前回のブログで、なぜロシアのコートの話からヨーロッパとの比較になってしまったかというと、欧米諸国に対していつも遅れを取ってきたロシアですが、彼らに勝るものと言えば、それはふさふさの上質なコートだと、それを言いたかったからです。そしてそれをまとい、長いおみ足で歩くロシア美女しかり。彼女たちはもうすでに腰の位置が違って、高いヒールブーツで凍った道をものともせず颯爽と歩く姿には惚れ惚れさせられます。彼らが愛用する厚手の冬のコートのフードにはどれもほぼ大ぶりな本物の動物のファーで囲まれていてそれにすっぽりと小さなお顔を包む姿は羨望のまなざしを向けずにはいられません。
街ですれ違うたびに、ファー付きのコートが可愛く、見れば見るほど欲しくなり、そして今日市場へ行ってきました。あのコートはどこで手に入るのだろうといつも思っていたのですが、輸入製品が並ぶデパートではないのです。このロシアの市場にたくさん置いてありました。
ロシアの市場は、ペルミに住んでいたときから、どこか寒々としてあまり好きではなかったのですが、それは今も同じかもしれません。零下何十度の中をお店によっては露店なので、店員は一日中外にいる場合もあります。彼らにとっては慣れっこなのかもしれませんが、外から来た私にはそれが見ていて居たたまれないのです。
まずは、様子見でなんとなく店を除きながら歩いていると早速声をかけられました。
12畳ほどの店内には、壁一面に冬用のコートがかけられています。気になるものを指さし、次々に試着していきます。ダウンジャケットの材質と革製品どちらも試してみました。値段は、皮だと15000ルーブル、日本円にして約3万円、ダウン素材は10000ルーブル、日本円にして約2万です。ディスカウントはあとにして、まずは気に入ったものを探します。全部で7着ほど試着したところでどうもピンときません。試しに真っ赤なコートも着てみたい、と言ったら、店員に「赤はよくない。やめておけ」と言われました。こういう素直な物言いが外国の面白さだと思うのです。仮にこの店員をいい店員だと名付けます。なぜなら後から悪い店員が出てくるからです。
この赤はやめておけと言った店員はがんばっていろいろ勧めてくれるのですが、気に入ったものがないので店を出ることにしました。ものの15分です。そしたらもう一人の悪い店員が「買わなければならない」と言ってくるのです。私も言い返しました。「彼が嫌だから私はここでは買わない」よい店員は「わかった、わかった」と頷きましたが、結局私は店を後にしました。
2軒目の店に入りました。
ここには1時間近くいました。次々に試着しました。ここにも2人店員がいて、私の希望するサイズがないと店を出てどこかから調達してきます。それ以外の男の店員が私にかかりつけになり、コートを着せたり、襟元のファーを合わせるコツがあるのですがそれを教えてくれます。ただし、彼は必要以上に体をべたべた触り、英語でいうbeautyのロシア語を連発していけ好かない感じでした。立ち去らなかったのは、彼が一生懸命仕事をしてくれているという感じがしたからです。
最後に3着だけ、ちょっと好きなものが残りました。でもそのうちの一つは、ファーが襟元まで来ないのでこれは寒いロシアの冬用としては論外です。もう一つは、こげ茶の皮でファーの大きさもちょうどよく、裾にもファーがついていて少し甘すぎる感はあったのですが逆に希少価値が増すような気がしてデザインも可愛かったのですが、なんとなくシルエットがしっくりこない感じがしました。最後の一つは、黒の皮でフードのところにだけファーがあるシンプルなものでシルエットもよかったのですが、ジッパーが銀色に光ってなんとなくいかつい感じがしたのです。結局3つとも買うまでの決め手がなく渋る私に、店員は執拗に食い下がり、初め5万円を提示した金額は18000円まで落ちたのです。
