【蛙になった娘】 その後編
きのうの続き。
実は後妻は、
娘が帰ってきた夜、その声が美しくなっているのに気づき、
どうしてそうなったかたずねたのです。
「わたしにもよく分からないのですが」と娘はそう言って、
その日、おばあさんに出合ったことを話しました。
「なんだそんなことかい」と後妻は、
詰まらなさそうに言いながら、
「これはぜひとも私の娘にも教えなければ」と思いました。
次の日の朝、後妻は連れ子に、
「これから山の泉へ行って水を汲んでおいで」と命じました。
水汲みなどしたことの無い連れ子はしぶりましたが、
「これはお前のためなんだからね」と云う母の言葉には逆らえず、
イヤイヤ桶を担いで山の泉へ向かいました。
途中、松の木の下にあの老婆がうずくまっています。
老婆は前と同じように、
「そこへ行く娘や、わたしはとてものどがかわいているのだよ」と言いました。
連れ子は汚い物でも見るような目で老婆を見ると、
「わたしはそんなことをするために来たのじゃないわ」と言い捨て、後も見ずに通り過ぎました。
水を汲んでおりてくると、
松の木の下には、まだ先ほどの老婆がいて、
「ほんの少しでいいからその水を飲ましておくれ」、と疲れ切った声で言いました。
「あんたの喉がいくら渇いていようとそんなこと、私の知ったことじゃない」と冷たく言うと、連れ子はそのまま通り過ぎました。
その背に向かい、
「無慈悲な娘や、お前にも酬いがありますように」と老婆がつぶやきました。
家に帰り着いた連れ子が、
「水を汲んできたからこれでいいんでしょ、ああ重かった、」と云うと、
のどからは「ゲロゲロ、ギャア」と、声とも言えない声が漏れ出しました。
後妻は驚いて、
「ナニを言ってるんだい、それが親に向かって言う言葉かい」と𠮟りました。
連れ子も驚いて、
「だから、水を汲んで来たって言ってるのよ」と言うと、
やっぱりまた、「ゲロゲロゲロ、ギャアギャア」と音が漏れます。
「この子は親をバカにしてるんだね」、
とうとう後妻が怒り出し、
「お前のような娘はどこへでも行ってしまいな!!」と怒鳴りました。
何を言っても「ゲロゲロ、ギャアギャア」としか声の出ない連れ子は誰にも相手にされず、
とうとう行くところがなくなり、家を出て森で暮らすようになりました。
まもなく後妻も、
水を汲みに行ったまま、姿を消してしまいました。
そのうちに村でひとつの噂話が広まりました。
ある日、森へ入った木こりが、
沼のほとりで、「ゲロゲロ、ギャア、ギャア」と、
一日中うるさく鳴き続けている親子のヒキガエルを見かけたのですが、
そのヒキガエルの顔が、後妻親子にとてもよく似ていたというのです。
その木こりは大の酒好き、
いつも酒場で杯をグッとあけては、
自信満々、
「まちがいない、あのカエルはきっとあの性悪親子だよ」、
そう言って、周囲を見回すのです。
きのうの続き。
実は後妻は、
娘が帰ってきた夜、その声が美しくなっているのに気づき、
どうしてそうなったかたずねたのです。
「わたしにもよく分からないのですが」と娘はそう言って、
その日、おばあさんに出合ったことを話しました。
「なんだそんなことかい」と後妻は、
詰まらなさそうに言いながら、
「これはぜひとも私の娘にも教えなければ」と思いました。
次の日の朝、後妻は連れ子に、
「これから山の泉へ行って水を汲んでおいで」と命じました。
水汲みなどしたことの無い連れ子はしぶりましたが、
「これはお前のためなんだからね」と云う母の言葉には逆らえず、
イヤイヤ桶を担いで山の泉へ向かいました。
途中、松の木の下にあの老婆がうずくまっています。
老婆は前と同じように、
「そこへ行く娘や、わたしはとてものどがかわいているのだよ」と言いました。
連れ子は汚い物でも見るような目で老婆を見ると、
「わたしはそんなことをするために来たのじゃないわ」と言い捨て、後も見ずに通り過ぎました。
水を汲んでおりてくると、
松の木の下には、まだ先ほどの老婆がいて、
「ほんの少しでいいからその水を飲ましておくれ」、と疲れ切った声で言いました。
「あんたの喉がいくら渇いていようとそんなこと、私の知ったことじゃない」と冷たく言うと、連れ子はそのまま通り過ぎました。
その背に向かい、
「無慈悲な娘や、お前にも酬いがありますように」と老婆がつぶやきました。
家に帰り着いた連れ子が、
「水を汲んできたからこれでいいんでしょ、ああ重かった、」と云うと、
のどからは「ゲロゲロ、ギャア」と、声とも言えない声が漏れ出しました。
後妻は驚いて、
「ナニを言ってるんだい、それが親に向かって言う言葉かい」と𠮟りました。
連れ子も驚いて、
「だから、水を汲んで来たって言ってるのよ」と言うと、
やっぱりまた、「ゲロゲロゲロ、ギャアギャア」と音が漏れます。
「この子は親をバカにしてるんだね」、
とうとう後妻が怒り出し、
「お前のような娘はどこへでも行ってしまいな!!」と怒鳴りました。
何を言っても「ゲロゲロ、ギャアギャア」としか声の出ない連れ子は誰にも相手にされず、
とうとう行くところがなくなり、家を出て森で暮らすようになりました。
まもなく後妻も、
水を汲みに行ったまま、姿を消してしまいました。
そのうちに村でひとつの噂話が広まりました。
ある日、森へ入った木こりが、
沼のほとりで、「ゲロゲロ、ギャア、ギャア」と、
一日中うるさく鳴き続けている親子のヒキガエルを見かけたのですが、
そのヒキガエルの顔が、後妻親子にとてもよく似ていたというのです。
その木こりは大の酒好き、
いつも酒場で杯をグッとあけては、
自信満々、
「まちがいない、あのカエルはきっとあの性悪親子だよ」、
そう言って、周囲を見回すのです。