以前、我が同居人ドノより聞いた話。
彼女が病院で点滴してもらっていると、
ベッドひとつ向うのカーテン越しに漏れ聞えてくる話し声。
どうやら、かなり高齢のお婆さんらしい、
出たり入ったりしている息子さんが六十ぐらいだから、もう九十に近いのだろう。
お医者さんの話の具合では、
ヘルニアがかなり悪化していて緊急に手術をする必要がある様子。
処が、このお婆さん、なかなかウンと言わない。
「センセ、どうしても手術せなアカンのン」
「このまま放っといたら悪いとこが腐ってしまうからナ、切った方がエエねん」
「・・・けど、手術・・・怖い」
「ナニ言うてんのン、手術せなんだら死んでしまうねんで」
何回かの押し問答のあと、
お婆ちゃんが黙ってしまった。
医者としては、
それで了解を得たと思ったらしく、手術の準備に行ってしまった様子。
後に残ったお婆ちゃんが手招きして息子を呼んだ。
「ナニ、?」
「ナア、私、手術イヤやねん、怖いモン」
「ナニ言うてんのん、手術せな死んでしまうで」
「そやかて怖い・・・」
「命がなくなったら怖いもクソもあらへんがな」
「そやかて・・・・・、手術するぐらいやったら死んだ方がマシや」、
「・・・・・」 息子さん、絶句の気配。
その後を確かめることなく帰って来た我が同居人ドノ、
しばらくは、
「あの怖がり屋の、可愛らしいお婆ちゃん、どうしたンやろな、」と心配しておりました。