漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

人形が生きて働いた事 ①

2012年01月20日 | ものがたり

 ●人形が生きて働いた事 ①

ワシがむかし、
まだ子どもじゃったころ、隣村の爺さまから聞いた話をしてやろうか。

修行のために国々をめぐり、
旅を続けていた坊さまが、ある山国に至り峠を越えようとしたが、

思うたよりも険しい道じゃったか、難渋するうち日が暮れてしもうた。

これでは野宿するよりないと思うていると、
峠道から外れた谷川のほとりに、どうやら人の住む家らしき灯りが見える。

やれやれと灯りを頼りに近づき、一夜の宿を頼んだ。

住んでおったのは婆さんで、
若い娘との二人暮しであったが、
こころよく麦飯なども出して、坊さまをもてなしてくれた。

さて夜も更け、とろとろと眠りにつきかけたころ、

婆さんが娘に、
「これ娘や、人形を持って来なされ、湯浴みの刻限じゃ」と呼ぶ声がした。

「おかしな事を言うものじゃ」と思いながら、
そのまま伺っていると、

娘は奥から六寸ばかりの人形を二つ持ち来て、  (六寸→約20cm)
慣れた様子で着物を脱がせると、婆さんに渡した。

土間のタライには湯が張ってあり、
婆さんが人形を浸すと、
人形は生きるかのごとき顔色となり、いかにも気持ち良さそうである。

そのうちに人形は、
自分でタライの中を自由に動き回り、物なども言うようす。

あまりに不思議なゆえ、
坊さまも起きだし、

「これは如何なる人形にごぎるや。
 さてさて面白き物にござるな」と話しかけると、

「これは、この婆が細工にて二つありまする、
 もしよろしければ、ひとつは差上げましょうぞ」と機嫌よく言う。

坊さまもよろこび、
「これは良い土産になる」と貰い受け、
あくる日、人形は風呂敷に包んで肩に掛け、礼を言うて、その家を発った。


★明日に続く。





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