高卒スラッガーのブレイクまでの年数はどの辺りまでがデッドラインだろうか。
大卒・社会人からプロに入った選手はひとまず置いといて、
高卒選手に限って考えてみたい。
それもこれも、大田泰示の今後ありき、を信じての考察である。
伸び悩んでいるのか、まだまだこれからなのか、あるいはもともとこのレベルなのか、
いずれにしても、大田に対するファンの思いは間違いなく大きい。
もどかしさと歯がゆさも、大きすぎるくらいの期待の裏返しなのである。
統計的に見て、期待の高卒スラッガーは何年目までがデッドラインか。
あまり遡れないので松井秀喜、清原和博くらいの年代までで、何人かと比較してみたい。
松井は1年目こそ57試合の出場に留まっているが11本の本塁打を記録した。
その後の成績は周知の通り、2年目から不動のレギュラーとしてクリーンナップを任されるようになる。
その2年目の年には打率.294 本塁打20本 打点66 の成績を残す。
3年目も同様の活躍でチームの中軸を担い、4年目にして打率.314 本塁打38本 打点99 と躍進。
その年の97得点、303塁打はリーグ最高。初タイトルは6年目の本塁打王(34本)打点王(100打点)の2冠。
清原はいうまでもなく1年目からレギュラーとして活躍、高卒新人としては脅威の成績を残した。
その後もタイトルこそ獲得していないものの、その実績と存在感は他を圧倒する。
同じくPL出身のドラゴンズ・立浪和義はスラッガー・タイプではないが、1年目からレギュラーを奪取。
シーズン後半に肩を痛め2年目までそれを引きずるも、
3年目の打率.303からコンスタントな成績を残し、2000安打も達成した。
2000本安打でいえば先日達成した横浜DeNAベイスターズの中村紀洋も大成した高卒スラッガーのひとりだろう。
レギュラーを獲ったのは3年目からだろうか、本塁打は8本と少ないが、打率.281はまずまず。
その翌年の4年目から本塁打20本と片鱗を見せ始め、26本、19本、32本、31本、
9年目の39本で本塁打王を獲得(110で打点王も獲得)、10年目で46本のシーズン40本越えを達成した。
埼玉西武ライオンズの中村剛也も大阪桐蔭高校からプロ入り。
3年目に80試合出場ながら22本塁打を記録、その後2年間は低迷するが、
6年目に46本、7年目48本と驚異的な飛躍を遂げ、今や球界を代表するスラッガーとなった。
大阪桐蔭といえば大田の一学年上、現在の日本ハムファイターズ4番、中田翔もそうだ。
入団1年目は1軍出場を果たせなかったが、3年目の9本、4年目に18本、
5年目の昨年は栗山監督のもと、シーズン通して4番を任され24本塁打を放った。
なかなかヒットが出ず打率も上がらない中で辛抱強く使い続けた栗山監督の期待に応え、
昨年はリーグ制覇に貢献、WBCにも選出された今季、ここまで打率・本塁打ともに安定した成績を保つ。
今シーズンの存在感は、明らかに昨年までとは違う、確実性を手に入れた感がある。
オリックスのT-岡田こと岡田貴弘も3年目に33本で本塁打王を獲った。
その後の2年間は苦しんでいるが、どうにか試合には出場し、そこそこの成績で悪戦苦闘といったところだろう。
カープも以前から、多くの高卒スラッガーを輩出している。
現在、ジャイアンツの打撃コーチを務める江藤智は88年に関東高等学校からドラ5でカープに入団。
34本で本塁打王を獲った4年目からホームランを量産した。
熊本工からカープに入団した2000本安打の前田智徳も2年目でレギュラーをつかみ、3年目から立て続けに3割を打つ。
本塁打も3年目で19本、4年目で27本。そこから上下があってもシーズン20本、30本を記録した年は多い。
打率の安定感は言うまでもなく、生涯打率も現役の現在.302である。
今季、ケガから復帰した栗原健太も日本大学山形高等学校から99年に入団。
カープの伝統を引き継ぐ典型的なスラッガーといえよう。
彼も3年目から本塁打がふた桁になり、5年目から20本台に突入した。
昨年からのケガか癒え、まだ本調子とはいかないようだがパワーは健在だ。
少しタイプは違うような気もするが、堂林翔太も高校のころから注目していた。
もちろん打者としてである。これから彼がカープの中心打者になってゆくことは間違いない。
ベイスターズの筒香嘉智は大田より1学年下で横浜高校出身。
東海大相模の大田と同じく神奈川の強豪校からプロの世界に入った左の大砲だ。
