津軽下北遠征計画

今年はどうやらGWっぽいGWを過ごせそう、
しかもこのまま行けば1日2日も休めて9連休にできそうな感じ。
去年の今頃はデータセンターからの呼び出し電話に即応できるように
東京近辺に縛り付けられていたのが遠い昔のようです。

ということで昨日から俄かにどこかに行くプランを考えたのですが
ここは一発本州最北の地、津軽と下北を巡ってみようと計画中。

この地域には古くは三内丸山や亀ヶ岡文化が栄え、奈良・平安時代には
津軽海峡を挟んで擦文文化圏を形成、10世紀~11世紀にかけては
数多くの防御性集落を擁する「激動の時代」を経験し、安倍氏、
奥州藤原氏の後背地として、鎌倉時代・南北朝時代には「蝦夷の沙汰」を
取り仕切る安藤氏の活躍の舞台として、歴史世界を形作っていました。

源頼朝が「鬼界島から外ヶ浜まで」の日本全土を掌握した、その最果ての地が
津軽半島東部沿岸地帯の外ヶ浜であり、同時にそれは西浜の十三湊とともに
北方世界、北ユーラシアへの玄関口でもあったのです。

江戸時代になってもその残照は19世紀に至るまで続き、本州北端の地には
「村」と呼ばれるアイヌ人の集落が点在していました。
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今回の旅は、そうした北ユーラシア世界との境界地域の重層的な歴史を
できる限り体験し倒すのが目標です。

自分の肌で、足で、がっつり感じたいという事で移動手段には
「折り畳み自転車」を使います。天気次第ですけどね。
車ではわからない地べたの感覚、距離感を味わいつつも高速移動の
可能な自転車は、まさに歴史散歩にはもってこいです。

今のところ、往復の指定席券は押さえました。帰り道、野辺地-八戸間の
チケットは最後の一枚(青森-八戸間は既に完売)でした。GWの1週間前を
切って動き出した割にはまずまずの幸先です。

4月30日出発5泊6日の予定ですが、今日は先行して宿の少ない蟹田、竜飛崎、尻屋崎の
宿を押さえにかかりました。蟹田、竜飛崎は1軒2軒目でなんなく取れましたが
尻屋崎はどうも何かあるらしく(海の仕事?)1軒を除いてそもそも
休業とのこと。残る一軒もとうに満員で結局尻屋崎は全滅(といっても
4軒しかそもそも宿がないのですが)。仕方なしに5キロ程離れたところに
宿を確保しました。残るは弘前と青森。適当なビジネスホテルなら取れるでしょう。

現地滞在5日半と相当長く確保したつもりですが、つらつら見るべき遺跡や
スポットの数、走行距離のことを考えると相当ハードな行程になりそうです。
距離だけなら1日60キロとゆったり目ですが、遺跡見るのに山登ったりとか
カメラ持ってうろうろしたりとかしますからねぇ・・・

お天気がやはり気になります。これはまぁ自転車がだめな場合のプランを
考えるとして、急遽休めなくなる事態が起きないといいんですが。
無事に残り3日間が過ぎることを願うばかりです。
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GoogleEarthでシベリアの旧石器・中石器時代の遺跡分布を一望する

昨日に引き続き、GoogleEarthがお題です。

やっぱりGoogleEarthで遺跡の地理情報を眺めるのはとてもうれしいということが再確認できましたので、調子に乗ってシベリアの旧石器時代の遺跡分布も見られるようにしてしまいましょう。

元のデータはここ、ロシアで旧石器時代の炭素年代測定値と遺跡の位置情報のエクセルシートが置いてあります。その数800箇所以上。炭素年代付の遺跡ですから、ほぼ全部入りというところですか。これをkmlファイルにコンバートしましょう。

便利なツールというのはあるもので、簡単にエクセルシートからkmlファイルにコンバートできます。

excel2kmlのページ

これを使って遺跡名、緯度経度、C14年代(B.P.)だけで作った簡単なkmlファイルがi以下のファイルになります(圧縮してあるので拡張子はkmz)。右クリックで保存してください。このとき、保存画面上で拡張子がzipになってしまっているので、kmzと修正してください。

paleo.kmz

さっそくGoogleEarthで読み込んでみます。解凍しなくても結構です。


順調に北ユーラシア東半の遺跡分布が一望の下に。
クリックすれば年代測定値も出てきます。
オホーツク海のど真ん中に旗が立っているのは元データのせいですね。うーん。
一見して数が800以上もあるように見えないのは、同じ遺跡で別の文化層とか近接した遺跡であるためといった理由です。


