limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

New Mr DB ⑫

2019年01月04日 14時53分56秒 | 日記
AD法律事務所は、早朝からてんやわんやの騒ぎに陥っていた。サイバー部隊長は、弁護士軍団との調整に四苦八苦して、気も狂わんばかりだった。「米軍に拘束された?!社長は何をしていたんだ?」「それが、全く分からないんです。深夜に電話があって、¨とにかく身柄引渡しのために、朝イチに2名横須賀基地へ寄越せ¨と言われまして。我々は徹夜でシステムの復旧に当たっておりましたので、皆様へご連絡をしたまでです」「相手が悪い。米軍基地は¨治外法権下¨にある。引渡しを申請しても、トボケられたら空手で引き返すしか無い。¨ツテ¨が無くては助けられん!」「だが、何もしない訳にも行くまいよ。社長が居ない¨異常事態¨では、現場は混乱するだけだ!決済を仰ぐ書類は溜まっている。影響は日に日に深刻化しかねない」弁護士軍団は途方に暮れかけた。その時、1人の女性がやって来た。AD法律事務所の社長の姉。そろそろイニシャルで呼んだ方がいいだろう。M女史である。「おはよう、皆さん社長のSが米軍に拘束された事は、ご存知でしょう。Sから救援依頼が来ている事も」「お嬢様!この非常事態を乗り切るためには、お力が必要です!直ぐに横須賀へ参りましょう!」古参の弁護士が、M女史に訴えた。だが、彼女の口からは「Sを救う必要はありません!放って置きなさい!それより、今直ぐ全員を集めなさい。これからどうするか?を私が直接話します!」と言い放ったのだ。「はい、では全員を集めます」事務室に全員が集まるとM女史は「今日を持って¨AD法律事務所¨は、休眠状態とします。社長のSが、悪逆非道に走り米軍に拘束された以上、事務所の存続は不可能です。会社危急存亡の今、全員の力で¨新たな道¨を切り開くしかありません。社長の座は、私が引き継ぎ原点に立ち返り、新体制を構築します。まず、TVのCMを打ち切り、新規相談者の受付を止めなさい!現在進行中の事案については、3週間以内に決着が付くものと、そうでない事案に振り分けなさい!決着が難しい事案は、U事務所へ引き継ぎが出来る様に、書類を整えて相談者へ案内を始めて!財務担当者は、現在ある現金、預貯金、不動産の一覧表を作成しなさい。財務状態を把握します。サイバー部隊は、ハッキングによって得た情報を整理して、報告書を取り纏めなさい!私達に与えられた猶予時間は、3週間あります。大車輪で新事務所を立ち上げます。さあ、かかりなさい!」M女史の号令がかかると、各員は一斉に動き始めた。「お嬢様、この様な事を勝手に進めてよろしいのでしょうか?」古参弁護士が問い質す。「社長室の金庫の更に奥に¨父の意思¨が封印されているわ。Sも知らない¨非常事態¨の際の遺言が。今から開けましょう!」彼女は、社長室の金庫を開けると中身を取り除き、小さな隠し扉に指をかけた。中からテンキーが現れる。一冊の手帳に記された8桁の数字を慎重に打ち込む。「父が、生前に誰にも知られない様に封印した¨遺言¨が眠っているの。¨危急存亡の時以外には開けてはならぬ¨と私に言い残した代物よ!」カチリと音を立てながら細長い引き出しが前に滑り出した。和紙が丸めて納められていた。M女史は、和紙を広げ文面を目で追う。やがて、彼女は古参弁護士に和紙を差し出した。「我より後、Sに不義理、悪逆非道あらば、躊躇う事なく罰を下し、Mに全権を委ねる」と書かれていた。「父は、Sが意思を継ぐとは信じていなかったの。必ずや¨危急存亡の時¨が来ると予見して、こうした細工を用意していた。本当は、開けずに済めば良かったのは確かよ。でも、父の予見は的中した。私は、父の意思を継いで建て直しを図るわ!異議があるなら、言いなさい!」彼女の凛とした声が響く。「ご先代のご意志に逆らう者などおりません!お嬢様、どうか執務をお取り下さいませ!」「分かったかしら?では、まず財務状況から説明して頂戴!」社長室の椅子に収まったM女史は、事細かに説明を受け始めた。

