私の子供のころ、
三月の初めに暖かい日が幾日か続き、
また冷え込みが襲うと、
道で出あった大人たちがアイサツ代わり、
「やっぱり、お水取りが終わらんとホンマに温(ぬ)くうはならんな」と言いあっていた。
「お水取り」の何たるかは知らずともその会話だけは覚えている。
お水取りとは、
奈良東大寺の二月堂で、
千年以上も続いている仏前に供える水を汲む行事で、
その名の通り、陰暦の二月に行われていたのだが、
太陽暦となってからは、ひと月ずらして三月に行われるようになった。
つまり「やっぱりお水取りが終わらんと・・・」のアイサツは、
「三月も半ばを過ぎないと本格的な春の訪れではない」と云う意味になる。
ちょっと面白いコトワザに、
「三月の引きずり凧」とか、「三月の下がり凧」と云うのがあるが、
これは、陰暦の三月、
つまりは現在の四月ごろにもなると、
風の静かな穏やかに日が続くようになり、凧も上がらなくなると云う意で、
転じて、「ものごとのチャンスを逸したこと」を云う。
「下がり凧」も「ひきずり凧」も、
決して管直人首相の支持率や、
政権にすがり付こうとして外務大臣を引きとめている図を
揶揄した言葉ではありませんので、念のため。(笑)