北海道から沿海州周辺。


バイカル湖周辺。


そして西シベリア。やはり数が少ないですね・・・
それに是非ウラル以西のデータも入手したいところです。


おまけでオクラドニコフ洞窟遺跡。

思いのほか簡単にできてしまいましたね。これはいろいろ作って遊べそうです。
後はやはり位置情報の正確性を担保したいところですね。
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南ウラル 青銅器時代の大鉱床地帯

北ユーラシアへの青銅器普及にあたって非常に重要な位置を占めるのがカマ川流域から南ウラルにかけての地域です。ここから北へ、あるいは東へと冶金技術は北ユーラシアへも波及することになります。
#アルタイ地方からの流れもありますが、ここではおいておきます。

カザンから東、カマ川中・下流域からウファ川、ベラアヤ川、そしてウラル川中流域にかけてウラル山脈西麓地帯は含銅砂岩を多く産出する地域であり、ウラル山脈南部には現在でも数多くの銅鉱山が存在します。南ウラル一帯はその他の資源も集積していることからロシア有数の工業地帯となっていますが、その歴史ははるか4000年前の青銅器時代にまで遡るというわけです。

中東で生み出された冶金技術は最初バルカン=カルパチア地方へと伝わり、また一方ではカフカス地方を経由して南ロシア平原地方に伝えられ、黒海をとりまく「環黒海冶金圏(Circum-pontic Metallurgical Province : CMP)」を形成します。

その中にあって南ウラルのカルガリ地方は環黒海冶金圏及びスルブナヤ文化分布域の最北東端であるとともに、森林と草原地帯とを結びつける境界地域に位置する重要な銅産出地域でした。



このカルガリ地方からは数千にものぼる採掘跡が見つかっているのですが、その主な遺跡群の位置情報に関するkmlファイル、即ちGoogleEarth用の位置情報ファイルが存在します。

GoogleEarthコミュニティの掲示板

これを使うと遺跡分布をGoogleEarth上で一望することができます。
遺跡の位置の他、書籍に掲載されていたとおぼしき遺跡周辺図なんかも入っていてレイヤーとして重ねることもできます。


もちろんいつものように鳥瞰視点で起伏を確かめることもできます。

こうして見ると遺跡の密集地は丘の斜面になっているのがわかりますね。

どうやら元ネタは北方冶金学の泰斗、チョールニフ先生の書籍のようです。
Webcat-plusでの検索結果

以前のエントリーでも触れましたが、今後こういう形で遺跡の位置情報が電子化され蓄積されていくととてもうれしいのですが、どうなんでしょうね。既にあるのでしたらどなたか教えてください。

ちなみに「西シベリアと南ウラルの青銅器・鉄器時代」にも掲載されているカルガリ地方の遺跡の上空写真も正確な位置がどこなのか、これのおかげでわかりました。



おまけで実際に採掘遺跡がどんな様子なのかがわかる画像。露頭掘りですね。
こんなあばたみたいなのがそれこそ無数に・・・

冶金、即ち鉱石から金属を精錬する過程においては鉱石を高温に熱するための大量の燃料が必要なわけですが、カルガリでの大規模な生産活動により、大量の木材が伐採されることとなります。ここで産出された銅鉱石の量はおよそ100万トン近く。これを精錬するのに必要な燃料薪の量は3000万トン以上という莫大な数字が推計されています。実際には数百年から1000年近く活動をしているわけですから年平均で均してしまえば5,6万㎥という数字になりますが、それでもカルガリ地方の植生に与えた影響が小さなものであったとはとても言えません。そのあたり、下記の論文に記述があるようです。

Late Holocene vegetation history and human activity shown by pollen analysis of Novienki peat bog
花粉分析により、カルガリ地方の紀元前23世紀~前18世紀までの植生変化を復元。


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西シベリアと南ウラルの青銅器・鉄器時代

タイガとツンドラに覆われた厳寒の地、北ユーラシア。
その厳しさ故に気候条件に適応できたごく少数の人々の手によってのみ
歴史を紡がれてきたというイメージがあります。

