limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

New Mr DB ⑯

2019年01月20日 10時28分46秒 | 日記
M女史は、Sのマンションに急行すると早速金庫を開けて、預金通帳を調べ始めた。「何よこれは?!」そこには半年前から100万円単位で、見知らぬ組織・会社からの入金があった事が記されていた。預金額は、3000万円近くありM女史も初めて目にするものだった。彼女は携帯を手にすると、ミスターJを呼び出した。「ミスターJ、今、Sのマンションで預金通帳を調べたのですが、見知らぬ組織・会社からの入金が3000万円近くあります!」「やはりそうか、時期は何時からになっている?」「半年前、サイバー部隊を設立した頃からです!」「姉さん、言うまで無いが、そのカネに手を着けてはならん!金庫の中に封印するんだ!恐らくSが不正な手口で手にした裏ガネだ!ただ、通帳のコピーを八王子へ送って欲しい。悪いが至急FAXかメールを寄越してくれ!」「分かりました。Sの手がここまで汚れていたのは残念です。ここで見た事は一切口外しません。後始末はお任せしても宜しいですか?」「最善の策を考えて見よう。後腐れの無い様に始末を着けられる様にな!」「申し訳ありませんが、宜しくお願いします!」彼女は携帯を切ると、通帳のコピーを取ると八王子へFAXを送信した。「Sの汚れた手、拭う事は出来るのかしら?」彼女の心は重かった。

ミスターJとU法律事務所の社長が八王子の¨司令部¨に着いたのは、ほぼ同時だった。¨スナイパー¨を伴った3人は、2階へ向かった。N坊とF坊と¨シリウス¨の3人が出迎える。「FAXかメールは届いているか?」ミスターJは挨拶抜きで誰何する。「FAXが来てます。通帳のコピーの様です!」N坊が用紙を差し出す。U事務所の社長とミスターJは早速目を通す。「¨ブルードラゴン¨に¨四宮興産¨と¨博多総業¨か、その他も皆¨例のヤツ¨だな」「ええ、名だたる所は全部ですな。裏社会が表に開けた窓口ばかりだ!」2人は唸った。「¨ブルードラゴン¨って、青竜会の事ですか?」F坊が聞くと「ああ、そのものズバリだ。Sのヤツが裏社会と不正取引を行っていた動かぬ証拠だ!」ミスターJがサラリと流す。「R女史に関する情報は、全てプリントアウトしてあります。Sのヤツ、結構頻繁にハッキングを繰り返していた様です」¨シリウス¨が紙の山を指差して言う。「主な内容は何だ?」ミスターJが尋ねる。「それこそ、弁護士活動から事務所の経営状況まで多岐に渡ります!手に入る情報は根こそぎ持ち去ってますよ!」「成る程、あらゆる事を掌握していたと言う事か。社長!Kに関する情報もSが売り渡した公算が高いな!10日前に入金がある。¨四宮興産¨からだ!」「そうですね、しかしマズイな。警察や刑務所にこれが漏れたらM女史に類が及ぶ!ミスターJ、どうします?」U事務所の社長の顔が曇る。「現状では隠蔽するしかない。Kを襲ったのはR女史達では無いのは、顔写真で証明出来る。暫くは犯人不明で押し通すしかあるまい。下手な通報は出来ないし、Sは横須賀に釘付けだ。五里霧中にして置くしかあるまい!そうしないと、M女史もR女史も不利益を被るだけだ!」「では、我々だけが承知しているだけに止めて黙殺しますか?」「それしかあるまい。Kに対して情けを掛ける義理は無い。ただ、Sに有無を言わさない材料として使う事と、“ドクター”には一報を入れて置くか。どの道、治療に関して、泣き付く先は“ドクター”しかおらんのだからな!」と言うとミスターJは、携帯を取り出して素早くメールを打ち込んで送信した。「¨スナイパー¨、お前さんは¨車屋¨と連絡を取って¨黒のベンツ¨の鑑定を始めてくれ!N、F、¨シリウス¨、それでは¨情報の精査¨を始めよう。社長、一緒に判断を決めてくれ」「では、¨情報¨を画面に出します!」¨シリウス¨がキーボードを叩いて閲覧画面を出す。「手元の目録を参考にして下さい。情報は多岐に渡ります」5人は画面を見つめた。膨大な情報の仕分けが始まった。

