【時事(爺)放論】岳道茶房

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新政権に問いたい「具体論」と「透明性」

2010年06月08日 | 新聞案内人
新政権に問いたい「具体論」と「透明性」

 菅新政権が誕生する。

 6月6日の3紙の社説は、菅新政権の課題を整理し提言するものであったが、その内容は見事に同じものであった。つまり、「成長戦略と財政再建の両立」こそが新政権の最大の課題であるという。

 自民党をはじめとする野党もこの考え方から外れているとは思えない。そうであるなら、議論となるのは、「どのように実行していくのか」という具体論である。これを、参議院選挙では論争すべきではないか。

 最近の政治家の議論はあまりにも抽象論が多い。総論がそろってくれば、各論に議論を移していかなければ、議論は深まらない。政権与党は抽象論をなるべく抑える必要がある。国民は、新生民主党が、選挙対策という呪縛から離れて、現実的な具体的議論を展開することを期待している。

○透明性が欠如

 鳩山総理が国民の支持を失ってきた直接の理由は、「政治と金」「普天間問題」で参議院選挙が戦えない、ということだろうが、政策に対する失望感も大きい。自民党時代の政策決定に閉塞感を感じ、民主党に一票を投じたが、何も変わらなかったではないか、という感覚を持っているのは、私一人ではないはずだ。

 その最大の原因は、政策決定過程が不明朗で、透明性が大きく欠如していることである。政府への意思決定の一元化、といいながら、実態は党(幹事長室)の横やり、指示があることは今や周知の事実となった。それとならんで大きな問題は、どこでどのような議論が行われ、誰が意思決定しているのか、全体像がさっぱり見えないことだ。

 大田弘子さんが、「改革逆走」(日本経済新聞出版社)という著書を出版されたが、その中で、この点について、次の趣旨の指摘をされている。

 経済財政諮問会議は政策決定プロセスを、次の3点で変えた。

 第1に、予算編成に本格的に参入することで、予算編成プロセスを透明にし、内閣の基本方針を予算に反映させる仕組みを構築したこと。

 第2に、複数の省庁にまたがるような課題について、首相のリーダーシップがわかりやすく反映されるようになったこと。

 第3に、会議そのものが格段に透明化されたこと。会議終了後に経済財政相が記者会見、3日以内に詳細な議事録が公表される。4年後に完全な議事録も公表される。

 このように試行錯誤しながら作り上げられたプロセスが、(民主党政権への交代により)簡単に廃止されることは、日本にとって大変なマイナスだ。

○議論はどこで

 私の記憶をたどってみても、小泉内閣時代の意思決定は、明確であった。一番印象に残るのは、国と地方の「三位一体改革」である。これは、国から地方への仕事の移管と補助金の整理合理化、地方交付税の見直し・規模の縮小、国から地方への税源移譲という3つをパッケージで行うという改革である。今から見れば、不十分な点も多々あるのだが、霞が関の全省庁を巻き込んだ内容だけに、画期的な改革であった。

 この案をめぐって、各省・各大臣は諮問会議の場で真剣勝負の議論を交わしたものだ。塩川財務大臣と片山総務大臣との激論は、国と地方とのさまざまな論点を国民の前にあぶりだすこととなった。この場での議論の末、小泉総理自らが「三位一体改革」を決断、国から地方へ3兆円規模の税源移譲を含むパッケージが実施されたのである。

 しかし、民主党政権になってからは、どこで何を議論しているのか、さっぱりわからない。国家戦略室に多くの議論の場が設けられ議論されているのだが、これらが政策としてどのように集約化されるのか、そこが見えない。

 私は、このような民主党政権の意思決定の不透明性は、どこか、官僚機構を活用しないということとどこかでつながっているとも思う。官僚機構の真髄は、「各省合議」(「合議」という言葉は、私のワープロでは自動変換されないので、役所言葉なのだと気がついた)で、縦横の連絡・調整をきちんと一字一句まで行うことだ。

 彼らをうまく使い、専門的見地から、個々の政策のメリット・デメリット、必要財源、政策効果を洗い出させて、基礎となるたたき台のペーパーを作り、それに基づいて政治家が議論する。このようなプロセスを経れば、意思決定過程が明確になる。まがりなりにも、経済財政諮問会議では、これをやっていた。

 官僚機構は税金で飯を食っている。指示待ち官僚を増やすことこそ、税金の無駄遣いだ。

2010年06月08日 新聞案内人
森信 茂樹 中央大学法科大学院教授


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