#あるいは歴史なんてそもそも存在しない世界で、「20世紀に至るまで
#石器時代のような暮らしぶりであった」といういろんな意味で間違っている
#「停滞した始原社会」という偏見もあったりするわけですが。
#これは明らかに間違いであることは議論の必要も無いくらいですが、
#それはさておき。

実際には北ユーラシアは他の歴史世界と隔絶していたわけではなく、
恒常的な交流の中、均しく時の流れを受けて変化していたのです。

そんな北ユーラシアの中にあって特に草原地帯との結びつきの強い南ウラルから
西シベリアにかけての青銅器時代、鉄器時代に関する決定版
ともいうべき書籍が出ました。

The Urals And Western Siberia in the Bronze And Iron Ages (Cambridge World Archaeology)

Cambridge Univ Pr (Sd)

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心なしか表紙が違うような・・・・いや、確かに届いた本と違う!(笑)
バキに転蓮華をかけられた烈海王のようなブロンズ像が目印です。


扱っている年代は紀元前3200年頃から紀元300年位まで、新石器時代から
青銅器時代へ移行する年代に始まって、フン族が現れるあたりまでですね。
地域的には中・南ウラル山脈の東西両翼、西はカマ川流域からウファ川流域の
南ウラル地帯、トボル川流域を経て東はイルティシ川流域までの、
森林と草原の接壌地帯を扱っています。

この地域・年代の通史を扱う、非常に野心的な内容になっています。
ケンブリッジ大学の紹介ページに目次が掲載されています。

目に付くところを抜き出すと
 The Urals' Bronze Metallurgy 28
  The Beginning 28
  Further Developments 33
  The Apex of Uralian Metallurgy: Expansion and Perfection 40
といったウラル地方の青銅器時代への移行とか、

 The Cultural Formations in the Forest Zone 98
  Cis-Urals Subarea 98
  The Forest-Steppe and Southern Taiga of Western Siberia 103
  The Pre-Andronovo Horizon in the Western Siberian Forest-Steppe 104
  Sites of the Seima-Turbino Type 106
森林地帯におけるアンドロノヴォ文化前史やセイマ=トゥルビノ文化、さらには

 Mezhovka-Irmen Cultural Horizon 170
  The Mezhovka Culture 170
  The Irmen Culture 175
メジョフ文化やイルメニ文化まで独立して取り上げられています。
イルメニ文化はまだしも、メジョフ文化やガマユン文化(どちらも
トボル川下流域に紀元前1000年紀初頭頃分布)について、
数ページとは言え章立てた情報が出てきたのには感激しました。

7 The World of Cultures of Cis-Urals Forest Zone of Eastern Europe: The Maintenance of Cultural Identities 251
The Ananyino Cultural Groups 252
The Pyanobor Cultural Groups 261
ウラル西麓からロシア東北部一帯に大きな影響を与えていた両文化を
取り上げた後、

8 The Forest-Steppe Cultures of the Urals and Western Siberia: On the Northern Periphery of the Nomadic World 277
Cultural Groups of the Forest-Mountain Area of the Middle and Southern Urals 277
The Forest-Steppe Cultures of the Trans-Urals and Western Siberia 287
Pre-Sargat (Formative) Phase 289
Gorokhovo-Sargat Phase 292
Classic Sargat Phase 298
Late Sargat Phase 311
Summary: Interactions between Nomads and Forest Populations 312
と紀元前8世紀から紀元3世紀にかけて西シベリアの森林ステップ地帯に栄えた
「サルガト文化」が詳しく取り上げられています。

この地域は後にキマクやシベリア汗国が栄えた場所であり、
北ユーラシアの森林世界と中央ユーラシアの草原世界との接壌地帯という
地政学的な条件により、はるか太古の昔から重要な地域であったことを
このサルガト文化は教えてくれます。イラン系とフィン系の混淆により
生まれた文化であるということくらいしか知りませんでしたが、
読むのが楽しみです。

この10年、こんな本が出てくるのを待っていました。
むかーし書いた西シベリアの年代表を置いておきます。元ネタは「ソ連の考古学」シリーズですね。
どこまでこれをブラッシュアップできるか。


しばらくは夢中になりそうです。
・・・早く仕事終わらせたい・・・orz
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