同時刻、某県の某警察病院。Kが救急搬送されてから、3時間が経過していたが医師達は発症の原因を突き止められずに焦っていた。X線・CT画像・血液・尿いずれもオールネガティブ。Kに何が起こっているか?全く想像もつかなかった。唯一の手掛かりは、蚊の死骸だったが、研究機関からの回答はまだ届いていなかった。「取り敢えず、酸素マスクの装着と点滴で体力を維持するしかないな」「画像診断でも異常は見当たらない!原因は何だ?」「何か見落としている点は無いか?」医師達は、必死にX線・CT画像に目を凝らした。「おい、蚊の死骸についての報告が来たぞ!」研究機関から電子データーが送信されて来た。「南米産の蚊らしいな。日本には生息していないタイプだそうだ。それと、顕微鏡写真があるが、蚊の死骸をすり潰して、沈殿物を拡大した様だが、こりゃなんだ?非常に小さな小虫が写ってるぜ!」「だとすると、寄生虫か?」「だが、そんなのどこの画像にも写ってないぞ!」「だけど、1つはっきりしたな。Kは寄生虫に取り付かれたんだ!」「だけど何処に居るんだよ!」医師たちの混乱は更に加速してしまった。その時「どこかで聞いたことがある様な気がする。何年か前に生物テロで、暴力団の組長が死亡した事件が無かったか?」「ああ、確か福岡だったよな。結局組長は死亡したはずだが、あの時も蚊が絡んでなかったか?」「うーん、あった様な気もするが、死体検案書とかカルテが無いと何とも言えんな・・・」「“あの人”なら知ってるかも知れない!」1人の医師が声を上げた。「N県警の監察医の先生だが、名前をど忘れしてて、出て来ないけど・・・」「確かに“あの人”なら、全国の特異な症例に詳しいけど、でも今頃はヨーロッパの学会へ行ってるはずだぜ!アイスランドの火山爆発の影響で、空の便は飛ばないはずだ。国内には居ないかも知れないぞ」「けれど、携帯は繋がらないか?手掛かりを得るにはそれしかない!」「望みは少ないが連絡して見るか?番号はN県警に聞けばいい!」1人が受話器を取り上げる。“あの人”とは、言うまでも無く“ドクター”の事だった。

“スナイパー”は、“司令部”の駐車場片隅にある“黒いベンツ”を調べ始めた。“化け物”と呼ばれるその由縁に関しては、彼も知るよしも無い。擬装網を潜ってベンツと相対すると「よう!また会ったな!」と声が出た。正しく、首都高で“ドクター”が簡易火炎瓶をお見舞いした相手であった。ワイパーのゴムは焼け爛れてはいたが、大したキズは負っていない。「流石に装甲ベンツだな。かすり傷で済んでやがる。どれどれ、中を見せて貰うか・・・」“スナイパー”はドアを開けて車内へ潜り込む。重々しいドアだった。閉める時の感覚も明らかに違う。「やはり只者じゃない。エンジンのチューニングも量産車とは別物だろうな。V8のツインターボだが、ブースト圧の設定はいじってあるはずだ!」彼は車内から出ると、外観を調べた。1台は左側に擦り傷と後部バンパーに若干の凹み。もう1台は、前面ヘッドライトが割れていた。「派手に事故った割には損傷が軽微だ。普通の仕様なら、こんな掠り傷で済む訳がない!」ボディの各所を叩いても重々しい音が返って来る。「鋼板の厚みが半端じゃない。中を想像するだけで恐ろしくなるぜ!」“スナイパー”の顔から血の気が引いた。彼は携帯を取り出すと、“車屋”を呼び出した。「“車屋”、今、大丈夫か?」「丁度、キャリアカーの部品の手配が終わったとこだ。“スナイパー”ベンツはどうだい?」「空恐ろしいぐらいの重装甲だ!エンジンも只者では無いな。