その頃、横浜の“司令部”では、全員が揃ってミーティングが始まっていた。「さて、本日の“一仕事”は引っ越しだ。ここに“司令部”を置いて置く必要は無くなった。戦線を後退させて安全を図る!」ミスターJは静かに宣言した。「場所は、八王子。“AD法律事務所”の元社長のお姉さん、M女史の事務所を間借りする。手狭にはなるが、支障は無いはずだ!」「ここは、どうします?完全に引き払う訳にも行きますまい」リーダーが問うと「ここへは“前線基地”としての最低限の機能だけを残す。残るのは、私と“スナイパー”だ。リーダー以下の者は、八王子“司令部”へ移動だ。指揮はリーダー、君に任せる。M女史達の支援とU事務所との連携に努めてくれ!」「はい、しかしミスターJ、まだ“密輸”に関する情報を得られていません。引っ越しは時期尚早では?」「いや、“密輸”に関する情報は、元社長のSと3名の部下から得られるはずだ。国際情勢と軍事機密に関わる以上、米軍に花を持たせた方が得策だ。特に3名の部下達は、恐らく邦人ではあるまい。機密情報を手土産に米国へ亡命させた方が始末を付けやすい。様は、Sを丸裸にするためだ!」「では、ここは“米軍との接点”のために残すのですね?今回の作戦の成否を巡る情報は、ほぼ手中にしましたし、これ以上大戦力を貼り付けて置く理由はない」「そうだ!だから安全を考慮して後退を選ぶ。シールドなどの機材はもう必要はあるまい。不逞の輩は、もう現れる事はなさそうだし、Z病院も不安はない。後は最後の仕上げをどうするか?だけだ。ここからは、情報戦になるし遠隔でも問題は無い。“機動部隊”と“遊撃隊”も順次、八王子周辺に移動させたい。リーダー、そちらの手筈も君に任せる」「分かりました。では、残す機材を指定して下さい。必要が無いものは、八王子へ持っていきます」「うむ、各部屋の“撤収作業”もある。各自必要な作業に入ってくれ!」ミスターJが指示を出すと「よっしゃ!」「うぃーす!」と声が上がり、各自が散って行った。そこへ携帯の着信が入った。「姉さん、かかって来ると思っていた。やはり厳しいか?」ミスターJが誰何すると「はい、懐具合が思っていた以上に厳しい状況です。資金調達で何か手はありませんか?」とM女史の困惑した声が聞こえた。「1つ手がある!サイバー部隊のサーバーに入っている“情報”だ。モノによっては“喉から手が出る程欲しい”輩は山の様に居る。もし、サーバーを引き渡してくれれば、我々の手で“現金化”して見ようじゃないか!どうだね?」「手っ取り早く資金が得られるならば、否とは言いません!お願い出来ますか?」「夕方、トラックをそちらに回そう。端末も含めて積み込んでくれれば、出来る限りやって見よう!」ミスターJはリーダーに目配せをすると同意した。「分かりました。夕方には用意を済ませてお待ちしております」M女史は少しホッとした声で応じた。「数日中には、手渡せる様に命じて置く。貴方は心置きなく事務所の“再建”に努めなさい。では、夕方に」ミスターJは電話を切った。「リーダー、“旧AD法律事務所”へ夕方トラックを回す手筈を整えて置け!サイバー部隊のサーバーを積み込んで、八王子に据えろ。そこから“金の生る木”を選別して売りさばけ!出来る限りの現金を手に入れるんだ!」「はい、情報にも寄りますが、出来るだけ“高値”で捌いて見ましょう!“シリウス”とNとFに担当させます」「よし、それでいい。売り先を見誤るな!」「はい!」次に、ミスターJは“車屋”を呼んだ。
