新潟の山の中、松之山に太古の潮が湧き出す温泉があるという。
友人がその潮から塩炊きをするというので、火起こしがてら参加して色々な気付きがあった。
潮を煮て、潮から塩に変容していく様子が実に愉しいのだ。
塩炊きを主宰した地元農家の嶋村さん。参加者は総勢20名くらい。
シューという液体が沸騰する音からクツクツという粘りのある音に変化していき、次いで撹拌を続けている柄杓が重く感じてくる。
潮から塩へ、言葉を変えると液体から個体に変化していく作業をしていると、古代インドの乳海撹拌神話や、古事記の国産み神話を追体験している気分になってくる。
屋外イベントで人気のぬなかわヒスイ工房製の火打石セットは、この日は塩炊きで火打石による着火をしたのでよく売れた。
二つの神話に共通した点は、形が定まらない液体状の原初の宇宙を、神様が撹拌することで固めてこの世を造ったという部分。
してみるとインド神話のアムリタ(甘露)は塩か?
いやいや、早くから遊牧文化が栄えた西アジアだから、アムリタは乳を撹拌して造るバター?
親子とも初めての薪割りをする参加者。
その点、古事記の国産み神話は塩炊きそのもので、イザナギとイザナミが撹拌に使った天沼矛(あめのぬぼこ)の実態は柄杓なのか?なんて考えながら撹拌していると笑えてくる。
いずれにせよ古代人の生活実感が神話イメージにあるのではないか?
午前10時から始めて日付が変わる頃合いにドロドロにまで煮詰まり、翌朝にフライパンで乾煎りして塩ができた。
松尾芭蕉の造化という概念を、私は「在る自然からヒトが産み出す自然」と捉えてヒスイ加工をしているが、塩炊きも造化だなぁ・・・。
そんなことに想いを馳せる得難い体験だった。