limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

New Mr DB ⑭

2019年01月10日 13時40分56秒 | 日記
東京都内某所、午前0時。¨機動・遊撃合同部隊¨12名が¨黒のベンツ¨2台を奪取すべく自動車修理工場周辺へ展開を完了していた。大通りから1本入った工場周辺には、住宅も少なく人影も無かった。ユニック付きの3軸車をどうにかねじ込むと、いよいよ¨黒のベンツ¨を吊り上げる作業の準備が開始された。同時に2名が事務所をこじ開けて、ベンツの鍵の捜索を始めた。厄介な事に、ベンツは専用の電子キーが無くてはエンジンが始動しない!盗難防止処置の範疇だが、是が非でも探し当てなくてはならない代物だった。幸い、鍵は直ぐに発見され、解錠確認後に車内へ放り込まれた。次なる獲物はリアシートだったが、工場内の奥で無事に確保された。撹乱波発生機を搭載する際、取り外されていたがシートが無くては車検を通れない。これも、それぞれの車内へ移された。ワイヤーを回していよいよ吊り上げにかかろうとした時、クレーンを操作していたオペレーターは¨違和感¨を感じて作業を中断した。「どうした?」「いや、何だか妙に重いんだ!2トン前後と踏んでたんだが、2トン以上ある可能性がある!キャリアカーの積載能力を越えるかも知れん!」「だが、置いて行く訳には行くまい!強引に載せるしか無いぞ!」「そりゃそうだが、¨基地¨への回送は無理だ!サスのスプリングがイカれて、走れなくなる!」「時間が無い!八王子までなら何とか持つだろう?¨司令部¨へ持ち込んで判断を仰ごう!」「仕方ない。リーフスプリングが折れない事を祈るしかないな!」オペレーターは、慎重に吊り上げを行うと車体をゆっくりとキャリアカーへ載せた。荷台は大きく沈み、サスは軋みを上げた。2台目は、余裕がある3軸車なので不安は無かった。ワイヤーを収納している間に、荷台は灰色のシートで覆われベンツと荷台の金具はワイヤーで固定された。「おい、パトカーがうろちょろしてる!暫く待て!」大通を監視している隊員から、待ったがかかった。男達は再度荷台を点検し、シートの張り合いを調整した。「3軸車はいいが問題はキャリアカーだ。下手にハンドルを切れば横転しかねん!前後を固めてもらう必要性があるな!」「そうだな、80mくらいの車間は欲しい!キャリアカーは¨亀さん走行¨で行くしかないから、3軸車が最後尾で万が一に備える格好がいいだろう」隊員達は隊列を相談しながら、ルートを探った。深夜とは言え八王子までには幾多の¨関門¨が待ち構えていた。「そろそろ出よう!パトカーはやり過ごした。一刻も早く脱出だ!」監視をしていた2名が走って来た。「キャリアカーは俺が運転する。載せたヤツが責任を取るのが筋だ」クレーンオペレーターが手を挙げた。「じゃあ、3軸車はこっちで何とかしよう。先頭を走るセダンは、障害になりそうなモノを逐一トランシーバーで知らせてくれ!とにかく¨急の字¨が付く行為は厳禁だ!怪しいヤツがあったら停車して肉眼で調べてくれ!じゃあ、出発だ!」ゆっくりと4台の車両は大通へ出た。隊列を整えると、一路西へ進路を定めた。「頼むから、持ちこたえてくれ!」キャリアカーのハンドルを握る手は汗ばんでいた。

時間は少し戻って、午後9時。9台の端末からあらゆる¨情報¨を吸い出した¨シリウス¨とN坊とF坊は、3台の端末を¨娯楽化¨し始めた。「どうせなら、対戦型にしよう!モニターだって余ってるんだ。そうすりゃあ6人が同時に暇潰しに遊べる!」N坊が提案すると「それ、いいな!どうせ役には立たない代物だ!有効に活用させて貰いましょう!」¨シリウス¨も同意して、DVDの山を広げる。「お前、幾つ¨ゲーム¨を用意してるんだ?カネ掛けてるねー!」とF坊が驚きを隠さずに言うと「心配ご無用!全部裏ソフトだ!商売上、駆除したヤツを修正してあるだけだから、元手は0円さ!」と涼しい顔で¨シリウス¨が返す。「ほぇー!マジかよ!正規で買ったら・・・」「軽く10万は飛んでくな!」さらりと¨シリウス¨は流す。「それより、マシンはどっちを選ぶ?DELLかレノボか?」N坊が聞く。「まあ、¨ゲーム¨に拘るなら、レノボで行こう!