デビュー1年目から1本、8本、10本と、3年目だった昨年までは少ないながらも確実に成績は伸ばしている。
今季、重量打線となったベイスターズだが、どうにか出番を増やして将来の4番候補として成長して欲しい選手の一人だ。
最後にもうひとり、大田の高校の先輩、東海大相模から96年のドラフトでドラゴンズに入団した森野将彦。
4年目の2002年から出場機会が増え、それまでひと桁台だった本塁打は8年目で10本、
9年目の翌年から20本前後をコンスタントに記録するようになった。
打率は5年目ころから2割台後半を打つようになり、10年目で.321を、12年目に.327を記録した。
ただここ2年ほどは打率、本塁打共に低迷している。
けっして早くから活躍していたわけではないが、今も長距離打者としてチームを牽引している。
高校時代に4番を打ち、ホームランの打てる打者としてプロの世界に入ってきたとしても、
そのまま長距離砲としての道を歩める選手はそう多くはない。
中距離打者、つなぎの役に徹する脇役へと変貌せざるを得ない選手のほうが圧倒的に多い。
よくボールを遠くへ飛ばす力は天性のものという。
大田が昨年のヤクルト戦で放ったプロ第1号本塁打は、まさに天性の飛距離と表現したくなるような大きな当たりだった。
翌日の第2号も広島マツダスタジアムのバックスクリーンに飛ぶ込む痛烈なライナーだった。
球界を見渡しても、あれほどの体格はそうはいない。理想的なスラッガー体型といえよう。
今まで挙げてきたスラッガーたちにしても、その他チームの主力選手にしても、
平均してだいたい3年目から5年目くらいまでには何らかの成績、あるいは兆しのようなものを残している。
これは以前にも何度か書いたことだ。
例えばファイターズの中田翔の場合、チームが、あるいは首脳陣が、
結果が出なくても使い続けるという方針を貫き、強い決意を持って育て上げた結果の現在だろう。
そんな強い決意が実を結ぶカタチとなった成果といえよう。
それは、ともすればチーム内に不信感を生む可能性をはらんでいる。
多くの選手がレギュラーをつかむために日々、努力している。
打てない選手を期待という名のもとに使い続けることはベンチも勇気のいる決断だ。
ただそれを補うための何かが中田にあったからこそ、周りも納得したに違いない。
それは糸井、陽と並び称された鉄壁な守備力であったかもしれない。
しかしなによりも、周りを納得させるだけの大きな武器を、はやり中田は持っていた。
それが ”飛距離” を生みだす、天性の、スラッガーとしての ”パワー” ではなかったか。
それほど、大きな打球を打てるという素質は魅力にあふれている。
チーム事情もあるから大田をそのまま中田翔のパターンに当てはめるのは適切ではないかもしれないが、
自力で競争に勝ち抜く強さをすべての選手が持っているわけではない。
ましてやジャイアンツは強力なライバルが多い。
と、どうしても大田を贔屓目に捉えてしまうのは、首脳陣も含めてファンも同じことだ。
例えば、ジャイアンツで言えば、長野や阿部のように、ほとんどファームを経験することなく、
入団1年目から1軍の場でレギュラーをはる選手がいる。
坂本もファームは1年目だけ、1年目の後半から1軍を経験し、翌年からは全試合出場という偉業を遂げた。
先に挙げた清原もライオンズ1年目から1軍でレギュラーをはり活躍した。
そんな選手は他にもいるだろうが、けっして多くはない。投手と違い、野手はけっして多くないだろう。
一線で活躍する多くの選手は何某かの時間を何某かの練習に費やし開花している。
中田翔のように監督が強い決意を持って育て上げるという点では、
松井秀喜と長嶋茂雄の関係も道筋に違いはあれ似た流れだ。
ライオンズの中村剛也も開眼前、当時打撃コーチだった大久保博元(現・楽天二軍監督)にミートポイントを指摘され、
飛躍のきっかけをつかんだと語っている。
コーチのアドバイスという点ですぐに頭に浮かぶのは金森栄治の名前だ。
西武、阪神、ヤクルトと現役生活を渡り歩き、西武、ソフトバンク、ロッテなど数々のチームでコーチなどを務めた。
彼の指導で飛躍した選手は多く、ライオンズのコーチ時代は中島裕之などの若手を鍛え、
ホークス時代の城島健司や井口資仁の開眼は金森の力がかなり大きいという。
またロッテでは清田育宏、岡田幸文らを指導し、その卓越した理論が注目された。
