うんどうエッセイ「猫なべの定点観測」

おもに運動に関して、気ままに話したいと思います。
のんびり更新しますので、どうぞ気長にお付き合い下さい。

ザックジャパンが“中東の笛”に苦しみながらもシリアに辛勝

2011年01月14日 | サッカー(全般)
◆サッカー・第15回AFCアジアカップ カタール大会(2011年1月13日)

・1次リーグB組 (第2節)
ヨルダン 1(1-0)0 サウジアラビア (@アルラーヤン/アフメド・ビン=アリー・スタジアム)
得点者:ヨルダン)42分 バハ・アブデルラーマン

日本 2(1-0)1 シリア (@ドーハ/カタールSCスタジアム)
得点者:日本)35分 長谷部誠、82分 本田圭佑(PK)
     シリア)76分 アル・カティブ(PK)


アジアサッカー連盟の今大会の関連ページ
日本サッカー協会の今大会の関連ページ
今大会の日本代表23名(日本サッカー協会のHPより)
出場16チームの最終登録メンバー(各国23名)

〔写真はロイター〕


                           *  *  *  *  *


この日最初に行われたヨルダンvsサウジアラビア戦で、ヨルダンが最小得失点差でサウジから大金星を挙げました。この結果、開幕前に優勝候補に挙げられていたサウジが1試合を残して1次リーグ敗退となる、まさかの波乱の展開に。この試合が終了時点での勝ち点は、ヨルダンが4、シリアが3、日本が1、サウジが0でした。なので、次の試合に控えた日本が、もしシリアに負ければ1次リーグ敗退の危機に晒される状況でした。しかし、今大会の1次リーグのレギュレーションは南アフリカW杯とは異なり、勝ち点が並んだ場合、次に優先するのは1次リーグ全試合での総得失点差ではなく、当該チーム間の対戦成績です。なので、日本はシリアに勝てばかなり優位な状況となるので、追いかける立場の日本としては是が非でも勝ちたい一戦でした。

日本はシリアとは、近年では年代別の公式戦では頻繁に対戦してます。2002年9月のAFC U-17選手権(現在の大会名称はAFC U-16選手権)では1次リーグで日本が1-0で勝利、2004年10月のアジアユース選手権(現在の大会名称はAFC U-19選手権)の3位決定戦では日本がPK戦で勝利、2006年9月のAFC U-17選手権では準決勝で日本が2-0で勝利、同年12月のドーハアジア大会では2次リーグで日本が1-0で勝利、2007年春の北京五輪アジア2次予選では日本がホームで3-0、アウェーで2-0とそれぞれ勝利。近年の年代別の公式戦では日本が全て勝利してます。今回の対戦前までのフル代表でのシリアとの過去の通算対戦成績は日本の7戦6勝1分です。直近の対戦となった3年前の2008年11月に神戸で行われた親善試合でも、日本が3-1で勝利してます。なので、割と相性の良い相手のように思えます。

ただし、シリアとフル代表の公式戦で対戦したのはたった1度だけです。その試合とは、今から15年前の1996年12月にUAEで開催されたアジア杯です。1次リーグの初戦で対戦した加茂周監督率いる日本は、前半早々にシリアに先制を許す苦しい展開。敵地での対戦が乏しかった日本は完全に雰囲気に呑み込まれてしまい、超守備的な布陣で臨んだシリアを攻め倦んで中々得点を奪えず、苦しい展開となります。前線への長いボールを放り込む単純な攻撃に切り替えた日本は、試合終了間際に相手のオウンゴールと高木琢也のヘッドで2-1で逆転してどうにか辛勝。ただ、日本はこの試合でライバルに弱点を晒してしまい、準々決勝で策士ミラン・マチャラが率いるクウェートに徹底的に研究されて0-2で惨敗。“中東恐怖症”に陥った日本は、のちに4バックから3バックへの変更を余儀なくされます。そして、この大会で負った傷を引きずった日本は、翌年のフランスW杯アジア最終予選で迷走を辿ったのはご存知の通りです。

