漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

世界のミフネ

2018年01月29日 | テレビ 映画 演芸
戦後すぐの日本映画は、
庶民娯楽としの王座を占めるのだが、

その絶頂期を迎えようとしたころ、

東宝の新進監督、黒澤明は、
当時の人気女優・デコちゃんこと高峰秀子から、

「ちょっと見てやってよ」と声を掛けられた。

いま、スタジオでは、
新人俳優募集の試験が行われていて、

高峰の見る処、
有望な新人が居るのだが、態度が粗暴で落とされそうだと云う。

会場となっているスタジオへ急ぎ、

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ドアを開けて私はぎょっとした。

若い男が荒れ狂っているのだ。
それは生け捕られた猛獣が暴れているような凄まじい姿で、

暫く私は、
立ちすくんだまま動けなかった。


黒澤明自伝「蝦蟇の油」より

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その男は、本当に暴れているのではなく、

与えられた演技のテーマ、
「怒りの表現」を演じていたのである。

男は演技が終わると、
不貞腐れたような態度で椅子に座り、

「勝手にしろ」とばかりに審査員を睨みつけていたが、
黒澤にはそれが照れ隠しの故だと分かった。

男はその態度の悪さから落とされそうになるのだが、
黒澤ら一部の人たちの強力な推薦もあり、

“かろうじて”合格した。

その新人俳優は、
のちに黒澤とともに数々の名作をものにし、

海外からも、
「世界のミフネ」として知られるようになる、

三船敏郎、その人の若き日の姿だった。



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