をして、コイツを押し付けろ!」先生はダメを押す。「分かりました。今日中でいいですか?」「必ず捕縛しろ!これは学年全体の問題になってる。何としても今日中にカタを付けろ!」僕は仕方なく引き受けた。「Y、頑張りな!」絵里は笑っていたが、こっちは笑い事では済まされない。厄介な仕事がまた増えた。ツンツンと鉛筆で僕の背を突くヤツが居た。「あたしが繋ぎを付けてあげようか?」有賀重子だ。以前、僕を追い詰めたのは有賀千洋(ちひろ)で“2人の有賀”の片割れである。この子は何故か常に僕の背後の席を取る妙なクセがあった。3年間、席が固定化していたのは僕と有賀重子だけだった。この後、高校の3年間も彼女は僕の背後を脅かす“背後霊”となる。今は、“購買委員会”の委員長をやっている才女だが、困り事があると“必ず尻拭い”を持ちかけて来る悪魔でもあった。「浩子に言って置くからプリントの山は、田口先生の机に伏せて置いときな!その上で先生を捕まえればいいじゃん!」確かにその方が効率はいい。「悪いけど頼むよ」僕は重子の提案を受け入れた。たまにはこうして僕を助けてくれる事も無くは無いので、最低限の付き合いは常に保っていた。重子の計らいでプリントの山は3組に押し付けたが、肝心要の田口先生の行方は分からない。「何処に潜んでるんだ?」僕は途方に暮れた。

3時間目は国語の授業だったが、原先生の“空腹感”は抑えきれなくなっていた。授業中に「Y、買い出しに行け!いつもの品とタバコも1カートン頼む」と財布を渡された。例に寄っての脱走である。だが、次の言葉に僕は唖然とした。「絵里も同行しろ!絶対に見つかるなよ!」同行者が付くのは初めてだし、しかも絵里を指名するとは思わなかった。しかし、命令は絶対だ。「分かりました。よし、行こう」僕と絵里は教室を抜け出すと、コンビニへ向かった。絵里はピッタリと僕に寄り添って来る。「今日はどう言う風の吹きまわしだ?同行者が居るなんて初めてだよ」「それはね、あたしが先生に直訴したからだよ。“脱走やらせて下さい”って日記に書いたから」「そう言う訳か。先生も思い切った事をやらせるな!」僕らは難なく校外へと抜け出した。絵里は頻りに後ろを振り返る。「大丈夫だ。変にキョロキョロしないで。真っ直ぐに行けばいい。問題は帰り道だよ。どうやって潜り込むか?の方が難しい」「そうか!“証拠物件”を持ってるもんね」「それだよ!遠回りになっても確実に帰らなくては意味が無い。協力して周囲を警戒しないと大変だ!」僕は絵里に言い聞かせた。「あー、日差しが暖かいな!こんな新鮮な空気を吸ってるのか。Yは幸せだね」絵里はリラックスして歩いて来る。買い物自体は何の問題も無く終わった。2人で校舎を目指して歩き出すと「どこから入り込む?」と絵里が聞いて来る。「旧校舎に潜り込んで、様子を見よう。家庭科室に7組と8組の女子が居るはずだ。それをかわして階段へたどり着くのが一番難しい。場合に寄っては職員室の前を走り抜けるしかない」「結構大変だね。Yはいつもどうやって潜り込んでるの?」「ケースによりけりだよ。その場の判断って言うか、本能だね。5分くらい潜んでる事もザラにあるし、一気に走り抜ける場合もある」「見つかった事は無いよね?」「未だかつて失敗した事は無いよ」校門を抜けると最も北側にある旧校舎へ侵入する。古びて埃だらけの教室の窓から校舎を伺う。「やっばりか!家庭科室の前にチョロチョロしてる女子が居る。中条先生も居るな。こっちはダメだよ。リスクは高いが、職員室の前を走り抜けるしかないか!」僕がそう言っていると、絵里はピッタリと僕の背中に貼り付いて来る。「絵里、重たいよ」押しつぶされそうになるので軽く言うと「胸が気になるんでしょ!ペチャパイだけどさ」と絵里は鼻で笑う。「ついでに言うとスラックスのファスナーが半開きだ!ピンクの水玉が・・・」「スケベ!」絵里の拳が降って来る。「Y、それよりどうするのよ?」