今回の対戦も、15年前の対戦と同様に苦しい展開でした。中でも、出稼ぎ労働者っぽい大勢のシリアサポーターが声を枯らして熱心に応援するあの異様な雰囲気は、苦戦を強いられることを嫌でも想起させられました。案の定、前半からシリアは超守備的な布陣で臨んだシリアに対し、日本は圧倒的にボールを支配しながらも攻め倦みます。中々得点が奪えない苦しい展開でしたが、前半35分に本田圭佑が右サイドから長いドリブルで切り込んで中に折り返し、香川真司がDFをかわしてシュート。GKの好守にシュートが阻まれるものの、そのこぼれ球を松井大輔が素早く拾い、攻め上がった長谷部誠にパス。これを長谷部が右足を強烈に振り抜いてゴールマウス内に押し込み、ついに均衡が破れます。長谷部がシュートを打つ前に、松井が相手選手を上手くブロックしていたのはとても機転を利かせた好プレーでした。

その後も地力で勝る日本が何度も攻め立ててチャンスを作るものの、決定力不足と相手の好守に阻まれてどうしても追加点を奪えずに突き放せません。やはり、得点を取れる時に取れないと、気まぐれなサッカーの神様は悪戯をするものです。これが現実となるのが、後半27分のことでした。日本は自陣で守備陣の連携ミスが相次ぎます。長谷部が中途半端なバックパスをし、それをGK川島永嗣も不十分な処理。そのクリアボールに反応した今野泰幸とシリア選手のいずれかが触ってゴール前に転がり、慌てて飛び込んだ川島とシリア選手がペナルティエリア内で交錯。副審は、今野が競った場面をシリア選手のパスと見なし、前線にシリアの選手が1人残っていたこともあり、一旦はオフサイドと判定。ところが、イラン人の主審はこの場面を今野のバックパスと見なして、副審の判定を取り消し。更に、川島を退場処分に。当然日本は猛抗議するものの覆るはずも無く、この不運なPKをシリアに決められて同点に追いかれます。しかも、日本は残り15分近くを10人で戦わなければならず、絶体絶命の危機に立たされました。

しかし、同点に追いつかれてから暫くして、岡崎慎司がシリアのペナルティエリア内でDF2人に囲まれて倒され、このプレーによって今度は日本がPKを獲得。数分前に起きた日本の失点場面での猛抗議が効いたのか、まるで主審が日本への誤審に対する埋め合わせのような判断にも思えました。このPKを本田がド真ん中に蹴り込み、ボールがシリアGKの足の間を際どく通過してゴールマウスに吸い込まれ、土壇場で日本が勝ち越しに成功。なお、本田がPKで決めたこの得点は、日本代表が国際Aマッチで挙げた通算1000ゴール目となる記念すべき得点でもありました。その後、異様に長過ぎるロスタイムを落ち着いて凌いだ日本は貴重な勝ち点3を挙げ、ヨルダンを上回ってB組の首位に立ちました。なお、このロスタイムではシリアの同じ選手が短時間の間に2枚の警告を受けて退場処分を喰らうなど、技量不足の審判が必要以上に目立ち過ぎて試合を台無しにした印象を持ちました。

どうにかシリアに辛勝した日本は、既に敗退が決定した次のサウジ戦で勝ち点1以上を加えれば、自力で1次リーグを通過出来ます。また、サウジ戦で仮に敗れても、同時刻に行われるヨルダンvsシリア戦でヨルダンが勝つか引き分ければ、日本がシリアを上回って通過出来ます。先述の通りに、今大会の1次リーグの優先順位は、①勝ち点→②当該対戦成績(正確には、当該対戦同士の勝ち点→当該対戦同士の得失点差→当該対戦同士の総得点の順)→③総得失点差→④総得点差→⑤当該2チームが第3戦で直接対決の場合はPK戦→⑥フェアープレーポイント→⑦抽選の順番です。なので、シリアに勝った日本は現時点ではかなり優位です。守備の文化で育ったイタリア人のアルベルト・ザッケローニ監督にとっては、次戦は願ってもない状況と言えるのかもしれませんね。そういえば、イタリアはW杯で1次リーグを戦う時は、いつも手抜きして“死んだふり”だったよなぁ・・・。

とはいえ、今大会の日本は準備不足だったので序盤戦は苦戦を強いられることは元々覚悟してましたが、まさかアジア杯の1次リーグのレギュレーションまで入念に調べる事態になるとは思いもしませんでしたけどね(苦笑)。



☆日本vsシリア戦のダイジェスト



☆15年前のUAEで開催されたアジア杯で大苦戦した時の試合
(1996年12月6日 @UAE・アルアイン)