機銃が無いのが不思議なくらいだ!」「“シリアルNo”は確認できたかい?」「ああ、運転席の前にある。これで修理パーツの有無は確認できるな?」“スナイパー”はナンバーを読み上げる。「了解!早速メーカーに問合せて見るよ。多分あるはずだ。それで、2台をどうする?」「俺は“ネット・オークション”に出せばどうかと思うが、お前はどう思う?」「うん、妥当な線だね。1000万円から始めても、応札はあると思うよ。標準車を買ってから“AMG仕様”にグレードアップする人がいる世界だからね。マニアだったら手燭を伸ばす可能性はあるだろうよ!」「よし、その線で行くぞ!写真は後から送る。出品の用意は任せるから、直ぐにアップ出来る様に準備を始めてくれ!」「分かった!3軸車が着く前に済ませて置くよ。訳ありだけど、希少車である点はセールスポイントになる。最低でも2台で2500万円は狙いたいな!」「いい線だ!どこまで+αを積めるかになるな!」「なるべく、引っ張って見るよ。落とし処は難しいが、1円でも高く売り捌いて見せる!」「任せるぜ!」「了解!」“スナイパー”は携帯を切ると、擬装網を潜って外へ出た。「さて、撮影をしなきゃならんが、どうするかな?」彼は、擬装網の端を掴んで暫し思慮に沈んだ。

「ふー、流石に疲れるな。Sのヤツがこれ程の“情報”を裏で握っていたとは・・・、もしこれが悪用されていたら、とんでもない事態に陥る所だった!」U事務所の社長が頭を抱えた。途中から起きて来たリーダーも加わったが、“情報”の仕分けには予想以上の時間が費やされた。“連合艦隊”のみならず、近隣県の複数の法律事務所の分まで含めると、データーの半分が“機密情報”としてブロックされる対象になった。「社長、一部は既に漏れ出していると思った方がいい。Sの預金通帳の入金記録を見ると、売り捌かれた“情報”も少なからずある!問題は、これからのセキュリティー強化の方針だ!対策は既に取っているはずなのに、これだけの“情報”が漏れだしている以上は“ザルで水をすくう様なもの”だよ。さて、どうしたものか・・・?」ミスターJは思慮に沈みかけた。「簡単ですよ!M女史の所のサイバー部隊に依頼すればいいんです!“侵入”した側なら、セキュリティーホールも当然知り尽くしているはずです。彼らに依頼すれば一石二鳥じゃあありませんか?」“シリウス”があっけらかんと言うと「そうか!中々の名案だ!社長の所と“連合艦隊”全てに依頼を出して貰えば、M女史の事務所も潤う。社長!どうだね?」ミスターJは膝を打ってU事務所の社長を見る。「もし、それが出来るなら歓迎します!正直な話、セキュリティー関係の経費は馬鹿にならないくらいのコストが掛かってます。“情報”と引き換えに手助けが得られるならば、否とは言う所はないでしょう!“連合艦隊”については、私から説得してもいい。その話、進めて貰えませんかね?」U事務所の社長も前のめりになった。「ならば話は早いに越したことは無い。早速M女史に依頼して見よう!」ミスターJは携帯を取り出すと、M女史を呼び出した。「姉さん、いい話がある!今、サイバー部隊に何を命じてある?」「事務所のセキュリティー強化をやらせてますが・・・」「彼らに新しい仕事を依頼したいと言ったら、直ぐに手は回るかね?」「新しい仕事ですか?!願っても無い話です!何をご依頼ですか?」「U事務所を含めた“連合艦隊”全体のセキュリティー強化だよ。そっちには“侵入”を果たしたプロが居る。各事務所の穴が分かっている専門家がな。その腕を“正しい方向”に使って、セキュリティー強化をやりたいのだよ。勿論、対価は支払う。件数は多いがやり遂げてはくれないかね?」「サイバー部門は、事務所再建の柱に位置付けています。是非やらせて下さい!罪滅ぼしと感謝の気持ちを持って事に当たらせます!」M女史は即座に同意した。