うんどうエッセイ「猫なべの定点観測」

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来年からフライングは1回目で即失格

2009年12月16日 | 陸上
日本陸上競技連盟は15日の理事会、評議員会で、スタートでのフライングを1回目から即失格とする新ルールについて、2010年度から3年間、試行的に日本陸連主催の一部大会で適用することを決めた。13年度以降は中学、高校を含めて日本陸連主催の全大会(全国小学生陸上を除く)に範囲を広げる予定。全国大会につながる地区大会は各陸協の判断によるが、新ルールの適用を推奨するとした。国際陸連主催大会では来年1月から導入される。

 10年度から適用されるのは、日本選手権▽日本ジュニア選手権▽日本ユース選手権▽国際グランプリ大阪大会▽スーパー陸上。四百メートルまでの短距離種目と四百メートル、千六百メートルのリレー種目に限定し、フライング判定装置の設置を原則とする。装置がない場合は、目視とビデオ映像で判定する。日本学生陸上競技連合も来年度は、日本学生個人と日本学生対校の両大会で新ルールを適用する方針。

〔毎日新聞 2009年12月15日の記事より〕
※写真は2003年のパリ世界陸上の男子100mでフライングで失格したジョン・ドラモンド


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陸上のフライングによる失格はここ数年幾度か変更してます。2002年までは同じ選手が2度犯せば失格でした。しかし、このルールだと同じレースで違う選手が何度もフライングを犯すと、競技進行が遅くなる欠点がありました。1994年の広島アジア大会の男子100m決勝では、機械の誤作動と複数の選手のフライングもあって、なんと1つのレースで合計5回もフライングをしたことがあります。

2003年に国際陸連(IAAF)は、1回目で誰かがフライングした場合、2回目では前回フライングしなかった選手でも無条件で即失格となるルールに変更。ただ、このルールでも、故意にフライングをする事でスタートを得意とする選手にプレッシャーをかける「駆け引き」が横行。その為、来年の1月1日からIAAFは、フライングによる失格を1回目で即失格となるルールに変更となりました。



ちなみに、ルールが変更された2003年の最初の世界規模の屋外の大会である、パリで開催された世界陸上の男子100mで大混乱がありました。2次予選でジョン・ドラモンド(米国)がフライングを犯したとして失格を宣告。しかし、ドラモンドはこれに対して、身に覚えの無いフライングとして猛抗議。のちに、規定(号砲より0.1秒以内)より早く僅かな足のぐらつきに機械が反応したので、号砲後に静止してないと見なされて、フライングと判定。結果的にドラモンドの主張は間違いということになります。

だが、これで腹の虫が収まらなかったドラモンドは、マイクパフォーマンスでスタジアムの観客に訴えます。しまいには、係員から退場を促されるものの、「I did not move!」と言ってコース上に寝転んで抗議。もちろん抗議は受け入れられません。この大会は35歳のドラモンドにとって、年齢的に最後のチャンスだったこともあり、涙とともに競技場から去ることを余儀なくされます(なお、アサファ・パウエル(ジャマイカ)も同じレースで失格処分)。

その為、ドラモンドは観客の同情を誘い、彼の組以降のレースはブーイングが鳴り止まず、1時間以上も大幅に進行が遅れる事態となります。そして、ドラモンドはこのシーズンの残り試合を出場辞退(=事実上の追放)に追い込まれ、現役引退を余儀なくされます。なお、引退後は指導者に転身し、現在はタイソン・ゲイ(米国)のコーチをやってます。



今回のルール変更で心配されるのは選手はミスが許されず、スタートが慎重になるので記録の向上が望めない可能性があることです。スターターも国際大会だと英語ですし、号砲するタイミングもマチマチなので、尚更慎重になると思います。反面、故意のフライングは無くなるので、選手は気持ちを集中させてレースに臨めることが出来、観客もスタート前の静寂と緊張感を味わえるメリットもあります。

日本としては、いち早く全ての国内大会で改正ルールに対応したいところですが、このルールを適用するのは一部の国内大会のみに留まり、3年間の経過措置を取って2013年から全ての国内大会に完全導入とのこと。この対応はいかにも日本らしいですね。たしかに、新たにフライングを判定する機械の普及など、ハード面の問題があるので一定期間の経過措置を取るのは理解できます。ただ、3年間は長すぎるのではと思います。近年の日本のスプリント陣は男女ともレベルが上がっているとはいえ、個人レベルでは世界のトップクラスとはまだ程遠いです。だからこそ、全ての国内大会でなるべく早めに導入して、新しいルールに対応するべきだと思います。

また、高校総体や国体など、中高生の競技会を見送った対応も疑問です。まだ育成年代なので、記録を伸ばすためにプレッシャーを掛けないでレースに臨ませるのが狙いだと思いますが、これは本末転倒の対応のような気がします。これだと、今後3年間は国際規格から逸脱したローカルルールで戦わなくてはいけないので、いざ世界の舞台に出た時に新ルールに対応出来ず、力を十分に発揮できない可能性があります。来年からルール改正されるのは既に決定事項なので、日本もジュニア年代から国際規格に合わせてプレッシャーのある中で戦わせるのが筋ではないのでしょうか。

日本のスポーツ界はルール改正や新しい用具の登場に対する対応は、いつも後手を踏んでいると思います。経済もそうですが、度量衡が異なる状態は決して好ましい状況とはいえません。結果的に、箱庭でしか戦えない選手を作ることになりかねませんから。

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