ちゅう年マンデーフライデー

ライク・ア・ローリングストーンなブログマガジン「マンフラ」

秋の夜はJ・ヒックスのソロピアノと「OL’SCHOOL JAZZ」のデュオで深く豊かに過ぎ行く。

2009年09月28日 | 音楽
 ソイル・アンド・ピンプ・セッションズの新しいアルバム「6」を買おうとタワレコへ行った。アルバムに収録されている「ストールン・モーメンツ」がカーラジオから流れているのを聞いたのが動機。ソイルやるなと。この曲のオリジナルはオリバー・ネルソンの「ブルースの真実」に収録されていて、とりわけ僕にとって、コルトレーンがラッパを吹いているようだと形容されたフレディ・ハバートの名演と相まって擦り切れるほど聞いたレコードなのだ。なぜ、ソイルがと思ったのだが、この曲はクラブ・クラシックスの名曲といわれているのだそうで、ソイルの演奏もすばらしい。でも、日常このアルバムを頻繁に聞くだろうかと思い、結局購入しなかった。CDを聞くのは仕事から帰った夜か、休日。どうしても癒しを求めてしまう今日この頃なのだ。

 そこで試聴して即購入をきめたのが、ジョン・ヒックスのソロ・ピアノによるライヴアルバム「アイ・リメンバー・ユー」。亡くなった2006年に残したペンシルベニア州ニューホープでの録音。この人のアルバムは初めてだが、コルトレーンのフェヴァリット・ソング「アイ・ウォント・トゥー・トーク・アバウト・ユー」が入っているのがまず気に入った。そしてピアノの一音一音が心にしみる。タワレコの惹句に、深夜2時ぶらりと立ち寄ったジャズクラブでヒックスの演奏に遭遇した気分とあった。こんなすばらしいアルバムを残してくれたヒックスに感謝しつつ、その夜は、ひさびさにハーパーをすすったのだった。

 この日は、ピアノとベースのデュオ・アルバム、熊谷ヤスマサ&川村竜 「OL’SCHOOL JAZZ」、ニーナ・シモン「ヒア・カム・ザ・サン」、ブルーノートの1100円シリーズでフレディ・ハバート「ゴーイン・アップ」、リー・モーガン「コーン・ブレッド」を購入した。ニーナ・シモンのアルバムは、昔、前田武彦が朝のTV番組で、このアルバム収録の「ミスター・ボージャングル」を絶賛していて、それでLPを買って僕も好きになった一枚だ。当時は、「ミスター・ボージャングル」がすっかり気にいって他の曲は余り聴かなかったのだが、改めて聴くと全部いい。「OL’SCHOOL JAZZ」は、初めて聴く若手ジャズマンのアルバムだが、とてもセンスがいい。オールド・スクール・ジャズのタイトルどおりスタンダード中心で、ジョン・ヒックスとこの2枚で、秋の夜はバーボンとともに深く豊かに過ぎていくのだった。

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『グラーグ57』を読み世界の中心で「反帝反スタ」を叫ぶ

2009年09月17日 | 
 トム・ロブ・スミス著『グラーグ57』(新潮文庫・上下2巻)が面白い。一気読みの快作だ。

 前作『チャイルド44』の続編で、1953年のスターリン死後のソ連、フルシチョフのスターリン批判を背景に、スターリン時代に秘密警察に弾圧された人々の復讐が始まるところからスタートする。モスクワから酷寒の強制収容所へ、そして1956年のハンガリー動乱に揺れるブダペストへと舞台は移る。この時代と舞台設定で物語が面白くならないわけがないのだが、主人公のレオは、『チャイルド44』以上に、またしてもこれでもかという過酷な体験に遭遇していく。その困難を一つひとつ克服していくサスペンスもさることながら、その伏線にしっかりと家族とは何かというテーマを置いて、読むものを物語に引き込んでいく。秘密警察時代のレオによって司祭の夫を収容所送りにされた妻が、犯罪者集団を統括するフラエラというモンスターに変身してしまう過程が今ひとつ分からないのだが、スターリン批判とその反動という政治的力学の振幅の強さは、この小説にダイナミックなおもしろさをもたらしている。『44』と『57』を読んでつくづく思うのは、実に月並みだがこんな時代のソ連に生まれなくてよかったということだろうか。でも、地球上には、似たような国が現存していることも確かだ。そしてスターリンの亡霊は、半世紀を超えてもまだ世界の、そして僕たちの意識の底を跳梁跋扈しているのだ。叫べ反帝反スタ!
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リンドウを竜胆と書くのはなぜなのだろう

2009年09月15日 | マンフラ・ギャラリー
 リンドウは秋の花だけれど、もちろんいまは一年中手に入る。青紫の花が美しく、僕の母もリンドウが好きだといっていた。その愛らしい姿に似合わず、漢字では竜胆と書く。根っこが薬用に使われ胆汁のように苦いので、そのウルトラ・ビターを竜胆と表したとかいわれているが、もうちょっと姿に似合った漢字はなかったのかねー。