チップセットもDELLより処理能力が高いし、丁度3台揃ってる。公平かつ健全な遊びには、差を付けないのが原則だ!」F坊が主張して、それが通った。「N坊、超小型TVチューナーはあるかい?」¨シリウス¨が聞く。「あるぜ!光TVのダミーチューナーも。それをどうする?」「リーダーが時代劇ファンなのを忘れてないか?息抜きの為にもTVは必要性があるぜ!」「あー、そうか!その手を忘れてちゃいかんな!車から降ろしてくるよ」N坊が動き出そうとすると「ついでに変換アダプターセットも頼む!」とF坊が叫ぶ。「あいよ!」夜の駐車場へN坊は走って行く。「さてF坊、片っ端から¨ゲーム¨を入れていってくれ。調整は後でやる。全部で30枚、これだけでもかなりの手間だ!N坊にはTVのセッティングを頼もう」「分かった。終わったらツインモニターのセッティングと配置にかかるよ」F坊はDVDの山を片っ端からロードさせていく。N坊は駐車場から戻ると、筐体を開けて拡張ボードの取り付けを始めた。¨シリウス¨は、適当な机を選んで¨遊戯場¨の設営を済ませると、¨ゲーム¨の調整にかかった。午後10時頃には、曲がりなりにも¨遊戯場¨が完成した。TVの設置も何とか間に合わせた。パーテーションを置いて玄関から見えない様に仕切ると、それらしく仕上がった。「3階から誰か引っ張って来るか?」F坊が3階へ行くと、リーダーと起きて居た4人がぞろぞろとやって来た。「お!いいね!これタダで遊べるのか?」「選り取り見どりだぜ!対戦もご自由に!リーダーは、こっちへどうぞ!」N坊が恭しく案内をする。「おい、見たい放題か?」光TVを前にリーダーは垂涎ものだった。「ミスターJには内緒でお願いしますよ。あくまでも、¨情報収集¨が目的ですから」N坊はそれとなく釘を刺す。「画面がデカイと迫力が違うな!これならパケ代を気にしなくていいね!」「やっぱりこうでなくちゃ!」4人は夢中で遊び出した。「¨シリウス¨、N、F、良くやった!だが、ミスターJには言うな!俺も今回は目をつぶる!」リーダーもご満悦だった。「やれやれ、¨遊戯場¨はこれでいいな。俺達も一休みしよう。次は¨本丸¨へ突入だ!」F坊が缶コーヒーを配った。「まずは、サーバーと御対面だが、ノートPCを繋いで¨ゲーム¨を駆逐しなきゃならん」「片足を突っ込んだだけだから、大した手間じゃ無い。問題は¨情報¨を調べて¨基地¨へ転送するのと、仕分けをしなきゃならん事だ!」¨シリウス¨の表情は硬い。「闇雲に入れてあるか?整然と区分けされてるか?使ってたヤツの性格を知りたいな!」N坊がぼやく。「まあ、開けて見てのお楽しみだ!楽が出来そうなら仮眠が取れる」F坊は前向きだった。「じゃあ、行きますか?」¨シリウス¨の一声で3人はサーバーを運び上げて行った。夜戦はこれからが本番だった。

時間を戻して、午前2時。¨機動・遊撃合同部隊¨は、時速30キロ前後をキープしながら八王子を目指して必死に西へ移動し続けていた。23区からは抜け出したものの、予想外の¨重量物¨を積載したキャリアカーのペースは中々上がらなかった。と言うよりは¨無理が出来ない¨状況に陥って居た。「先発車両より入電!2キロ先で夜間舗装工事区間を確認!路面は簡易舗装。工事区間付近に段差4cmから5cmあり!マンホール多数!現在、迂回路を調査中!後続車は停車されたし。我々も先行して状況を確認します!」先頭車両もスピードを上げて確認へ加わるべく走り去った。キャリアカーと3軸車は、路肩に停車して連絡を待った。「今の内にサスの点検をしよう!少し前に嫌な音がした。マズイ事になってなけりゃいいが・・・」キャビンから2人が降りて、リアサスを調べる。3軸車からも1名が脱兎の様に走って来た。「どうした?やっちまったか?」「悪い予感は的中してるぜ!左後輪のリーフスプリングが1枚折れてる!右側も亀裂がある!ヤバいなこれは」「それにしても、呆れる重さだ!フツーの4ドアセダンじゃ考えられないぜ!」「八王子まで後どのくらいある?」「丁度中間点を過ぎた所だ。朝までに着けるか微妙だな」「問題は、この先の工事区間だけじゃ無い。アップダウンや橋梁の継ぎ目、カーブも乗り越えなきゃならん!