さる大店の旦那さま、
日ごろから正直一徹の忠義者とお気に入り、
下男三助だけを供につれ、
吉野へと花見に行かれければ、
店の者ども、三助の身の上をうらやましがり、
お帰りの節に、三助をつかまえ、
「定めし、面白かったであろうの」と問えば、
三助、つまらぬ顔で、
「なんの、桜がたんとあるばかりで、ほかになんにも面白いものはなかった」。
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「三助、よく見やれ、これが仁王様じゃ」
「さようでござるか、
おふたり、こうして向かい合っておられるには、さだめし、仲の良い夫婦でござろうの」
「なにを馬鹿な、仏さまに夫婦のあろうはずもないわ」
「ははぁ、さすれば、手かけと本妻どのか、
どおりで互いに怖い顔して にらんでござるわ」