 この絵は、リンドウの切花1本を軽くスケッチし、それをトレペに写し、チャコペーパーを敷いて2本複写。薄墨で骨描きしたものに顔彩で着色した。用紙はスケッチブックを使ったので、ゆがんでます。
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落陽の荒野で頬をなでる風を感じるジャズ、W・ネルソンの「アメリカン・クラシック」

2009年09月15日 | 音楽
 ウィリー・ネルソンの「アメリカン・クラシック」がいい。トミー・リピューマのプロデュースによるスタンダード集で、ネルソン単独では初のブルーノート盤。ジャズとは異なったジャンルのアーティストにジャズを歌わせたり、いわゆるジャジィといった分野の開拓に熱心なトニー・リピューマらしいアルバムだ。

 ダイアナ・クラール、ノラ・ジョーンズが競演、バックもジョー・サンプル、クリスチャン・マクブライド、ジェフ・ハミルトンなど強力だ。カントリー歌手がジャズを歌うという趣向のアルバムなのだが、ジャズやアメリカのスタンダード・ソングに敬意を払いつつもジャズなど歌おうとしていないネルソンの歌の力に聞き惚れてしまう。カントリーといえばこの声というほどの独特の鼻にかかった声で、「ニアネス・オブ・ユー」「フライ・トゥー・ザ・ムーン」「アイ・ミス・ユー・ソー」「エンジェル・アイズ」などをしみじみと歌う。でも、夜の音楽にはならない。テキサスの青空とか荒野に沈む夕日とか、そんな風景のなかで頬をなでる風を感じているような気分になれるのだ。スタイルはジャズだけれど、そういう体裁やジャンルを超えたネルソン節になっているところがすばらしい。ストリングスは邪魔だけれど、それさえネルソンの歌の前では鳥の鳴き声程度にしか聞こえない。
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リリーといえばマルレーンか寅さんかバンスキングか

2009年09月09日 | マンフラ・ギャラリー
オリエンタルリリーを顔彩で描いた。背景の塗りがいまいちのでき。スケッチブックに描いているので紙がゆがんでしまった。切花のオリエンタルリリーは強い甘い香りを放ちながら、しかも長持ちするのがいい。

さて、リリーといえば、リリー・マルレーンか、寅さんのヒロインのリリー。あるいは、自由劇場の「上海バンスキング」にもリリーさんが登場したっけ。忘れちゃ行けない、リリー・フランキーは、でも男。リリーと呼ばれる女性は不幸を背負っている。花のリリーは強くて優雅だが、リリーという女性はどこか哀しくはないかい。
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ポーリン・ケイルの歯切れのいい映画批評が質のいい古本で1500円に満足

2009年09月09日 | 
 「チェーザレ7巻」を読んだせいか、タイトルが気になって買ってしまったのが「メディチ家の暗号」(マイケル・ホワイト著)。ハヤカワ文庫400ページ余りのミステリー。読んでいないが、たぶん「ダ・ヴィンチ・コード」などと同じプロットを用いているのではないかと推測される。

 メディチ家礼拝堂のコジモ・ディ・メディチと思われるミイラから発見された金属板に書かれた暗号を発端に、マケドニアの修道院に封印されたメディチ家の秘密をめぐって古病理学者やら歴史学者らと「死の商人」と思しき組織が奮闘するミステリー活劇。舞台はフィレンツェ、ヴェネツィア、マケドニアをめぐり、コジモをはじめ秘密の鍵を握る人物としてジョルダーノ・ブルーノやらアントニオ・ヴィヴァルディなども登場するが、にぎやかしの域を出ない。謎の暗号が隠されたヴェネツィアは観光名所をちりばめ読者の興味を喚起させるが、いずれにしろ全体にかなり雑なつくり。読み始めたので読み終えたが、40%くらいは読み飛ばしてもよい小説だ。おまけに、暗号を解いて探し当てた「秘密」が、現存しない架空の物質というのは興ざめだ。映画化もされるらしいが出来映えは想像がつく。原作には登場しないが悪女を出せば、少しはおもしろくなるかも。

 アマゾンでポーリン・ケイル著「明かりが消えて映画が始まる」を購入。定価は2900円(税別)だったが、質のいい古本で1500円。これはあたりだ。注文して4日目に届いた。ケイルは「ニューヨーカー」の辛口映画批評家で2001年に亡くなった人。この評論集でとりあげられている映画は、「ディア・ハンター」など70年代末の映画が中心でほとんど当時見ている作品ばかり。とても得した気分になる、読むのが楽しみな1冊なのだった。読みたいと思う本でも3000円近くすると購入は躊躇する。そんなとき質がよく安い古本があればありがたい。

 古本といえば、10年くらい前の「芸術新潮」を古書店のワゴンセールで購入。1冊420円。贋作特集と大正日本画特集の2冊。この頃の「芸術新潮」の特集は実に面白いテーマばかりで、しかも雑誌の状態もきれいなので、よい買い物をしたと満足したのだった。
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