今日教えてもらったが、
渡辺慧先生の論文に今で言う二次の縮約密度行列
で物理的に知りたい量が定まる、ということをかいてあった。さらにN-representabilityにも少し言及していた。
渡辺慧,科学 14, 1944, p.169から 岩波
§9、多体問題と二体問題 (1) (1)理研講演、昭和15年12月12日(未印刷)
「`相関'の問題の困難さは多体問題の波動方程式を正確に解くことの困難に由来する。正確な波動関数さえられれば、勢力(註:エネルギーのこと)でも、密度でも距離の確率でも総て求められるのだが、その波動関数が正確に解らないのである。
ところで逆に考えて、核の勢力、密度、核子距離等物理的に意味のある量を求めるのに波動関数を
知る必要があるのであろうか?波動関数を避けることが出来れば、多体問題の固有の困難に対する一つの抜け道が見つかりはしまいか?」
「ρ2は二体密度行列である。それ故核全体のΨは知られなくてもρ2さへ知られてをれば、全体の勢力は定まるのである。」
これは現代風に言えば、2次の縮約密度行列があればエネルギーを厳密に評価できるということである。
「その故二体の密度行列さへ知られれば物理的に知りたい量はすべて定まるのである。そこで次の最大の問題は二体密度行列ρ2を如何にして決定乃至近似乃至推定するかということである。これは残念ながら未だ完全に解決出来ないままにある。」
これは現代風に言えば、2次の縮約密度行列があれば演算子の期待値をすべて厳密に評価できるということである。
そして、決定、近似などについては、わからない、としている。基本法定式を導こうとしているが、変分法は導いてはいない。
さらに、1960年にColemanがN-representabilityという単語を定義したが、これについても考察がされている。
「併しこれだけのことだけではρ2が必ず
...(註:式省略)
という関係で反対称波動関数Ψに結ばれ得るというわけには行かない。もちろんかかるΨそのものを求める必要はないが、
N体に引き戻した場合、Pauli原理に反しないようなρ2でなければならない。この条件を厳格にρ2から要求することは容易でない様であるから、べつの方法をとることを考えてみる」
最後締めくくり、
「以上の多体問題を二体問題に還元する試みは未だ成功しないが、新しい方向を示唆するに足りるかと思われる。厳格にとけないまでも、近似法として、一体問題まで還元する方法(即ちHartree-Fockの方法)よりはよい方法であるのではあるまいか。何か一歩前進する考案を発見される方が現れれば、幸だと希望しながら筆を擱く(完)」
である。驚いてしまった。
これを理研で講演された後70年経った。あまり進んではない。だけど、答えはいくつか見つかった。ここに列挙する。
* 多体問題を二体問題に還元する試み、これは中辻先生の1976年の論文で、4体まで使えば励起状態まで解ると解った。
* 基底状態ならば変分法でよい(Rosina)。
* N-rep.を厳格にとくのは難しい(Percus, Deza)。
* Hartree-Fockよりは良い方法ではある(Nakata et al)。CCSD(T)くらいまでのエネルギーがでる(Braams et al.)。今のところ計算コストはまだ大きい。核力は難しいのではないか。
* 核物理より化学での発展があった。
であろう。残念ながら1993年、渡邊先生はお亡くなりになられたが、私たちの結果を見たら多少は「前進」したと思ってくださるだろうか...伏見先生より先に出ていれば文句がない結果だったのにね...理研で講演されたのは1940年。だからほぼ伏見先生の論文と同時期には、気づかれていた。そして渡辺先生の方が少し進まれていた。
渡辺慧先生の論文に今で言う二次の縮約密度行列
で物理的に知りたい量が定まる、ということをかいてあった。さらにN-representabilityにも少し言及していた。
渡辺慧,科学 14, 1944, p.169から 岩波
§9、多体問題と二体問題 (1) (1)理研講演、昭和15年12月12日(未印刷)
「`相関'の問題の困難さは多体問題の波動方程式を正確に解くことの困難に由来する。正確な波動関数さえられれば、勢力(註:エネルギーのこと)でも、密度でも距離の確率でも総て求められるのだが、その波動関数が正確に解らないのである。
ところで逆に考えて、核の勢力、密度、核子距離等物理的に意味のある量を求めるのに波動関数を
知る必要があるのであろうか?波動関数を避けることが出来れば、多体問題の固有の困難に対する一つの抜け道が見つかりはしまいか?」
「ρ2は二体密度行列である。それ故核全体のΨは知られなくてもρ2さへ知られてをれば、全体の勢力は定まるのである。」
これは現代風に言えば、2次の縮約密度行列があればエネルギーを厳密に評価できるということである。
「その故二体の密度行列さへ知られれば物理的に知りたい量はすべて定まるのである。そこで次の最大の問題は二体密度行列ρ2を如何にして決定乃至近似乃至推定するかということである。これは残念ながら未だ完全に解決出来ないままにある。」
これは現代風に言えば、2次の縮約密度行列があれば演算子の期待値をすべて厳密に評価できるということである。
そして、決定、近似などについては、わからない、としている。基本法定式を導こうとしているが、変分法は導いてはいない。
さらに、1960年にColemanがN-representabilityという単語を定義したが、これについても考察がされている。
「併しこれだけのことだけではρ2が必ず
...(註:式省略)
という関係で反対称波動関数Ψに結ばれ得るというわけには行かない。もちろんかかるΨそのものを求める必要はないが、
N体に引き戻した場合、Pauli原理に反しないようなρ2でなければならない。この条件を厳格にρ2から要求することは容易でない様であるから、べつの方法をとることを考えてみる」
最後締めくくり、
「以上の多体問題を二体問題に還元する試みは未だ成功しないが、新しい方向を示唆するに足りるかと思われる。厳格にとけないまでも、近似法として、一体問題まで還元する方法(即ちHartree-Fockの方法)よりはよい方法であるのではあるまいか。何か一歩前進する考案を発見される方が現れれば、幸だと希望しながら筆を擱く(完)」
である。驚いてしまった。
これを理研で講演された後70年経った。あまり進んではない。だけど、答えはいくつか見つかった。ここに列挙する。
* 多体問題を二体問題に還元する試み、これは中辻先生の1976年の論文で、4体まで使えば励起状態まで解ると解った。
* 基底状態ならば変分法でよい(Rosina)。
* N-rep.を厳格にとくのは難しい(Percus, Deza)。
* Hartree-Fockよりは良い方法ではある(Nakata et al)。CCSD(T)くらいまでのエネルギーがでる(Braams et al.)。今のところ計算コストはまだ大きい。核力は難しいのではないか。
* 核物理より化学での発展があった。
であろう。残念ながら1993年、渡邊先生はお亡くなりになられたが、私たちの結果を見たら多少は「前進」したと思ってくださるだろうか...伏見先生より先に出ていれば文句がない結果だったのにね...理研で講演されたのは1940年。だからほぼ伏見先生の論文と同時期には、気づかれていた。そして渡辺先生の方が少し進まれていた。