limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

New Mr DB ⑰

2019年01月24日 12時18分12秒 | 日記
DBは、意識を取り戻しつつあった。“また、眠らされたな。一体何日経ったんだろう”手足に力が戻ると、ベッドの上に座り込んだ。“ヒゲが短くなっているな。全身がアルコール臭い所を見ると、メンテナンスをしたらしいな”DBは顎に手を触れながら周囲を見渡す。ぼやけた世界しか確認出来ない。“目を封じられた以上、迂闊に動くのは得策ではあるまい。まずは、体力を温存しなくては”DBは再びベッドに横たわった。その時、突然大音量のロックサウンドが流れ出した。「何だ?この退廃的な雑音は?!」DBはロックンロールが大嫌いであったし、彼には雑音としての認識しかない。故に“退廃的”と断じるのだ。「何ヲ言ウカDB!目覚メノサウンドガ気ニ入ラヌトハ、違背スルツモリカ!」合成ボイスがすかさず誰何する。「違背ハ許サヌ!レーザー出力50%アップ!一斉射撃ターゲット自動追尾モード起動!」天井に煌めく光が8ヵ所確認出来た。「まっ・・・待て!背くつもりは無い!聴くよ!そっ・・・爽快なサウンドだ!」DBは必死になって弁明する。音量が一段と高まった。“クソ!雑音で耳までダメにするつもりか!脳味噌が腐るだけだ!”DBはいら立ったが、音量のコントロールは不可能だった。“悪の雑音で攻撃を仕掛けるとは、難たる不遜!だが、耐え抜いてやる!心頭を滅却すれば火もまた何とやらだ!”DBは必死になって心を無にしようと画策した。だが、この大音量は根性論で撃退出来そうに無かった。気も狂わんばかりのロックンロールサウンドは、DBの神経にじわじわと伸し掛かって行った。「DB!食事ノ時間ダ!配膳口ヘ行ケ!」合成ボイスが命じた。よろよろと歩いて配膳口からトレーを引き出すと「爽快ナサウンドヲ堪能シナガラ食ベルガイイ!違背ハ許サヌ!レーザーガ狙ッテイルゾ!」と脅しを掛けられた。“ちっ!食事も雑音と共にするのか!うぬー!眠っていた方がましだ!”DBは一気に食事を済ませると、紙コップの水を一気飲みした。配膳口へトレーを放り込むとベッドへ横たわった。“どうせまた眠らされる。寝ていた方が安全だな”DBがそう心の中で呟くと眠気がやって来た。ロックンロールサウンドは、フェードアウトして行った。DBは轟音を轟かせて眠りに着いた。

八王子“司令部”では、“シリウス”が“スナイパー”から預かったデジカメの画像を“基地”へ転送しようとしていた。「“車屋”、これからベンツの画像を送信する。悪いが、相当重たいから8分割で行くぞ!」「了解!受信スタンバイ完了。ストアーへのアップロードの準備は出来ている。画像さえ手に入れば、直ぐに売りに出せる」「今、送ってる。受信を確認したら、画像が正常に届いたかを確認してくれ!稀にノイズが入る場合があるからな。おかしなヤツがあったら教えてくれ!」“シリウス”が携帯で確認を促す。「受信完了。さて、画像を拝ませてもらうよ。少し時間をくれ!」“車屋”が確認作業に入る。“シリウス”は、デジカメのメディアから自身の専用機に画像を転送して待った。「確認完了。画像は綺麗に届いてるよ!保存をかけてから作業に入るよ」「了解!リーダーに換わる」「“車屋”、3軸車は着いたか?」リーダーが誰何する。「先程到着しました。キャリアカーは、工場へ搬送してあります!」「損傷の程度をどう見る?」「厄介なのは、荷台の歪みとエンジンですね。エンジンは分解して見ないと何とも言えませんが、サスは交換で対処出来ると思います。荷台は油圧で動かしてませんよね?」「ああ、クレーンで積み下ろしをしているから荷台は動かしていない」「だとすると、歪みを治せばいいだけですね。全部をひっくるめて3~4日はかかります。早くても週末までは時間を下さい!」“車屋”が見通しを告げた。「それは承知の上だ。3軸車は八王子へ引き返させてくれ!万が一の事態に対処するにはアイツが無くては手も足も出ない。