「ありがとう。ちょっと待っててくれ。社長!明日からでいいかね?」ミスターJは誰何した。「構いませんよ。早ければ早い程いい!」U事務所の社長は、昼食として差し入れられた鮨桶を抱えながら同意する。「もしもし、聞こえたと思うが、明日U事務所へ早速、人を派遣してくれ!Sによる“情報漏れ”は深刻な事態だ。一刻も早い解決が求められている。“情報”の始末は決まったから、心配はいらん。済まんが明日から宜しく頼むよ」「分かりました。ご配慮感謝申し上げます。明日から誠心誠意努めさせます。では、宜しくお伝えください」M女史は謝意を伝えて電話を切った。「逆転の発想か!“シリウス”、災い転じて福となすとはこの事だな?」ミスターJの手元にも鮨桶が届けられた。「昨日の敵は今日の友とも言います。相手の隙を知り尽くした人間なら、その逆を考えればいい事です。少なくとも双方共に益があるならいいじゃないですか!」「お説ごもっともだ!所でデーターの転送はどうなっている?」「N坊とF坊がやってます。間もなく完了します!」“シリウス”も鮨桶を抱えている。「ミスターJ、サーバーはこれからどうするつもりです?」U事務所の社長が聞いた。「まず、HDDのデーターを消去して、暗号ソフトを使って完全にデーターを消します。それからHDDを本体から取り出します」「サーバー本体には、スタンガンを使って大電流を流し、回路をショートさせて完全に破壊します。メモリーにデーターが残っていてもこの段階で完全にガラクタになりますよ」「残ったHDDは、ドリルを使って穴を開けて、物理的に破壊します。これで完璧にサーバーは破壊されます」N坊とF坊が交互に説明した。「成る程、それなら後顧の憂いは無いですな。この世から完全に消し去る訳か。後は、今転送して貰っているデーターを消せばOK。Sも2度と利用できないですな!」鮨を平らげたU事務所の社長は、満足そうに頷いた。「ウチの連中は、中途半端な事はしない。破壊すると言ったら徹底的にやる!さて、残るはSがむしり取った現金の始末だが、社長、法的にはどうなる?」「隠し資産になりますからね、表沙汰には出来ません。税法上の処理も無理があります。何しろ“反社会勢力”からのカネですからね。当面は凍結して、動かさないのが一番でしょう。鼻から“無いもの”として金庫の奥深くに埋めて置くしかありますまい」「当然、Sの手には渡らぬようにか?」「勿論です。存在すらしないモノとして扱うしかないですね」U事務所の社長も歯切れが悪い。「ふむ、数十年は凍結して、次に危機的状況に陥った場合の保険にするしか無いか!M女史には“見なかった事にしろ”とは言ってある。Sの預金に手を付けるのは時期尚早だな。ただ、Sの手に落ちない様に細工を施す必要はあるな!」「ええ、手形か証書に換えて置く必要はあります。キャッシュカードで引き出せない様にするのが最善手でしょう」「その話は、私の方で進めて置こう。社長には“連合艦隊”にデーターを示して、破壊の同意を取り付けて貰いたいし、セキュリティー対策をM女史の事務所に依頼する様に説得をお願いしたい!」「否とは言いませんよ!みんなひっくり返って驚くでしょうが、自分達でやるには限界があります。コンサルタント料を抑えられれば御の字でしょう。そっちは、私が責任を持って当りを付けましょう!」U事務所の社長は自信を覗かせた。「お待たせしました。データー転送を完了しました!」F坊が報告する。「HDD2台になりましたが、間違いなくサーバーからは移動しました!」N坊も言う。2人の手元に鮨桶が押し込まれる。「社長、待たせて済まなかった。これで“機密情報”は抜き取られた。後始末は任せるよ」ミスターJはHDD2台を手渡した。「確かにいただきますよ。後の“情報”は、表沙汰にしても問題はありません。ご自由に始末して下さい!」