「¨車屋¨、お前さんは、出来るだけ速やかに¨基地¨へ戻れ!そして、¨基地¨のサーバーと八王子¨司令部¨との回線を繋いで、データーの転送を行ってくれ。今回の作戦で集めたデーターは、後々必ず必要になる代物だ。それから、お前さんにしか出来ない任務もある!」「ミスターJ、何を私に?」¨車屋¨は怪訝そうに言う。「首都高で大破させた¨黒いベンツ¨じゃよ。今晩にも手中に収めて、¨基地¨へ回送させる。どうも、気になって仕方ない節があるから、詳しく調べてもらいたい!」「分かりました。仕様も含めて洗い直してみます!」「ついでながら、修理の可否も調べて置け。1台でも修理可能ならば、その分M女史の懐が潤う。特殊仕様ならば、売値も上がるしな!」「オリジナルでの修理は無理でも、通常仕様に戻せば行けるかも知れません。出来る限りの手は尽くして見ましょう!」「よし、不要になった装備品を積んだら直ぐに出発しろ!」「はい!」「さて、“スナイパー”、横須賀へ次の手を打つか?!」「へい、Sは無視して部下を取り調べさせるんですな?」「そうだ!今から書簡を用意する。クレニック中佐へ届けてくれ!」ミスターJは、便箋と封筒を用意すると、中佐宛てに依頼状をしたため始めた。

「うっ・・・、あぎゃー・・・、いでぃー・・・、はっ・・・はら・・・が・・・、あぎゃー・・・・・・、痔が・・・・・・、きっ・・・・・・、切れ・・・た・・・、うぉー・・・、いでぇー・・・!」目を白黒させてDBは、排便の激痛に耐えていた。「どういう事だ?また、赤痢アメーバを与えたのか?」事業所長は、モニター画面を見ながら首を傾げる。「いえ、どうやら食中毒の様です。DBに与えているのは、余り物が主です。間違えて残飯が混入したのではないかと・・・」「そこに、たまたま赤痢アメーバが居たと言うのか?」「はい、昼食からは水に抗生物質を混ぜていますし、レーザー攻撃も解除しています。目下、クスリが効くのを待っている状況です」「マズイな!これ以上の体力消耗は避けなくてはならない。逃がすのもマズイが、死なせるのはもっとマズイ!止むを得ん。医者を呼べ!」「はい、事業所指定医でよろしいですか?」「誰でも構わん!DBを治しさえできればいいのだ!」「分かりました」部下は直ぐさま受話器を取り上げた。当のDBは、脂汗を滴らせながら、苦痛に呻いていた。「どう・・・なっ・・・て・・・いる・・・んだ?俺の・・・腹は・・・、ぐえぇー・・・!」以前の下痢よりも、今回の下痢はタチが悪く。いぼ痔と切れ痔を併発していた。そこへピーピードンドンが数十回も来るのだから、便座から動く事もままならなかった。「DB!治療薬ヲ与エル。直グニ飲ムノダ!」合成ボイスが命令を下すが、凄まじい腹の痛みと痔の痛みに我慢の限度を超えているDBには、中々聞こえなかった。そこへレーザーの威嚇射撃が来た。「DB!治療薬ヲ与エル。直グニ飲ムノダ!」フラフラになりながら、DBはクスリの入った水を飲んだ。だが、体内にモノが入ると胃と腸はたちまち活発に動き出し、急降下爆撃の様にモノを大腸へ殺到させた。「いでぇー・・・!うぎゃー・・・、ハヒュー・・・!」水分が下るのは痔持ちには酷だった。傷口に塩を塗り込むのに等しい激痛にDBは七転八倒した。「早く医者を!地下空間に麻酔ガスを混入しろ!」事業所長は狼狽え気味に急かす。「うぬー!これではまた赤字になってしまう!本社へ追加予算を要求しなくては!」事業所長は唇を噛んで憤怒の表情を浮かべた。

横浜本社にベトナム工場からの¨苦情¨が届くまで、差ほどの時はかからなかった。FAXを受け取った秘書課長は、苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべて、社長室へ向かった。「失礼します。Y副社長。ベトナムから¨苦情¨が届いているのですが、如何致しましょう?」彼はFAXを差し出した。「何!DBが赤痢アメーバに感染?!治療費と衛生用品の支給要請か!それと慢性的な赤字解消のために、予算化か!うーん、秘書課長、DBに関わる経費は何処の財布から出している?」「極秘裏にベトナムへ送り込んだ関係上、秘書課の機密費から賄っております。しかし、あまりにベトナムからの要求が多いために、底を尽きかけておりまして、DBの現地給与の半額をも振り向けております」「それでも足りないか!ヤツには定年までベトナムで過ごしてもらう義務がある。経理の目を誤魔化して後、いくら送金できるかね?」「そうですね。ざっと計算しても20万円が限度かと」秘書課長の歯切れは悪い。「うーむ、それでは現地は納得せんな。後、50万円いや、80万円は用意しなければ、向こうは回らんし、黙っては居まい!