隊員に休憩を取らせたら、今晩の内に八王子に戻る様に伝えてくれ!修理が容易でないのは、分かっている。だが、限られた時間で最善を尽くしてくれ!」「お任せ下さい!修理屋の意地に賭けて完璧に治してみせましょう!」「済まんが宜しく頼む!不測の事態が発生した場合は、直ぐに連絡を入れてくれ!24時間誰かが起きているから、時間は気にしなくていい!」「了解です!では、大車輪でかかります!」“車屋”はそう告げると携帯を切った。「さて、俺達は“情報”の売り捌きにかかるとしよう!“シリウス”、仕分けはどうなっている?」リーダーが聞いた。「N坊とF坊がやってます。サーバーのデーターの半分を切り離したとは言っても、依然として膨大である事は変わりありません。2人には、カテゴリー毎にまとめる作業を進めてもらってます」N坊とF坊は端末に齧り付いて、必死の形相で画面を追っていた。「処理にどの位かかりそうだ?」「今晩一杯はかかるでしょう。私も加わりますが、時間を下さい!」“シリウス”が懇願した。「捜し屋からも、まだ連絡は無い。今の内に出来るだけスピードを上げてくれ!明日の午後には“商談”に持ち込みたい」リーダーは携帯の着信履歴を見ながら言う。「可能な範囲で処理を進めて見ますよ。でも、あまり期待しないで下さい。我々も人間です。食事や休憩は必要です!」「ああ、誰しも超人では無い。必要な時間は確保していい。確実に売り渡せる状況に持って行ってくれればいい」リーダーは静かに言って「N、F、そろそろ食事の時間だ。切りのいい所で手を休めろ!」と言った。「ふぁーい!」「承知!」2人は画面から目を逸らして伸びをする。「メシ食ってからやろう!」“シリウス”も席を立った。外は夕闇が迫っていた。

横須賀基地の米軍法務部。クレニック中佐、スタナー少佐、オブライエン少佐の3名は礼装を着用して、ミスターJ一行の到着を待っていた。「“シャドー”のボスが誰なのか?これまでずっと引っかかっていたわ。1年半前、一目で軍属と見抜き銀座から救出した後、横田基地へ送り届けた強者。あの時、私は覚悟を決めていたの。Japaneseヤクザに吊るされても構わないと。それを見事に阻止して、他の外国人ホステスと共に救い出した手口。並みの組織ではないわ。彼らが何の目的で、私達を救ったのか?ずっと理由を聞きたかった。それが、今晩ようやく叶う。感慨深いわ!」クレニック中佐は、窓辺で呟いた。「確か、兵士による麻薬横流しの潜入捜査ですよね?」「ええ、ケイコ。その通り。横流しの取引に使われていたのが、銀座の高級クラブだった。そこへ潜り込んで、当事者の兵士の顔を暴くのが任務だったの。毎日が死と隣り合わせ。心も体もすり減らしたわ。日本の当局の捜査の手が及ぶ前に結果を得られなければアウト!運良く面が割れたのは幸いだったけれど、自力脱出に失敗!そこへ“シャドー”達が現れて命拾い。見事な手口だった。ホステス全員を煙の様に消し去って連れ出したの。どんな準備をして計画を組み立てたのか?今でも不思議だけど、あの時の事が無ければ今の私はあり得ないわ!」「でも、今日は胸の閊えも消えるのではありませんか?」「そうね少佐。ようやく真実が聞ける!それがとても愉しみなの!」クレニック中佐の胸の内は踊っていた。「失礼します。中佐、お客様が正面ゲートにお着きになりました!“スナイパー”中佐が同行されております!」「軍曹、直ぐにこちらにご案内して!“スナイパー”中佐を同行して来るとは!やはりタダ者ではないわ!」クレニック中佐の表情が引き締まる。「“スナイパー”中佐とは、特殊部隊の英雄のあの方ですか?!」スタイナー少佐の表情も変わった。「そう!英雄にして、私の教官でもあった伝説の兵士!その武勲は数えきれないと言われているわ!彼を同行してくるとは・・・、予想外の繋がりがある様ね!」中佐に緊張が走った。「どうぞ、こちらです」軍曹が敬礼する中まず“スナイパー”が部屋へ入り、続いてミスターJが入室した。「貴方は・・・!」クレニック中佐が絶句する中、「お久しぶりですな、中佐殿!」ミスターJが静かに語りかけた。