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4 コメント

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またしても2-1ですが (こーじ)
2011-01-15 21:54:47
 アジア杯のシリア戦といえば96年の相手GKミスからの逆転勝ちを思い出します。

 今回も実力的には日本が断然上でしたけど、手こずりましたよね。
 ただ こういう試合を重ねてキャリアアップしていけばいいと思ってますから、こういう苦戦も いい栄養素だと思います。

 GKが一発退場になって勝ったといえば92アジア杯の中国戦を思い出しましたよ。

 決勝のPKは主審が自らのミスを知っていたからこそ帳尻合わせのような感じで与えたのかな
と思ってました。
 
 とにかく中東で行う大会は怪しげな判定多いですから、こういうのに耐えて対処していけば
タフなチームになると思いますね。

 さぁ次のサウジ戦は引き分けOKですから、守備の国から来たザックは どんな戦い方をするの
でしょうか楽しみです。
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コメントありがとうございます (猫なべ)
2011-01-15 22:37:43
こんばんは、こーじさん

15年前の試合会場の雰囲気も今回と同様に殺気が漂う完全アウェー状態でしたが、
今回の日本は審判の嫌がらせ紛いの判定に遭いながらも、敵地で冷静に対処出来ていたと思います。

中でも、主将の長谷部は、主審に対して節度を弁えながらも、言うべきことを明確に主張していたのは
とても立派な振る舞いだったと思います。
もしかしたら、この抗議が、あの「埋め合わせPK」に繋がったとも言えなくも無いですね。
まるで、7年前のアジア杯ヨルダン戦のPK戦で、宮本の抗議でPKの場所が変わったあのシーンを彷彿しました。

とはいえ、帳尻合わせする審判は、自ら下した判定に自信を持てない事を晒しているので、
低レベルな技量の持ち主だと思いますね。
こういうのを含めて、ザッケローニ監督は今大会で「アジアの免疫」を予防接種出来たと思いますね。
返信する
中東の笛、大活躍 (まったり屋)
2011-01-16 00:24:47
猫なべさんこんばんは。
FIFAランキングなんて当てにならない、特にアジアカップでは全く無意味、と
いう事を日々実感しております(苦笑)

試合前一番恐れていた“中東の笛”も見事に炸裂し、川島が犠牲者に・・・いや、
押し出しで交代になった前田も犠牲者の一人ですね。

直後にPKを決められた時は、“まさか優勝候補のサウジに続き、日本もグループ
リーグ敗退!?”と半ばパニック状態でしたが、10人になってからの日本の運動量が
1人多いはずのシリアを押しており、エリア内での岡崎の名演出と中東の笛の
“揺り返し(笑)”のおかげでPKゲット!

本田の “キーパー股抜き”PKショットで逆転後は、ロスタイムのシリアの自滅も手伝い無事タイムアップ。

“一試合トータルでは何とか帳尻は合ったかな?”、と試合後は中東の笛への
怒りは
そんなにありませんでした(笑)

・・・次節川島が出場停止なので、本当はもっと怒るべきなのかもしれませんが、
交代で入ったGK西川の動きが良かったので、
次のサウジ戦で西川の活躍に期待しています。

あんまりGKの活躍が目立つような展開は避けて欲しいところですけど(苦笑)
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コメントありがとうございます (猫なべ)
2011-01-16 16:58:03
こんばんは、まったり屋さん

川島の退場処分に関しては、AFCが定めた大会レギュレーションの杜撰さと、
日本協会のルールに対する認識の甘さも浮き彫りになったと思います。

なにせ、今大会の抗議に関する規定は、「試合終了後から2時間以内で文書で提出されなければ受理しない」となってます。
試合の抗議という大事な案件を、2時間以内に英語に訳させて文書で提出させるのは、いくらなんでも無理がありますよね。

そして、本当に問題なのは、日本協会の原博実強化担当技術委員長がこの規定を知らなかったことです。
協会の怠慢のおかげで、この抗議文が正式な文書として扱われず、“参考資料”として受理されるとのことです。
これでは大会規約を事前に熟知してなかった証拠ですし、外国人を相手に正式な文書をやり取りしない口約束なんて
通用するはずが無いです。
ピッチの中で選手が優勝を賭けて一生懸命に戦っているのに、
役員が足を引っ張っている格好ですね。

とはいえ、考えようによっては、敵地の公式戦でピッチに立てる西川にとっては大きなチャンスなので、
気持ちを切り替えて戦ってほしいものです。
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