だが、このサスの状況とエンジンの負荷を考えると、間に合わない可能性も考慮しなきゃならない!」「手が無い事は無いぜ。危険を覚悟の上で3軸車を先行させて¨司令部¨に荷を降ろしてから、引き返して来てキャリアカーから積み直せばいい。先行してる2台を護衛に着ければどうだ?」「職質にかかったらイチコロだが、どうやらその手を真剣に考える必要はあるな!」隊員達は、急遽作戦の変更を考慮して、決断を迫られた。その時、先行していたセダン2台が戻って来た。「迂回路は無い!明後日の方向へズレて行くしか無いが、時間がかかる!」「そうなると、尚更3軸車を先行させる案を取る必要性が高まるな!みんなを集めてくれ!」合同部隊12名は、急遽呼び集められた。キャリアカーのリアサスの状況を見てもらい、現状で時間を計算すると朝までに八王子へ着くのは微妙だと告げ、3軸車先行論を話し合った。「後、800m走れば、駐車帯があるし、中央分離帯にも切れ目がある。そこまで走って待つのはどうだ?路肩にハザードじゃあ職質はあり得るが、駐車帯に居れば少しはリスクを回避出来ないか?」「今より、格段に安全性は上がるな。待つ身は辛いが、半身不随の状況では贅沢は言えない。みんな、じゃあ3軸車先行で行こう!」隊員達は頷くと各車両へ散った。3軸車は勢い良く走り出して一路八王子を目指した。何しろ時間との戦いだ。尻に帆を掛けて先を急いだ。キャリアカーと2台のセダンは、800m先の駐車帯へ滑り込んだ。「エンジンは切らないのかい?」「水温計を見てくれ!焼ける一歩手前だ。今、エンジンを切れば確実に焼けて動かなくなる。キャビンを上げてエンジンを冷した方がいい」確かに水温計の針は危険域の手前にあった。キャビンを上げると熱気が拡散するのが肌で感じられた。「何か飲み物でも仕入れてきますか?」「近所にコンビニはあるかい?」「南に300m歩けばあります」「じゃあ、悪いがお茶を1本頼む」「了解です」隊員はオーダーをまとめると、コンビニへ歩き出した。「それにしても、此処まで良く持ちこたえてくれた」キャリアカーのボディーを叩いて、せめてものねぎらいを言う。後は待つだけだった。

同時刻のベトナム、ハノイ。日本とは2時間の時差があるので、日付を跨いだ頃になる。DBは、意識を取り戻しつつあった。アメーバ赤痢による下痢は治まり、胃と腸の痛みからも解放されていた。¨俺はどのくらい意識を失っていたんだ?¨ボンヤリとした意識下で考えるが、薄暗い地下空間では判然としなかった。やがてクレゾールやアルコールの匂いを感じ取れる様になり、手足にも力を入れられる様になると、次第に記憶がよみがえった。¨便座から転げ落ちてから、何があったんだ?¨DBはベッドから半身を起こすと、周囲を見回した。¨メガネはどこだ?¨必死に周囲を探るが、メガネは無かった。よろける様にテーブルの上も探るがメガネは見当たらない。¨まさか、目を封じ込めるつもりか?¨DBは近視の上に老眼が重なっているので、メガネを奪われる事は¨失明¨に等しい致命的なダメージになる。監視カメラとレーザーは、DBを自動的に追尾しているはずだが、ボンヤリとした光にしか見えない。DBは焦ってベッドへ戻って、必死に目を凝らすが輪郭を捕らえる事は無理だった。¨視覚を奪うとは、ヤツらも考えたな。だが、隠した紐は気付いてはいまい¨ウレタンシートの下、段ボールの箱の中を手探りで探すと、竹で編んだ紐が手に触れた。DBは微かに笑みを浮かべると、ベッドに身を横たえた。体力を温存するためだ。¨下痢で大分痛めつけられたが、まだチャンスはある!暫くは回復を図るか?¨DBが警戒を怠った次の瞬間、天井のレーザー発射口が煌めき始めた。「レーザー出力MAXマデ上昇!警告!隠シタ紐ヲ出セ!サモナクバ一斉射撃ヲ開始スル!」合成ボイスは情け容赦はしないと告げた。「ちっ!」DBは舌打ちをすると、竹紐をダンボールのテーブルへ投げた。「欺クナ!マダアルハズダ!違背ハ許サヌ!!」合成ボイスは、まだ疑いを抱いていた。「抜け目のないヤツめ!」DBは止む無く隠していた竹紐を全部放り出す。そこへレーザーの一斉射撃が集中する。MAXまで上げられた出力は一瞬でテーブルと竹紐を煙に変えた。“クソ!また1からやり直しか!!”DBは流石にゲンナリとした。「DB!治療薬を与エル!