某警察病院から最寄りの大学病院へ搬送されたKは、改めてCTとMRIの検査を受けた。「右肺上葉の内側にやはり影がある。縦隔部に潜んでいるとは、なんて野郎だ!普通の検査ではまず写らない!やはり“あの人”の予言は正しかった!」医師達は“ドクター”の見識に舌を巻いた。「詳しくは開けて見ないと分からないがどの道、人工心肺を装着してのオペになるだろう。オペスタッフの確保と人工心肺の用意を!」大学病院の教授は直ぐに決断した。「時間が無い。これ以上のロスは患者の体力を削ぐばかりだ。緊急オペだ!執刀は私が担当する。警察病院の方もオペ室へ急いで!」Kは直ちにオペ室へ運ばれていった。
「ともかく開けて見ないと分からない事もある。急いで始めよう!」慌ただしくオペは始まった。開胸まで進行すると影の全容が目の当たりになった。「肉芽腫になってますね」「恐らく寄生虫が血管にへばりついたために、人体の防衛本能が働き寄生虫を体液が包み込んでカサブタ状になったに違いあるまい。それより問題なのは、肺動脈から繋がる主幹動脈にしっかり食らい付いている事だ!」「人工心肺を装着しますか?」「そうでなくては、無理矢理引き剥がせば大出血を引き起こす!患者の体力が持たないだろう。体外循環切り替え用意!」手際よく準備が進められた。「装着完了。カニュレーション開始します!」「大動脈遮断。心筋保護液注入!」「では、肉芽腫を切除する!」執刀医の手で腫瘍は切り取られ、血管の処置も行われた。「大動脈遮断解除。部分体外循環順調です!」「脱血管取り外し開始!」人工心肺からの離脱が始まった。「送血管取り外しに入ります!」「拍動再開!このまま慎重に離脱させる!」「出血ありません!」時と共にオペは淡々と進んだ。「では、洗浄して閉じよう!」皮膚が縫い合わされオペは終了した。「患者をICUへ!肉芽腫の検索は?」「終わりました。やはり、フィラリアです!」「¨あの人¨の予言通りだな!分析へ回せ!」「はい!」「後は、患者の体力次第だな。経過観察のために1週間程、入院していただく事になりますが、宜しいですかな?」「はい、宜しくお願いします!」警察病院側は否も無い。「Kは大丈夫でしょうか?」「予後が良ければ、日常生活に支障は出ないでしょう。収監再開まで1ヶ月ですな」「分かりました。その様に伝えます」警察病院側は、刑務所にもオペの成功と予後について連絡を入れた。Kは絶対絶命の危機を乗り切った。後は、麻酔から目覚めるか?にかかっている。

「中佐は、私の教えた女性士官の中で、最高の士官だった。夜盲症が無ければ、間違いなくトップガンで首席を取っていただろう!」“スナイパー”は、スタイナー少佐とオブライエン少佐に語っていた。「では、中佐が銃器類の扱いが上手いのは?」「ああ、私が叩き込んだ結果だよ!彼女のセンスは抜群にいい!法務部に在籍しているのが惜しいくらいだ」「“スナイパー”!あまり昔の話をしないで下さい!」リレニック中佐は、顔を赤らめて抗議する。「別に構わないじゃないか!嘘じゃない、事実を話しているだけだ!君は非常に優秀な士官だった。私が指導した中では断トツにな。武勇伝の数々を後輩に披露しても、君の地位が揺らぐ訳でもあるまい?」“スナイパー”は誇らしげに言う。「恥ずかしいじゃないですか!過去の栄光にすがるみたいで・・・」中佐は遠慮がちに抗議する。「いいじゃありませんか!中佐のお話を聞けるいい機会です!」「鋼鉄の女の素顔を垣間見る絶好の機会ムダに致しません!」2人の少佐達も興味深々だった。「では、続けようか。あれは彼女と初めて会った時だ・・・」“スナイパー”はクレニック中佐の抗議を無視して話続けた。「もう!人をダシにするなんて!」中佐は恥じ入ってしまった。「ふふふふ、貴方は変わらんな。その負けず嫌いと言うか、己の事を美化されるのが嫌いな所は。1年半前と同じだ!」ミスタJが指摘する。「そうでしょうか?私は、本気で海軍法務部長を狙っています!お尻に殻を着けた雛鳥ではありませんわ!」中佐が改めて抗議する。「そう言う無鉄砲な所もちっともお変わりない。上司はさぞ苦労されているだろうな!」