銀河夜想曲   ~Fantastic Ballades~

月が蒼く囁くと、人はいつしか海に浮かぶ舟に揺られ、
そして彼方、海原ワインのコルクに触れるを夢見、また、眠りにつく……

チョコレートの妖精

2007年04月26日 23時00分15秒 | 絵本・童話・児童文学
文 片山令子 
絵 100%ORANGE 
白泉社



月刊誌MOEの2005年3月号~2006年1月号に、隔月に渡って連載された “ 妖精ノート ” を大幅に加筆修正して単行本化した、小さな小さな13作品から成る物語集。

100%ORANGEの絵は可愛らしく色彩も鮮やかで、見る者の心は自然と微笑む。それは幼い子供が描いたような風合いでもあるのだが、絵柄全体の構図が緻密に計算されているため印象に残りやすい。
また片山令子の文章は、仮に100%ORANGEの挿絵がなかったとしてもそれだけで充分に引き立っている。詩人でもある彼女の気鋭が、特に各物語の後半部分で光っている。

つらつらと文章が綴られている物語だけではなく、中には漫画風に仕上げられたもの、詩そのものに絵を添えたようなものもあり、両作者の創意工夫が見受けられて好感が持てる。

幼き者が読む絵本というよりは、大人が読んで夜の眠りに就くための作品。
「汚れた水の上の泡みたいな軽い魂なら、ぷかぷか浮いて流されて生きていけばいいさ。だがね、上等の魂は少し重いんだよ」

落ち込んでいる人に、大切な人に贈りたくなるような絵本である。




バッハ フルート(ヴァイオリン)・ソナタ ト短調 BWV.1020

2007年04月20日 23時56分28秒 | クラシック音楽
J.S.バッハ作のフルート・ソナタは無伴奏のものを含め全部で7曲あるが、このBWV.1020は偽作とされていて、次男のC.P.E.バッハが作曲したと考えられている。更にこのソナタを伝える全ての資料はヴァイオリンをソロ楽器として掲げているそうだが、ヴァイオリンの機能(特に音域)が十分に活用されていなく、またJ.S.バッハのフルート作品との共通点が多いため、フルートで演奏してこそ真価が発揮されるとの事。

偽作であろうとも、この曲(とりわけ第1楽章)の構築美と典雅なメロディーには確固たる作品としての存在感を受けるし、また、確かにヴァイオリンで聴くよりはフルートで演奏された方が耳に心地良い。上記の7曲のフルート・ソナタの中に加えてもこの作品の力強さは揺るぎなく、好みで言えばそのトップクラスに入る。

一聴して心を奪われるのが、トップ画像のニコレ&リヒターのCD。1963年10月の録音で、決して流麗とは言えないが1音1音がはっきりと自己主張しているニコレのフルートがこの曲想に似つかわしく、そして特筆すべきは、何と言ってもリヒターの奏でる音色の厚み。マイクの集音効果(作用)もあるのかもしれないが、前へ前へと進み出る勢いと、線香花火の火花が2倍3倍ぐらいにまで膨らんだかの様な音の煌き・その響きが素晴らしい。

併録は、
フルートとチェンバロのためのソナタ 第1番 ロ短調 BWV.1030
フルートとチェンバロのためのソナタ 第2番 変ホ長調 BWV.1031
カンタータ 第4番 “ キリストは死の縄目につながれたり ” BWV.4
直輸入版 WPCS-4818
輸入版 0630-11427-2



ちなみにBWV.1020を含め、フルートとオルガンで演奏されたフルート・ソナタのCDもある。

ウィーン・フィルの第1フルート奏者ディーター・フルーリーと、ヴェグマンというオルガニストによるものだが、こちらはオルガンが通奏低音を務めている事もあって各作品の生命感の稜線が際立って浮かんでこない。良く言えば幻想的。一方、フルーリーの音色はニコレとは対照的で非常に流麗。聴いているとそのままどこか遠くへ誘われていかれそうな、そよぐ風の歌の様である。




ノクターン 第4番 ヘ長調 作品15-1   

2007年04月15日 23時53分20秒 | ショパン作品からのイメージ素描
午後の駅

大きな大きな伽藍状の木の下に

ポツンと佇む

一対の小さなさくらんぼを模した

誰もいない午後の駅

ハンカチにそっと包まれているホームには

柔らかな陽射ししか届かない

ポップコーンに群がる鳩は

女を啄ばむ愚かな男共のように滑稽で微笑ましく

何者にも頓着していない

春の静かな共産に

ゆらり揺れる

さくらんぼの駅は





しかし

嘴に弾かれた足先が跳んだ瞬間に夕立を呼んで

狂乱した隻足の鳩はレールの上を黒々と彷徨い

すぐさま

誰ぞ彼の耳穴に舞い込む

バタバタと羽音を立てて

彼の体中を掻き毟り

失った足先を捜しては

当て所もなく生きてきた風雨の中の営みを

その無上の禍根の声を

彼に突き付ける

孤独な駅は

三重の夕立に苛まれ

列車を迎え入れる術もなくなった





ベンチに寝そべる彼に

ポップコーンの甘い香りだけが残された

ホームに降り積もった羽の影は

和らいだハンカチの色に染められて

未生のさくらんぼのために木陰として生まれ変わった

レールの遥か彼方では

また朝の霞が遠く棚引いている

春風に促されるまま赤い宝石を夢見て

彼は

すぐ隣のホームへと足を引きずった