直グニ飲メ!」フラフラと配膳口へ向かって、紙コップの液体を飲み干すと再びベッドへ横たわる。“うぬー!諦めんぞ!必ずや・・・”と心の中で呟いているとフッと意識が遠のいた。DBはまたしても眠らされたのだった。朝になって録画を確認した事業所長は「竹紐を隠し持っていたとは・・・、懲りないヤツだ!だが、視覚を奪った上に睡眠薬で眠らせれば、“イタズラ”をする暇もあるまい」と呟いた。「所で、赤字は解消されたのか?」「はい、100万円が送金されましたので、埋める事に成功しました」と部下が答えた。「赤痢に感染したのは、こちらの落度だがDBの意思を削ぐ効果はあったと見ていいな。今後は、なるべく眠らせて時間感覚を更に狂わせろ!本社の指示にもあったが、後半月が勝敗を分ける。DBの意思を折りさえすればいい!どの道、出口をこじ開けるのは不可能なのだからな!」「睡眠薬も大量に送られて来ています。策は図に当たると思います。寝ていてくれれば、食費も抑えられますし赤字になるのも回避できるかと」「うむ、DBの賃上げも決まった。予算的には少しでも余裕が必要だ。上手くコントロールしてくれ!」モニタールームからデスクに戻った事業所長は、改めて本社からの指示に目を落とした。「これで上手く行かなかったら、責任問題に発展しかねん!心してかかれ!」「はっ!」部下は事業所長室を辞して行った。

大急ぎで日本に引き返して、午前3時。八王子“司令部”。“シリウス”はサーバーのデーターを検証していた。心配された“ゲーム”の駆逐とサーバー内のデーター保存状況は、共に問題なく解決を見ていた。データーは、カテゴリー毎に自動的に振り分けられる様に設定されており、フォルダ毎に整然と格納されていた。“ゲーム”の駆除も早々にケリが付けられた。今、“シリウス”が取り組んでいるのは、“基地”のサーバーへデーターを転送するための予備作業だった。「サーバーを設置して使ったヤツは、余程几帳面なヤツだな。呆れるくらい綺麗に片付いてやがる。さて、遠隔は繋がったままだから、“基地”のサーバーに領域を確保して、転送を開始するか!」“シリウス”は慣れた手つきでキーボードを叩くとデーター転送を開始した。「はい、よしよしよし、これで最低3時間は仮眠出来る。N坊と交代だ!」“シリウス”はN坊を起こした。「うんぁー、“シリウス”時間か?」N坊が半寝ぼけで言う。「データーの転送を開始した。ウォチしててくれ。俺は暫く寝かせてもらうよ」「了解!目覚ましを午前6時にセットしといてくれ!F坊を起こすには1台でも多い方がいい」N坊はPCの前に座るとそう告げた。「コーヒーは後ろにあるし、食料は3階に残ってる。腹が減ったら食べてくれ」“シリウス”が寝袋に潜り込みながら言う。「あいよ!おやすみ!」N坊は“当直”に着く。“シリウス”が寝息を立て始めた頃、リーダーが3階からそっと降りて来た。「どうだ?」「今、“基地”のサーバーにデーターを転送していますよ。朝までには完了します」N坊が答える。「そろそろ、連絡が入ってもいい筈なんだが、“合同部隊”から何か言って来てるか?」「携帯に着信はありませんね。メールも無し」「何かトラブルでもあったのかも知れん!」リーダーは携帯の画面を目で追う。その時、外で大型トラックが止まる音が響いた。「戻って来たのはいいが、何があったんだ?」リーダーは慌てて外へ飛び出した。「どうした?“基地”へ向かったんじゃないのか?」リーダーは声を抑えて誰何する。「実は、奪取した“荷物”が途轍もなく重くて、キャリアカーの積載能力を超えてしまいました。無理矢理走って来ましたが、途中でリアサスのリーフスプリングが折れて、立ち往生してしまいました!これから“荷物”を降ろして救援に向かいます!」3軸車の隊員達から悲痛な声が返って来た。「重いってどの位あるんだ?」「2.5t以上はあるかと。ともかく尋常じゃあありません!」「それじゃあ“装甲車”と変わらんと言うのか?」「ええ、正に“装甲車”そのものと言ってもいいです!」「化け物か?!キャリアカーは何処に居る?」「“司令部”までの中間点付近です!」「分かった。ともかく至急救援に戻れ!夜が明ける前に“司令部”へ回送しないと厄介な事になるぞ!」リーダーの声が擦れた。