銀河夜想曲   ~Fantastic Ballades~

月が蒼く囁くと、人はいつしか海に浮かぶ舟に揺られ、
そして彼方、海原ワインのコルクに触れるを夢見、また、眠りにつく……

ちひろの絵・その9

2007年12月27日 23時32分16秒 | いわさきちひろ、その人と作品
白い馬とりんごを持つ少年
1973年
雑誌 “ 子どものしあわせ ”



この寒い風の中

食べ物をさがしているあの馬は

むかし

僕が遊んでやった馬だ



あんなに大きくなって

立派になって

鬣(たてがみ)だって 本物になっている



時計の音をかすめるように

パカッ、パカラッ

気持ち良い蹄の音

遠くから聞こえてくるのに

もう近くにある



胸があんまりドキドキするから

赤いリンゴが僕みたいで

とても

目立ってしまいそうだよ

僕のひそやかな声が

聞こえてしまいそうだよ



「……ひさしぶりだね」



あの馬は

いつ僕を見つけるだろう

どうして僕は

隠れているんだろう



もう、おもちゃじゃないんだ

さあ

夢の中から持ってきたリンゴを

食べさせてやろう



きっとあいつも待っている

夜毎に見ていた夢たちが

甘いリンゴの憧れが

ここに

駈け付けて来ることを

僕の

そっと駆け抜けて行くことを





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