やむを得ん。私の交際費を取り崩そう!それで合わせて100万円を送金したまえ!」Y副社長は、即座に決断した。「はい、それでは伝票上の操作をしまして、送金処理を致します」「経理に疑われるな!上手く操作して80万円分を¨上乗せ¨してくれ!」「承知しました!これで暫くは持つでしょうが、恒久的処置はどう致しましょう?」「DBの賃上げと機密費の増額で凌ぐしかあるまい。他には設備更新費などに上乗せしてやるしか無いだろう。表立っては¨懲戒解雇¨にしてあるのだ。有らぬ疑念を持たれない様にするには、水面下で調整するしかない!今回はベトナムの顔は立てるが、なるべく¨節約¨する様に要請はして置け!」「はい、向こうも大分苛立っておりますので、遠回しに返答をして置きます。DBの¨イタズラ¨はそろそろ落ち着くでしょうし、感染症にさえ注意すれば、医療、衛生費も抑えられます。もう少し辛抱してくれれば、ヤツの気力も失せるはずです!」「そう願いたいものだ。なるべくヤツを眠らせて、時間感覚を狂わせると同時に食費を減らす様に言って置け。何なら睡眠薬を送ってやれ!今が一番大事な時期だ。可能な範囲から手を着けて行くしかない。後、半月が成否を分けるだろう。何とか今回の送金で結果を出してくれ!」「その様に伝えます」「直ぐにかかれ!」Y副社長は秘書課長に命ずると、ため息を漏らした。「しぶといなDBめ!だが、いくら足掻いても抜けられはせん。そろそろ諦めろ!」Y副社長は、FAX用紙をシュレッダーにかけながら呟いた。

R女史は、順調に回復しつつあった。無菌室からICUへの引っ越しも済ませ、容態も薄皮を剥ぐ様に日に日に良くなっていた。面会はまだ先だが、固形物を食べられる様になったのは大きな前進であった。ただ、彼女にはどうしても早急に確かめたい¨事案¨があった。Kから依頼されたDBの¨行方¨である。T女史に引き継ぎせざるを得なかったが、彼女は一刻も早く結果を知りたかった。¨もし、DBが不当に扱われているとしたら、早急に救済しなくては!¨彼女の悪いクセである焦りが、見え出していた。「後、どの位で面会出来る様になるの?」「まだまだ先!やっと菌をやっつけたばかりよ。体の消耗は予想以上に深刻なの。充分に抵抗力が付くまでは、ICUからは出せないわ!」ミセスAは透かさず釘を刺す。「ともかく、貴方の体は疲弊しきっているの。変に焦って元の木阿弥だけは、避けなくちゃ!奇跡的に助かった命なんだから、大事にしないとみんなから叱られるわよ!」「お願いだから、1人だけ面会を許可して下さい!」R女史は懇願する。「仕事がらみ?それとも他の事?いずれにしても、外部との接触はダメ!どうしてもって言うなら、電話しか許可出来ませんよ!それよりも、まずはしっかり食べて置かないと。はい、昼食です。残さず食べて頂戴!食べたらコールを押して」ミセスAは有無を言わさずに押しきった。「うーむ、敵もさるモノ。中々手強いわね。どの道、ベッドから自力で起きあがらなくては無理か?!」R女史は白旗を揚げるしか無かった。

「これは・・・、どう言う事なの?」M女史は絶句した。一通り事務所の財務諸表に目を通した彼女は、我が目を疑った。「嘘偽りのない数字でございます。表向きは“何の問題も無い事”になっておりますが、裏を返せば借財が年々膨れ上がっております」説明をしたベテラン弁護士の顔も青ざめている。「虚偽記載は、何年前からなの?」「5年前からでございます。昨年からは、財務面での立て直しを名目に“月次ノルマ”が導入され、弁護士達も窮屈な仕事を強いられてまいりました・・・」「これは、表立っては出されてはいないわよね?」「はい、公式には発表しておりません。お嬢様!この際、経験の浅い弁護士に事務所を移ってもらう訳には参りませんか?」「いいえ、馘首はしません!Sは人を見る目は曇っていないはず。有望な人材を手放すなど愚の骨頂!適材適所に配置し直せば、利益は上がるはず。1人の馘首はなりません!」M女史は断固として言い放った。「まず、当面の資金の手当てをしなくては。