「“荷物”は事務所の脇に降ろせ!後で入れ替えればいい!一刻も早くキャリアカーを助けに戻れ!」リーダーは荷下ろしを手伝うと3軸車を直ぐに引き返させた。「夜明けまでに必ず戻れ!」「了解!」3軸車はあたふたと来た道を引き返した。リーダーは“荷物”の中に潜り込むと、車検証を探した。探し当てた書類に目を通すと驚愕の数字が書かれていた。“車重2950kg”「化け物だな・・・、キャリアカーがエンコするのも無理はない!コイツを運ぶ前に、キャリアカーをオーバーホールに出さなきゃならん様だ!」リーダーの顔は青ざめていた。「さて、この“荷物”をどうやって遮蔽するかを考えなくちゃならんな!“基地”への運搬方法も含めて再検討だ!」シートが捲れない様に慎重に養生をすると、リーダーは事務所内へ戻った。

それから30分後、キャリアカーのキャビンが降ろされた。「どうやらオーバーヒートは回避出来そうだ。だが、油温がどこまで下がったかは分からん。エンジンを止めたらアウトなのは間違いないだろうな」水温計の針は丁度真ん中を指している。冷却効果はてき面だった。だが、エンジンオイルの劣化具合は分からない。アイドリング音は明らかに変化したが、吉と出るか凶と出るかの賭けを選ぶ訳には行かなかった。「八王子から連絡!これから引き返してくるそうだ!」セダンの隊員が叫んだ。「もう少しの我慢だ。警察無線はどうだ?」「大丈夫、沈黙してるよ!ヤツらも寝てるさ!」「夜明けが近いが、ギリで間に合うな!」隊員達にも安堵の表情が広がった。「固定してあるワイヤーを緩めて置こう。ゆっくり作業しているヒマは無いぞ!」彼らは出来るだけ速やかに積み替えられる様に、準備を開始した。待つ事、更に30分。遂に3軸車が現れた。キャリアカーの盾となっていたセダンが移動し、脇に3軸車がピタリと寄り添う。手早くワイヤーが回され、吊り上げに入る。重さから解放された車体が軋む。キャリアカーは漸く身軽になった。「エンジンは大丈夫か?」「自走は可能だが、ゆっくり行かせてもらうよ。先に八王子へ急いでくれ!」3軸車の荷台には灰色のシートが被せられ、黒のベンツもガッチリと荷台に固定された。「じゃあ、悪いが急ぐんで先に出るよ!」3軸車は猛然と走り出した。「さあ、俺達も戻ろう!」キャリアカーも八王子を目指して前進を開始した。加速はゆっくりだったが、神経をすり減らす様なドライブではなくなった。ドライバーが、ふと後ろを見ると2台のセダンが追走して来る。「どうした?先を急げ!」トランシーバーで促すと「悪いが、お前さん達を見捨てて、先を急ぐつもりは無い。万が一の時、レスキューしなきゃ恩義を果たせないじゃないか!」と言って来た。「みんながキャリアカーに救われてる。今度は俺達が助ける番だ!」「済まんな!お世話にならんようにするつもりだが、万が一の時は宜しく頼む!」3台は一団となって西を目指した。微かに夜明けの気配が感じられる時刻だった。

午前5時、大隊長は携帯の着信で目覚めた。周囲は明るさを増しており、日の出は間近だった。「はい、おはようございます」「大隊長、朝っぱらから済まんな。そっちに擬装網はあるかい?」リーダーは直ぐに用件に入った。「ありますよ。大きさは4軸の大型トラックも覆えるぐらいですが」「それを大至急、八王子へ届けて欲しい。厄介な“荷物”を預かるハメになったんだ」リーダーは“黒のベンツ”の件を大急ぎで説明すると、擬装網で覆って隠す必要性を訴えた。「分かりました。擬装網を積んだトラックを至急回送します。展開の方法はドライバーが知ってます。今から叩き起こして向かわせますから、午前8時まで時間を下さい。ええ、こっちは異常ありません。では」携帯を切った大隊長は、中型トラックのドアを叩いてドライバーを叩き起こした。「どうしました?こんな朝っぱらから?」「擬装網を八王子の“司令部”へ届けてくれ!厄介な“荷物”を隠すんだ!」「分かりました。到着予定時刻は?」「午前8時と言ってある。それよりは早く行けるな?」「了解です。じゃあ、一っ走り行って来ます!」中型トラックは直ぐに発進した。「ベンツで約3tとは、どんな化け物だ?」大隊長も首を捻ったが、想像は付かなかった。朝日が顔をのぞかせた。清々しい朝の光が煌めいていた。