けれど彼らがいくら値段を下げても、気に入らないものは買えません。それでも18000円に少し心動かされた私の様子を見て、彼らは袋にコートを入れ、私の手に持たせようとします。私は日本人らしく「考えたい」というと、「何のために考えるんだ」「君にとってこんな金額は些細なものだろう」と言ってきます。本気でちょっと心動かされていた私は「時間がほしい、明日決めたい」と言ったら「明日は違う値段だ」と言います。「それはおかしい。明日も違う値段のわけはない」と言い返しましたが、このあたりから彼らの必死さが暗く心に重荷になってきました。「こんなに君にために働いたのに全部むだになった」と言ってきます。だから「それはあなたの仕事で、私だって仕事をしている。あなたにはいろいろしてもらって感謝している」とこのときまでは一応私もなんとなくいいことも付け加えようという気持ちもまだあり、それを言いました。けれど結局最後は、もう一人の店員が「you’re not a beautiful girl」という捨て台詞を言い、もう私も何も言い返す気力はなく残念な気持ちでまたもや店を後にしました。
途中、「you’re not a beautiful girl」と言った店員が、「旦那はいるのか」と聞いてきました。「いる」と嘘をつきました。そしたら「ここにいるのか、家にいるのか」と聞いてきます。変な質問です。あれは何を想定してあの質問をしたのだろうかと考えます。女の外国人の私だけならいいカモにできると思ったのでしょうか。
私は彼らの後先考えない、短絡的な商売の仕方に圧倒されました。私は、ここに夫もいて仕事もあって住んでいる、と彼らに言ったのです。刹那な客ではない私にあのような言行をすることは、彼ら自身の評判を落とすことにつながりかねません。少なくとも顧客はつかめません。商売は口コミが大事なはずです。
そういうことに考えを及ばせず、なりふり構わず売りつけようとし、売れなかったら悪態をつくというのは賢い商売の仕方とは言えません。そこまで考えて、これもやはり体制がコロコロ変わるため長期の目標を掲げにくいソビエト政権が影響してるのかなと考えたりもしましたが、でもこういうことはロシアだけではなく、インドやモロッコやどこでも起こっているなと思いました。
さすがに疲れて、今日はもう帰ろうと出口に向かっていると、横から怪しげな男の視線を感じました。私は即座に後ろにしょっていたリュックを前に移動させました。
今日は退散しましたが、真の値段もわかったので、今度またエネルギーのある日に再訪して、夢のふさふさファーを手に入れようと思います。
街ですれ違うたびに、ファー付きのコートが可愛く、見れば見るほど欲しくなり、そして今日市場へ行ってきました。あのコートはどこで手に入るのだろうといつも思っていたのですが、輸入製品が並ぶデパートではないのです。このロシアの市場にたくさん置いてありました。
ロシアの市場は、ペルミに住んでいたときから、どこか寒々としてあまり好きではなかったのですが、それは今も同じかもしれません。零下何十度の中をお店によっては露店なので、店員は一日中外にいる場合もあります。彼らにとっては慣れっこなのかもしれませんが、外から来た私にはそれが見ていて居たたまれないのです。
まずは、様子見でなんとなく店を除きながら歩いていると早速声をかけられました。
12畳ほどの店内には、壁一面に冬用のコートがかけられています。気になるものを指さし、次々に試着していきます。ダウンジャケットの材質と革製品どちらも試してみました。値段は、皮だと15000ルーブル、日本円にして約3万円、ダウン素材は10000ルーブル、日本円にして約2万です。ディスカウントはあとにして、まずは気に入ったものを探します。全部で7着ほど試着したところでどうもピンときません。試しに真っ赤なコートも着てみたい、と言ったら、店員に「赤はよくない。やめておけ」と言われました。こういう素直な物言いが外国の面白さだと思うのです。仮にこの店員をいい店員だと名付けます。なぜなら後から悪い店員が出てくるからです。
この赤はやめておけと言った店員はがんばっていろいろ勧めてくれるのですが、気に入ったものがないので店を出ることにしました。ものの15分です。そしたらもう一人の悪い店員が「買わなければならない」と言ってくるのです。私も言い返しました。「彼が嫌だから私はここでは買わない」よい店員は「わかった、わかった」と頷きましたが、結局私は店を後にしました。
