漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

無人島漂流船の事 ⑩ 地獄にて仏

2009年11月11日 | Weblog
きのうの続き。

水を探して無人島を探索するうち、
岩穴より飛び出した、異様な風体の怪人、思わず斧(おの)を振上げたが・・・。
  
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島の内に大いなる岩穴あり、
その中より、
身には、鳥の羽をつづり合わせたる衣をまとい、
髪は、縮(ちぢ)れ上がりたる鬼のようなる物共三人出で来たり。

互いに不審に存じ、

富蔵を始め十七人の者ども、
手に手に斧や脇差(わきざし)を持ちそうろうて、
今まさに打ち掛からんとすれば、言語は日本の言葉なり。

「さぞかし子細もあるべし」と、
富蔵、残りの者を制し、事情を問えば、

二十一年前、
下田御番所、御切手を以って渡海の節、漂流いたせしと、
それより後の物語、くわしく語れば、
各々も安堵(あんど)し、
互いに親しく名乗り合い候。

三人の者どもは、地獄にて仏に会いそうろう心地にて、
ただ、岩にひれ伏し、
共に肩を相抱きて、嬉し泣きに泣き居たり。

その哀れさ、言葉にも述べ難く候。

それより、残りの米にて粥(かゆ)を炊き、
有り合う魚のたぐいを食べさせ、
どうにかして、小舟をしつらえ、この三人も共に帰国致すべしと、
皆々相談して、小舟を丈夫に致し候。

舟 整え、日和を見合いそうらえども、
方角が知れ申さずば行く方も確かならず。

そこで、皆々、磯辺へ下り、
潮にて水垢離をとり、伊勢神宮へ祈誓いたし、
昔より伝わる「船中のしきたり」により、
髪を切り、御籤(みくじ)を取りそうらえば、
戌亥(いぬい)の方角へ走る可き由、御籤あがり、その積もりにて出帆いたし候。

三人の者は、下田御番所御切手など四品を大切につかまつり、
且つ、島にて作り取りそうろう籾(もみ)の内、
四斗は船に積み、
残り二・三斗ばかりを、島にも蒔(ま)き残し置き候。

斯くて、三月二十九日、
南風吹き出でそうろうに付き、
命限りに出帆、
走りそうろう処、四月中旬、八丈島に着船つかまつり、
ただちに御役人へ右の次第、相届け、
小舟の破損も繕(つくろ)い、暫くは彼の島にて滞留して候。

その内、
流人、御放免の御用船、出帆これ有り、
その砌(みぎり)、この二十人の者共も残らず乗船致させ、
同月、十九日、浦賀御番所へ着船、五月二十二日江戸着。

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一番若かった平四郎が、
二十歳を過ぎた頃に遭難して、この時は、既に四十をいくつか越えている。

下田御番所の切手は、
三人が大切に持っていた品のひとつですが、
この時には、御番所も下田から浦賀へと引っ越していた、

時の流れと年月の重みを感じさせます。





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