現役引退直前から引退した当時、ヤクルトの監督だった野村が彼をかなりかっていたという話は有名である。
入団してすぐ1軍で活躍できる選手などそうはいない。
コーチらの指導の下に伸びてゆく選手がほとんどだろう。
そういった巡り合わせ、育成に対する球団の特徴も、選手にとっては重要なアプローチになる。
下からの若手が伸びきらないという点では、ジャイアンツはどうだろう。
ここ数年、山口鉄也を筆頭に、育成で注目を集めるジャイアンツだが、
若手の野手を育て上げるという点ではどうだろう。
この話は、また別の問題で長くなりそうだから別稿で再考したい。
それにしても、大田がふくらはぎの肉離れで登録抹消してたのは見逃していて知らなかった。
また、ケガか…。
今季、タイガース戦で大田がバッターボックスに入っているとき、解説の金本知憲氏が大田の印象について、
「少し小さく育っているように見える。もっとスケールの大きい選手を目指して欲しい」 と注文をつけていた。
5年目に突入し、今季を大田はどう臨むのか。
現在、ケガで登録を抹消されている大田だが、ここ数年言われているように、
今季も、まず守備、走塁でアピールし、自分の居場所を確保するか。今季もその立場で終わってしまうのか。
主力の外野手がふたりもケガで離脱しているのに、大田も同じようにケガで離脱している。
前回、大田のことを書いたときもそうだが、どうしてもこの辺りを指摘したくなる。
したくてしているケガではないだろうが、やや隙が多いように思えてならない。
一生懸命プレイするがゆえと言ってしまえばそれまでだが、
肝心なところで踏ん張りが利かないのはプレイにも感じられることだ。
踏ん張りが利かないから些細なミスのほうが目につく。
せっかくいいプレイが出てもなかなか続かないからこちらは目立ちきれない。
松井秀喜の引退式と国民栄誉賞の授与式が5月5日に決まったとき、
大田は意地でもその日まで1軍にくらいつき松井との対面を果たしていいところを見せたいと意気込んでいた。
結局それも踏ん張りきれず叶わなかった。
大田の今季、ここまでの成績は以下の通り。
19試合、34打席、28打数、5安打、2打点、4四球、7三振、打率.179 出塁率.273
訝ってばかりでも仕方がないので昨シーズンの大田の成績を下記に記す。
21試合、70打席、63打数、16 安打、2本塁打、7打点、7四球、15三振
打率.254 出塁率.329 長打率.444
はやり、長打率に注目したい。
もちろん数字は圧倒的に少ないが、16安打のうち、二塁打4、三塁打1、本塁打2、
長打率.444は昨シーズンの坂本勇人や長野久義にけっして引けを取らない数字である。
何度も言うが、数字は圧倒的に少ない。
それでもやはり、大田の魅力は長打力、それを再確認できる。
もう肉体的には充分である。これ以上、無駄に大きくする必要はない。スピードも大田の利点だ。
今現在、ケガをしている選手に、これ以上アツくなっても仕方がないが、
やはり、大田の魅力は長打力、これを活かして欲しい。
亀井がようやく1軍復帰した。
亀井の外野守備や打球を見ると、やはり亀井はいい選手であると実感する。
松本哲也もようやくらしさが出てきた。
彼の守備力も今やなくてはならない存在になった。
矢野の勝負強さも健在だ。確実に仕事をこなす。
その上に、長野がいる。
あるいは大田と同じようにケガをしているが実績・実力充分の由伸がいる。
今季、順調に滑り出したボーカーもケガが癒えれば外野陣の一角としては筆頭だろう。
そして同じ位置には橋本、中井もいる。
そんなライバルたちとの争いである。
持ち味を活かせなければ、魅力も薄れる。
5年目がけっして遅いとはいわない。
ただこの1年、2年が、何かしらのボーダーであることに変わりはない。
大田の先輩、ドラゴンズの森野のように10年目ころからじわじわ来るケースだってあるだろう。
ライオンズ中村剛也の6年目からの大躍進も実在する。
”きっかけを逃さない集中力” というのはどんな世界でも重要なことだ。
”何度か訪れるタイミング” に気づいて、しっかり対応する。
大田はそんなきっかけを逃さず、しっかりつかみきることが出来るだろうか。
難しいことだけれど。
長くなったので、また改めて考察したい。
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