2軒目の店に入りました。
ここには1時間近くいました。次々に試着しました。ここにも2人店員がいて、私の希望するサイズがないと店を出てどこかから調達してきます。それ以外の男の店員が私にかかりつけになり、コートを着せたり、襟元のファーを合わせるコツがあるのですがそれを教えてくれます。ただし、彼は必要以上に体をべたべた触り、英語でいうbeautyのロシア語を連発していけ好かない感じでした。立ち去らなかったのは、彼が一生懸命仕事をしてくれているという感じがしたからです。
最後に3着だけ、ちょっと好きなものが残りました。でもそのうちの一つは、ファーが襟元まで来ないのでこれは寒いロシアの冬用としては論外です。もう一つは、こげ茶の皮でファーの大きさもちょうどよく、裾にもファーがついていて少し甘すぎる感はあったのですが逆に希少価値が増すような気がしてデザインも可愛かったのですが、なんとなくシルエットがしっくりこない感じがしました。最後の一つは、黒の皮でフードのところにだけファーがあるシンプルなものでシルエットもよかったのですが、ジッパーが銀色に光ってなんとなくいかつい感じがしたのです。結局3つとも買うまでの決め手がなく渋る私に、店員は執拗に食い下がり、初め5万円を提示した金額は18000円まで落ちたのです。
けれど彼らがいくら値段を下げても、気に入らないものは買えません。それでも18000円に少し心動かされた私の様子を見て、彼らは袋にコートを入れ、私の手に持たせようとします。私は日本人らしく「考えたい」というと、「何のために考えるんだ」「君にとってこんな金額は些細なものだろう」と言ってきます。本気でちょっと心動かされていた私は「時間がほしい、明日決めたい」と言ったら「明日は違う値段だ」と言います。「それはおかしい。明日も違う値段のわけはない」と言い返しましたが、このあたりから彼らの必死さが暗く心に重荷になってきました。「こんなに君にために働いたのに全部むだになった」と言ってきます。だから「それはあなたの仕事で、私だって仕事をしている。あなたにはいろいろしてもらって感謝している」とこのときまでは一応私もなんとなくいいことも付け加えようという気持ちもまだあり、それを言いました。けれど結局最後は、もう一人の店員が「you’re not a beautiful girl」という捨て台詞を言い、もう私も何も言い返す気力はなく残念な気持ちでまたもや店を後にしました。
途中、「you’re not a beautiful girl」と言った店員が、「旦那はいるのか」と聞いてきました。「いる」と嘘をつきました。そしたら「ここにいるのか、家にいるのか」と聞いてきます。変な質問です。あれは何を想定してあの質問をしたのだろうかと考えます。女の外国人の私だけならいいカモにできると思ったのでしょうか。
私は彼らの後先考えない、短絡的な商売の仕方に圧倒されました。私は、ここに夫もいて仕事もあって住んでいる、と彼らに言ったのです。刹那な客ではない私にあのような言行をすることは、彼ら自身の評判を落とすことにつながりかねません。少なくとも顧客はつかめません。商売は口コミが大事なはずです。
そういうことに考えを及ばせず、なりふり構わず売りつけようとし、売れなかったら悪態をつくというのは賢い商売の仕方とは言えません。そこまで考えて、これもやはり体制がコロコロ変わるため長期の目標を掲げにくいソビエト政権が影響してるのかなと考えたりもしましたが、でもこういうことはロシアだけではなく、インドやモロッコやどこでも起こっているなと思いました。
さすがに疲れて、今日はもう帰ろうと出口に向かっていると、横から怪しげな男の視線を感じました。私は即座に後ろにしょっていたリュックを前に移動させました。
今日は退散しましたが、真の値段もわかったので、今度またエネルギーのある日に再訪して、夢のふさふさファーを手に入れようと思います。