「女子が布巾を干してるだろう?もう直ぐ家庭科室へ引き上げるはずだ。そうすれば最短距離で抜けられる!もう少し様子を見よう」僕は慎重に気配を伺っていた。「そう言えば絵里もだけど、どうしてスラックスなんだ?スカート履かない訳は何?」僕は真顔で絵里に聞いた。「あたしだけじゃないでしょう?長田も飯田も重子も山本だってそうじゃん。後、阿部だってそう。スカートを履かなきゃいけない規則は無いはずじゃん!でもね、スラックスに慣れるとスカートは寒いのよ。めくられる危険もあるし」「坪井の餌食になってるからか?」「それもあるけど、動きが自由にならないのがネックなのよね。スカート履くと余計な神経を使うし」「絵里は似合うのにもったいないな。進学してもスラックスがあったら履かないのか?」「多分ね。あたしのスカート姿って似合ってた?」「うん、女の子らしかったな」「なによそれ!あたしは男子か?」「セーラー服ならスカートが似合うと僕は思うけど、昔散々めくられた口かなって思ってさ」「トラウマにはなってるね。結構派手にやられたし・・・。何なら明日、スカート履いて来ようか?Yとあたし日直じゃない。ストーブの試運転やるんでしょ?朝早いから特別に見せてやる!」絵里が突然に言い出した。「期待せずに待ってるよ。明日はぐっと冷え込むらしいから。おっと、空間が空いたぜ!絵里、一気に走り抜けよう!」僕は急いで絵里を引っ張って行く。「ちょっと待ってよ!置いてくなよ!」絵里も必死に付いて来る。僕等は無事に教室へ滑り込んだ。

4時間目が始まる前、僕は家庭科準備室へと降りて行った。旧校舎で様子を伺っていた際、準備室に男性らしき陰を見つけたからだ。ぼんやりとしか見えなかったが、田口先生のシルエットに見えたからだ。「失礼します」僕は家庭科準備室のドアを開けた。実習で作ったと思われる団子をほうばっている田口先生と中条先生が居た。「やっと見つけた!」僕が言うと「刑事部長に尻尾を掴まれたか!Y、何事だ?」と田口先生が逃走犯の様に言った。「先生のクラスにプリントの山をお届けしてあります!各教科の遅れを取り戻して下さい!他の先生方はブチ切れる寸前です!」と言い放って睨みつける。そもそも、田口先生のクラスは“放牧状態”もいい所で、授業中に女子がマンガの回し読みをしたり、男子も居眠りや無駄話が絶えないらしい。他教科の先生達もお手上げ状態で、内田先生もサジを投げているくらい状況は悪い。「Y、3組をまともに指導できるのは誰だ?」と事ある毎に先生方がぼやく始末だった。「いやー、済まんな。早速プリントを配布して各先生方へ提出させる。ちなみに、ウチはどの位遅れてるんだ?」田口先生は呑気に聞いて来る。「僕らは教科書の3分の2は終わってますが、3組は半分も終わってません!先生!団子食べてる暇はありませんよ!」僕はここぞとばかりにたたみ掛ける。「えー!それじゃあ・・・」「先生が吊し上げを喰らっても知りませんよ!」僕は追及の手を緩めなかった。中条先生が笑っている。“生徒が教諭を追及している”図が可笑しくてたまらないらしい。「うーん、補習授業は組めないのかな?」田口先生が言うが「先生がやる気にならなきゃ、生徒は着いて来ません!尻を叩くなら早くしないと致命的な結末が待ってますよ!」と僕は脅しをかける。「Y、ようやく“犯人”を逮捕した様だが、ここからは俺達の出番だ!後は任せろ!」と背後から声がかかった。大島先生を筆頭に先生方数名が押し掛けていた。「分かりました。僕の役目は果たしましたので、後はお任せします」と言って家庭科準備室を後にした。教室へ戻ると原先生はまだ残っていた。「田口先生を“逮捕”しました。家庭科準備室へお急ぎください!」と僕が言うと「良くやった!田口は誰と居る」「今、大島先生以下他教科の先生が取り押さえてます」と言うと「俺も急行するか。とにかく捕まってるなら徹底的に言わないとヤツは煮え切らん!」