売り捌ける不動産や資産はあるの?」「S氏の自宅マンションぐらいでしょうか。ベンツは3台ありましたが、いずれも最早売り物にはなりません。廃車にして、余計な経費を浮かせなくてはなりません!」「そうなると・・・、“あれ”しかないわね!ミスターJに相談して見るわ!」彼女は直ぐさま携帯を取った。数分のやり取りの後「分かりました。夕方には用意を済ませてお待ちしております」と言って携帯を切った。「サイバー部隊が使っていた専用サーバーをミスターJに差し出します。夕方までに端末を含めて積み出しの用意をして置きなさい!」「はい、何をお売りになるのですか?」「Sが裏で集めた“情報”を切り売りします。選別と捌きは、ミスターJに依頼しました。当面の当てはこれしかありません!」M女史は前を見据えて言った。「直ぐに方針を転換しても、利益が得られなければ雪だるま式に借金が増えるだけです。まず、Sの路線を縮小して継続事業として1本。私の顧客を移して拡大路線で1本。残りは新規事業で1本。3本の柱で再建を目指します!夕方までに弁護士の再配置を決めましょう!彼らの経歴書を持って来なさい。私が適性を判断します!」「はい、直ぐにお持ちします」ベテラン弁護士は、アタフタと社長室を辞して行った。「割れた鍋でも手をかければ料理は作れる!作り手が誤らなければ・・・」彼女はひたすら前を見据えていた。

「ミスターJ、只今戻りました」“スナイパー”が横須賀から戻った頃には、部屋はガランとしていた。ノートPCが2台とプリンターが1台残っているだけだった。「ご苦労だったな。中佐の機嫌はどうだった?」ミスターJが誰何する。「3人の部下の取り調べで忙しそうでしたが、“贈答品”は殊の外気に入った様でした。それで、我々を招待したいと言ってきましたよ!」“スナイパー”が白い封筒を差し出す。蝋で封印された白い封筒には、クレニック中佐のサインが記されていた。「ほう、ご招待とは、どう言う風の吹きまわしだ?」ミスターJは封を開けると中身を読んだ。「ふふふふ、余程我々の事が気になるらしいな。明日の夜に“法務部”でパーティーを開催するから、出て来いと言って居る」ミスターJは笑みを浮かべて、コーヒーカップを手にした。「どうします?」“スナイパー”が問いかけると「面白い、応じてやろうじゃないか!何をご馳走してくれるかな?」カップをソーサーに戻しながら言った。「護衛はどうします?」「お前さんが居るだろう?」「じゃあ、出向くんですか?」「ああ、1年半ぶりの再会だ。どれだけ“切れ味”が増したか?この目で確かめに行こう!」ミスターJは本気だった。携帯を取り出すとメールを1通作成して送信した。「出席の返事は出した。明日の夜は愉しいパーティーになりそうだ」「本当に行くんですか?向こうが何を考えているかも分からないんですよ!」“スナイパー”は心配して止めにかかる。「だから行くんだ。中佐の本心を直に聞くためにな!」「N坊とF坊を呼びましょう!私だけでは手が足りません!」「その必要はない。何故なら“危険はない”と言えるからだ。基地外ならば用心も必要だが、基地内であるなら敵意は無いと言ってもいい。逆に我々の正体を根掘り葉掘り聞きたがるだろう。友好的な話し合いになるだろうよ!」ミスターJは意に介す風は無い。「それよりも“スナイパー”よ、隠しカメラとレコーダーが必要だ!この手の“小道具”は万が一に備えて置いて行ってもらってある。青いトランクを開けてみろ!」ミスターJは小さなトランクを指さした。“スナイパー”がトランクを開けると、文房具が出て来た。「万年筆にボールペン、ネクタイピンしかありませんぜ?」「それが隠しカメラとレコーダー一式だ。NとFが作った特製のヤツだ」「えー!取説が無いと分かりませんぜ!」「一見しただけでは、分からない。だから“隠し”が付くんじゃ!頃合いを見計らって八王子に連絡して使い方を確認して置け!今回は絶好のチャンスだ。隅から隅までデーターを集めて保管するぞ!」ミスターJは、ニコニコと笑って言う。丸で子供の様に。“スナイパー”は口をへの字に曲げて考えていた。