作家の海音寺潮五郎氏は、
源義経の母、常盤御前(ときわごぜん)について、
「宮中に名を得た美女千人の中から選びぬかれた」と云う、
平治物語の記述をフィクションとしながらも、
「常盤が抜群の美女であったことは信じてもよかろう」としている。
また母親を信用できなかったのであろう常盤の行動を取り上げて、
「今も昔も変わりは無い、
美貌の娘一人に母一人の場合、
娘は母親の食い物になる例が少なくない」と書いている。
今の芸能界にもそんな話は数多い。
中央公論社刊 有馬稲子著「バラと痛恨の日々」。
いかにも映画スターらしい優雅な題だと思って読み出したら、
中身は疾風怒濤、波乱万丈の女一代記。
~~~~~~~~~~~~~~~~
(実母から)十日に一度は無心の速達が来た。
しかし度重なる要求は一レビューガールにはとっては重すぎる負担だった。
そしてあろうことか今度は、家族を捨てたその人も別にお金を借りに来た。
彼の新しい家族のために。
この嵐は私が映画界に入ってからなお激しくなった。
その人は朝早くからやって来た。その人の要求額は大きかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「その人」とは、有馬稲子さんの実父。
有馬稲子さんは、
まだ幼いうちに、実父の姉の処へ養女に出され、
朝鮮半島で終戦を迎えると養母ともども命からがら日本に引き上げてきた。
そこでしばらく「その人」の処へ転がり込んだのだが、
毎日のように「気を失うほどの」暴力と虐待を受け、
以来、実の父であるその人を、単なる「その人」としか呼べなくなったと云う。
養母と暮らす有馬さんのもとへ
連日のように届く実母と実父からの現金を要求する手紙、
有馬さんは書いている。
~~~~~~~~~~~~~~~~
そのころの私は、愛などというものを信じていなかった。
とくに肉親の愛など絶対にないと思っていた。
子どもなんぞ、男と女の一晩の生理でできてしまうものではないか。
一組の男と女が、
数時間を無責任に過ごしたことで生まれた子供たちを、
どうして私が、いつまでも面倒みなければならないのだろう。
いや、金銭のことはまだしも、
どうして実の親から脅迫めいた手紙をもらわなければならないのか、
どうして憎まれなければならないのか。
どうしてこんなに死にたいぐらいの苦しみをうけなければならないのか。
人に尽くして報われない・・・・・・それが他人ならば腹も立たない。
血を分けた肉親だからこそ救われないのだ。
私は愛など絶対に信じまいと思った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あるハリウッドの女優さんが、
(家庭内暴力の激しかった)父と私の関係は、
父が亡くなった数年後から、
「徐々に良くなりだした」と、
やや自虐的な笑みを浮かべながら語っていた記憶がある。
有馬さんも、
多くの年月を要したのち、実の親との関係が穏やかになったのだろう。
悲しいことだが。
源義経の母、常盤御前(ときわごぜん)について、
「宮中に名を得た美女千人の中から選びぬかれた」と云う、
平治物語の記述をフィクションとしながらも、
「常盤が抜群の美女であったことは信じてもよかろう」としている。
また母親を信用できなかったのであろう常盤の行動を取り上げて、
「今も昔も変わりは無い、
美貌の娘一人に母一人の場合、
娘は母親の食い物になる例が少なくない」と書いている。
今の芸能界にもそんな話は数多い。
中央公論社刊 有馬稲子著「バラと痛恨の日々」。
いかにも映画スターらしい優雅な題だと思って読み出したら、
中身は疾風怒濤、波乱万丈の女一代記。
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(実母から)十日に一度は無心の速達が来た。
しかし度重なる要求は一レビューガールにはとっては重すぎる負担だった。
そしてあろうことか今度は、家族を捨てたその人も別にお金を借りに来た。
彼の新しい家族のために。
この嵐は私が映画界に入ってからなお激しくなった。
その人は朝早くからやって来た。その人の要求額は大きかった。
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「その人」とは、有馬稲子さんの実父。
有馬稲子さんは、
まだ幼いうちに、実父の姉の処へ養女に出され、
朝鮮半島で終戦を迎えると養母ともども命からがら日本に引き上げてきた。
そこでしばらく「その人」の処へ転がり込んだのだが、
毎日のように「気を失うほどの」暴力と虐待を受け、
以来、実の父であるその人を、単なる「その人」としか呼べなくなったと云う。
養母と暮らす有馬さんのもとへ
連日のように届く実母と実父からの現金を要求する手紙、
有馬さんは書いている。
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そのころの私は、愛などというものを信じていなかった。
とくに肉親の愛など絶対にないと思っていた。
子どもなんぞ、男と女の一晩の生理でできてしまうものではないか。
一組の男と女が、
数時間を無責任に過ごしたことで生まれた子供たちを、
どうして私が、いつまでも面倒みなければならないのだろう。
いや、金銭のことはまだしも、
どうして実の親から脅迫めいた手紙をもらわなければならないのか、
どうして憎まれなければならないのか。
どうしてこんなに死にたいぐらいの苦しみをうけなければならないのか。
人に尽くして報われない・・・・・・それが他人ならば腹も立たない。
血を分けた肉親だからこそ救われないのだ。
私は愛など絶対に信じまいと思った。
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あるハリウッドの女優さんが、
(家庭内暴力の激しかった)父と私の関係は、
父が亡くなった数年後から、
「徐々に良くなりだした」と、
やや自虐的な笑みを浮かべながら語っていた記憶がある。
有馬さんも、
多くの年月を要したのち、実の親との関係が穏やかになったのだろう。
悲しいことだが。