原先生はそそくさと階段を下りて行った。「Y、いつ捕捉したのよ?」絵里が聞いて来る。「さっき旧校舎で様子を伺ってた時に気付いた。呑気に団子を食べてたよ」とため息交じりに言うと「浩子がね、勉強が遅れてて困るってこぼしてた。少しは追いつけるかな?」と重子が噛んで来る。「土曜の午後に目一杯、補習を組まないと難しいと思う。これから巻き返すとしたら、それでもギリギリじゃないかな?分からないところは教えてやったら?」と返すと「そうする。3組は鬼門だね。危機感持ってるのは数人しか居ないらしいのよ」と重子が言う。「担任に田口先生を据えたのが間違いだったと言う事になるね。あのクラスだけじゃないかな?ランニングの目標を達成してないのは?」「そう言えばそうだよ!どうなっちゃうの?3組は?」重子の問いに答える事は出来なかった。

翌日の朝、予報通り今シーズン一番の冷え込みに見舞われた。僕は一番に教室へ入るとストーブの試運転にかかった。予想通りススが出て焦げ臭い匂いが充満する。あわてて窓を少し開けて換気にかかる。そこへ絵里が鼻を真っ赤にして飛び込んで来た。「寒い!」彼女はガタガタと震えていた。そして何とスカート姿で来ていた。「Y、どうよ?あたしのスカート姿は?」と自慢げに言う。「うん、やっぱり似合ってる。本当に履いて来るとは思わなかったよ」と言うと「しかと眼に焼き付けときな!卒業式までは公開しないからさ!」と言うと両肩に手を置いて真顔で言う。「可愛い?」と聞くので「可愛いよ」と返すとそっと抱き付いて来る。しばらくそのままでいると絵里は「初めて言われた。ありがと」と耳元で囁いた。「後ろ向いてて」と言われるのでじっとしていると、絵里はスラックスに履き替えた。「Yだけに見せたかったから、内緒にしてよ!」と言ってスカートを畳んで通学鞄に押し込んだ。「ストーブはどう?」と聞かれるので「ススが逃げてくれれば火力を上げても大丈夫そうだ。少しづづ出力を上げよう」と言って微調整に入る。「絵里、またまたなんだけど、スラックスのファスナー開いてるよ!」と僕が言うと「馬鹿!スケベ!」と絵里は言うが目は怒っていない。逆に笑っていた。絵里はしっかり者だが、時として無防備になるクセがあった。そこが彼女らしいところだったが、男子にすれば“からかい”の対象となって襲われる原因にもなっていた。「坪井に見つかったら事だよ。気を付けな」「そうだね。あたしの唯一の欠点。でも、Yは変な事はしないって知ってるから安心してられる。さあ、ランニングに行こうよ!」絵里が誘う。「よし、行くか!」僕等は校庭へ向かって走り出した。この後、卒業写真の撮影日と卒業式当日の2回、絵里はスカート姿を披露したが、それ以外の日はずっとスラックスで通した。彼女が僕にだけ披露したスカート姿。内心、彼女はどう思っていたのか?遂に聞く機会は訪れなかった。高校2年の正月、絵里に宛てた年賀状が“宛先不明”で戻って来た。何故なのか、何があったのか?知るための術は無かった。ただ、絵里は「Yは、将来途轍もなく精密なモノを作る技術者になるだろうね」と常々言っていた。奇しくもその言葉は当り、僕は精密樹脂部品の加工・量産の技術開発に携わる事となった。絵里が今何処に居るのか?幸せに暮らしているのか?確かめる事が出来ないのがもどかしい。

12月のある晴れた日、僕等クラス全員は、¨バード¨の墓参に向かった。¨羽鳥栄一¨は、1年生の夏に他界してしまったクラスメイトだ。循環器系に爆弾を抱えていた¨バード¨は、クラスマッチの練習中に発作を起こして、そのまま帰らぬ人となってしまった。大勢が見ている中、突然崩れ落ちた¨バード¨。懸命の蘇生処置も虚しく旅立って行った彼の姿は、全員の脳裏に鮮明に焼き付いていた。今日は、月命日でもあったし、全員の¨受験先¨が決まったので報告方々の墓参となった。彼の墓にはクラス全員の名札が納められており、出席番号も¨欠番¨になっていた。