銀河夜想曲   ~Fantastic Ballades~

月が蒼く囁くと、人はいつしか海に浮かぶ舟に揺られ、
そして彼方、海原ワインのコルクに触れるを夢見、また、眠りにつく……

ちひろの絵・その8

2007年07月14日 01時40分32秒 | いわさきちひろ、その人と作品
子犬と雨の日の子どもたち
1967年
絵雑誌 “ こどものせかい ”



「あれ? この犬、前もここにいたよね。ずっと前、確か、雨が降っているときに」

「ふふ。何だか、私たちのこと覚えてるみたい」

「まだ帰ってないってことは、やっぱり捨てられちゃったのかな?」

「首輪が付いてないから、野良犬さ」

「でも、あの時と同じように、こんなに尻尾を振ってる。ここでずっと、飼い主を待ってるんじゃないかしら?」

「--やい、お前はまた、どこから来たんだ?」 

「わ! そんなにピチャピチャって近寄ってきたら、服が汚れちゃうよ」

「やーい、ずぶぬれ犬!」

「だめ! そんなこと言ったら、かわいそうだよ」

「何だか足がぬれてて、茶色の靴下を履いてるみたいだ」

「あはは、靴下じゃなくて、短足の長靴だよ」

「--ねぇ、あんたの傘を置いてってあげなさいよ」

「え? そんなことしたって、犬は傘を差せないぞ」

「でも、貸してあげて。小さなお家にはなるわ。そうすれば靴下だって、きっと乾くもの。乾いて、また早く走れるようになるよ」

「じゃあ、おまえのを貸してあげれば?」

「あんたの透明の白い傘の方がいいの。だって、向こうから飼い主が来たときに、すぐに見えて走っていけるでしょ」

「あ、見てよ。誰かこっちに走ってくる。僕たちも、そろそろ帰ろう」



---遠き遠き、梅雨の日々の、     
              遥か私たちの想い出に---





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4 コメント

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Unknown (king)
2007-07-14 13:32:09
丁度今の季節ですね~。
向こうから来た人は買主なのでしょうか?

絵本とはいろいろと想像させてくれますね。
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kingさんへ (ショパンⅢ世)
2007-07-15 21:30:55
今回は今までのものとは趣向を変えて、ちひろの絵からは少し逸れた内容にしました。絵の中の子供は、恐らく本文のような会話はしないでしょう。ですので、追記文を認めた次第です。
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Unknown (夜毎屋)
2007-07-15 23:50:43
短編の一部を髣髴させるような、雰囲気のある文章ですね♪
ちひろの優しい色使いによく似合っています。。。!

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夜毎屋さんへ (ショパンⅢ世)
2007-07-16 01:03:51
コメント、恐れ入ります…。
当初は絵の世界そのままを書こうと思っていたのですが、やや(大分?)僕の物語領域が顔を出してしまいました。

また会って、色々とお話したいです♪



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