銀河夜想曲   ~Fantastic Ballades~

月が蒼く囁くと、人はいつしか海に浮かぶ舟に揺られ、
そして彼方、海原ワインのコルクに触れるを夢見、また、眠りにつく……

ちひろの絵・その9

2007年12月27日 23時32分16秒 | いわさきちひろ、その人と作品
白い馬とりんごを持つ少年
1973年
雑誌 “ 子どものしあわせ ”



この寒い風の中

食べ物をさがしているあの馬は

むかし

僕が遊んでやった馬だ



あんなに大きくなって

立派になって

鬣(たてがみ)だって 本物になっている



時計の音をかすめるように

パカッ、パカラッ

気持ち良い蹄の音

遠くから聞こえてくるのに

もう近くにある



胸があんまりドキドキするから

赤いリンゴが僕みたいで

とても

目立ってしまいそうだよ

僕のひそやかな声が

聞こえてしまいそうだよ



「……ひさしぶりだね」



あの馬は

いつ僕を見つけるだろう

どうして僕は

隠れているんだろう



もう、おもちゃじゃないんだ

さあ

夢の中から持ってきたリンゴを

食べさせてやろう



きっとあいつも待っている

夜毎に見ていた夢たちが

甘いリンゴの憧れが

ここに

駈け付けて来ることを

僕の

そっと駆け抜けて行くことを




ベートーヴェン コリオラン序曲 作品62

2007年12月24日 23時54分13秒 | クラシック音楽
作曲 1807年
初演 1807年
    ウィーン、F.J.v.ロプコヴィツ侯爵邸
被献呈者 H.J.v.コリン



ショパンの “ バラード第1番 ” 以外に、僕がなかんずく好む自然の結果として幾種もの演奏録音が集まったもの、つまりは同曲異録盤のクラシック曲がある。ベートーヴェンの “ コリオラン序曲 ” がその1つだ。
この曲はコリンの同名の劇のために作曲されたか、あるいはその作品が直接の動機として書かれたと思われるものの、結局は劇中で使用されず単体の作品として成立する。
【コリオラン】とは、紀元前5世紀頃のローマの英雄コリオラヌスの事。

序曲という形態故に、演奏時間は通常で10分に若干満たないぐらいだが、その高揚感といい悲劇性溢れた濃密さといい、古今数多くある序曲の中でも人気の度合いはトップクラスではないだろうか。個人的好みで言うと、ベートーヴェンの中では “ エグモント序曲 ” と双璧を成す。
ちなみにフルトヴェングラーやクナッパーツブッシュといった巨匠指揮者が好んで取り上げたこの作品、今年で生誕200年を迎えた。

曲は一貫して昂然たる空気が満ち、聴く者に挑みかかる様な咆哮が繰り返される。弦からも管からも、そして打からも強奏は捻り、且つ、憑かれた様なスピード感は心地良さを通り越して畏怖の念さえ起こさせる。

僕がこの曲に依然として強く魅了されているのは、もう10年程前になるだろうが、BS放送でクライバーの演奏に触れたのが何と言っても大きい。現在DVD(トップ画像のもの。1996年10月21日のライヴ)にもなっているが、こちらで見る事もできる。

カルロス・クライバーは僕のとりわけ好きな指揮者の内の1人だが、彼はその生涯に渡ってこの作品を何度も演奏している。1度でいいからその実演に触れてみたかったものである。例えばフルトヴェングラーの “ コリオラン序曲 ” はとてつもなく破壊力があるし、フリッツ・ライナーやダニエル・ハーディング等の演奏もそれはそれで特有性が光っているのだが、カルロス・クライバーの指揮振りに接すると(目にしながら聴けば尚更)、どうしてもこちらの方が僕にとっては魅力的なものになるのだ。

余談だが、僕が大学生だった頃、所属するサークルの活動の一環として、この曲を主題にしてチーター3兄弟の生き様を描いたラジオ・ドラマを創ろうと思っていた。残念ながらそれは実現しなかったが、いつの日か、ラジオ・ドラマでなくとも違う形で作品に仕上がったなら本望だ。