続き。
何をどう書こうとしてもネタバレになるので
舞台「PSYCHO-PASS Virtue and Vice」シリーズ1~3のネタバレしてます。
3は九泉のカウンセリングシーンから始まります。
観る前に「拡樹さんのファンは開演5分前には着席しているように!」という注意喚起を見かけたので
客席登場とかあるのかなと周囲に気を配っていたら、開演時刻3分くらい前に上手側からマグカップを持った九泉がのんびりスルッと登場。
コーヒーを飲んだり、周りをぼんやり眺めたりしながら、舞台真ん中にあるテーブルのところに行って着席、タバコを吸い始めます。
その間一言のセリフも無いんですが、そこまでの動作が自然なのにイチイチ美しくてカッコイイ!って何なのアレ
客席が拡樹くんの一挙一動に集中していくのが感じられて、すごく面白かったです
この始まり方は2でもあって、その時は特別自治区の住人に扮したアンサンブルさんたちが、あっちこっちで小芝居してたんですが、
今回は舞台上に一人ですからね。
一緒に観劇した娘が「あれが出来るのがさすが拡樹くんだよね~」と褒めてくれました
演出家さんからは楽屋にいる時みたいにリラックスして、というオーダーだったそうです。
「楽屋でタバコ吸ったりしてないですよ!」と東京のアフトクで話してたそうですが
そう言えば舞台上で吸ってたタバコ本物でしたねタバコの煙の匂いが流れて来てました。
最近じゃ珍しいんじゃないですかね?火を使うし灰も落ちるので、ほぼ電子タバコだと思ってました。
九泉がぼんやりタバコを吸ってると、下手側から林崎(多和田任益)が登場してカウンセリングが始まります。
1と2を観てるので、多和田さんが出演でカウンセラー役というだけで不穏さに慄きましたけど。
そして観客にそれを隠してませんでしたね
不機嫌な九泉を優しく、や・さ・し・くなだめる林崎が怖すぎました
多和田さんはこのシリーズ全作に出演していて、隠れラスボスか?ってくらい大事な役です。
3作とも違う名前で、最初は全くの別人なのかなと思いましたが
時系列的に最初の2では特別自治区の監理官光宗。
非人道的な人体実験を指揮する人間で、それを阻止しようとした神宮寺に斬られて死ぬんですが、
その死に様が衝撃的で鳥肌が立ちました。
崩れ落ち方が人間に見えなかった映像だか照明のエフェクトもうまくハマってて。
それを見た嘉納と神宮寺も「義体」「こんな技術が!」と驚いてました。
その後舞台上に現れた光宗は新しい任務を命じられて、3係の執行官蘭具雪也になり、1につながっていきます
光宗と同じ顔の蘭具に嘉納は驚いたはずですが、立ち居振る舞いから全然違うオタクな執行官だし、
特別自治区で死んだ(壊れたと言うべきか)のは人間じゃなかったので、似ているだけと思ったのでは。
そして蘭具はテロリストとの戦いの中で、死んだんですけどね。ちゃんと人間として
なので林崎が本当に人間なのか、進化した義体なのか私にはわからないです
1の事件で、九泉は使い物にならないくらい精神的にボロボロになったでしょうから、休職して「カウンセリング」になったんでしょうけど。
カウンセリングという名の「記憶調整」
思い出せないからカウンセリングを受けてるんじゃなくて、事件や嘉納の記憶を消すための「カウンセリング」では
それでもあまりにも衝撃が大きすぎて、嘉納の姿や言葉がチラチラと頭の中をよぎり、
「謝らなければいけない気がする」という九泉。顔も名前もよく思い出せなくなってるのに
そんな九泉を3係に復帰させるんですから鬼としか
学者殺害事件を追う中で聴いたイリュージオの歌によって変調をきたす九泉。
突然理性のブレーキが効かなくなったり、廃棄区画時代のことを思い出すようになったり。
それは他の3係の執行官たちにも影響し、サイコハザードを起こそうとしている組織と対決することになるのですが。
1と3では九泉の人格がかなり違っています。
1ではエリート意識が強くて疑り深く他人に対して冷たい。
3で復帰した九泉はもう少し人間的で、執行官たちを仲間として認め、信頼し信頼されたいという感じで柔らかい。
実はそれが元々の性格だったのではと思います。
シビュラによって消されていた廃棄区画時代の記憶。
仲間に慕われるリーダー格で、穏やかで年少の者たちに優しかった。そのころの夢は正義のヒーローになること。
でもある日、仲間内の子どもが攫われてしまいます。攫われた子どもは臓器を売買されたり、培養の材料にされたりするとか
攫ったのは仲間の中にいた裏切り者で、そしてそれを仲介していたのが自分の母親だったという残酷な事実
搾りだした「なんで?」の問いに「生きるためよ」「あなたの夢を応援してるわ」と答える母親
仲間たちを守りたい、何より第一に病弱な母親を守るために正義のヒーローになりたいと思ったはず。
でもその夢のために他人の(仲間の)命を犠牲にするのは、大きな矛盾です。
信じていた者たちに裏切られ、信じていた「自分の中の正義」が崩壊し、九泉は泣きながら母親を刺し殺す。
その慟哭がこちらに突き刺さって来て、観ていてほんとにしんどかった
錯乱状態の九泉のところに公安が現れ、人工監視官育成計画の被験体にするために連れて行き、
廃棄区画で育った記憶を消し、母親殺しをシビュラに忠実であるがゆえに職務を果たした、とすり替えます
・・・・・・・・・確かにそういうふうに入れ替えることで、九泉は救われただろうと思いますが
それでも母親を殺したという罪悪感が、九泉を苦しめ続けたんですよね。
そして1の事件で嘉納を処分した状況が、母親を苦悩のうちに殺した状況と酷似しすぎていて
ヒドイ
記憶を消して別の記憶に入れ替えても、人の性格はそんな簡単に変わらない。
生まれ育った経歴が形作る思考回路や行動パターン、起きる感情は、記憶が消されても無くならないんだろうと思います。
そして思い出したくないような、消し去りたいような黒歴史は多分誰にでも、一つか二つかそれ以上ある
けれどそれも含めて「自分」なんだなと3の九泉を見ていて思いました。
林崎に「あなたは間違っていませんよ」と言われても、「心が違うと言うんだ」と答える九泉に、
「心が?面白いことを言いますね」と返す林崎。
彼には永遠に理解できないのでは。でもその葛藤こそが人間らしさだと思います。