「ミスターJ、ではお聞きしますが、1年半前の事件。貴方達は何故あそこまで介入されたのですか?」「成り行きだ!」「成り行き?!今回もですか?」「ああ、成り行きだ。1年半前、私達は闇金融の借金のカタに捕られた17歳の少女を救い出すべく動き出した。だが、初動段階で1人だけを連れ出すのは無理だと分かり、24名全員を救い出す計画への変更を迫られた。そして、貴方がやって来た。軍人だと見破ったのは“スナイパー”だった。“私が育てた士官だ”と言ってね。その頃には、麻薬密売組織や当局の関与も知り得ていた。正直な話、ギリギリの選択だったが、25名全員を連れ出す事を決断して実行した。それだけだ」「でも、あのマンションの警備システムをどうやって誤魔化したんです?」「私の部下には、電子工学・機械工学の専門家も居る。1ヶ月を費やしたが、監視カメラと赤外線センサーの乗っ取りに成功した。本番当日は、それが大きなポイントになったのだよ」「各部屋・通路・エレベーター・非常階段・出入り口全てを?」「勿論だ。全て乗っ取った。後は、偽の画像を流しておけば良かった」「裏でそんな事が極秘裏に行われていたとは・・・、では、ヤクザ連中の動きも全て?」「あのマンションの監視システムには、穴があった。組員達の動きにも僅かにスキがあった。そこを巧みに突いて逃走したまでだ!」「連れ出したホステス達はどうしたんです?」「ヨーロッパ組は、全員帰国させたよ。我々が救おうとしていた少女も、無事に親元へ帰した。韓国人達は、在日コリアンの地下組織に託した。貴方は言うまでもなく横田基地へ送り届けた。当局がマンションへ踏み込んだのが、あの日の午前中。間一髪だった」「何故、そこまでされたんです?」「関わった以上、全員を安全に逃がすのが道理ってヤツだろう?最後まで責任を果たしたまでだ」中佐とミスターJの応酬が続く。「貴方達の組織は、どう言う理念で動いているのですか?」「弱気を助け、悪を挫く。それだけだ」「たったそれだけ?!それだけのために多くの人が結束してるんですか?」「ああ、助けられた者達が徐々に増えて、今の様な大所帯になったに過ぎない。みんな世の中の不条理との戦いに対して、力を貸してくれている」「組織を率いるボスとしての心構えは?」「法を逸脱しない事、反社会勢力に加担しない事、妥協をせずに徹底的に戦うことかな?」「貴方を知って改めて思うのは、日本語の“義”だわ!どんな事象に対しても“義”を貫く姿勢。ようやく言えそうだわ!ありがとう!貴方達に救われなければ、今の私は無い。心から感謝するわ!」クレニック中佐は手を差し出した。ミスターJは優しく握手をした。「さて、今度は私が依頼をする番だ!」ミスターJが切り出した。「今、ここに拘束されている4人の事だが、3人の香港人については亡命を希望しているはずだ。彼らの望みは叶えて貰えるかな?」「当然、そのつもりよ!国防上重要な証人ですもの。彼らの証言があれば、国際的な脅威に対して備えが出来る。ワシントンも容認しているわ」「1人だけは期日が過ぎたら釈放して欲しい。ヤツらのボスだ!彼の処断については、我々の法で裁きを下したい!」「それは構わないわ。後、5日したら解放する予定よ。白い車はどうするの?」「米軍に進呈したい!あれも証拠品になりはしないかね?」「喜んで頂くわ!でも、タダと言う訳にはいかないの。500万円で買い取りたいのだけれど、承知してもらえるかしら?」「そう言って貰えるなら、喜んで受けよう!登録抹消の手続きは、我々が責任をもって進める。有効に活用してくれ!それと本日の会談の記録だが・・・」「ご心配なく!全てオフレコよ!公式記録としては残さない。これも1年半前のお礼の一環にしてあるの」「それはどうも。こちらとしても、秘密裏に動けなくては困るのでな!」中佐とミスターJは笑いあった。「私の個人的意見としては、FBIの捜査官に推薦したい組織だと思っているの!アメリカに来る気持ちは無い?」「日本社会の底辺には、まだまだ救うべき人々が居る。私達は日本を去る気持ちは無いな。我々は、独自のやり方で戦うまでだ!」「それは残念!さあ、パーティを愉しみましょう!“スナイパー”の暴走も止めなくては!」クレニック中佐に促されてミスターJも話の輪に加わった。話の華は華麗に咲いていた。

