戦後すぐの日本映画は、
庶民娯楽としの王座を占めるのだが、
その絶頂期を迎えようとしたころ、
東宝の新進監督、黒澤明は、
当時の人気女優・デコちゃんこと高峰秀子から、
「ちょっと見てやってよ」と声を掛けられた。
いま、スタジオでは、
新人俳優募集の試験が行われていて、
高峰の見る処、
有望な新人が居るのだが、態度が粗暴で落とされそうだと云う。
会場となっているスタジオへ急ぎ、
~~~~~~~~~~~~~
ドアを開けて私はぎょっとした。
若い男が荒れ狂っているのだ。
それは生け捕られた猛獣が暴れているような凄まじい姿で、
暫く私は、
立ちすくんだまま動けなかった。
黒澤明自伝「蝦蟇の油」より
~~~~~~~~~~~~~~~
その男は、本当に暴れているのではなく、
与えられた演技のテーマ、
「怒りの表現」を演じていたのである。
男は演技が終わると、
不貞腐れたような態度で椅子に座り、
「勝手にしろ」とばかりに審査員を睨みつけていたが、
黒澤にはそれが照れ隠しの故だと分かった。
男はその態度の悪さから落とされそうになるのだが、
黒澤ら一部の人たちの強力な推薦もあり、
“かろうじて”合格した。
その新人俳優は、
のちに黒澤とともに数々の名作をものにし、
海外からも、
「世界のミフネ」として知られるようになる、
三船敏郎、その人の若き日の姿だった。
庶民娯楽としの王座を占めるのだが、
その絶頂期を迎えようとしたころ、
東宝の新進監督、黒澤明は、
当時の人気女優・デコちゃんこと高峰秀子から、
「ちょっと見てやってよ」と声を掛けられた。
いま、スタジオでは、
新人俳優募集の試験が行われていて、
高峰の見る処、
有望な新人が居るのだが、態度が粗暴で落とされそうだと云う。
会場となっているスタジオへ急ぎ、
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ドアを開けて私はぎょっとした。
若い男が荒れ狂っているのだ。
それは生け捕られた猛獣が暴れているような凄まじい姿で、
暫く私は、
立ちすくんだまま動けなかった。
黒澤明自伝「蝦蟇の油」より
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その男は、本当に暴れているのではなく、
与えられた演技のテーマ、
「怒りの表現」を演じていたのである。
男は演技が終わると、
不貞腐れたような態度で椅子に座り、
「勝手にしろ」とばかりに審査員を睨みつけていたが、
黒澤にはそれが照れ隠しの故だと分かった。
男はその態度の悪さから落とされそうになるのだが、
黒澤ら一部の人たちの強力な推薦もあり、
“かろうじて”合格した。
その新人俳優は、
のちに黒澤とともに数々の名作をものにし、
海外からも、
「世界のミフネ」として知られるようになる、
三船敏郎、その人の若き日の姿だった。