社長はトランクにHDDを慎重に納めると、ミスターJと固く握手を交わした。「では、私は事務所に戻ります。鮨、ごちそうさまでした。ミスターJ、また何かあったら直ぐに連絡しますよ」「社長、お疲れ様。気を付けてな!」U事務所の社長は“司令部”を後にした。そして、入れ替わる様に“スナイパー”がデジカメを持って現れた。「この中の画像を“車屋”へ送ってくれ!ネット・オークションに使うヤツだ」デジカメは“シリウス”に手渡された。「“スナイパー”、どの位を狙っている?」ミスターJが聞く。「2台で2500万円です。当然+αは見込んでます!思っていたより損傷の程度が軽微なので、訳あり車ですが希少性で押し通せば行けると見込みました。“車屋”も同意見です!」「よし、1円でも高く売り捌け!2台の儲けにM女史の事務所の未来がかかっている。リーダー、“情報”の方も同様だ!なるべく高値で捌くんだ!」ミスターJが激を飛ばす。「了解です!何とかやって見ましょう!」リーダーも力強く答える。「“スナイパー”、そろそろ横浜へ戻るぞ。今夜はパーティにご招待を受けておる!遅刻は礼を欠くぞ!」ミスターJは急に微笑みを浮かべた。「承知しております。では、そろそろ戻りますか?」「誰か鮨桶の中身をタッパーへ移してくれ。“スナイパー”、悪いが握りは運転しながら食べてくれ。リーダー、私達は“前線基地”へ戻る。後は任せるぞ!」N坊がタッパーを差し出すと、ミスターJは階段を降り始めた。「写真を忘れないでくれよ!」“スナイパー”が一貫を法張りながら言う。「分かってるよ!残りは車で食ってくれ!ミスターJがお待ちだぞ!」リーダーが急かす。あたふたと車へ向かう“スナイパー”。やがてエンジンの咆哮が聴こえ、急激に音が高まった。「何かあれば随時連絡を入れろ!今晩のパーティが終われば“前線基地”も撤収する。あと少しだ。宜しく頼む」ミスターJがリーダーに指示を与えた。「分かりました。では、お気をつけて!」“スナイパー”の車は発進した。時刻は午後3時半になっていた。

2時間程時間を巻き戻して、午後1時半。Z病院の医局の片隅で“ドクター”は、遅い昼食を摂っていた。携帯を片手に持ちメールを読んでいた。“Kが原因不明の高熱を発して、警察病院に救急搬送された。発症の原因は不明。手掛かりは蚊の死骸の模様。緊急連絡に対応されたし”ミスターJが送ったメールだった。「蚊の死骸か。ふふふふ、福岡の生物テロの手口と同じじゃな!あの時は、司法解剖で寄生虫が原因と判明して居る。どうやら、厄介な相談が降って来そうじゃ!」“ドクター”は呑気に構えていた。「右肺上葉の内側、縦隔部にヤツは潜んでいるだろう。通常の画像診断ではまず写らないはすじゃ。ピンポイントで断層撮影でもしなれば、まず引っかからない。相手は恐らく“フィラリア”だろうな!Kに情けを掛ける筋合いは無いが、聞かれたら答えて置くか!」“ドクター”はソファーに寄り掛かると目を閉じた。ウトウトし始めたその時、携帯が震えた。見知らぬ番号が通知されている。「もしもし」“ドクター”が応答すると、案じていた通り某県某警察病院からであった。“ドクター”は症状と蚊の死骸の分析結果を子細に聞き取ると、おもむろに説明を始めた。「右肺上葉の内側、縦隔部をピンポイントで断層撮影してみなさい。そこに影が映っていれば、寄生虫が巣食っているでしょう!ええ、相手は恐らく“フィラリア”。肺動脈から繋がっている主幹動脈に食いついているはず。人工心肺を使って引き剥がすしかありませんよ。いずれにしても受刑者の体力勝負になるでしょうな。循環器のオペが出来る方は?ああ、それなら近くの大学病院へ至急搬送しなされ。心臓のオペが出来なくては無理ですな。術後管理もありますから、ともかく急いで搬送しなさい。はい、どうも」“ドクター”は電話を切ると「悪い予感は良く当たるものじゃ。だが、今回は手を貸さんぞ!Kに返す義理は無い!一か八か?執刀医に頑張って貰おうじゃないか。ふふふふ、お手並み拝見じゃ!」“ドクター”はICUへ向かった。R女史の容態を観察するためだ。「わしは、手一杯なんじゃ!」確かにそうだった。

