うんどうエッセイ「猫なべの定点観測」

おもに運動に関して、気ままに話したいと思います。
のんびり更新しますので、どうぞ気長にお付き合い下さい。

師匠に並んだ尾崎好美の銀メダル

2009年08月24日 | 陸上
◆第12回世界陸上選手権・女子マラソン
(2009年8月23日・天気は晴れ、スタート前の気温19度、湿度64%)

1位:白雪(中国)                2時間25分15秒
2位:尾崎好美(第一生命)           2時間25分25秒
3位:アセレフェチュ・メルギア(エチオピア) 2時間25分32秒
4位:周春秀(中国)               2時間25分39秒
5位:朱暁琳(中国)               2時間26分08秒
6位:マリサ・バロス(ポルトガル)       2時間26分50秒
7位:加納由理(セカンドウインドAC)     2時間26分57秒
8位:ナイリャ・ユラマノワ(ロシア)       2時間27分08秒
9位:アレフティナ・ビクティミロワ(ロシア)   2時間27分39秒
10位:カラ・ガウチャー(米国)          2時間27分48秒
11位:デジエレー・ダビラ(米国)        2時間27分53秒
12位:ジュリア・モンビ・ムラガ(ケニア)   2時間28分59秒
13位:孫偉偉(中国)              2時間29分39秒
14位:藤永佳子(資生堂)           2時間29分53秒

〔写真はロイターより〕


                        *  *  *  *  *


今回のレースはカザフスタン出身のドイツ人選手で今シーズンの世界のベスト記録を出したイリーナ・ミキテンコをはじめ、キャサリン・ヌデレバ(ケニア)、ポーラ・ラドクリフ、マーラ・ヤマウチ(ともに英国)ら有力選手がこぞって欠場。近年では、有力選手は春と秋に行われる高額賞金のレースを優先して、真夏の世界陸上を避ける傾向を感じます。そして、時間が経つに連れて高温多湿の気象条件になった事により、スピードを争うレース展開にならなかった事も日本勢にとっては幸運に働きました。決して尾崎の銀メダル獲得にケチをつけるわけではありませんが、今回は「世界2位」というより「大会2位」と受け止める方が賢明だと思います。ましてや、今回の結果だけでは、男子に続いて女子の真夏のレースでも、高速化が進展している事を判断は出来ないと思います。

だけど、尾崎は本当によく頑張ってくれました。今大会の日本勢は大会8日目まで獲得したメダルがゼロ。また、女子マラソンはエースの渋井陽子が怪我で欠場。そして、陸連は北京五輪に続いて補欠を用意しない不手際をまたも繰り返し、雰囲気はあまりよくはありませんでした。そして、渋井が欠場した事により、今大会のマラソンにエントリーした日本選手は全員が世界陸上に初出場となってしまい、経験不足から成績が不安視されてました。そういった悪条件にも関わらず、キャリアがまだ浅い尾崎は、遅いレース展開に決して慌てることなく自分のペースを守り通しました。最後の最後で中国の白雪(危ないからペットボトルを尾崎の足元に落とさないでね!)との一騎打ちに敗れましたが、日本女子に大会通算10個目となるメダルをもたらしたのは立派です。近年、陰りが見えてきた日本女子マラソン界に活気をもたらしますから。対照的に、世界大会を初めて制した中国は、近年成長が目覚しく、日本を凌駕してます。今大会は北京五輪代表の中村友梨香が10000m(7位入賞)に回りましたが、もし北京五輪に続いて今大会もメダルを失ったていたら、日本にとってはかなりダメージが大きかったと思います。なので、悪い流れを阻止した意味でもメダルを獲れたのは良かったです。

あと、今回の尾崎の銀メダル獲得で嬉しいのは、女性指導者の手によって育てられた事です。日本の女子スポーツは、どちらかというと男性指導者が多く、トップ選手を教える女性指導者は決して多くはないです。陸上も例外ではありませんし、むしろ圧倒的に少ないです。しかも、選手としてある程度出来上がった大卒の選手ではなく、将来性を見込んで採用した高卒の選手を、時間を掛けてじっくりと鍛え上げた事も評価すべきです。山下さんは、少しですが教員の経験がある事も、指導に活かされたのでしょうか。それだけに、かつて女子マラソンの世界的な名選手でもあり、国内のトップ選手を指導する女性指導者の草分け的な存在である山下佐知子さんが世界の舞台で実績を残した事は、国内の陸上界にとっても大きな意義があると思います。ましてや、私は山下さんの現役時代を知っているだけに、尚更嬉しいです。なにせ、山下さんこそが、男女&全種目を通じて日本人で最初の世界陸上のメダリストです。

今から18年前の1991年8月25日の早朝に行われた東京大会の女子マラソンは本当に酷暑の大会でしたが、山下さんは優勝候補のワンダ・パンフィル(ポーランド)と最後まで争います。国立競技場を目の前にした下り坂でパンフィルにスパートを掛けられてしまい、僅か4秒差で敗れます。それでも2時間29分57秒の自己ベストタイムをマークして、見事に日本人初の銀メダルを獲得し、翌年のバルセロナ五輪の出場権も獲得します。なお、この大会の3位は日本でもお馴染みのカトリン・ドーレ(ドイツ)で4位は有森裕子さんでした。ちなみに、同日夜に行われた男子100mではカール・ルイスが9秒86の世界新記録を樹立し、まさにこの日は記念すべき日でした。そして、山下さんにとって最後のレースとなった翌年のバルセロナ五輪では4位に入賞(正確に言うと、4着だったEUNのマディナ・ビクタギロワがドーピング違反で失格して繰り上がってます)。そして、有森さんが人見絹江さん以来、日本女子陸上界で64年ぶりとなる銀メダルを獲得。山下さんは、最大の好敵手だった有森さんと共に、現在に続く日本女子マラソン界の礎を築いた人物なのです。

弟子が師匠を超える事を「出藍の誉れ」と言います。今回の尾崎は師匠の山下さんと並んだので、この言葉通りにはなりませんでしたが、師匠を追い抜くチャンスはこれからもまだ十分にあると思います。これからも更なる健闘を祈ります。

あと、余談ですが、35kmの給水所で尾崎がスペシャルドリンクを取り損ねた時に、給水エリア内までに猛スピードで追いかけて渡した男子3000m障害物代表の岩水嘉孝(この日は給水係でした)は本当に見事でした。ただでさえ水浸しで足場が悪くてテーブルも邪魔でしたけど、人混みの中を掻き分けて尾崎のスピードを落とさずにドリンクを渡したのは、日頃の競技経験の賜物でしょうか?(笑)。まさにこの日の岩水はGJです!

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