その頃、八王子では“シリウス”とN坊とF坊が煮詰まっていた。「大体の仕分けは終わった。だが、これがいくらに化けるかが問題だ!」「ああ、少なくとも1000万円は欲しいよな!」「プラマイ200万円の誤差を見込むと、最低で800万円。即金で払えるヤツが居るかな?」3人共に疑心暗鬼に陥っていた。そこへF坊の携帯に着信が来た。「誰だ?知らない番号だな」「ともかく出て見ろ!」N坊が促す。「もしもし・・・」「F坊、久しぶりだな!俺の声を忘れたか?」「Catか!!おい、この携帯番号、誰に聞いたんだ?」「そっちが雇った“探し屋”だよ!それより、俺様に用とは何だ?」「お前、“情報屋”やってるんだろう?取引したい“情報”があるんだ!手を貸してくれ!」電話は“泣き虫Cat”からだった。「ふむ、内容は?」「裏社会・企業の粉飾決算・インサイダー取引・芸能人の個人情報ってとこだ。多岐にわたるぜ!」「ほー、久々に美味そうな匂いがするな!決済の方法は?」「現金だ。振込みでも構わん!」「今、何処に居る?携帯の緯度経度情報を言ってくれ!」F坊が緯度経度を伝えると「八王子じゃねぇか!よし、居場所は突き止めた。弁護士事務所だよな?」「ああ、そこを借り上げてる。Cat、こっちへ来れるか?」「丁度いい按配に夜と来れば、人目にも着きにくい。これからそっちへ向う!中身を見せてくれるかい?」「品定めって訳か。いいよ、待っててやるぜ!」F坊が言うと「N坊も一緒だろう?顔合わせも兼ねて出向くぜ!迎えはいらん!勝手に行くから待ってろ。1時間くれ。支度を済ませてから直ぐに出る」「分かった。待ってるぞ!」携帯は切れた。「Catか?!」「ああ、これから来るそうだ。リーダーは何処に居る?」「下のTVの前だよ。俺が話して来る!」“シリウス”が階段を駆け下りる。「Catがどう出るかな?」N坊が心配する。「ヤツにしても商売の売り物だ。見切りは厳しいと思うぜ」「“泣き虫Cat”がこれから来るのか?」リーダーが2階へ上がって来た。「ええ、ヤツは夜に動き回るのが常の様です」N坊が答える。「予定価格は?」「800~1000万円と踏んでます」「どれ位上積み出来るかだな!」リーダーも腕を組んで宙を仰ぐ。「ヤツも“情報屋”で喰ってる人間です。査定は厳しいかと」F坊も窓の外の暗闇を見据えて言う。「N、F、“情報屋”をやってる以上、向うも用心は欠かさないはずだ。取引は2人に一任するぞ!任せるから高値で落してくれ!」リーダーは早々に意思を伝えた。「分かりました。何とか渡り合って見ましょう!」F坊が答えN坊も頷いた。「俺はオペレーターとして同席する」“シリウス”が言った。「3人共頼んだぞ!」リーダーがそれぞれの肩を叩いて回った。3人の肩には重たい任務がのしかかった。

Kは麻酔から目覚めた。悪運の強い親父は、又しても危機を切り抜けようとしていた。「俺は何処に居るんだ?」酸素マスクが邪魔をして上手く喋れなかったが、白い壁に囲まれているのは認識できた。「安心して下さい!ここは、病院です。貴方は寄生虫に取り付かれて、刑務所の房で倒れている所を発見されて、ここへ搬送されて来たの。手術は無事に成功して寄生虫は駆除されてるわ。私の言う事が聴こえているなら、左手を握って!」見知らぬ看護師の問いかけは明瞭に聞き取れた。Kは左手を握り意思を示した。「まだ、絶対安静だけど、もう心配は無いわ。今、先生を呼んでくるから待ってて!」看護師は主治医を呼ぶために視界から去った。「ふふふふ、思わぬチャンスが巡って来た様だ。病院なら必ず隙がある!動けるようになればこっちのモノだ。だが、今はまだ早い!体力を戻さないといかんな!」Kは“脱獄”の計を巡らせ始めた。瓢箪から駒ではないが、獄舎でないなら監視の目を掻い潜って逃げられる可能性はある。Kは頭をフル回転させて、逃げる算段を考え始めた。だが、この策略が致命的な結果を生んでしまうとは、Kも知る由も無かった。