漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

そやかて怖いモン

2012年01月16日 | せけんばなし

以前、我が同居人ドノより聞いた話。

彼女が病院で点滴してもらっていると、
ベッドひとつ向うのカーテン越しに漏れ聞えてくる話し声。

どうやら、かなり高齢のお婆さんらしい、
出たり入ったりしている息子さんが六十ぐらいだから、もう九十に近いのだろう。

お医者さんの話の具合では、
ヘルニアがかなり悪化していて緊急に手術をする必要がある様子。

処が、このお婆さん、なかなかウンと言わない。

「センセ、どうしても手術せなアカンのン」
「このまま放っといたら悪いとこが腐ってしまうからナ、切った方がエエねん」

「・・・けど、手術・・・怖い」
「ナニ言うてんのン、手術せなんだら死んでしまうねんで」

何回かの押し問答のあと、
お婆ちゃんが黙ってしまった。

医者としては、
それで了解を得たと思ったらしく、手術の準備に行ってしまった様子。

後に残ったお婆ちゃんが手招きして息子を呼んだ。

「ナニ、?」

「ナア、私、手術イヤやねん、怖いモン」

「ナニ言うてんのん、手術せな死んでしまうで」

「そやかて怖い・・・」

「命がなくなったら怖いもクソもあらへんがな」

「そやかて・・・・・、手術するぐらいやったら死んだ方がマシや」、

「・・・・・」 息子さん、絶句の気配。


その後を確かめることなく帰って来た我が同居人ドノ、

しばらくは、
「あの怖がり屋の、可愛らしいお婆ちゃん、どうしたンやろな、」と心配しておりました。






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