日本時間同時刻。ベトナムハノイ現地時間、午前11時半。地下空間の“定期メンテナンス”は佳境を迎えていた。古くなったダンボール製のベッドは新調され、古いモノは解体方々徹底的な調査が実施された。言うまでも無くDBが隠し持っている紐の有無を確かめる為だ。すると、数種類の紐が発見された。「うーん、まだ隠し持っていたか!」事業所長がしかめっ面になる。「しかし、いずれも短いモノです。以前にレーザーで焼いた余りではないでしょうか?材質を見ると、最近製作されたモノではなさそうです」地下空間から報告が聴こえる。「一番最近は、竹製だったな。着衣って言ってもトランクスだけだが、破れや異変はあるか?」「大丈夫です。匂いが臭い事を除けば異常なしです」「よし!紐は始末しろ!新調してやったベッドのダンボールの積み方も充分に注意しろ。DBの“クリーニング”は進んでいるか?」「ええ、清拭方々見苦しいヒゲも切り取りました。後、20分下さい!クレゾールを洗い流して、アルコールを散布すれば完了します」「了解した。速やかに完結させろ!間もなく睡眠薬が切れ始める。DBが意識を回復する前に密閉しろ!」事業所長は時計を見ながら命じた。「眼鏡を取り上げたのは正解だったな。新規に製作された紐が見つからなかった事がそれを証明している」「もっぱら体力の温存に走っている様です。漸くイタズラをするのを諦めたと見ていいのでは?」「まだ、分からんが幽閉に慣れて来たのは確かだろう。所でBGMは決まったのか?」「はい、本社からの指示でDBの大嫌いなロックを覚醒中に流す手筈になっています。イラつかせて睡眠に専念させる計画です」「あそこは、防音にも対応している。それなりの音量で聴かせてやれ!神経が昂れば気力も削げる!」「CDは大量に用意してあります。今回からテスト的に使って見る予定です」「これで、責任問題も雲散霧消になるだろう。枕を高くして安んじて眠れそうだ」「そうですね。今日は午前中で社宅へ戻られますか?」「悪いがそうさせて貰うよ。ここ数週間夜中にDBとやり合ったツケが回って来たらしい。眠くてかなわん!」事業所長は大あくびをしながら言った。「DBも悟った筈だ!自力で脱出は不可能とな!」「もうそろそろ勤務時間が終わります。後はお任せ下さい!」「済まんが頼む。睡眠不足解消に睡眠薬でも飲むとするか?」事業所長は勤務を切り上げると社宅で安らかに眠った。DBが配流されて来て初めての安眠だった。

ミスターJは、スーツ姿に着衣を替えていた。“スナイパー”も軍服、しかも礼装に着替えていた。「お前さん、勲章の数は合っているだろうな?」ミスターJがイタズラっぽく聞く。「間違いはありませんが、数が多すぎてどれがどれかなんて忘れちまいましたよ」“スナイパー”がぼやく。「ご招待の時間に間に合う様に“前線基地”を出なくてはならん。レディ達に礼を欠く!」「気を付けて下さい!みんな現役の連中です。銃器を手にしたらハチの巣にされちまいますよ!」「その心配は無いだろう。友好的な会談になる筈だ。Sの始末も話して置く必要があるしな!」「部下達は、全員亡命希望でしょう。Sは丸裸で放り出される筋書きですよね?」「ああ、それが狙いだ!そこを狙い通りに進めて貰うためにも、今晩の会談は友好的でなくてはならんのだ!」ミスターJの目が鋭く光る。「さて、そろそろ出るか。早い分には構わんだろう?身分証は持ったな?」「はい、第一関門はこれが無くては通れませんから」「では、横須賀へ」2人は地下駐車場へと降りて行った。