これらは、残された僕等が決めて先生達を説得した結果だった。僕のパートナーにして、有能な¨参謀¨だった¨バード¨。よく2人で話したのは「運動神経は悪くても、僕等には¨頭脳戦¨がある。実戦は出来るヤツに任せて、俺達は¨作戦担当者¨として相手の手の内を探ろう!卑屈になる必要性は無い!」運動が出来ない代わりに頭で戦いを有利に導け!彼亡き後、僕はひたすらに作戦を練りクラスに勝利をもたらし続けた。それが¨バード¨の意思だったからだ。実際、彼が倒れる5分前も僕は¨バード¨と作戦を相談していた。全ての体育行事が終わった今、僕は彼に¨作戦成功¨の報告をしに行った。小春日和で風も無く穏やかな光に満ちていた。その帰り道、最後尾を歩いていると、絵里が近寄って来た。「Y、この道を一緒に歩いて通学するのが、あたしの夢だったんだよ!でもね、親が¨簿記¨とか¨会計¨の資格を取らせたいって言って反対された。あたしも¨バード¨も見ているこの上に行きたいよ!」絵里は半泣きになった。「¨バード¨は何処に居ても僕等の心の中に居る。行く道は違うが、僕は絵里を忘れない。絵里だってそうだろう?」「Y、S実に来ない?来れないかな?」「僕も慎重に考えた。先生とも話した。僕は決死の覚悟で受けると決めた。決めた以上、ぶれるのはダメだ。絵里、君もぶれたら落ちる。今は本番に向けて頑張ろう!」僕は絵里と手を繋いで言い聞かせる。「Y、こうやって2人で歩く日またあるかな?」「あるさ。お互い大人になったら、きっとあるさ!」「うん、信じてるからね!」絵里は強く手を握りしめると涙を拭って前を向いた。最後尾を歩く僕と絵里。“2人共頑張れよ”と“バード”が背中を押してくれた様な気がした。

そして3月。クラス全員が現役合格を決めた。それぞれに進む道は別れるが、笑顔で卒業式を迎える事が出来た。式の2日前、僕等は再び“バード”の元へ向かった。「羽鳥、全員志望校に合格した。お前の力添えがあればこそだ。ありがとう!」先生が優しく声をかけ、全員が花を手向け合掌した。“バード、任務完了だよ。これからは、みんなそれぞれの道を歩む。空からみててくれ”僕は心の中でそう報告した。恐らくクラス全員で校外行動するのもこれが最後だろう。それぞれが色々な感慨を持って来た道を引き返して行く。僕と絵里は、この日も最後尾で並んで歩いていた。「Y、今日もいい日だね。4月からはバラバラになっちゃうけど、みんなとの思い出は消えないよね?」「ああ、消えるもんか!生涯忘れることは無いだろうよ!最高の仲間達だったからな」「あたしもそう思う。何処に居てもこの空は繋がっている。通う高校は違っても同じ空の下で、頑張ればいいよね?」絵里がまた手を繋いで来る。「怖いのか?」「不安だらけ。Yの居ない生活は想像が付かない。でも、この瞬間を忘れないで!きっとまた会おうよ!」絵里は笑顔で言った。「必ず会おうぜ!同級会でな!」僕が言うと「20歳の成人式で、あたしを見つけられるかな?きっとYがびっくりするくらい美人になってやる!」と絵里は自信を見せた。「その前にファスナーを閉めるクセを付けろよ!水色の水玉・・・」「馬鹿!スケベ!」絵里が拳で頭を叩くが、眼は悪戯っぽく笑っている。こうして2人ではしゃぐのも当分先までお預けだろうと僕は漠然と思った。卒業後、バラバラになった僕等のクラスには、色々な事が待ち受けていた。絵里の失踪や飯田の10代での結婚、長田の25歳での別れ。彼女はガンで転移も早く、発見された時は手遅れだった。先生もアメリカへ渡り、それぞれが流転の人生を歩む事になる。卒業から25年後に集まった同級生は、3分の1に満たなかった。だが、みんなは必ずや生き抜いているに違いない。故郷を遠く離れてもこの同じ空の下で懸命に歩んでいるだろう。「Y、お前は最高の“秘書官”だった。この3年間は俺の宝になるだろう」原先生が別れ際に行ったこの言葉は、今も僕の胸に響いている。