むかしむかし、あるところに、
良いおじいさんと悪いおじいさんが住んでいました。
ある日、良いおじいさんが畑を耕していると、
悪いおじいさんが通りかかって言いました。
「こうして毎日働いているのに、
あんたはいつまでたっても貧乏で、暮らしは楽にならんね」
良いおじいさんが仕事の手を休めて、
「それもそうだが、お天道さまの決めごとだからしかたなかんべ」、と返事すると、
悪いおじいさんが近寄ってきて、
「どうだい、ものは相談だが、
こうやってチビチビ働いていても仕方がない、
ここは、おたがいの暮しを賭けて一勝負してみないか」
「ほー、どうするのかね」
良いおじいさんが思わず話に引き込まれると、
悪いおじいさんが悪い顔をして言いました。
「なーに、簡単な話だ。
おれとお前の畑を賭けて勝負し、
勝った方が相手の畑を貰うことにするんだ。
そうすれば、穫り入れも倍になるから、暮しも楽になる。
おめぇとこの婆さんも喜ぶぞ」。
良いおじいさんは賭け事などしたことはありませんが、
悪いおじいさんが最後に言った「婆さんもよろこぶぞ」は胸にこたえました。
それまで、お婆さんには苦労ばかり掛けて良い思いをさせたことが無いからです。
「で、その“賭ける”ってのは、どうやるんだ」
「なーに、簡単なことさ、
いまから、ここを通る旅人を待って、最初に通った旅人に聞くんだ。
『ほんとうに困ったとき、頼りになるのは鬼かい、仏さまかい、』って」
良いおじいさんは思わず言いました。
「そんなものは仏さまに決まってるじゃないか」
悪いおじいさんがニヤリ、また悪い顔をして言いました。
「オレは鬼のほうだと思うな。
誰だって世の中を知ってるものならそう言うと思うよ」。
良いおじいさんも負けずに言いました。
「そんなことがあるモンか、
誰だって、仏さまの方をたよりにするに決まってるさ」
二人が待っていると、旅人が通りかかりました。
悪いおじいさんが聞きました。
「旅人さん、あんたが旅をしていて、
ほんとうに困ったとき、頼りにするのは鬼かい、仏さまかい」
旅人は顔を上げると、言いました。
「何かと思ったらそんな簡単なことかい、
そんなモノ、鬼に決まってるじゃないか」
それだけ言うと旅人は去って行きました。
悪いおじいさんは「ソレ見ろ」とばかりに悪い顔をして笑っていますが、
良いおじいさんは納得が行きません、
「もう一度、もう一度かけさせてくれ、
こんどはオラの家だ」
悪いおじいさんはニヤニヤしながら言いました。
「いいとも、
ただし、あのボロ家と二人分の畑ではつり合わない。
もしオレが勝ったら、あんたの両目を貰うがそれでもいいか」
良いおじいさんも今はもう破れかぶれです、
「それでもいい」と引き受けました。
そこへまた、旅人が通りかかりました。
こんどは良いおじいさんが聞きました。
「旅人さん、あんたに聞くが、
ほんとうに困ったとき、頼りにするのは仏さまだろう」
旅人は顔を上げると、言いました。
「何かと思ったらそんなことかい、
仏さまなんか頼りになるもんか、そんなとき頼るのは鬼に決まってるじゃないか」
そういうと旅人は去って行きました。
「これで話は決まったな」、
悪いおじいさんは、良いおじいさんの両目をくり抜くとサッサと帰ってしまいました。