映画「大脱走」のラストで、ステイーブ・マックイーンがバイクで逃げる場面を観て、バイク乗りになった人は多いと思う。

マックイーンは脱走後にドイツ軍からバイクと軍服を奪うのだが、似合わないドイツの軍服wを脱ぎ捨てからバイクで野原を疾走する場面から、アクション映画寄りに転調して映画史に残る名場面となる。これほどバイクが巧くて似合う俳優はいませんですなぁ。
この格好良さ、爽快感は、マックイーン以外の誰も真似できない千両役者ぶりで、個の自由とはなんたるかを顕現してくれている。この人は国際秩序やアメリカ国民の矜持というより、飛び立つ鳥のように個の自由を求める人の代表例だね。
最初に観たときはマックイーンだけは独り気ままにやりたい放題で、地道に脱走を準備している他の主役級の俳優たちが引き立て役になっているのが気の毒に思えたが、何度も観ているうちに集団劇としてのバランスが絶妙で、実話を元にした原作にはないマックイーンの役柄が自由を渇望する男たちの象徴として欠かせないと思えてきた。

単独で脱走をこころみては捕まる米空軍大尉役のマックイーンと対象的なのが、組織的に脱走をこころみる英国空軍少佐役のリチャード・アッテンボロー。
マックイーンは個人的な欲求で自由を求めて脱走するが、アッテンボローは捕虜になった軍人の矜持として、ドイツ軍の後方攪乱と戦力分散を目的として組織的に脱走を目論むところが大きな違い。

バイクと軍服を奪ったマックイーンだが、ドイツ軍の制服が似合わないw

逃走が発覚したので目立つ制服を脱ぎ捨て、元のスエットシャツとチノパンにもどった途端に格好良くなるマックイーン。制服よりラフな格好が断然似合う俳優で、組織に属さない一匹狼や、組織に属していても型破りの役が多かったネ。
だからこそマックイーンが国籍を表すドイツ軍の制服を脱ぎ捨て、個にもどってからのラストの冒険活劇が格好良く、共感を誘うのではないか。
個として自由を求めるマックイーンと、英国軍人として組織的に脱走するアッテンボローの対比は、エンターテイメントとして実に心憎い設定だ。
マックイーンのバイクと車の腕前はレースに出るくらい達者だったが、その演技は自然で意外と緻密だ。
密造ウイスキーを飲む際に、さりげなくコップの下に右の掌で滴を受けようとしたり、逃亡の果てにバイクが転倒して鉄条網にからめとられた際、シャツから認識票のペンダントを引き出して軍人であることを表明し、不敵な笑みを浮かべてドイツ軍を睥睨する場面などなど。
ちなみに軍服を着てない軍人は捕虜扱いではなく、スパイとして銃殺されても文句はいえないから、認識票を見せるのはマックイーンが考えた演技ではないだろうか。
この不敵な笑みと、捕まって独房に入れられるたびに、黙々と壁にむかってボールを投げて独りキャッチボールする場面は、ネバーギブアップの象徴。
耳にのこる「大脱走マーチ」の作曲はバーンスタイン。勇壮なマーチでなく、どこか剽げた軽い旋律は今でもCMや再現ドラマでつかわれる名曲。
端的なタイトルもこれ以外にはない秀逸さだし、これぞ冒険活劇といえる脱走劇の傑作で、観るたびに発見がある。
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